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夏休み前のダイブです。


テストの結果が張り出され、うちのパーティーメンバーは誰一人赤点になることなく学期末試験をクリアした。

……魔王パーティーは三人ほど赤点だったので、ダンジョンダイブから戻ったら補習を受けることになるだろう。テスト勉強の期間中に集中できてなかったようだからさもありなん。

またユベル君に泣きつけばいいと思う。彼ならきっと何とかしてくれる(丸投げ)。

ぼくは休みに入ったら実家に帰らないといけないので彼らの面倒はみきれない。家で師匠の面倒をみなきゃいけない。干からびてなければいいけど。


さて。

長期休暇目前ではあるが、うちのパーティーは休み前の最後のダンジョンダイブを行っていた。



「グーグは夏休みの間は帰省するのよね?」

ぼく、アメリア、セビ、シーダさんは相変わらず第5階層の草原でレア種狩りをしていた。5階層はクラスメイトであるライバルたちがいなくなったおかげか、獲物の取り合いが起こらない日も多くなってきていた。今日もそんな幸運な一日である。

「うん。義姉といっしょに一度帰るよ。場所が場所だから長期の休みにしか帰れないからね。・・・師匠を放っておくと心配だからってのもあるけど」

「わたしもついて行ってあげたいけど、休みの間もクリアクロアの店でバイトがあるのよねっ。ん~あーっ、グーグがアンガーボアに襲われないか心配だわっ!」

心配て。ぼくは子供か。

「ボアなんてそんなに出ないよ。前の時が普通じゃなかっただけだよ。それに義姉もいっしょだからね。義姉さんは戦技科でブイブイ言わせてるらしいから、前の時よりも安全かもしれないし」

そう言うとアメリアはわたしのベルフルーラの方が安心よ。と真顔で答えた。竜と比べられて戦闘力で勝る人間はそういない。しかし幼竜であるベルフルーラになら義姉のほうが強いのではないかと思う。言わないけど。


「アメリアはバイトかぁ。いっしょに馬車で帰れたらって思ってたけど、仕事じゃしかたないね」

商家の子であるアメリアは西都クリアクロアにある系列店でバイトとして商売の勉強をしている。長期休みはその商売の勉強ができる貴重な期間となる。

「夏は夏で面白いものを売ってるのよっ。時間あったら見にきなさいよねっ」

「早く帰ってこれたらね」


アメリアは西都に残る。セビとシーダさんもだ。

「おい、おいっ、グーグ君っ!できたぞっ、ほら、『流水』風刃スラッシュ!」

セビは飛び蛙相手に作った武器の性能テストをやっている。


水竜素材から付与できる『流水』を付けた剣でスキルの《風刃》に水を乗せて飛ばすのだ。

『流水』も放出系の付与なので相性は悪くない。当てられた飛び蛙がいつもより大きく吹き飛んでいる。

しかし器用なものだ。

剣のスキルの発動、そして魔素を使った『流水』の発動。スキルと魔術スキルを同時に使うようなもので、やるのは難しいと思うんだけど、セビはこなしてしまっている。

「セビは器用だなぁ」

先日の『飛ぶ』と『飛翔』を使った装備も割とすぐに使いこなしてしまっていた。もしかすると魔素の操作に長けているのかもしれない。

「ははははは。ふふふ、あぁっ、手元が狂ってシーダに水が!」

セビが剣先をシーダさんの方にさまよわせる。シーダさんがスッと避けるのを追いかけるように水流が辺りを水浸しにしていく。

「わ、セビ!」

「ちょっと!やめなさい!」

「ぐぅ、スケ…スケ…あたりさえすれば…!」

欲望がちょこちょこ漏れている。

これはダメなやつだ。おもに人として。

水流で薄手の服装のシーダさんを追いかけ追い回していたが、しばらくすると水流が弱くなりセビは膝をついてうなだれてしまった。


「ぐ…魔力切れであるか」

「アホかな」

「バカよ」

ダンジョン第5階層で魔素の枯渇。帰りの戦闘を考えていないアホの子の行いである。

標的にされていたシーダさんは濡れた様子もなくシャンとした姿勢でセビの近くに立っている。ただ眼帯のない一つの目が残念なものを見下す感じだったが。


「まぁ、セビという犠牲はあったけれど、スキルと付与の実験はできたわけだ。これでできる選択肢は増えたぞ。…ぼくのパーティーで役に立つかは別として」

しばらく使い物にならないセビを置いて、ぼくは自分の《付与》の可能性に目を向ける。

魔素により発動する《付与》は魔術より弱い。けれどその分、魔素を注ぐだけで発動できるので手軽に、簡単に使うことができる。

『飛ぶ』と同じようにどれだけ魔素を注いでも一定の効果量にしかならず、効果事態も同じ効果しか現れない。魔術より融通はきかないがいつでも同じというのはそれはそれで価値があるだろう。

