お店再開します。
『*付与はじめました* 一回500G(素材持ち込み)』
『セビの後ろ盾』と『クロウリー子爵令嬢の息のかかった店』という看板をひっさげて付与屋を購買横のエリアに移転させた。
今回の目玉は夏季対策の属性『水属性』と『水っぽい』である。
属性石を使わずに水属性がつけられる。この事実はクラスメイトのみならず、学園の生徒たちにすぐさま知られることになった。
「うおおおおおっ、今度はこの斧に『水属性』を付けてくれっ。属性武器はロマンであるっ」
「グーグ君っ、グローブとブーツに『水属性』をお願いっ、夏にむれちゃうところっ!」
「ミールイール鳥の羽を採ってきた来たぞ!これで『風属性』がつけられないか?」
「サラマンダーの魔石から何かとれない?、ちょっと試してみてくれないか」
「『かわいい』っ、『かわいい』で!」
大盛況だった。
消費される魔素を補充するためにマジックマッシュルームの鉢植えが3個置かれているが、それでも魔素が足りなくなるほどだ。
マジックマッシュルームはユメの使い魔である。先日のダンジョン探索に使い魔を連れてきていないなとは思ったが、どうやら植物系の使役術があるらしい。
植物系はあまり動く魔物がいないので基本的に連れ歩かないのだそうだ。
評判の『水属性』と『かわいい』を筆頭に、既存の『属性』が大人気だった。今までクラスメイトのみの商売だったのを学園全体に変えたせいもある。『硬い』と『美しい』も人気。以外だったのが『毒っぽい』と『麻痺っぽい』だった。
どちらも貴族のお土産用として付与を頼まれた。どうやら貴族様の毒殺対策として弱毒が与えられる『毒っぽい』が良いらしい。毒耐性を育てるのだとか。
それに新しくいくつかの『属性』も開拓されていく。
スライムから『ぶるぶる』
ゴブリンから『人っぽい』『器用な』
しびれウナギから『麻痺の』
魅惑の香から『魅了っぽい』
収納袋から『空間属性 小』
剣士の心得から『斬属性 小』
サラマンダーの素材から『火属性 小』
他、竜素材から属性の小中と、
地竜は『剛体』
飛竜は『飛翔』
火竜は『火属性+』
水竜は『水属性+』と『流水』
氷竜は『冷気』
黒竜は『速度+』と『耐久+』と『威圧』
聖竜は『治癒+』
という発動型の『属性』が保存できた。
めずらしいのでは「殺人包丁」というアイテムから『人特攻』というのが保存できた。ゴブリンの『人っぽい』というのはこれのためか、と納得がいった。
『っぽい』属性は『特攻』属性で攻撃するとダメージが増えるらしい。
『魚っぽい』『虫っぽい』『人っぽい』『犬っぽい』『水っぽい』『治るっぽい』『毒っぽい』『麻痺っぽい』
それぞれに『特攻』があるのかもしれない。
流石に客が多くて毎日腕が筋肉痛になるくらい鉄鎚を振り下ろしていたことで、鍛冶スキルの練度が上がっていたりもする。
・鍛冶《鍛冶Lv4》1 <鍛冶を行う。Lv4:粘土・石・玉・金属・草・根・木>
「玉」が増えた。おそらく宝石のことだと思うが、何に使うのだろうか。水晶でコップとか作れるのだろう。
「低金属」だったのが「金属」になった。
今のところ青銅、銅、鉄くらいしか使っていなかったが、いろいろできることはいいことだ。中級冒険者のたのみにも対応できるようになったのだろう。ただ、これで上級の扱う金属まで加工できるかはわからない。
神銀ミスリル
流体金属のエーテル
アダマンタイト
神銅オリハルコン
どれも高価な金属として有名なものだから、試してみるにももったいなくて使いづらい。
「いつかは試してみたいけどね…よし。できたよっ」
ぼくは隣の区画の生徒に作ったばかりの魔鉄の長剣を渡す。
魔鉄は鉄に魔素が宿ったものだ。切れ味自体は変わらないのだが、魔素が宿っているため武器に使えば霊体に傷をつけ、防具に使えば魔術の被ダメージを少しだけ緩和してくれる。
鉄よりちょっとだけ良い素材だが、魔素をとどめたまま加工するのに専用の設備が必要になる素材だった。
それをぼくの鍛冶スキルで一気に加工してしまおうというのが、ぼくととなりのスペースの鍛冶部の目論見である。
「おう。実に普通の長剣だ!」
そりゃそうだ。鍛冶スキルでポンと作れるのは平均的な性能のモノだけである。
鍛冶部の彼はその長剣を磨ぎ台にのせ、刃を磨ぎ始めた。
