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16話 魔眼の女


「――――さい」


「んぁ?」


「―――なさい」


昨日の昼過ぎにクロー村に入った凜は、借りた村長宅の部屋で寝ていると不思議な声が聞こえてきて起きた。

窓から月の光が差し込んできているので夜中のようだ。


(ん?なんか聞こえたような気が・・・)


しかし、何も聞こえてこず、もう一度寝ようと凜がベットに潜り込んだ時


「―めんなさい」


「っ!!」


再び声が聞こえたきて凜は文字通り跳び上がって驚いた。


(な、何今の?お、お化けさんとかじゃぁないよね)


「――んなさい」


よ〜く耳を澄ましてみると声の主はどうやら女性のようだ。


(な、何この声。女性って・・・、っ!ま、まさか井戸の中から『一ま〜い、二ま〜い』とか、死装束を着た女の人が這って出てくるとか、な、ないよね)


「―めんなさい」


聞いていたが声がしなくなる様子はなかった


「―めんなさい」


「よ、よし!き、気合いよ、凜!気合いで眠るのよ!何も聞こえな〜い、何も聞こえな〜い」


凜は気合いで寝ようとベットに潜り込んだ。


「―めんなさい」


「・・・」


「―めんなさい」


「・・・・」


「―めんなさい」


「・・・・・」


「―めんなさい」


「・・・・・・」


「―め「寝れるか〜〜!!」んなさい」



その夜、部屋の中で身嗜みを正す時、鏡に映った自分の背後に誰も映ってないか確認したり、山の中に行く途中にある井戸をわざわざ迂回している黒髪の少女の姿が見られたとか。





その後気合いで寝ようとした凜だったが

「助けて」、と声が聞こえたので静かに部屋を出て、声のする方向かっていた。


「ごめんなさい」


部屋を出て30分程歩いたら、回りを岩に囲まれた広場のような場所にたどり着き、声はその場所から聞こえており、声の主は何かに謝っているようだ。


「ごめんなさい」


(そ〜っとよ、そ〜っと)


凜は自分に言い聞かせているようにそっと広場の中を伺った。


「っ!」


そこには女性がいた。周りに男達をを侍らせて。


(ん?なんか・・・)


違和感に気付いた凜はよ〜く目を凝らして男達を見た。


「っ!!」


男達は石で出来ていた、いや、石にされたのかもしれない。全員が怯えた顔のまま固まり、ひのきの棒を持っていた。


(っ!あれって退治に行った村の人達だよね)


凜が様子を伺っていると女性が


「ごめんなさい・・・。何で私がこんな目に・・・。誰か助けて・・・」


女性の声には深い深い悲しみと絶望が込められていた。

それを聞いていた凜はいたたまれなくなり、意を決したように声を掛けた。


「あの〜」


「っ!」


凜の声を聞いた女性は、直ぐさま凜とは逆の方向を見た。


「な、何?こんな夜中に外へ出てはダメよ。早く家に帰りない」


「・・・その男の人達を石にしたのは貴女ですか?」


それを聞いた女性は肩をびくりと震わせたが、少しの沈黙の後


「・・・・そうよ、私がしたわ。早く家に帰らないとあなたも石にしちゃうわよ」


女性はおどけたように言ったが、その声は震えていた。

凜は女性の言葉を聞き、この女性が悪い人ではないと判断した。


「・・・どうして、今、ここで石にしないのですか?」


凜にそう聞かれた女性は、肩を震わしながらぽつりぽつりと自分の心の中を語りだした。


「・・・もう、嫌なの。何の罪もない人を石にして殺して・・・。一人でここにいて、誰か来てくれたと思っても、私と目を合わしただけで石に・・・。何で私がこんな目に。うぅ。誰か助けてよ・・・。っ!」