さっきセビがやったようにスキルに合わせるのも簡単で繊細なスキル、魔術操作を必要としない。

魔素要求系の《付与》はそんな感じのものだった。


「……グーグが商人の顔をしているわ」

「えっ、そ、そうかな」

商人の顔ってどんなだ。お金にがめつい感じだろうか。

「生き馬の目を抜くグーグもいいわねっ!、このまま商人になりましょう!」

「そんな残酷なのはちょっと」

馬形の魔物で目の素材というとナイトメアだろうか。鮮度がいいほうが良いと聞くが、だからと言って生きたまま素材をむしるようなことはしたくない。暴れられても怖いし。


ぐいぐいと商人を推してくるアメリアの圧力に耐えながら、今度はぼくがつららを召喚する。


「―」

呼ばれたつららはぼくが作った鎧を着たまま、ふよふよとぼくの周りを浮遊している。

「つらら、周囲を索敵して。もしレア種がいたら一番に教えてね」

そう頼むとつららはわかった、と言うようにちょこんと上下に動く。そしてぼくの頭上の少し高い位置に移動して周囲を見回し始める。

うん。かわいいし優秀だ。

他の使い魔と比べてはいけない。

つららの優秀さはつららだけの物なのだから。






「―!」

「ん、みつけたの?…あっちか」

つららの合図によってぼくらは魔物の集団のいるエリアに移動する。

木や藪にコソコソ隠れながら草っぱらでワウワウ声を上げる集団を観察する。

コボルトが3体とそのコボルトより少し大き目なゴブリンが一体。ゴブリンは弓を持つゴブリンスナイパーのようだ。

「レア種まじりの4匹か。いけるかなぁ?」

5層での戦闘も増えてコボルトくらいなら危なげなく倒せるようにはなってきた。けれどレア種まじりの相手はまだ不安がある。

「―」

「え?、つらら、やる気なの?」

まるで自分が壁になる、と言うようにつららがぼくに背を向けて浮かんでいる。

つららが盾になってゴブリンスナイパーの攻撃を防いでいてくれるのなら、その間にみんなで取り巻きのコボルトを倒してしまえるだろう。

けれどつららが止められるのは6発だけだ。一応鎧の内側にもう一枚防具を付けているが、それは布のため防御力は期待できない。

「つらら…」

「―」

つららは大丈夫、と言うように動いた。

「……うん。つららなら、みんなならきっと大丈夫だよね。よし、みんなっ、やるよ!」

「うむっ」

「えぇ!」


始めの攻撃はベルフルーラからだ。

ゴウッと吐き出した火球が集まっていたコボルトたちの真ん中に炸裂する。それはコボルトの一匹の毛皮を燃やし、地面に這わせた。

ぼくらを認識した奴らはコボルトが四つん這いで、ゴブリンスナイパーが木陰や茂みに隠れながらこちらに向かってくる。

ベルフルーラがもう一発火球を放つが、さすがに避けられてしまう。


コボルト二匹と接敵する前に、ゴブリンスナイパーが木陰から矢を射てきた。

「っ!」

キン、と音を立てて矢ははじかれる。つららのスキルだ。

矢を受けたつららは空中でふらつくことなく制動ができている。矢程度の威力ではスキルを押し込まれたり突破されることはないらしい。これならスキルの間は安心してまかせられる。

そうなれば後はいつも通りだ。

ぼくとセビが前衛にたち、コボルトを抑え込む。守りはぼくが、セビは攻撃優先に。そしてその合間をアメリアやベルフルーラの攻撃で敵にダメージを与えていく。


始めに燃やされたコボルトが火を消して参戦しにくるころには、コボルトとの戦闘の勝敗は決していた。

コボルトを倒し終われば次はゴブリンスナイパーだ。

つららはぼくたちとゴブリンスナイパーの中間あたりに浮いて、スナイパーの気を引きながらぼくたちに射られる矢を防いでいた。

ぼくたちを狙えば防ぎ、そんな邪魔をするつららを狙えば避ける。そんな塩梅の戦闘により、つららは6発よりも多くの矢をスナイパーに消費させていたのだ。


(つらら、すごいな。浮いてるから視野が広いのか、それとも感知力が高いのかな)

どの攻撃を防ぎ、どの攻撃をかわすか。それは本来経験がものを言う部分である。けれどつららはある程度その能力を持っているように思える。

(スキルの性能といい、近接戦闘に長けた種族なのかもしれない)