鍛冶部はこの購買横エリアで武器磨ぎ代行をやっている。
磨ぐことにかけては一般生徒よりはるかに熟達しているのだ。
ブースには研磨道具の他に細工道具もあり、磨いだ装備にかっこよく装飾を施していく。
「できた。魔鉄スラッシャー。これで学期末試験の課題は完成だぜ」
鍛冶系の選択授業でもあるのか、上級生である彼は『魔素を含んだ装備品を鍛造する』という課題をぼくの手を借りてさっくりと終わらせる腹積もりなのだ。
「…先輩、鍛冶で造らなくていいんですか?」
「……そりゃ、鍛冶で食っていこうって生徒ならまじめにやるだろうさ。でもかっこいい剣を作りたいだけのおれみたいな生徒は、他人の手を借りても作りたいものを作れりゃ十分なんだよ。グーグ君は鍛冶一筋なのか?そんなに鍛冶スキル育ててるやつなんて鍛冶選択のクラスには一人もいないよ」
一筋なわけではない。
いつの間にかこんなに育ってしまっただけである。
職業スキルはLv3でその職業としてやっていける最低ラインだと言われている。今のぼくの鍛冶スキルはLv4。仕事で鍛冶をしている人間と同じレベルである。
まぁ、実際に同じものが作れるとは言わない。
ただ漫然と鉄鎚を振り下ろしているだけで練度が上がるのだ。きちんと物を作って育てた技術とは差があるだろう。
そういう点では授業できちんと習っている先輩の方が腕は上かもしれなかった。
「うーん、ぼくはきちんと習ったわけではないので鍛冶師にはなれないと思います。むしろ先輩の方がいろいろ知ってると思いますよ」
「そうなんか。確かにスキルは鉄鎚握ってれば育つっていうけどさ…そんな長時間鉄鎚握ってるだけでもすごいと思うけどね」
普通の人間は鉄鎚を握って振り回したりしない。
カチコンカチコンやらないのだ。
「ぐへへ。こうしてかっこいい武器が作れるなら十分面白い職業だと思うけどね」
「それは同意しますね」
思い通りのモノが作れるのが生産系職業技術のいいところだ。ある程度はスキルで時短できるし、極めれば高性能な武器だってできてしまうのだろう。
「先輩はその武器を実際に使うんですか?」
「いや、これはあくまで授業のための模造武器だな。やりたい方向は盛り込んでるが、本当に作りたい形にするにはまだいろいろ準備がいるな」
本命武器のための練習らしい。
本命には良い素材、良い付与、良い技術でもって作成に取り組むのだろう。
ぼくみたいにスキルで作った平均性能で満足するのとは違うのである。
「グーグ君は作りたい武器とかないのかい?」
「あぁ、そうですね。最近いい『属性』がみつかったのでそろそろ武器を新調したいですね。あと使い魔の防具とかも」
今の武器は『毒っぽい』が付与された鉄の短剣だ。
欲しかったのは『麻痺っぽい』の上位、『麻痺の』だ。保存できる魔物が発見されたので武器を作り直したいと思っていた。
「作るなら手伝おうか?。磨ぐし、かっこいい装飾もできるんだぜ」
かっこいい装飾はいらないが、磨いでくれるならそれはそれでありがたい。しかも話を聞くとどうやら余った魔鉄をゆずってくれると言うのだ。
魔鉄で作った『麻痺の』短剣。
悪くない選択肢である。
補助とオールマイティーな役割を期待されるぼく用の武器として十分使える武器になりそうだ。
あとはつらら用の防具だ。水竜・氷竜の素材から『水属性 中』と氷竜の素材から『冷気』という魔素を流して発動させる『属性』が見つかった。
これらの『属性』があればつららは溶ける心配がほぼなくなると思う。ただ防具をどのようにするかは考えどころである。
「防具は後で考えるとして、手伝ってもらえるんでしたらぜひとも短剣を―――」
「キシシシ、じゃまするぜっ」
横からの声にそちらを振り向けば、青い髪の勇者候補が立っていた。
「げっ」
「あぁ?げっ、とはとんだ挨拶じゃねえか」
いつかは来ると思っていても、こんなすぐにやってくるとは思っていなかった。まだ心の準備が整っていない。
勇者候補がぼくの前で胸を張って立っている……その後ろに、三人ほどの人影があった。
チビとデブとノッポである。
(あいつら~っ!)
前にもあの三人は勇者候補を案内して自分のところに連れてきていた。これで2度目だ。
どうやら勇者候補の使いっ走りになったらしい。
迷惑なことである。




