ジザベルの襲来は続きます。
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「グーグめ。ピーティッティの仲間と仲良くするとはな。まさか囲われたか?、もっと積極的に勧誘すべきであったか」
自分の配下として取り込みたかったが、自分よりも元魔王のピーティッティに寄っていることに、ガードナーは危機感を覚えていた。
グーグ自体はそれほどの戦力ではないが、グーグの周りには気になる存在が多い。
第二王子のセビア・イズワルド・ロスクート。
大商人の娘のアメリア・フローライト。
そしてセビアの護衛の黒い美少女シーダ。
その中心にいるのがグーグである。
グーグと仲をつなぐのは益になる。それにグーグ自身も素直でまっすぐな良い性格をしている。
元魔王である自分にも気後れせずに話すのを、自分は好感的にとらえていた。
はっきり言えば友人にしたい。
いや、今でも友人のつもりだが、もっとグーグは自分を頼りにしていいと思う。戦力的に。その一つの形として主になり、庇護してやるつもりだったのだが…。
ピーティッティに先を越されそうな気配がするのだ。
「厄介なことだな」
前のようにそれほど目立たない生徒であればこんなヤキモキすることにはならなかっただろう。
けれどグーグが自身のスキルで貢献できることを表明したとたん、ピーティッティと懇意になってしまった。おそらくピーティッティがグーグの有用性を知って取り込もうとしているのだろう。
グーグに物作りをやめろとも言えず、近くでピーティッティの動向を監視することしかできていない。
なかなか難しい状況だった。
「む?、どうした。まだ帰っていなかったのか?」
下駄箱に来ると見知った元魔王たちが並んで立っていた。
声をかけるがこちらに視線を向けはするが、体は正面を向いたままだ。
「キシシ、ようやく最後の一人がやってきたか。まってたぞ」
彼らの正面には勇者候補である一人の少女が怖い笑顔で立っていた。
笑みを浮かべる口内に鋭いギザギザのノコギリ歯が見える。
ジザベル・R・グラハイム
彼女の名前にある"R"はリーン族を表すものだ。
リーン族は海に住む鱗肌を持った人型種族だ。水中と陸上で生活ができる身体を持っている。人との交配は可能だそうだが、おそらくリーン族とのハーフではない。他種族や他種族とのハーフであればそのことを表す表記として間にその記号を入れるのだが、彼女のそれは違う。人造の生命を表す記号。
"魔"造を行うグラハイム家が造り出した亜人の一人だろう。
グラハイム家も恐れ、忌み嫌われるがをれとは別に彼女自身にも異名がある。
『狂犬』
王都でそう呼ばれるほどに彼女は敵意を振りまき、敵対者に容赦がなかった。
「なっ、き、貴様…あなたが何のようだ」
呼び方を敵対的にならないように言い直す。今の自分たちは勇者候補と敵対するつもりはない。
生まれ変わって魔王でなくなり、人に害をなす理由はもうなくなったのだ。
まだ体が緊張するが、勇者候補は敵ではない。自分を刈り取る存在ではないのだ。
「何って、おいおい。言っただろうが。頼りないあんたらをアタイが管理して強くしてやるって」
以前確かにそのようなことを言われた。
パーティーに自分を入れろ。不埒なことをしないか管理する。ついでに先頭でも強くしてやる。
だがそれは自分の首に首輪と枷をはめる行為でしかない。できるかぎり丁寧にお断りをしておいたはずなのだが…。
「……ぱ、パーティーに戦力は必要ないからと断ったはずだが…?」
「自分たちで20階層を攻略できるって言ってたぁな?。で?できてるのかよ」
つい先日負けて逃げ帰ってきたばかりである。
「ついでに『夏休み前に結果を見せてやろう』っても言ってたぜ」
言った。
この学園の歴史で初学期で20階層を突破した生徒はいない。
10階層の攻略でさえ学年に数組あればいいくらいの好成績なのだが、魔王のスキルを持つ自分たちなら余裕で攻略できるだろうと高をくくっていたのだ。
このパーティーが強いなら勇者候補のパーティー加入などいらない。
