『神秘少女隊』と『王の円卓』。
グーグの予想通り、ガードナーたち一行は快調にダンジョンを降下して行った。
「暑い…が、このローブのおかげか今までよりも快調だな」
「そうだな。でも20階層越えたら使い終わりだろう?、少しもったいなかったんじゃねえか?」
グーグから教えられ、なぜかグーグの信者であるらしいアメリア女子からぐいぐいと商品説明をされて買わされたローブ、『水属性』と「保冷」のローブだ。
「あら、いいじゃない。『水属性』なら夏の間も使えるわよ。あたしの『水っぽい』ケープはこのダイブが終わったらお役御免だわ」
横から話に混ざったのはリアラ・アリュードだ。
彼女たちは外を『水っぽい』と「保冷」のケープで包み、その下に軽鎧を、さらに中に『水属性』が付与された服を着ているのだと言う。
ケイランの使う風魔術で強引に暑さをやりすごしていた魔王パーティーと違ってしっかりと暑さ対策をしているようだった。
彼女 "たち"
そう。このダイブはガードナーたちの魔王パーティー『王の円卓』だけではない。リアラ率いる女子パーティー『神秘少女隊』との合同でのダンジョンダイブであった。
自身のパーティーに勇者候補が加入する危険と、ライバルとも言える女子パーティーに頭を下げてお願いすること。そのどちらがましなのかと考えると圧倒的に女子パーティーの方だった。
なのでガードナーは女子パーティーに第20階層の共同攻略を申し出た。
女子パーティーでも暑い階層はさっさと抜けたいところだったのでガードナーの申し出を受け、手を取り合う結果となった。
ガードナーはダンジョンの途中に現れるモンスターを倒しながら女子パーティーに視線を向ける。
「……かしましいな」
ワイワイキャイキャイとにぎやかな女子パーティー。そのにぎやかさは耳に来るものだけではない。武器や防具、服装から連れている使い魔に至るまで、みんなやかましい。
というか使い魔のモンスターにまで何らかの装飾品を付けているというのはどういうことだ?あの魔猪は髪留めが、あの魔トンボには鈴がぶら下がっている。毛皮や皮装備をしているモンスターもいるが、まだそちらは理解できる。
女子とは本当にわけがわからない。
「よーしみんなー、ペース上げていくよー。じゃないとこの男子どもがあの女の尻にしかれちゃうからねー」
リアラの号令に「ハーイ」と良い返事が返ってくる。彼女たちの連れている魔物たちも各々返事らしき応答を返していた。
"あの女"ということはリアラたちも勇者候補のジザベル・R・グラハイムを知っているということだ。
「彼女はお前らにも接触していたか」
「まぁね。戦力が欲しいならパーティーに入ってやるよって言ってきたわね。協調性のない人はいらないと追い返したけど」
女子パーティーはリアラが音頭を取りながらいくつかの役割ごとに副リーダーが指令を出す形をとっている。もし勇者寳保が入ってきたとしたらリアラと同格程度になり、指示が分散することになりかねない。
そんなことを理由に断ったということだろう。
「……節操のない女だな」
どこのパーティーにも粉をかけている。それは『どこでもいい』ということだからだろう。
そんな態度で入れるパーティーはないのだが、だからこそ力ずくで入れそうな魔王パーティーに狙いをしぼってきたということか。
「迷惑なことだ」
「あなたたちほど隙だらけじゃないわよ」
「む?」
「あたしたちは前衛も後衛も層が厚いからね。勇者候補がいなくても時間をかけて攻略できるパーティーよ?。でもあんたの所は瞬間的な火力ばっか高くて他がさっぱりじゃない。だから勇者候補が入る余地ができてるんだわ」
「…………」
確かに瞬間火力で倒しきれればいいが、前回のジャイアントサンドワームでは最初の攻撃で倒しきれずに激昂され、暴れられて撤退することになった。
倒せなかった時の対処ができないパーティーである。
「きちんと使い魔を育てなさいよ。このこたちはあたしたちの足りないところを補ってくれる、貴重な戦力なんだから」
「しかし我らについてくるには火力が足らんのだ」
「そんなこと言ってるから足止めされるのよ」
フンと鼻で笑われる。確かに今回のことはリアラの言う通りだろう。
