11話 一般食堂でのちょっとした騒動
明けましておめでとうございます。この一年が皆さんにとって良い年になるようお祈りしています。
年末年始ということもあり、忙しく投稿が遅れてしまったのでお詫び申し上げます。
では今年もミカンをよろしくお願いします。
「う、う〜ん。ふぅ〜やっぱり現実か・・・」
慣れない環境の戸惑いからか体が思っているよりも疲れていたらしく、昨晩の密会の後部屋に戻ったらすぐ寝てしまったようだ。
昨日と同じように大きな窓から入ってくる朝の日差しで目を覚ました凜は、今日は何をしようか考えた。
カトリーナ達は朝の日課である祈りを捧に女神神殿に行っているはずだ。
本当なら女神像の化身?である凜も行かなければならないのだが、重臣達の目があるからと、当分は入る事をウェールズに禁止されていた。
何もする事がなくベットの上でゴロゴロして唸っていると、ノックの音とアリスの声が聞こえた。
コンコン
「リン様、起きていらっしゃいますか?」
リンはベットから飛び降りて、ドアを開けてアリスを招き入れた。
「起きてるよ〜。おはよ〜アリス。」
「おはようございます。朝食のお時間なのですがいかがなさいますか?」
もうそんな時間か。と凜は思いながらアリスに聞いてみた。
「ご飯って絶対ここで食べないといけないの?」
いいえ、そんなことはありませんが。とアリスが言ったので凜はお願いしてみた。
「食堂みたいな所ないの?あるなら行ってみたいんだけど。」
「食堂ですか?もちろんありますが・・・。」
「一応私も役人にやったんだし、色んな人と交流したほうがいいと思って。」
「そう、ですね。それくらいなら構わないでしょう。ただし、条件があります。くれぐれも御自身の正体を悟られないようにしてください、いいですか?」
アリスの言葉に、
「正体って、私は魔王か何かかっ!」
と突っ込んだ後、昨日の朝食のようにアリスに涙目でお願いし一緒に朝食をとることを了承させた凜は、そこそこ高級そうなドレスのような服に袖を通して部屋をあとにした。
(どんな所なんだろうなぁ〜)
暇潰しを見つけた凜はご機嫌だった。
その日の朝、食堂への道をゆっくりと歩く茶髪の次女とその後ろをスキップするドレスを着た黒髪の少女の姿が見られたとか。
朝食をとるために凜を一般食堂へ案内しているアリスは心中穏やかではなかった。理由は一つ食堂にいるであろう人物の事である。
(う〜、リン様可愛いし美しいから絶対手を出すよ、あいつ。)
そう思いながら後ろを振り返り凜を見た。よくわからない歩き方をしていたが、嬉しいらしく、それが体から滲み出ており、いつもより一層かわいらしく見えた。何度か男性の役人とすれ違ったが、皆が皆目で凜を追いすれ違った後も見ている者までいた。
(ぜったい手ぇ出すぅ〜〜。あぁ、どうしよ〜どうしよ〜。で、でもいないかもしれない。そうよ!いないかも!いるな!)
そう思っていると賑やかな場所に着いた。そこは大きな木の扉が開け放たれ、中には縦長の机がたくさんあり、人々がその周りで喋りながら何かを食べていた。そう、ここは城の中の一般食堂。城に勤めている者、その家族、はたまた王族や貴族など城に勤めている者に商売や品物を売りに来た商人まで入る事が許される場所である。
予断だが、城下にもいくつかこのような場所がある。そこは平民がよく利用し、格安な値段で食料を出している。
アリスは一般食堂の扉から1番遠い場所にある机を見た。そこには鎧を身に纏った男達が数名いた。
(い、いた〜〜!!はっ早く〜)
ほっておくと食堂の中へ突っ走っていきそうな凜の手を掴み、アリスは即座に扉の1番近くの机(鎧男達から1番離れた机)に凜を無理矢理引っ張っていった。
凜が目立つ上に、無理矢理引っ張っていったため余計に目立ったらしいが・・・。
(ふ〜。何とか気付かれずにすんだか。)
アリスはそんな事にも気付かなかったらしい。
人に見られていると気付かなかった凜は、アリスの案内のもと一般食堂にたどり着いた。そこに存在するのは人、人、人。そして漂って来る美味しそうな匂い。
凜がウキウキしているとアリスに腕を捕まれ、そのまま1番近くの席に引っ張っていかれ座らされた。
ホッとしているアリスの顔を訝しんで見た後、周りを見渡した。その時気付いたのだが食堂中にいるほとんどの人達が凜とアリスの方を見ていた。
やっぱり黒髪って珍しいんだ。と思ったが、見られているのが恥ずかしくなりアリスの方を見て話し掛けた。
「あ、アリス。なんかすっごい見られてるんだけど・・・、」
「えっ!・・・・・ひっ!」
凜に話し掛けらたアリスはしばらく周りを見渡し、ある一点を見て悲鳴のような小さい声を上げた。
訝しんでアリスが見た方を見た凜の目に、こちらに歩いて来ている鎧を纏った男達が映った。
(へ〜、なかなかのイケメンじゃん)
「ようアリス!最近食堂に来てなかったじゃねぇか。最近って言っても二、三日だがな。」
集団の先頭にいたなかなかいかしてるボーイが笑いながらアリスに言った。何となく笑顔が引き攣っているような気がしたが・・・。
「う、うん。ちょっと忙しくて。」
(ん?)
