ぼくの夏休みの課題が決まりました。
「夏休みに自堕落になりすぎず、きちんと計画的に宿題するコンよ。以上解散っ。さぁ飲みに行くコン!」
担任の号令のもと、一学期が終わった。
もっと他に教師はいないのかという懸案を生徒に投げかけつつ、キツネ教師は教室を後にしようと扉を開けた。
「あ、グーグ君。グーグ君は話があるのでこの後学園長室に来るコン」
「げ」
名指しで指名をもらってしまった…。えー?
歓声を上げる学生たちをしり目に、ぼくだけは微妙な表情だった。。もっとも、赤点をとった一部のガードナーたちも苦い表情だが。
「はっ、グーグ呼び出しであるか。お前も赤点のようだな。使役科目か」
「そんなわけないでしょ。ガードナーとは違うんだから」
確かに使役のテストは赤点が目に見えていて、わりとギリギリに打開策が手に入ったが。半分合格なので赤点ではない。
そこに隔絶した絶対的な差がある。
補習「あり」と「なし」という。
ともあれ呼び出しが何なのか。ぼくは面倒なことじゃないといいなと思いながら。
学園長室の扉をノックすると「入るがいい」と返事があった。
いたのはは学園長だけだ。その彼に部屋の右にあるソファーに来るように促される。
「座りなさい。改めて、わしが学園長のモール・テドナーじゃ」
「ええと、どうも。生徒のグーグです」
「うむ」
ぼくを先に座らせて学園長はお茶の準備を始めた。
ディーポットにお湯を注ぎカップの準備をする。ティーカップは4つ。どうやらぼくの他に二人くるらしい。
扉がノックされ、学園長の返事を待って開かれる。
「待たせましたか。失礼。私は領主の。マディーラ・クロアです。よろしく」
「りょ、領主様?、ぼくはグーグです。こちらこそよろしくお願いします…」
学園長だけでも今朝するのに領主である。いったい何を言われるのか、と震え上がるところなのだが、その領主の後ろから続いて入ってくる護衛のあとにもう一人、学生服を着た生徒がいることに気が付いた。
青い髪の少女。
ジザベル・グラハイムである。
「げ」
「キシシ。今日もおいしそうだねぇ」
勇者候補ジザベル・グラハイム。一学期にこの学園に転入して以来、魔王候補のいるパーティーに近づこうとあれこれ行動していた生徒である。
彼女の行動に悩まされたのはぼくもだ。パーティーに入れろとか模擬聖剣を弁償しろだとか、暴力をちらつかせて威圧的に要求してきていた。
セビやユメリア・クロウリーさんの貴族子息女の協力で穏便に手を引かせたのだが……まだあきらめていなかったらしい。
とは言え、貴族の後ろ盾があるぼくに無理難題を要求することはできないだろうし、いったいどんな話しなのだろうか。
「武器の作成、ですか?」
「そうです。聞けば君は人事を尽くして造った武器にも強化を行えるのだとか?。そんな君の腕前を確かめるようで申し訳ないが、君のできる限りの能力で打てる一本の武器を造ってほしいのです」
彼らの話は武器の作成依頼だった。
『武器を打ってほしい』
その話のために領主や学園長が出張ってきたのである。
「……ええと、自分はまだ未熟な学生なんですけど」
鍛冶師ではない。ましてや鍛冶クラブにも所属しておらず、そういった作成系の授業も受講していない。学園を通して依頼されるような立場ではないはずなのだけど。
「君のうわさは聞いています。鍛冶師でも打てない能力を付与できるそうですね。そしてその付与は武器作成において最高峰を詠っていたグラハイム伯爵家の看板に土を付ける結果になりました」
「げ」
また「げ」って言ってしまった。
しかし無理もない。ジザベルとのお話し合いでは彼女を引かせることができたが、それは彼女との間だけ。世間の評価ではぼくが彼女の家の看板に泥を塗ったことになっているらしい。
「今はまだそれほど知れ渡っているわけではありませんが、あなたのことを話題にする貴族や商人は少なくありません。当のグラハイム伯爵からもあなたがどういった人物なのか、その腕前を聞かれることがありました。今後も学園で付与を行うのならば貴族、商人の接触はあるでしょうね」
グラハイムさんとこのジザベルだけでもあんなに面倒だったのに、それが今後増える可能性があると。うー…面倒くさい。でもお金が増えるのは願ったり叶ったりなのだが。