戦力を補充しなくてもやれる証明になるからだ。
けれど負けてしまったらそうも言えなくなる。
戦力として足りないからパーティーにいれろ、と言われて断る理由がなくなる。
また別の理由をつけて断らなければならなくなる。
流石に一度断っておいて二度目をこの"狂犬"が許すかはわからないが。
「……まだ、期日はある」
「はぁん。ダセェな元魔王!。期日なんていくらあってもムダなんだよっアタイにまかせとけって!」
確かにあのジャイアントサンドワームはどう攻略していいか目途はたっていない。
だが攻略実績のある魔物なので冒険者組合にはどう攻略したのかの情報はある。
今はそれを読んで自分たちにあてはめて使えないか検討している段階だった。
「断る。貴様の力などいらぬ。我ら『王の円卓』に頭は作らぬ。下に来る者だけは守ってやるつもりだが」
王の上に王はいない。
そして、今生で王になるからには、今度こそ守れる王でありたいのだ。
「チッ、まぁやってみるがいいぜ。ただし期日になっても攻略できないってなら、アタイがバチッと教えてやるから覚悟しとけよっ」
勇者候補はそう言って、キシシと不気味な笑い声を残しながら校舎から出て行った。
「……くそっ、どこで我らの失敗を知ったのか」
「20階層行ったのはクラスならだいぶ知ってるからな。そんで暗い顔してりゃ予想もつくべ」
負けて帰ってきたのを知って追い込みに来たのだ。
こうなると期日までに20階層を突破できなければ本当にパーティーに入ってきかねない。そして入ってしまえば我々は彼女に頭を抑えられ、パーティーの主導権を奪われるだろう。
「なんとかしなくてはな」
「……そうだね」
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「は?節操なしかな」
校門のところでダンジョンに向かうリアラを捕まえ、クロウリーさんを貸してくれないかとお願いしたところ、この一言を賜った。
女子パーティーとしてはブラナノーラに続き、二人目の出向メンバーになる。
リーダーのリアラとしてはぼくのパーティーの足りない人材をいつでも借りられる便利なパーティーだと認識されるというのもどうかというところだろう。文句の一つも出る。
「ユメちゃんはそれでいいの?」
ぼくの少し後ろにいるクロウリーさんに怪訝な視線を向けながら問いかける。
「えぇ、かまいませんわ。そもそもうちのパーティーのための暑さ対策のためですから、むしろこちらから人員を貸し出すくらいしていいと思いますわ」
それで貴族が出向に貸し出されるというのもどうかと思う。リアラとしても貴族の矜持としてそれでいいのかという確認も含めての問いだろう、けれどクロウリーさんはかまわないという様子だった。
(そっかー、貴族を貸してほしいって不敬になるとこだったかー…)
そんなことは露と知らなかったぼくは、二人のやり取りを聞いて少しだけ肝を冷やしていた。
「う…まぁ、いいならいいけどね。装備は期待したいな。本当熱いからねー。あれがましになるなら2,3人連れてってもいいかなー」
「う、うん。そういってもらえると助かるよ。でもそんな奥まで行くつもりはないから、1階層で戦えるくらいでいいかな」
ぼくのセリフを聞いてクロウリーさんとリアラが顔を見合わせる。
「どうなのかしら?」
「どこまで探すつもりかなー。何日くらいかかりそう?」
「目的のモノが見つかるかによりますわね。まぁ、今日は1階層だけでしょうから、ひとまずはわたくしだけで平気でしょうけれど」
「見つからなければ見つかるまではやってほしいかなぁ。少なくとも5階層くらいまでは特に条件なしで協力していいかな。5人まで出そう」
「1編成分ですわね。えぇ、考えておきますわ」
ちゃきちゃきと物事が決められていく。
最近思うことがあるのだが、もしかするとぼくが考えるよりもできる人にまかせたほうがうまくいくのではないかな、という場面がたびたびある気がする。
……………………
頼りになるって良いね!。