言葉に詰まったアリスを訝しんだ凜はアリスの様子を伺った。
よく見てみるとアリスの頬は若干うっすらと赤みがかかっていた。よく見ないとわからないくらいの変化を見抜いた凜はニヤリと悪い笑みを浮かべた後、
「じゃあね、アリス。私はお邪魔なようだし席を外すね。」
と宣った。アリスは凜の黒い笑みを見た後、話し掛けてきた少年を見た。
凜の黒い笑みの意味に気付いたアリスは顔を真っ赤にし、あたふたした。
「あ、あのっ、これはっ、えと。」
そんなアリスを無視して凜は少年を見た。
「はじめまして。凜といいます。すみませんが名前を伺っても?」
「あ、あぁ。これは申し訳ない。俺は王国弓騎兵隊隊長、オリバー・リングニス。アリスとは幼なじみだ。よろしく頼む。」
騎士の礼をとったあと、オリバーは凜の手をとった。
「それと出来れば今日の夜、ご一緒したいのだか、どうだろうか。黒髪の綺麗なお嬢さん。」
異性に綺麗などと言われた事のなかった凜は一瞬心拍数が跳ね上がったが、表情には出さずに手を掴んでいるオリバーの腕を抓り上げた。
「っ!」
「申し訳ありませんが今晩は無理そうです。」
そう言った後、オリバーの耳に顔を近づけた。
「アリスになんか話があるんでしょう?後ろの人達は私が連れていくから。」
「!!」
凜からそう言われたオリバーは一瞬驚いたような顔をした後、真剣な顔になり凜にしっかりとした騎士の礼をとった。
それを見た凜は、顔を赤くしてあたふたしているアリスの方に向き直った。
「じゃあ、アリス。私ご飯とって来るから。ねぇねぇ、ご飯取りに行くの手伝って(はーと)」
可愛く綺麗な黒髪の少女に声を掛けられたオリバーの後ろにいた男達は、喜んで着いていったらしい。
凜が去った後の机には一組の男女が座っていた。
「アリス。大丈夫だったか?」
「へ?何が?」
オリバーはアリスに確かめなければならない事があった。しかし、これは聴いていいことなのか?
オリバーはそう思い、数秒考えてから恐る恐る聴いた。
「侍女達が噂しているのを小耳に挟んだんだが、・・・・。カトリーナ王女様を助けた奴に、え〜と、まぁ、色々されたらしいじゃないか。それで大丈夫だったか?」
アリスはポカンとした後、声を殺して笑った。
(で、デジャヴ?お、お腹痛い。)
「お、おい!こっちは真剣にきいてんだ!」
「くすくす。ご、ごめん。前にもこんなことあったし、本人がかわいそうで。」
「よくわからんが、かわいそうなのに笑うなよ。まぁ、その様子を見た限りじゃあ大丈夫そうだが、大丈夫か?」
「う、うん。やさしい人だったし。オリバーももう会ったよ。」(わ、私、オリバーに心配されてるよ〜)
アリスは心配された事が嬉しかったが顔には出さずに、凜の事を話した。もちろん心臓は物凄い速さでリズムを刻んでいたが・・・。
オリバーは勘違いしていた事がわかり恥ずかしくなったが、それ以上に凜の事が気になり、アリスに質問しまくった。
(う゛〜。リン様の事ばかりきいて。この女好き!バカ!)