凜は、泣き出してしまった女性の背後にいつの間にか移動し、そっと後ろから抱きしめた。そして優しい声で話し掛けた。


「大丈夫。私は貴女の傍にいるよ。」


「は、離れて!これ以上人を危めたくない!お、おねがい・・・」


抱きしめられた事に激しく抵抗していたが、徐々に弱くなっていき、凜の腕の中で眠ってしまった。

凜は優しく微笑んだ後、真剣な顔になり女性の顔を覗き込んだ。


「っ!!」


女性は綺麗な顔をしていたが、一カ所だけ不自然な所があった。

右目の瞼が赤黒く変色し、目を中心に緑色の血管が数本浮き出ていて、時折その血管が脈動していた。






(ん?なんかあったかい・・・。何だろ?でもすっごく安心する)


女性は日が高く昇る頃、異常なあたたかさを感じて目を覚ました。


「っ!?」


女性が目を覚まして初めに目に入ってきたのは、少女だった。

その少女は黒髪でとても整った顔立ちをしていた。


(女神みたい・・・)


少女の黒髪に日の光が当たってキラキラと光り、容姿と相俟って神秘的な雰囲気を醸し出していた。うっとりと少女の顔を見ていた女性は、自分が少女の腕の中で眠っていた事に気付いた。


「!!!」


女性は今の状況に驚き、少女を突き放した。


「あっ!」


気付いた時には既に遅く、少女、凜は起きた。


「ん?」


起きた凜の視線と驚き固まったままの女性の視線がぶつかり合った。


「な、何で石にならないの?」


「ん〜。わかんない」


何故、石化しなかったかは凜にもわからなかったが、自分が石にならないという自信は何故かあった。


「でも一つだけわかった事があるわ」


「?」


「それはね、『私が貴女の傍にいても大丈夫』、という事だよ」


「っ!」凜にそう言われた女性は昨夜と同じように泣き出したが、その声、その表情には悲しみや絶望がなく、嬉しそうな綺麗な泣き顔だった。


「ありがとう!ありがとう!


「うん!」


女性が泣き止むまで待った凜は、女性が泣き止むと優雅に自分の名前を名乗り、女性の名前を聞いた。


「私、凜日本いいます。一応ウィルヘルム王国精霊・魔法科学副官長です。よろしくね。」


「私は・・・私の名前はありません・・・」


女性はそう言い、自分の生まれを語りだした。女性の話は暗く悲しく、聞いていた凜は泣きそうになった。

女性は物心が着いた時から薄暗い地下牢のような場所で実験台にされてきたらしい。

毎日毎日、身体に呪文を描かれたり、魔物の一部を身体に埋め込まれたりしていたそうだ。それを聞いた凜は女性の右目を見た。やはり昨晩見たように変色し、血管が浮き出ていた。

凜が右目を見ている事に気付いた女性は悲しそうに笑い、頷いた。


「そうよ。この右目もそう。後は全部失敗になったけど、背中に石像のような魔物の翼を付けられたりもしたわ。」


そう言い自分の右目を押さえた。


「この目の魔物は見た者を石にした蜥蜴のような生き物だったわ」


(ガーゴイル、バジリスク・・・。地球では伝説の生き物が魔物となってる・・・。他にもいるのかな)


「ねぇ・・・」凜が考えていると女性が俯いたまま話し掛けてきた。


「これから私、どうしたらいいのかな・・・。この人達も元に戻らないし・・・」


そう言って、女性は退治にしにきた村の男達を見た。


(たいてい場合、こういうのは術者が倒されたら元に戻るけど、そんな事は絶対に出来ないし)


凜が考えていると


「私、星が好きなんだ。」


「えっ?」


「私、星が好きなの。ここに来た人を石にして心が沈んでいた時、いつも星を見ていたの。」


女性はそう言い、空を見上げた。今は昼なので勿論星など見えないが。


「星を見ていると、自分の悲しみとか絶望とか、そういうのが、とてもちっぽけな者に見えて、明日も頑張って生きよう、って思えてくるの」


そう言い女性は凜の方を見て綺麗に微笑んだ。それを見た凜も自然と笑顔になった。


「名前」


「えっ?」


「貴女の名前、私が付けていい?」


「!!」


凜にそう言われた女性は驚いたような表情をした後、泣きながら、しかし嬉しそうに笑いながら頷いた。


「うん!」


「【シュテルン】。貴女の名前は【シュテルン】」

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