学期末試験です。
あけましておめでとうございます(*'▽')ことよろです
学期末試験が始まった。
午前中に筆記のテストを行い、午後からは実技のある科目の実技テストを行う。
使役科テストは使い魔との意思疎通ができているかどうかのテストだ。
「では始めるコン」
キツネ教師の合図に、6人ならんだ生徒たちはいっせいに使い魔に命令を送る。
テスト内容は『逆さにしたコップの中に入れられたガラス玉を取って主に渡す』こと。
サイズの大きな使い魔はこれがバケツとボールだったりビンのフタとアワラ豆だったりする。
「よーし、つらら、ゴーッ!」
付与付与と目標のコップに移動したつらら。
今はぼくの作った物を装備している。
外を覆うのは金属製の鎧だ。と言っても形状は花瓶を逆さまにしたようなものだけど、付与に「保冷」と『硬い』が付いている。
そして内にもうひと重ね、衣をまとっている。付与に「水属性」と『水属性 中』の同属性二重付与だ。
内側で発生させた冷気を外側の保冷で維持する構造である。
つららのスキル《六花》で壊れるのはまず外側の鎧なので外側には簡単な付与しか付けていない。中の付与は竜の素材を使った高価なモノだからね、壊さないように注意しておこう。
この装備のつららは初夏の陽気でもずっと出して置けるくらい暑さに強くなっている。やー、二重付与って強いね。発生量は二倍だけど保冷のおかげで冷気がずっとこもりっぱなしだからそれ以上に冷たく感じるよ。つららが頭上を漂っているとひんやりして気持ちいい。
そんな新装備のつららだが、コップに体当たりして横に転がすことに成功する。が、中のガラス玉を持ち上げることはできない。手がないのだからしかたがない。
ガラス玉の周りをふよふよと漂ったあと、とぼとぼとぼくのところまで帰ってきた。
「ん。グーグ君の使い魔は半分だけ成功コンね。赤点にはならないから再試験はないコン。これで夏休みコン」
教師の事情が透けて見えるコメントをいただいたが、どうやらクラスで一番赤点に近いのはぼくだったらしい。
なのでぼくがテストを合格できたなら、再試験もなくキツネ教師も安心して夏休みを満喫できるようだった。
「次の6人コン。さっさと並ぶコン」
呼ばれて並んだのはセビだ。
(ん?、セビは違くないか?)
名前の順なのでぼくの後の組みなのだが、本来セビがいる場所はシーダさんがいるべき場所だった。
件のシーダさんはセビの斜め後ろで待機している。
本当は召喚系スキル持ちのシーダさんがぼくのクラスメイトで、セビはその護衛対象。学園に通うことになったシーダさんはセビから離れられないため、逆の発想でセビもこのクラスに通っているのが実際の話。授業中にセビが座ってシーダさんが立っているのは王子を絶たせるわけにはいかないから。
ってはずだけど。
なのでテストも、本来はシーダさんが受けるものなのだ。
「始めるコン」
開始の合図にセビはシーダさんに「ゆけ」と命じる。命じられたシーダさんはコップの置かれた代までスタスタと歩いてコップからガラス玉を取り出し、戻ってきてセビに手渡した。
「うむ」「はい合格コン」
「いやいやいやいやええええええ?」
声を上げたぼくにキツネ教師が視線を向けてきた。
「グーグ君、何かコン?」
「え、だって…いいんですか?」
「いいコン。いいことになってるコン」
談合済みだったらしい。ダメキツネ教師から談合の内緒話しをされたのはぼくだけではなかったのだ。
———おそらく、シーダさんの能力を隠すために。
まだ一度も護衛としての能力を見せていないシーダさん。きっとその能力は本当に必要な時にしか使われないのだろう。そもそもたかが学園の授業で大事な護衛手段を人前で披露するわけがない。
たった一人しかいない護衛なのだ。自分の身を守るために最大限努力するのは王族として当たり前のことだった。
「そっか。王族だもんね…」
勝手に納得するぼくに合格を勝ち取ってきた(?)セビが寄ってきて胸を張る。
「ふ。シーダにやらせると教室が壊れるからな」
「…………」
赤点回避だった。
「グーグ!今回も赤点はなかったわねっ」
全てのテスト結果が発表され、無事に全科目赤点のなかったぼくにアメリアがうれしそうに近寄ってきた。
「テストお疲れ様っ、アメリアもね。これで心置きなく夏休みに入れるね」
学期末試験の後は長期休みである。赤点のあった生徒はこの休みを削って補習授業と再試験がある。
つららが動けるようにならなかったら永遠と再試験をすることになっただろう…恐ろしい。
「グーグは休みはどうするの?」
「ぼくは師匠の所に帰ろうかな。師匠は放っておくとどんどんずぼらになるから心配なんだ。一度帰って確認したい」
錬金術に集中して生活をパモクルスだよりになっている姿が思い浮かぶ。パモは大雑把な仕事をしてくれるが、細かい部分まで気を使えるわけではない。食事で例えると野菜を茹でて肉を焼くことはできるが味付けをしたり作業の多い料理をすることはできない。
まぁ、師匠が部屋の隅に埃が積もって用途自分の髪の毛が寝ぐせだらけだろうと頓着しない性格なのでパモだけでもなんとかなるとは思うが。
一応生存確認のためにも帰って顔を見ておきたいと思っている。
「そうなのね。わたしも途中までついていきたいけど…お店の手伝いがあって自宅には帰らないことになったの」