オリバーの勘が、あの少女はただ者ではない。と告げていたので質問したのだが、そんな事を知らないアリスは終始頬を膨らませていたらしい。
「それにしても、リンか・・・。不思議な奴だなぁ。俺の部下をもう懐柔するとは・・・。」
オリバーはそう呟き、御飯を貰う為に列に、鎧を纏った集団と一緒にならんでいる黒髪の少女を見た。
そんなオリバーの呟きを聞いたアリスは、そうねぇ。と返し同じようにはしゃぐ凜を見ていた。
アリスとオリバーに見られているなんて、露ほども知らない凜ははしゃぎまくっていた。
「じゃあサム君は、一ヶ月程前に入隊したんだ。」
「そうですよ。まぁ15才ですかね。この王国の騎士の中で1番若いと思いますよ。」
鎧集団の中の一人で最年少のサムワイズ・ロウンド、彼女募集中はアピールをしまくっていた。いや、サムだけではなく、全員だろう。
騎士達は基本的には異性を求めて城下町に行く事はほとんどない。出会った異性が他国の密偵かもしれないからである。よって異性と出会う事が出来るのは晩餐会などに訪れる貴族の令嬢、もしくは同じ隊の中にいる女性隊員、侍女のどちらかに自然となる。
前者は家の事などが絡む為、同性の間で牽制合戦などが行われたり、下級貴族の子供達の上級貴族の子供達に対する気後れ、そして隊長角なら呼ばれる事はあるが、一般の騎士達は晩餐会などに呼ばれない事が多い。その理由は隊長格は基本貴族出身の者がなり、平民の出の者達は一般の騎士になるからである。
貴族の出で騎士になる者はたいてい親も騎士であり、幼い頃より英才教育を受け鍛えられているから平民の出の騎士では、勝てないのである。
オリバーという例外がいることはいるが本当にまれである。
中者の女性隊員であるが、男性隊員と比べると圧倒的に数が少なく、かなり倍率が高くなる為、勝利する者が少ないのである。
後者の侍女という線もあるにはあるが、幼なじみの騎士と結婚する事が多く、なかなか間に入り込めないのである。
ましてや役職に就いている若い女性などかなり少なく、将来も有望な為1番競争率が高いのである。
因みに凜はこれに当て嵌まる為、騎士達は必死になってアピールした。
「コイツは俺からするとまだまだですね。落ち着いて判断出来ないですから。まぁもっと経験積んで俺やオリバー隊長のようになるんだな。」
若さで攻めていたサムワイズだったが、ルークに痛い所を突かれて黙り込んだ。
ルーク・ミルガイド
オリバーの学院時代からの親友であり、よき好敵手。貴族であるが、オリバーの弓術や人柄を見て下に就く事を決めた。落ち着いた雰囲気を持つ金髪の男である。
「ルークさんは頼りになりそうですけどオリバーは・・・」
「まぁ見た目や普段の行動は変態で女好きで馬鹿な奴ですが、戦場などではとても頼りになりますよ。」
ボロクソに言われているオリバーだった。
その後、凜の主導権はルークが握り、最後には時間があれば晩餐会に招待するので来て下さい。と約束させた。
「じゃあみんな、またね!」
誰もが見惚れるような笑顔を残して凜はアリスと共に去っていった。
凜が去った後、仲間達に振り返ったルークは仲間達の顔を見て鼻で笑った。
「ふっ。」
そんなルークを他の隊員は睨み、サムワイズに至っては涙目になって睨んでいた。
そのときであった。
ゴン!
ルークは自分の頭を強烈な力で殴られ、殴った相手を見て引き攣った笑みを浮かべた。
オリバーは、ルークが大きな声で凜にオリバーの事を話していたので聞こえていたのである。
「お前、誰が女好きで馬鹿で変態だ!お前があんな事言ったせいでリンに帰る時物凄い冷たい目で見られたじゃねぇか!」
いや、全部本当の事だろ。この場にいる隊員全員が思った。
それに気付いたオリバーは黒い笑みを浮かべ、
「お前ら、今日の訓練楽しみにしとけよ。」
朝食後の弓騎兵隊練習場では屍と化した男性隊員が練習場の片隅にゴミのように転がり、女性隊員だけに手取り足取り指導している所を茶髪の侍女と黒髪の少女に見られた弓騎兵隊隊長が、数秒後には茶髪の侍女にシバかれ、他の男性隊員と同じようにゴミとなった姿とそれを物凄く冷たい目で見る黒髪の少女の姿があったとか。