反論します。
「……ジザベルさん、ぼくに何か用ですか?」
「あぁ。あんたに用だぜっ。あんた何だっけ?ゲリコ君?」
「ゲリコって誰!?。一文字もあってないよ!」
「そんな感じだろ」
ぼくの否定に一切動揺もなくしゃあしゃあとそう宣う。強者の風格である。
「……グーグだけど」
「そうだったな。グーグ君。覚えたぜ。そんでグーグ君、アタイあんたにだまされたぜぇ」
「ええと、何のことかな?」
ジザベルはわかっているくせに、と生易し気な笑顔を浮かべたまま、ぼくの横に掲げられている『*付与はじめました*』の看板を指さす。
「…………付与屋です。ジザベルさんの模擬聖剣にもついてるやつでしょ?」
「ついてねえよっ。なんだったら今ここでアタイの模擬聖剣に付与してくれてもいいんだぜっ!」
襟首をつかまれ、持ち上げられながら顔を近づけられる。
人が作れる最高の鍛冶と最高の付与と最高の錬金術によって作られた武器
――模擬聖剣
その武器にぼくが『属性』を付与できたとしたら
それは彼女の兄の模擬聖剣に何らかの付与をほどこした犯人がぼくだということの証明であった。
「やってみるかあぁん?」
「す、すいませんでしたぁっ!」
服をつかまれていなければ地面に額を付けていただろう。
それくらいみごとに謝意あふれる謝罪だった。
「キシシシ、認めるんだな?素直でいいじゃねーか」
嘘をついてもいいことはないので素直に謝っておく。暴力怖い。
「んじゃどうすっかね、謝罪…誠意ってもんがほしいとこだがなぁ」
「誠意…ええと?」
「あんたが使えなくしちまった模擬聖剣一本分の値段だぜ。人の作った最高峰の武器だ。なまなかな金銭じゃまかなえねーぞ」
「と、ちなみにおいくらくらい…?」
「兄貴のために一本だけ作られた武器だ。砦一個分に値する金額だろうぜ」
砦一個分。
途方もない金額である。
量産物ではない一品もの。それも聖剣に迫る超高性能な武器だ。本来であれば城一つ分に値する金額だったとしても不思議はない。
けれど違う。
彼らの評価は彼らがつけたもの。
ぼくの見立てた金額とは相違があるのだ。
だからここから。
ここで納得させなければ、ぼくの安寧な明日はないのである。
「……それ、違くない?」
「あ?」
「ぼく程度の錬金術で使えなくなる程度の武器だったんでしょ?。だとしたら最高峰なんかじゃないよね?」
「てめぇ…」
チラリとあたりを見回して、隣のブースの先輩と幾人かきていた客の何人かがいなくなっていることを確認する。
予定通り、彼らは援軍を連れてきてくれるだろう。あとはそれまでどれだけ彼女を納得させられるかである。
「最高峰じゃなかったらなんなんだっ、てめぇにはわかんねぇかもしれねえがなっ、この武器にゃうちの家名を背負ってんだ!。それを腐そうってんなら貴族を敵にまわすってことだぜ!」
「で、でも事実、錬金術で強化できる余地はあったんだよね?。まだ作りかけの武器じゃない?」
自分の付与が特別っぽいことは置いておいて反論する。
「"最高峰"だからこそのその評価なんでしょ?。けどその武器はぜんぜん最高峰なんかじゃない。良い武器だけど、ぜんぜん中途半端だと思うよ」
「あぁっ!……っ」
ジザベルとしては"模擬聖剣"の性能に疑いを持ちたくはないのだ。『人類最強の武器』それを持つことで自他ともに勇者候補として認められているのだから。もしそれが覆るようであれば『勇者候補』の看板に陰りがでてしまう。
だから認めるわけにはいかないのだ。
「て、てめぇの錬金術が普通じゃねぇだけだろっ。こんな付与は見たことも聞いたこともねぇぞ!」
「……そうだね。ぼくも知らない」
「ほれみろっ!てめぇが特別なだけじゃねぇか!」
「でもそれって、ただ知らないだけだよね?。ぼく程度の子供が使える錬金術が、他に使えないわけないよね?」
ぼくはぼくのスキルが世界唯一だとは思っていない。
このスキルは山主様――世界をつかさどる星神の配下、黒龍が普通の《保存》を昇華させたものだ。なので昇華さえできたなら同じような効果のスキルを所持することはできるはずだ。
「それに、人の領域で造れる最高峰だっけ?最高峰の錬金術師?。ははっ、上級までしか使えない魔術師が最高峰だって?冗談にもほどがある」
「って、てめ」
「人里にいる最高峰はぼくの師匠だ。『森の賢者』と呼ばれる最高の錬金術師。本人はただのぐうたらな人だけど、師匠を置いて最高を名乗るなんてお腹で茶碗蒸しが茹で上がっちゃうよ」
「っ…」
『森の賢者』その存在はジザベルでも知っていた。ときおり彼女の作品とされる魔道具が売りに出されるためどこかに住んではいるのだろう。けれどけっして人前に姿を現さず、どこか人の知れない隠れ里に住んでいると言われている。
模擬聖剣作成にあたり、もちろんグラハイム家もその賢者に協力を乞うために手を尽くして行方を探させた。
けれどどこにいるのか知ることができない。
おそらくイズワルド国の西部に居を構えているのではないか?というところまでしかつかめなかったのである。
森の賢者
魔族の魔将
「ラナ」と呼ばれる子供
それらがグラハイム家の集めた技術より、格段に高いスキルを有するであろう者たちだった。
その誰一人として連絡をつけることができなかった者たちでもある。
彼らの名を出され、「最高ではない」と言われてしまえば否定することはできない。
「そ…くっ、お、おめぇ、『森の賢者』の弟子だっていうのか…」
「そうだよ。証明しろって言われても困るけど…あぁ、義姉さんならできるかな?。件の森の賢者の一人娘がこの学園の先輩にいるんだ。3年生の戦技科にいるエルフ族だから見つけやすいと思うよ」
「…………」
義姉はそこそこ有名であるからジザベルも名前を聞いたことがあるのだろう。目が微妙に泳いでいる。
ジザベルは武器の性能が中途半端であると言われたことの否定材料がなくなってしまった。
"最高峰"の武器
であることを否定されたわけではない。
"中途半端"な武器
であると言われたのだ。
まだ途中の、強化の余地を残している物。
グーグは勇者候補であることに喧嘩を売らなかった。物作りにかかわることになったグーグからすれば、付与の余地を残している物はすべて強化途中の物である。いい『属性』が見つかれば優先して付与したい、そんな可能性を秘めた道具に見えるのだ。
"模擬聖剣"はまだ強くなる。
ゆえに、ジザベルの地位を脅かしてはいないのである。
さて、これで"最高"の看板に陰りが出てしまったわけだが、こうして騒ぎを起こしてごちゃごちゃやっていれば人も集まってくる。
野次馬のみならず、ぼくが待ち望んでいた助っ人も到着するころであった。




