13話 ウィロー
「ねむい〜」
現在馬車に乗って村々を回っている凜だったが、視察の出発が夜明け前であり、今日は夜遅くまで作業していたので寝不足である。
そんな凜の横にはハンスが苦笑しながら外を眺めている。
「それにしても、あれは凄かったな〜。」
ゴートは先ほどの事を思い出し唸りながら感心していた。
夜明け前に王都であるマドリガルを出発した視察団一行は、一つ目の村、ウィローに到着した。どうやら今日と明日、二日間で三つの村を視察するそうだ。
ウィロー村。
マドリガルから真南に位置し、昔から農業により発展してきたこの村は農作物が唯一収入源だった。しかし、近年では村の中を走っていた川が干上って水が少なくなり、農作物が育たなくなった。
東に川があるのだが、川とウィローの間には谷が複数あり、そのせいで水を取りに行くのに時間が掛かり、馬車などの運送具も使えないため、少量の水しか持って来れないのだそうだ。
このようなウィローの現状を聞いた凜は、ゴートら農務科の人達と村の若者を連れて谷を見に行った。
谷は三階建てくらいの深さがあり、なによりも幅がすごかった。
「うん!何とかなりそう。」
そんな凜の声を聞いた皆は期待してどうするのかを聞いた。
「水路を造るのよ」
それを聞いた者達は落胆した。何故なら彼らもそれに何度も挑戦したからである。水道橋を造ったが丈夫な物など作れないので長くは持たず、水路を掘るなど谷があるため論外である。
それを聞いた凜は「ふっふっふ」と笑った後
「あんたよりローマの方が強いわ〜」
どーんと効果音が付きそうな感じで谷に向かって指を指し叫んだ。空気が死んだが凜は無視をして皆の方を振り返り、前もってゴートに頼んで、着いて来てもらっていた職人さん達を呼び、水を引くための物の構造を紙に書いたりしながら説明していった。
まず皮のような物で筒を造り、それを何個も繋げ水道管のような物を二本作る。
これには丈夫だが物凄く重くて使い道のなかった魔物の皮を使った。
「こんな感じでいいんですか?」
「そうね。でも絶対水が漏れないようにしてね。」
次にその内一本を村の若者に川へ取り付けに行ってもらい、その間に、もう一本を村へと持って行ってもらった。
村の若者が行っている間、凜は職人達に
「粘土で九十度に曲がった筒二個と管を三本造ってください。」
と、お願いした。もちろん焼くが、その時に出来るだけ管を平べったくしてね。というお願いもした。
職人達が作業に取り掛かっていると、村の若者達が帰って来たので、給水タンクを造ってもらう事にした。
「木で箱を造って・・・。そうそう!円形に三箇所穴開けといてね。」
タンクといっても単なる木の箱であり、注意する点は水を漏れないようにする事と中を二つに仕切る事だけなので、村の若者だけでもなんとか造れた。
「うん!なかなか様になってるよ!上出来上出来!」
タンクが出来上がると同時に粘土が出来上がったので、そこで一旦休憩をとった。
30分の休憩の間、皆を集めタンクと管が最終的には全て繋がる事、粘土管は谷の所で使うなど説明した。
そして数人の職人達に、タンクに取り付ける蛇口の説明もした。
「よ〜し、じゃあ始めよっか。」
凜のぐだぐだな号令により作業が再開され、数人の職人達は蛇口のような物を造りにいき、村の若者と残りの職人達は管と管を繋ぎにいった。
数時間後には全ての管が接続され、干上がってしまった川の跡の所にタンクを置き、タンクの穴の間所に管が接続され、残りの二つの穴には蛇口を取り付けた。蛇口は大きいのが一つ、小さいのが一つである。
「よ〜し!完成!」
川の方で待機していた村の若者に合図を送る。合図を受け取った若者は緊張しながら管に付いた栓を開き、村に向かって駆け出した。
村人は固唾を飲んでタンクを見守っていた。数分経ったか、栓を開けた若者が帰ってきた時であった。
「おぉ!なんと・・・」
誰の言葉だったか。その声を始まりに皆、感嘆の声を出しタンクの近くへと集まった。
そう、水が出てきたのである。タンクの大きい方の蛇口から少しだが水が出ていた。
それを見た凜は、
「あちゃー。失敗しちゃったか。」
それを聞いた皆は水が余り出なかった事への言葉と思い、慰めようと思ったが次に出てきた言葉に訝しんだ。
「タンクの口を蛇口で閉めているのになぁ。やっぱり漏れちゃうかぁ。」
そう言い、タンクに近付き皆に言った。
「離れておいて下さいね。」
その言葉を怪訝に思いつつも凜の言葉通りに川の跡から離れた。
それを見た凜はにんまりと笑い。
「川よ!蘇れ〜〜!!!」
そう言い、タンクの蛇口を開けた。するとそこから大量の水が噴き出し大地を潤していった。
その後、村長に余裕が出来れば管を煉瓦で囲む事、そして小さい方の蛇口は家事等に水を使う為の物だ。と教え、凜は農務科の人達と共に去っていった。
村の者達は谷から水が、しかも大量に上がって来た事が信じられず呆然としていた。
そして誰かが呟いた、奇跡だと。
この一連の出来事は後に【ウィローの奇跡】と呼ばれ、年に一度この日を祝う祭が行われるようになった。
余談だがこれ以降、凜はウィローの村人から【ウィローのローマ】と呼ばれるようになり、それを知った凜は村へ行き「それは町の名前だっ!」と突っ込んだらしい。
どうやらあの叫びのインパクトが強すぎ、凜=ローマとなったようだ。
「次の村はどんなトコでしたっけ?」
「覚えてねぇのかよ。タンデムっつってな、豆の生産で生活している村だ。その次はクローだな。」
「ねぇ、タンデム村の事なんだけど、『水がありません、隊長!』とか『バイクはやっぱり二人乗りだぜ〜!』とかないですよね?」
「・・・・。よく意味がわからんが水がない事はないだろう。それに敬語とタメ口を混ぜるな。タメ口でいい。」
「へぇ〜。タメ口って言葉あるんだ。」
「ないけど、お前が使ってたんだろうが・・・。もういいさっさと寝てろ!」
「・・・襲わないでよ。」
「そんな事はハンスに言え!」いきなり名前が挙がったハンスであったが寝たふりをして危機を乗り切った。
「ん?ハンス君?なんでハンス君なの?」
そして数時間後、凜達は次の村、タンデムへ到着するのであった。
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【注意】
ここに書かれていた事はそんなに簡単に出来る物ではありません。一日で出来上がるなど有り得ないでしょう。記憶が曖昧なため、水路などおかしい部分がたくさんありますし、根本的な所から間違えている可能性もあります。
完成したのは物語だからという事にしておいて下さい。
ご存知の方がいれば教えてくださるとうれしいです。
感想などは随時受け付けています。
Mr.ミカン
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