アメリアは残留組らしい。
将来のためにお店の手伝いをしているらしいので、これは仕方ないのかもしれない。
「グーグ君、余も居残りだぞ」
セビも赤点は無かったので夏休み突入である。……ちなみにテストは全部セビが受けていた。シーダさんは一科目も受けなかったのだ。
「セビは夏休み何するの?貴族って避暑地に旅行に行くイメージだけど」
「ふっ、余は迷宮探索の予定である」
「おお…!」
セビがやる気になっている。まさか積極的に強くなろうとするとは思ってなかった。
ぼくと同じように味噌っかす冒険者でいるのかと…。
「セビ、無茶なダイブはしないようにね」
「む、ま、まぁ大丈夫であろう」
セビは何かごまかすように咳をした後胸を張った。
「余の護衛騎士が集まるからな。彼らの実力試しに行くつもりだぞ」
「あー、シーダさんだけじゃなかったんだ」
ずっとシーダさん一人なのでセビの護衛は一人しかいないんだと思ってた。他にも護衛がいるならシーダさんの負担も減っていいと思う。
「今の環境が安全とは言えないからな。実家にお願いして人員をもっとよこすように言っていたのだ」
「環境?」
「ダンジョンや、クラスメイトたちだな」
ダンジョンは北の特殊ダンジョンを攻略している。人種、亜人種は能力が半減されてしまうダンジョンだ。使い魔のいないセビにとってはぼくらよりも不利になる場所かもしれない。それに、ダンジョンが成長しきってしまうとまずいことがおこるらしい。
西都クリアクロアに造られた4つの人工ダンジョン。その4つが100階層まで成長したとき、ダンジョンは深淵化する。
今はまだ南の一つだけだ。
けれど他のダンジョンも100階層めざして成長している。
ここクリアクロアは、そうした爆弾をかかえた街なのである。
そんなところに一応ではあるが自国の王子がいるのだ。護衛を増やすのも理解できる。
「国を挙げて攻略してくれればいいのにね」
「学園長の話では騎士に頼んで潜ってもらっているというから国が助力をしていないというわけではなさそうだぞ。いざとなれば大軍でもって攻略するつもりはあるだろうな。しかし今はまだ猶予があるのだろう。そんな状態で国一番のダンジョン都市をつぶしてしまっては財政にも影響を与えるし、行く場所のなくなった冒険者たちが野盗になりかねん。…それに、何やら最近は農作物などが育ちにくくなったという話もある。ダンジョンドロップで食べ物が補えるこの場所はそういった不作にも対応できて壊せないのであろう」
「へー。難しいんだね」
政治のことはさっぱりだけど、いろいろあるらしい。
と言うか、ダンジョンのドロップで食料を補う話は初めて聞いた気がする。しかし確かにスライムからジェル、アイアンビーからはちみつがドロップするし、西のダンジョンでは魚介類がたくさん手に入るのも聞いたことがある。巷ではダンジョンを丸ごと一つ使って蚕の飼育をしているとも聞くし、ダンジョンはダンジョン外と環境を異にするせいで得られる恩恵もあるのだろう。
ダンジョンをつぶすというのも簡単な話ではないようだった。
まぁいざというときになれば王国の精鋭たちでもって攻略してくれると期待しよう。
(その割にぼくらに潜れっていうのはなんでだろう…まさか魔王スキルのことを把握してたりしないだろうな)
学園長がぼくらのクラスに来たのダンジョン攻略を持ち掛けたのだが、よくよく理由を考えると"使役クラス"というだけでは理由が薄い。使役スキルを使えるのはうちのクラスだけではない。冒険者や、ぼくの義姉も使役スキルを持っている。けれど義姉からは北のダンジョン攻略を頼まれたという話は聞かなかった。
ぼくらのクラスだけ?
なら理由は使役スキルではないかもしれない。
使役スキルの代わりに思いつくとしたらあとは"魔王スキル"だろう。
魔王のスキル もしくは 魔術
最上級、いや、それ以上の破壊力、制圧力を持つ魔王にだけ与えられた能力。
それは転生した元魔王たちがそのまま引き継ぎ、人の身で使えてしまう。
これらの能力を使えばダンジョン制覇も可能になるだろう。
使役スキルと魔王の能力。
北のダンジョン攻略はそれらを踏まえて与えられたもののように思える。
(そうか、勇者候補がこの学園に来て、うちのクラスにかかわろうとするのも…)
元魔王の手綱を握るためと考えられる。
王国に何人いるかもしらない勇者候補だが、一人いなくなってまたすぐに二人目がやってきた。勇者候補を派遣してきた相手は、魔王クラスのことをかなり意識しているのだろう。
たとえガードナーたちが勇者候補の加入をつっぱねられても、勇者候補からの干渉は終わりそうになかった。
「…ダンジョンのことはガードナーたちがメインに頑張ってほしいとこだね。ぼくらは補佐しかできないけど。20階層を攻略できるといいな」
「あら、そういえば今日だったわね」
ガードナーたちは今日、第20階層の攻略のために早々と出発したはずである。
テスト明けのダイブだ。
少々準備に手こずったためにテストが終わり、夏休みに入る直前という忙しい時期になってしまった。
勇者候補との約束日にギリギリになってしまったが、まぁ大丈夫だろう。
なにせいろいろ|持たせて(売って)おいたので。
これで負けたら盛大に煽ってやろうと思っている。
「…ま、平気だと思うけどね」