「ですのでこの話しです。武器を一本造る。依頼人はグラハイム家。これで少なくともグラハイム家との確執のうわさは消える。あとはグラハイム家がひいきにしているとなれば武器作成の交渉をグラハイム家に窓口として任せることもできます」
「…それはグラハイム家の庇護下に入れと言うことですか」
「そうです」
今、僕はセビの庇護下にある。貴族の派閥の話だ。王族であるセビの下、クロウリー子爵家のひいきのぼくという感じだ。それがグラハイム家からも庇護下に入れということらしい。
「グラハイム家はセビア王子とはどうなんです?」
「ふむ。少なくとも悪いわけではなさそうです。グラハイム家は第一王子を勇者候補として押し上げている主流派の貴族ではありませんからね。自身の子供や養子に武器を持たせる、新興と言うわけではないですが新興貴族派閥ですよ」
なるほど。
確かに前の魔王討伐のさいにはイズワルド国王子が聖剣を得て、勇者候補として魔王討伐に参加した。本来であれば我が国は王子王女に聖剣を持たせて旗頭に立てて戦うのが主流のはずだ。
けれどグラハイム家では独自の子供たちに造った武器を持たせて勇者候補としている。
今までの主流の考え方とは別の流れだ。
第二王子派閥と仲良くしてくれるのならそれでかまわないが(第二王子派閥があったとして)、グラハイム家の庇護下に入るというのはどうなんだろうか?。
今後、貴族や商人からの依頼や商談をグラハイムがやってくれるというような話だが、そもそもぼくは貴族や商人相手に商売を展開していない。
今は学生相手にクラブ活動相当の規模でしか商売をやっていないのだ。
領主…いや、グラハイム家はそんなぼくを早めに抱え込もうとしているのだろう。なんでその交渉を領主がしているんだってもはあるが、まぁグラハイム家の気持ちもわからなくはない。
自身の造った模擬聖剣に迫る武器を、他の貴族に手に入れてほしくないのだろう。
とは言えどうしたものやら。
正直この要求に応える答えをぼくは出せない気がする。
「……派閥に入ることはなんとも。セビア王子を含めて改めて考えさせてください」
ぼくとセビとアメリア、それからクロウリーさんやクラスメイトたちの意向もある。元魔王を害する意思のある勇者候補には協力したくはない。
ただ、貴族と表立って敵対することは怖い。最悪殺されることだってえあり得るだろう。なのでセビを入れて派閥間で調整をお願いしたいのだ。
「それはもちろん。何、今回の話は今すぐ、ということではありませんからね。あなたがセビア王子のご友人であることは承知しております。それを踏まえたうえでこちらのできることを提示し、交渉のさわりとして話をさせていただいたのです」
具体的な話し合いはまた今度でいいらしい。よしよし。怖いことは後回しにしよう。
「それはそれとして武器の方です。こちらは依頼として受けていただきたい。今後の話し合いのためにも、あなたがどれほどの腕前なのか確認したいのです」
「えぇー……うーん」
まじですか。がんばってもいいことなさそうだし、けど手抜きで造ってもジザベルが怒りそうだしなぁ。できれば受けない方向でいきたい。
そもそも作成依頼は受けていません!。
「ぼくの所は付与しかやってませんよ。『付与屋』ですから」
ジザベルの持っている模擬聖剣に『属性』を付与するのなら請け負います。
「ふむ、付与のみなら可能と言うことですか……」
領主は隣に座り、今まで一言も口出ししていないジザベルに視線を向ける。
く、来るのかな。ジザベルがまたぼくを脅そうとしても学園長に領主様、その護衛のいるここでは無茶なことはできないはずだ。
ぼくはドキドキしながら二人を見る。
ジザベルは首を振った。
「クハッ、付与じゃぁうちの面子は守れねぇぜ。どんなんでもいいから武器を打ってもらいてぇな。グーグ君がだめってんならその師匠に顔をつないでもらいてえなぁ」
なんてことを言うのだ。
ぼくがダメなら師匠を、だと?。あの自由気ままな師匠が人から言われた仕事をするものか。もしするんだったらぼくはあんなに苦労していないのである。
朝は起きないし髪もとかさないし顔も洗わずにトイレに行くのもぼくを頼るずぼらすぎる師匠。そして仕事は自分の造りたいものに全力で、素材の買いすぎでお金が無くなったことをぼくが怒ってようやく重い腰を上げるような体たらくである。
