14話 タンデムと真夜中の逃走2
昨夜ウィローを発った凜達、視察団一行は夜明け前に次の村、タンデムに到着した。
「う〜ん。空気がおいし〜」
タンデム村
マドリガルの真東に位置し収入源は豆などやはり農作物である。
近くに川と池があり、森もあるにはあるが森という規模ではなく、どちらかというと林に近く、中も明るく魔物も出没した事がない。
視察団一行はタンデ%村長が言うには、何か新しい特産物が欲しいらしい。
「昔は豆を作っているのは少なく、この辺ではタンデム村だけだったのですが、最近ではどこの村でも栽培され、豆の値段が下がり暮らしていけない家も出てきているのです。」
凜は、豆は栄養価が高いですからねぇ。と言いつつ、前々から気になっていた事を聞いてみた。
「ゴートさん。染料とかってどうなってるの?」
聞かれたゴートは少し考えた後、答えた。
「染料は植物からだ。根や花を使って染める。」
「ふ〜ん。だから布地に絵や模様を書く時、刺繍だったり、布を貼ったりしてたんだね。」
どうやらハルクセイド大陸では動物から染料を採ったりしていないようだ。
凜は少し考えた後、近くの池や川に貝がいるか尋ねた。
「貝、ですか。もちろんいますが、どうなさるおつもりで?」
まずは見てからと、村長など村人数人とゴートら農務科の人達を連れて、川と池を調べに行った。
「なぁ、リン。貝なんかで何をするつもりなんだ?たぶん食べれないぞ。」
凜の行動を訝しんだゴートは凜に尋ねた。
「くすくす。別に食べないよ。さっき染料は植物からしか採らないっていったでしょ」
「あぁ。」
「私の所では貝も染料に使っているの。」
「はぁ!貝だって!貝のどこを染料に使うんだよ。殻か?煮ても焼いても色なんて着いた事ないぜ!」
「煮たり焼いたりしないよ。私の国では貝が持つパープル腺って言うのを使っているの。パープル腺は貝の黄緑色の内臓の事ね。それの中身を布に擦りつけ、酸素と紫外線にさらすと黄緑色から紫色に変化するの。パープルっていうのは紫という意味でね、その文字の通り紫色の染料が採れるの。ん?『採る』っていうのとは違うか。」
まぁ、後は行ってからのお楽しみ!と言い凜は話を終わらせた。
川と池を調べた凜はガッツポーズをした後、貝を数個村長宅へ持って帰った。
「これの黄緑色なのがパープル腺といって染料になります。」
凜は貝殻を少し剥がしパープル腺を見せた後、パープル腺を取り出し中身を黄緑色をした布に擦り付けた。
「ん?色が付いてないですが。」
見ていた村長がそう言ったのを聞き、凜はニヤリと笑った後、外へ出ていった。
「?」
村長や村人達や農務科の人達は首を傾げた後、凜に付いて出ていった。
「見ていて下さいね。」
そう言い、凜は染料が付いた布を太陽にさらした。
「ほぉ」
すると黄緑色の布に鮮やかな紫色の模様が浮かび上がった。
「ちなみに私の所ではこの染色の事をカイムラサキと呼んでいます。」
「す、すごい。あ、ありがとうございます。リン様。」
様は止めてね。と、凜は言った後、『乱獲はしない事。どうしてもたくさん欲しい時は時間を掛けて養殖すること』等を約束させた。
村人は、絶滅するとまた生活が困窮するので快く了承した。
農務科の人達は昨日と今日、報告書を書くのに忙しかったが、知らない事を知れ、知識が増えたので充実した日を過ごせていた。
「お前はいったい何者なんだ?」
報告書を書き終えたゴートは凜に話し掛け、それを聞いた凜は、
「凜日本。女子高生、そして精霊魔法科学副官長。それ以上でもそれ以下でもないよ〜。」
こうしてタンデムでも活躍したのだった。
「じゃあ、またいつか来ますね〜」
「「「ありがとうございました!また来て下さい!」」」
凜達、視察団一行は村人全員に見送られクロー村へと向かっていった。
「門の所を見てください、 様。かなりの兵が駐屯しています。四百名余りのようですが、いかがなさいますか?」
「決まっているだろう。あれを越えねば行けんのだからな」
暗闇の中で白髪の少年と青髪の青年が話をしていた。彼等の目線の先には城壁と門そして多数の兵がいた。
「 、術を頼む。」
「はい。」
彼等、二人の後ろには20名余りがいて、全員質素な服を着ていた。少年は傍にいた少女に頼んだ。
「精霊よ。彼の者達に風を・・・<ヴィント>。我が意志に従い眠りを誘い地に伏せよ・・・。<シュラーフ>」
少女がそう言った瞬間、門の所にいた兵士達の半数が地に伏せた。
それを見た白髪の少年は腰の剣を抜き放ち、門目掛けて駆けていった。後には彼の部下が続いた。
「行くぞ!突破せよ!!!」
「敵襲ー!賊だ!迎え撃て!弓部隊、前へ!」
襲撃に気付いた兵士達は迅速に陣形を組み、弓部隊を前に出し一斉掃射をしようとしたが、襲撃者の方から何かが飛んできて弓を破壊していった。
「っ!魔法使いだ!気をつけろ!」
「なんだこいつら!精霊術士もいるぞ!」
「いや、魔術士もだ!こいつらホントに賊か!」
精霊術のおかげで物凄い早さになった襲撃者達は、兵士達に接近し次々と地に捩伏せていった。
数分後、残ったのは地に伏せた鎧を纏った兵士達だけであった。