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西のダンジョン2


さて、そうして始まった西のダンジョン第一階層探索だが、なかなか思うようにいかない。

奴ら逃げるのである。

モルラビのようにこちらへ向かってくるならいくらでも倒しようがあるのだが、人影を近くに感じるとサッと物陰に隠れるのだ。

……面倒くさい。

非常に。

物陰の隅に追い込めば倒せはするが、隅にいるほかの数匹と一緒になって戦闘になることもあり、余計な手間がかかるのだ。


「ぐぬぬ、どうにかして一匹二匹だけ閉じ込めることはできないかな」

「囲い罠ですかしら。作る手間を考えるとこのまま隅に追い込んだ方が楽だと思いますわよ」

ぼくの鍛冶スキルあたりでそれっぽいのを作れれば、と思うが、作っても持ち運ぶのが大変なだけだった。

別の方法を考えるしかない。


「ええと、それじゃこう…釣り竿!」


<鍛冶:木⇒釣り竿>


マジックバッグから取り出した木材を基に鍛冶スキルで釣り竿を作り出す。

そしてバッグの中につっこんでおいた石ころの中から目的の付与の石ころを拾い出した。


「……てれれれん。『虫っぽい』石ころを餌にした釣り竿~」

「てれれれん?」


釣り竿の糸の先に『虫っぽい』の『属性』が授与されている石ころを結んでいる。

この釣り竿で目的の飛魚をゲットするのだ。

ぼくは作った釣り竿を振り、少し先の岩陰に石餌を落とす。

「なるほど、庶民はこうやって魚を捕るのですわね」

「網を投げて捕ることもあるし、銛を突き刺して捕ることもあるよ。暗いところに隠れるやつは壺を水中に沈めておくと隠れ家にするために入ってくるらしいし」

貴族のお嬢様は魚をいったいどうやって捕まえていると思っていたのだろうか。野生のシカやイノシシみたいに弓矢で狩りをする感覚なのかもしれない。

「ユメさん、庶民は魚を狩猟して狩りするわけじゃないからね?」

「……知ってますわよ」

「槍で付いたり、矢を放ったりしないんだよ?」

「え?。……知ってますわよ」

矢の部分で動きが怪しかった。


さて、投げ入れた石餌だが、どうやら飛魚の興味を引いたらしく数匹の飛魚に囲まれてつつかれていた。

「……いや、なんか集まってきてる?」

つついているのは数匹だが、周りで様子を見ている飛魚までいれると一集団できるくらい集まってきている。

赤青みどりに肌色。蛍光紫にマーブルなピンクまで、カラフルな魚たちがふよふよしている。

「大人気ですわね」

「……ちょっとまずいような。上げちゃおう」

一度竿を上げようと力をかける。

竿がしなり、餌が手元にもどって……!?


餌を追いかけるように集まっていた魚たちが一斉にこちらに飛んでくる。

なるほど。

水中と空中の境が無いということはこういうことか。

普通の釣りであれば魚は水中から出てこない。けれどここではどこまでも、釣られるままに追いかけてきてしまう。

「きょわーっ!」

「なんですのっ!?」

ぼくらは慌てて逃げ出す。竿を放り出し全力でダンジョンの入り口へ。

幸いこっちを追いかけてくることなく、石餌のところに固まっているようだが、もしあの数と戦闘になったとしたら命がなかったかもしれない。


石餌は身体の大きな飛魚に食べられた。

餌がなくなったことで集まっていた飛魚たちも散会していく。

「良かった。あのままだったらどうしようかと思った」

「……あらためてグーグさんの能力はわけがわからないですわね」

魔物を集めることは薬師や錬金術師の造り出した特殊な薬でできる。

ぼくも魔物が寄ってこないようにする魔物除けの香を持っている。その効果を逆にしたものだ。

ただしこれらは使い切りのアイテムである。

一度使えばなくなってしまう。

だが、『虫っぽい』を付与したアイテムは違う。

虫に誘引される魔物にしか効果はないが、アイテムが失われない限り効果が持続する。

……割とすごいかもしれない。

『虫っぽい』すごいかもしれない!