知らない人から頼まれたって動きやしないのだ。
ということを彼らは知らない。
彼らはただ、ぼくの師匠が『森の賢者』と呼ばれる錬金術の至高の一人だということだけだ。
…………そのことを加味して考えると、ぼくへの仕事の依頼というのはカモフラージュで、本当は師匠への接触ではないだろうか?。
ぼくの実力にも興味があるが、それよりなによりも確実な技術を持つ賢人とのつながりを得たいだろうし。
……まぁ、憶測だけども。
……
それはそれで弟子としては困ったもので。
せっかくひきこもっている師匠が貴族とかかわりを持ちたいだろうかと考えると―――否である。
魔物が出るような森に偽装の術までかけて住んでいるのだ。
隠れ住む理由はやはり自分の技術が権力に利用されるのを防ぐためだろう。たぶん。
たまに術の失敗で爆発や家事や異臭がすることとは関係ないと思う。
なので弟子のぼくはその意思を尊重しなければならない。
それに貴族のお願いを2度も続けて断るというのも怖いからね!。……そのためにジザベルは貴族を連れてきたのだろうけども。ぐぬぬ、しゃーない。
「……わかりました。ぼくが造りますよ。師匠は引きこもりですからね、知らない人を見るとひきつけをおこしてショック死しかねません」
「ほう。そう言ってくれるとこちらとしてもありがたい。君の師匠にもよろしく言っておいていただきたい」
はーい。
伝えはしよう。ともあれ、武器を造ることになってしまったのだがどんな武器にすればいいのやら。
「んじゃ、アタイから。武器の素材と方向性はおおざっぱだけど決まってるぜ」
そう言ってジザベルは腰のポシェットから数本の片手剣を出してきた。魔導鞄だ。
「端から説明すんぜ。これは――――」
彼女の出した剣は4本。
《火炎弾》のスキルが付いた直剣に火属性を付与し、束に《燃力》の特殊輝石をはめ込んだ火属性でまとまった一本
《三段突き》のスキルが付いた刺突剣に風属性を付与し、束に《速力》の特殊輝石をはめ込んだ手数の多そうな一本
《耐久+》と《生命力吸収》が付いた厚剣に地属性を付与し、束に《自然治癒》の特殊輝石をはめ込んだ耐久力な一本
《水弾》と《瞬歩》が付いた短剣に水属性を付与し、束に《潜水》と《水耐性》の付いた特殊輝石をはめ込んだ一本
魔道武器としてみれば国宝の武器に匹敵するものばかりである。
おそらくどれも一千万は下らない武器だ。
「ぼくいらなくないですか?」
強すぎて鼻水が出るレベルだ。火炎弾とか三段突きとかなんだそれ。中級魔術に発展スキルだろ。こちとら初期スキルの取得に手こずってるレベルだってのに。金持ちってすげー。
唯一短剣だけはちょっとびみょい。潜水があっても水中で水弾や瞬歩ができるとは思えない。水属性でまとめようとして失敗した感がある。まぁ特定場面やサブ武器として役に立ちそうな武器ではあるのだろう。
「いるいる。これに匹敵する武器を造ってくれってことじゃねえよ。グーグ君の造った武器が強化の基礎素材にできるか、もしくはこれらを強化する見込みがあるかを確かめるための依頼だぜ。本格的に造んのはまた後の話だ」
「ですか」
それなら幾分は気が休まる。
心血注いで最高の一本を造れとか言われてもできる気がしないし。
「でもちゃんと金払うかんな。気合い入れて作ってくれよ」
「う…はい」
ちなみに「特殊輝石」というのは《スキル》を内包した宝石のことだ。ダンジョン産の武器や防具には稀に付与や属性がつく。同じようにダンジョンから採掘された宝石には特殊なスキルが付くことがある。それを加工して剣の束に装飾としてはめ込んだのだ。
普通は束に入れずにブローチや指輪、首飾りなんかの装飾品として身に着けたりするのだが、まぁ束のスペースが空いてたから入れたのかもしれない。《自然治癒》とかブローチにした方が普段使いできていいだろうにね。
「でだ、造ってほしいのはこれらと別のもんだな」
「別のですか」
「四属性のとは違う方向でたのむぜ」
ううむ、難しい注文を…。属性で決めて作ってしまうのは楽なのだ。今のぼくには竜素材という強い味方がいる。属性竜から各属性の能力が〈保存〉できる。それをそのまま付ければ十分依頼をクリアできそうだったのだけど。
「……考えてみます」
そう答えるしかなかった。




