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大事なのは”冷たさ”です。


「いましたわ。《石礫アースバレット》」

怒涛の石攻撃にさらされた青白クラブは、しかし体を丸めることでその攻撃に耐えていた。

「……硬いですわね。というか、大きいですわね。身がつまってるのかしら…《石礫アースバレット》っ《石礫アースバレット》!」

角度が悪いのか、それとも甲殻が硬いのか、なかなか瀕死にすることができずに魔術が連続して放たれている。

「いや、大きいって何?」

「ですからこの蟹が…きゃあっ」

悲鳴を上げながら飛びのいた岩陰には青白クラブよりも二回りくらい大きな深い青色の蟹がいた。

蟹はハサミを振り上げて怒りをあらわにしている。

ぼくはあわててユメの前に出て盾をかまえる。

「うわっ、お、重いっ、こいつ強いよっ」

ハサミでガシガシ盾を挟まれながら、こちらに覆いかぶさろうと体重をかけてくる。ぼくの腰上あたりの体格だが、身がつまっているのか殻が重いのか、押し負けないようにふんばるのにかなりの力がいった。


ユメはぼくの影から魔術を放つ。さすがに初級魔術ではなく中級魔術だったが、その余波をぼくももろに浴びることになった。

「いてっ、冷てっ、ぼくも巻き込んでるっ、巻き込まれてるっ!」

「グーグさん、魔術の瞬間に距離をとるのですわっ。ノーラさんなら詠唱を聞いて敵を押すか離れるかしますわよ」

「ええい、《盾打シールドバッシュ》っ!」

強引にスタンをあて、蟹から距離をとる。

「《氷槍アイスジャベリン》っ」

その隙をつくようにユメの作り出した氷の槍が蟹の背に当たり、体の半分を凍り付かせる。

「ふふん、とどめはお願いしますわね」

ようやく満足に魔術が決まったのがうれしいらしい。

ユメはニコニコしながら蟹との戦闘を続けるぼくを見ていた。


「ふー…ようやく倒せた」

凍り付いた後もその硬さからか、すんなりとは倒せなかった。それでも殻の節に短剣を突き刺していくことでようやくとどめを刺すことができたのだった。

「何なのかしらね。変異種かしら」

群れの中でたまに大きく成長する個体がいる。そういったものを変異種と呼ぶが、これは違う。


硬く、大きく、そして甲殻の青みが一段と深い。


「……これ、青白クラブの進化種だよ。深海クラブだね」

「あら?」

より深い青みが好事家の間でアクセサリー素材として人気だとか人気じゃないとか。味はあまりかわらないために鮮魚店には並ばない魔物である。

通常のダンジョンであればこういった進化種は濃い魔素を求めてダンジョンの奥へ移動していき、最終的にダンジョンボスになったりするのだが、ここ西都クリアクロアのダンジョンは階層ごとのボスは決まっているらしく強い個体でもその階層にとどまっているようだ。


ともあれ

進化種ということは『属性』にも期待できる。

ぼくは期待しながらステータスを開く。


<水属性 小>


「ついたっ!『水属性 小』っ」

念願の水属性を見つけた。

やはり青白クラブの進化種が『水っぽい』の上の『属性』を持っていたのだ。

「おめでとうですわね。それで、何に付与するのですかしら」

ぼくはマジックバッグからフード付きのマントを取り出した。

「あら、マジカルケープですの。…そのフードは付けたのかしら」

「そう。第5階層でレア種が落とすマジカルケープに手を加えたものだよ。砂漠地帯を歩くにはどうしても頭を覆うものがないとダメだからね。手縫いで付けたんだ」

露店で売っていたニーチャン冒険者から購入したやつだ。そのうちの一つを裁断し、模様を意識しながら縫い付けたのだ。

バッグの中には4着のフード付きカープがある。これはそのうちの一着だった。


「よし、やろう。…付与っと」

カチコン


鉄鎚を振り下ろせばうっすらとケープが輝き、『属性』が付与されたことがわかる。

これで『水属性』のマジカルケープの完成である。


「うん。触ると確かに冷えてる。これは成功かな」

「わたくしにも触れさせていただけるかしら」


比べられるように付与のないケープも出し、二人で違いを確認する。

「冷えてますわね」

「でしょう」

付与の成功に顔がにやけてしまう。

今後はこれをどうにかして量産していかなければいけないのだが、一つ目の問題をクリアできて非常に気分がいい。

「なるほど…ではこれを『水っぽい』と比べてみましょうか」

ユメの提案にぼくの表情がくもる。

「えー、そんなー…比べなくてもー…」

「……付与の代金は出しますから、やってみてくださいまし」

そこまで言われてしまえば断ることもない。

ユメはマジカルケープへの付与を希望していたのでケープ代も含めて『水っぽい』マジカルケープを試してみることになった。




カチコン


「できたよ。『水っぽい』ケープ」

見た目は『水っぽい』マジカルケープも『水属性』マジカルケープも同じだ。

ただし手触りが違う。

「うん。『水属性』の方がさらさらな感じだ」

「そうですわね。肌に直に触れる部分なら『水属性』の方がいいですわ」

湿気の多い季節には特に不向きだろう。こんな『属性』で服を売りに出したとしたら絶対に売れないと思う。

しかし……


「ですが、冷たさで言うならば同じですわよ」

「…………まぁ、か、かなり似通ってはいる、かな」


一番大事な冷たさ。

そのところだけで言えば――二つはほとんど同じだった。

そして同じであるのならば、取得にかかる難度は圧倒的に『水っぽい』の方が楽なのだ。

なんせ魚屋で売ってるので。

お店で50G前後出せば殻付きの青白クラブが買える。

なんなら中身は別に料理に使えるし。


「ぼくの苦労は…」

「ふふっ、貴族や富裕層には『水属性』の方が売れますわよ。耐性も付きますし、こだわるなら『水属性』と「水属性」と「保冷」が掛けられるわけですから。夏のコーディネートに革命を起こすことも可能ですわ」

「そうだね。選択しができたって思えばいいか。…それに、そこまでの物ならぼくのつららも常時呼びっぱなしでも溶けないかもしれないし…うん、いろいろ考えられるかもしれないねっ」


水っぽいならそれはそれで使い道もあるだろう。カエルやイモリを育てるのにいいかもしれない。カエル系の魔物を使い魔にしている知り合いは、今のところ知らないが。

「ありがとうユメさん。おかげで装備品のめどが立ったよ」

「いいですわ。こちらこそ、おかげで砂漠地帯の対策ができそうでしてよ」

砂漠地帯は日差しにより熱砂と乾燥のマップである。

金属防具は軒並み熱でフライパンのように熱くなり着ていられなくなる。

女子パーティーは金属防具に代わる硬さ、そして涼しさの付いた軽い装備を求めていた。

今日手に入れた『属性』のあれやこれやで、ようやく砂漠地帯に対する攻略目途が立ったのである。


深海クラブの生息域は知らない。が、それは『水属性』を欲する客が調べてきてくれるだろう。

ぼくには『属性』の情報だけあれば十分なのだ。


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