……

使い方には気を付けよう…。






「《石礫アースバレット》!」


ぼくに向かってきた二匹の飛魚が魔術で放たれたいくつもの石礫に打たれ、身もだえする。

『虫っぽい』石ころも無くなってしまったので普通に倒すことにする。

ユメは3色の魔術が得意らしい。

火属性魔術 水属性魔術 土属性魔術 だ。

たいていの人な2種類の得意属性があるが、彼女はもう一つ多い。

今回は火力を制限する意味も込めて石礫を飛ばす魔術で飛魚を迎撃してくれている。


ならぼくも頑張らねば、と地面でビチビチしている一匹を盾で押さえ、短剣を突き刺して倒した。

「つららっ」

もう一匹が起き上がりろうとしているのをつららを呼び出して攪乱する。

ふよふよ浮いているつららに突進するもその攻撃はなかなか当たらない。

たまに当たりそうでもつららが《六花》で防御するのでほとんどダメージにはならない。


「つららのスキル硬いなぁ…6回で壊れるけど」

つららから飛魚の狙いを代わり、盾で止めて短剣で攻撃する。少し手間取るが最後の飛魚を倒した。

戦闘が終わって心なしかうれしそうなつららの頭をなでる。頭は花瓶の底の部分だ。それでもなんとなくうれしそうなのでいいかなと思う。


・雪凍術《六花》 <防具に30s時間の400%の物理耐性障壁を追加する。6度の使用後に防具は破砕される。>


《六花》は面白いスキルだ。

実際の防具を硬くするわけではない。防具を基準としたスキルの障壁を前面に展開するスキルだ。

防御系のスキルで言う『障壁系』のスキルである。

これはかなりありがたい。実際の防具を基準に防御割合を増加するスキルでは、防具が劣化するにしたがってその効果も下がってしまう。

100の防御力のある防具を1.5倍すると150の防御力になる。

だが、その防具が半分の性能になってしまうと1.5倍しても75の防御力に落ち込んでしまうのだ。

一回防御するごとに性能の下がるスキルは戦いの終盤につらくなる。

だが障壁を展開する《六花》は違う。実際に攻撃を受けるのが障壁なので、防具の劣化はほとんどない。戦いの最後まで変わらない防御力を維持できるのだ。

ただし6回までだけど。

「進化で回数増えるといいなぁ…」

ふよ?という感じのつららだが、ぼくはもう一回くらい進化できると期待している。だって雪"わらし"だし。次当たり"女"になるはずである。




戦闘が終わったのでつららを送還してからステータスを開く。


<泳ぐ>


「うーん…泳ぐだ…。飛魚は『魚っぽい』と『泳ぐ』しかないみたいだね」

『泳ぐ』が何なのかわからないが、たぶん『跳ぶ』や『飛ぶ』と同じようなものだろう。魔素を使うと効果が出るシリーズの『属性』だ。

もう何度目かの確認作業を経てそう結論付けた。

飛魚の調査はここまでにして今度は別の魔物を試してみよう。

西の第一階層には他に青白クラブ、シーワーム、ムルル貝、海プル、青スライム、川まねきが出る。

海なのか川なのかわからないが、北のダンジョンよりも種類が多い。

シーワームは海ミミズと呼ばれ、海中の土や砂の中に埋もれている。基本的に土の中の微生物を食べているらしいが、自分の頭上を通る生物には噛みつく性質があるらしい。

毒もなく、牙もない生き物なのでビックリする程度だが、たまに大きなものになると2メートルを超える個体もいるのでとてもビックリするらしい。

だからなんなのか。


「シーワームからは『蛇っぽい』と『うねうね』が保存できるね」

『うねうね』は北のダンジョンのモールスネークからも保存できる『属性』だ。だが『蛇っぽい』は何なのか。ヘビの魔物のモールスネークからは保存できないのにヘビじゃないシーワームからは保存できる。

蛇じゃなくて蛇っぽいから保存できるのか。

っぽいの用法が不可解である。

「『うねうね』は何かしら?」

「そういや何だろうね。魔素流してみようか」

何かわからなければ魔素を流そう。魔素が消費されるようなら『跳ぶ』と同じカテゴリである。


結果、魔素が消費された。

同じく『泳ぐ』でも魔素が消費されたので、晴れてこれらは『跳ぶ』と同じ魔素を消費することで効果のあるカテゴリとなった。

「……『うねうね』の石ころが手の中でもぞもぞしてますわね。ちょっと気持ち悪いような…楽しいような」

そんなことをつぶやきながらユメは『うねうね』石を握りしめていた。

そんなこんなを経つつほかの魔物も倒していく。ユメが優秀なせいか、ぼくはほぼとどめだけを刺していく形だ。

楽なのは良い。

でもちょっとこれでいいのかと思うこともあるが。


青白クラブは外で倒したのと同じものなので倒さない。青スライムもスライム種の通り無害な生物なので倒さず、それ以外の魔物を狩っていく。


ムルル貝から『硬い』『白色の』

青プルから『水っぽい』『青色の』『ぷるぷる』

川まねきから『かわいい』『泳ぐ』


が保存できた。

『ぷるぷる』は魔素を消費するカテゴリだ。『うねうね』みたいにぷるぷるする『属性』だった。


「うーん…第一階層にはなかったかー…」

しょんぼりした。

『冷っぽい』とか出なかった。

「まぁまぁ。『かわいい』が2択で得られることがわかっただけでも得るものがありましたわ」

『かわいい』は今までモルラビからしか手に入っていなかった。

そのモルラビからは『白色の』と『跳ぶ』も保存できるため、1/3の確率を引かなければ付与できなかった。それが半分で付けられるとなれば有用なのだろう。

『かわいい』好きの一部生徒には朗報だと思われる。

「あと、『水っぽい』もひんやりして悪くありませんわよ」

「それ?。うーん、それは「水属性」の前のやつだと思うんだ。青白クラブや青プルが進化した魔物からなら『水属性の』とか保存できると思うんだよね」

「これではいけませんの?」

いくつかのお気に入り『属性』石ころを手でもてあそびながら、ユメは首をかしげる。

「『水っぽい』は確かにひんやりするけどそれだけだよ。効果はそんなでもないからその上位の属性が欲しいと思うんだけど」

ぼくの『属性』は付けてしまったら他の『属性』を追加で付けることができない。なので良い装備には良い付与をしてあげたい。

「ですかしら。でも『属性』は重ね掛けできなくても「属性」や「保冷魔術」は掛けられるわけですわよね?」

「うん」

「……試してみましょう。『水っぽい』は青プルか青白クラブですわね」

そう言ってダンジョンの石を持ち上げ、隠れている魔物を探し出す。

アグレッシブなお貴族様である。


ストックがないのでのんびり投稿です(/ω\)

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