使い魔をきちんと育てていればいろいろなことに対処できた。移動、壁役、回復、囮。
そういった補助的な戦力があればもっと戦いやすかっただろう。火力が高い自分たちのスキルのみでやってこれたからと、胡坐をかいた結果である。
「……久しぶりに使い魔に会いに行くか」
使い魔たちは飼育小屋に預けっぱなし。このダイブが終わったらリアラに笑われない程度に使い魔を育てようかと思った。
それから数時間の後。
一行は20階層の階段に到達した。
「準備はいいか?」
「いいよねみんな。火力は魔王パーティの男子たちが出すから、あたしたちは砂ミミズを自由に行動させないようにするよ」
「「「はーい」」」
良い返事とともに彼女たちはパーティーを三つに分ける。メイン火力である魔術師を3班に分ける構成のようだった。
そしてアイテムを入れたカバンからゴソゴソと何やら片手で持てる円柱じみたものを取り出した。
「おい、何だそれは。聞いてないぞ?」
当初の作戦では魔術師たちがスキルでジャイアントサンドワームの動きを制限するという話だった。まかせてくれと言うから砂マップに岩を落としたり氷塊を落としたりするのだろうと思っていたが、何か別の方法をとるようだった。
いきなり予想外の方法を提示されても対応に困る。少しでも事前に説明をしてほしい。
「ふふん。じゃあお披露目してあげようかね。みんなーやるよー!」
リアラの号令とともに彼女らが手に持った筒を引っ張り、声を上げる。
「「「「「水遁の術っ」」」」」
手に持っていたアイテムが水色に光るとまるで洪水のように辺りに大量の水が現れた。
それは渦を巻き、彼女たちの周りを押し流す。
「うお、何だ?、水だ」
「水流を自在に操れるんだよ。グーグ君のお手製ね」
そう言った女子が水流の一つをくるんと飛び上がらせてみせた。どうやら道具を持つ女子ごとに一本の水流を操れるらしい。
声なき声をあげてボスのジャイアントサンドワームが怒り出したのを感じる。奴の周囲も水浸しにされ、体を横たえていた砂地が濡れた色をしている。
「第二弾いきますわよ!」
魔術師の一団が魔術を放つ。どれも水属性の氷魔術だ。
「「「《氷槍っ》」」」
「自分も手伝うとしましょうかね。《氷槍》っ」
女子たちの思惑を理解したゼルフィスも加わり、ボス部屋の砂地がどんどん氷におおわれてゆく。
凍るのは砂地の表面だけではない。水がしみ込んだ地中部分まで凍らせてゆく。
怒ったジャイアントサンドワームがその巨体をなげうち、砂を巻き上げようとする。が、ほとんど砂埃はたたず、倒れた重みで打ち付けた体を痛みでくねらせている。
「今よっ!使い魔たち!」
リアラの号令に使い魔たちが一斉にジャイアントサンドワームにとりつき抑え込む。押さえつけられた胴体を再び水と氷の相乗効果が襲う。…一人重装甲の女子が混じっている気がするが気のせいだろう。
使い魔たちは何度跳ね飛ばされてもかかんにジャイアントサンドワームに向かってゆく。彼らを支えるのは治癒魔術を使える女子と使い魔だ。
女子の杖が輝く。するとそれに呼応するかのように使い魔たちが身に着けているアクセサリーがほんのりと光を放つ。
「何だあれは?」
「すごいでしょ。あれも特別に作ってもらった装備よ」
作ってもらった、というと鍛冶屋か、宝石店か……いや、この得意げな表情からするとこれもグーグの作品かもしれない。
「『人特攻』の付いた杖と『人っぽい』アクセサリーを装備させた使い魔よ。特攻と属性が合っていると治癒魔術や強化魔術の効果がすごく高くなるの。おかげでうちの使い魔たちはみんなエース級の能力を持ってるわ」
知能は低いが能力自体は高い魔物たち。それが強化や回復でずっと戦えるようになったのなら、これほどたよりになる戦力もいないだろう。
足手まといだと見限って連れてこなかったガードナーたちはそのせいで20階層で足止めされ、地道に使い魔を強化、育成してきたリアラたちはこうして大きな活躍をみせている。
真似をするのもしゃくではあるが、今後は使い魔の有用性をきちんと考え直さなければいけないかもしれない。
でないとリアラからドヤ顔がとれない。
「まったく…考えることが増えていかんな」
水遁の術と氷魔術
人特攻と人っぽい
そして使い魔
道具と魔術と人と魔物
すべて合わせての”パーティー”