グーグには魔物を育て、軍勢を作ってきた経験がある。前世でのことだが。

その経験に照らし合わせればつららの能力にも説明を付けることができた。

つららのスキルは二つ。近接攻撃のスキルと物理防御のスキルである。これはつららの種族が近接戦闘をこなす種族だと考えられる。

魔物は種族に即したスキルを覚える。

そしてそのスキルの使い方や―――戦い方法もおのずと身につく。

魔術に長けた種族であれば幼い魔物であっても魔術の使い方をある程度知っている。親のスキルが遺伝するように、子にもそのスキルの使い方が伝わるのだ。


つららが敵とぼくらの位置を参照して攻撃を選んで止められたのはそういうことだろう。


種族が『妖』、とあるが、おそらく種族名は個体のところに書かれている『雪わらし』が本来なのだと思う。キツネ教師も綾香氏でないほうでつららのことを見ていたし。

この国?この大地か?ではつららやキツネ教師は『妖』でひとくくりにされてしまうのかもしれない。

なので『雪わらし』は近接タイプの生き物なのだ。


一匹になった弓士は弱い。危ない場面もなく囲み、倒すことができた。

「ドロップだ。鉄の弓だね。悪くない」

ゴブリンスナイパーのドロップは鉄製の弓、矢、籠手である。鉄素材としての量が少ないうえに運用には数が必要な矢がはずれで、他は悪くない値段で売れるので当たりだ。ただ弓は使い手が多いわけでもないので一番の当たりは籠手ということになる。


「よし。まぁそこそこの値段かな。次を探そうか」


なかなかに傲慢なセリフである。

しかし商売が軌道にのってきているグーグにとって、第5階層のレアドロップはすでに安い金額しか得られないがっかりアイテムである。まだ素材にして自分で使った方が面白味があるのだ。

しかし、ならばなぜまだダンジョンで狩りをするのかと言えば戦闘することによって得られるスキルや経験。そして学園からの課題のためである。


『夏休みまでに冒険者ランクをDランクにあげること』


他にもベルフルーラの餌のためや、直接魔物を倒すことで得られる『属性』のことなどもあるが、まぁ大体は課題であろう。


今学期の課題はクリアしてある。しょうゆバッタ10匹や青白クラブ10匹倒せみたいなのを一月目に終わらせた。二学期の課題がどんなのか心配ではあるが、そのための準備もこうして進めているのだ。


「二学期の課題は何がくるかなぁ」

「一学期の課題は楽勝であったな」

「Cランク冒険者は少し難しいし、きっとゴブリンキングを倒して11階層に到達すればいいのよ」

ありそうで怖い。

二学期中全部使えばできるだろうか。いや、ぼくの付与で作った装備とか使えばいけるかな。火遁の巻物とか大放出すれば楽勝な気がする。いくらかかるかわからないけども。

「……みんな、二学期もよろしくね?」

「何か弱気ね。心配しなくてもいいわ!ずっといっしょよ!」

「ふ、まかせるがいい。二学期までにもっとでかい男になっているであろう」

セクハラに一喜一憂しているセビはどうでかくなるのか知らないが、アメリアの言葉はうれしい。


ぼくらは少しずつ進んでいく。

セビ、アメリア、シーダさん、

つらら、ベルフルーラ

そしてぼくの周りのクラスメイトたち。


こうして使役クラスの一年一学期は無事に終了を迎えるのだった。




キツネ教師ことカガスミは職員室で生徒の成績表をつけていた。


「死者も脱落者もいないコン。今年はラッキーコン」

初めての『使役』クラス。しかもダイブさせるのが北のダンジョンとあって、だいぶ難しいことになるだろうと予想していたが、結果かなり良いことになっている。

ペットの育成状況、所持スキル、ステータス。一部の戦闘系の将来につかない生徒以外は順当に育ってきている。

特にパーティー「王の円卓」と「神秘少女隊」に所属する生徒たちだ。「王の円卓」はまだバランスが悪いが「神秘少女隊」は安定した成長をみせる。

「これなら二学期も楽しみコン。……でもなんでコンね?」

この2パーティー、午前中の報告では共に20階層攻略と言ってきた。犬猿の仲というほどではないが、ライバル関係だったはずの二つのパーティー。それがどうやら合同でダンジョンダイブを慣行したらしい。

それだけでも驚きだというのに、20階層を攻略したと言う。

まぁ2パーティーならできなくはないと思うが、初期に20階層ボスにアタックしたと聞いた時には今学期中の攻略はできないだろうなと思っていた。

王の円卓はバランスが悪く、一発の火力に頼りすぎてそれで倒せなかった場合への選択しがない。

神秘少女隊は安定しているが人数の多さのため、装備をそろえるのに時間がかかる。一学期中にボス階層までいけないだろうと思っていた。

しかしふたを開けてみると20階層攻略。

しかも聞けば神秘少女隊は階層ボスに初挑戦だったと言うのだ。

「運が良かったのかコンね?。まぁいいか」

王の円卓の火力がいいところに当たれば倒せるだろう。今回のアタックでそれがかなっただけかもしれない。そして一回でも倒せればあとはゲートで20階層のボス部屋の後ろからダイブすればいいだけ。危険のあるボスと何度も戦う必要はないのだ。

「予想よりも早い攻略コン。他の教師に自慢できるコンよ」

登校最終日には他の教師たちと打ち上げに行く約束がある。カガスミはそこで生徒の自慢ができるとニマニマしていた。


その影に別の少年の功績があることには、まだ気が付いていない。



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