合同での20階層踏破を申し込みはしたが、この練度なら彼女たちは自分たちの助けなどいらずに踏破できただろう。
それほどによく練られたパーティーだった。
ガードナーは自分たちのパーティーを今一度見直すことを心に誓う。
———帰ったらやろう。ついでにグーグに文句と感謝をしよう。全部あいつのせいなのだから。
そう誓った。
ともかく、そう時間をおかず、女子たちの作戦とその使い魔によってジャイアントサンドワームは動きを制限されていた。
「どう?、おぜん立てしてあげたわよ」
例を言うのもしゃくだが十分な仕事だ。
「感謝してやる。では見せてやろう。魔王の実力というものを」
「終わってみればあっけないものだ…」
元魔王4人分の魔王スキル・魔術を連続で叩き込めば生きていられる者などいるはずもなく。
あっけなくジャイアントサンドワームを撃破することができた。
組織だった戦闘とはこれほど楽なのかと目からうろこが落ちる勢いだった。
「半減の呪いがあるとはいえ…すでに20階層で使い魔がいなくては戦闘が立ちいかなくなるか」
「何言ってんのよ。たんに準備不足なだけでしょ」
リアラの突っ込みが耳に痛い。
次回はちゃんとしよう。
「ふん。30階層ではこんな失態をおかさんからな。ふふふ、お前らとの協力関係もここまでである。この先はライバル同士だと理解しているがよい」
「あーね。あんたそうよね。……みんなー、どうする?言う?やめとくー?」
リアラの声掛けに「いうー」「なきつくまでまつー」等の返事が上がる。リアラはその声の傾向を確認しながら賛否を数えていった。
「……よし、わかったわ。しかたない、予定通りにいくわー」
「はーい」という返事を聞き、リアラは自分たち四人に顔を向けた。
「次の第30階層でも協力しましょう」
「なに?」
「協力よ。今回のことで確認できたわ。火力という点ではあなたたちは非常に強力なのよ。当てさえすればボスを瞬殺することができるくらいにはね。うちのパーティーでも戦力の強化はやっているけれど、そう劇的に強くなることはないのよね。まぁまだ中級魔術を使えるのも数人だから、時間をかければ解決しはするんでしょうけど。でもあなたたちは違うわ。私たちが今すぐに欲しい『火力』を持ってる。だから協力しましょう、と言ってるのよ」
協力。
ここ第20階層でしたのと同じように、力を合わせて階層ボスを討伐する。
リアラたちには我らの『火力』が、
我らにはリアラたちの『組織力』が、
協力関係によって得られることになる。
「数は力よ。一度でも誰かが死亡したら取り返しがつかないのだから、一人もかけることなくダンジョンを駆けあがるために、あなたたち『王の円卓』とクランを結成してもいいと思っているわ」
「クラン、か」
―――クラン
パーティーが集まり、協力関係をとった集団。
『神秘少女隊』と『王の円卓』その2パーティーが組めば北のダンジョンの攻略も劇的に進むだろう。
けれどこの二つのパーティーには問題点もある。
あまり仲が良くないのだ。
今までのライバル関係がすぐには解決しないだろう。
「……すぐには返答しかねるが…我個人であれば協力のもうしでを受けるのもやぶさかではないな」
「ふぅん。まぁそうね。今はそれでもいいわ。どうせこの先の攻略は長期休みが終わってからでしょうし。それまでに返事をくれればいいわよ」
期間があるのはありがたい。ただ、時間が解決するかはわからない。
けれどガードナーは一つだけ、その問題点への解決の糸口になるものを知っていた。
緩衝材―――第三の存在の加入である。
「リアラ。もし可能であるのならそのクランに、あるパーティーを誘いたいのだが」
リアラはニヤリとして答えた。
「あら奇遇ね。あたしたちもぜひとも欲しい協力者がいるわね」
「声掛けを頼んでよいか?」
「ふふ、まかせなさい。男を堕とすのは得意なのよ」
たのもしいことだ。仲間としてみれば使い勝手のいい奴なのだろう。
少なからず警戒していた彼女のスキル。それがこちらに向けられない限りは。
ともあれ、彼ら…彼が加入してくれればこのクランはうまくいく。
ガードナーはそう確信していた。
「魔王ピーティッティの実力をお見せするわっ」
少し不安はあるが。




