付与屋はじめました。
『*付与はじめました* 一回500G(素材持ち込み)』
という看板を机の横にかけつつ、『属性』の付与屋さんをはじめてみました。
「きゃ~っ、グーグ君、このカバンに!カバンに『かわいい』おねがいしますっ」
「取り出す素材は持ってきてねー。《保存》は無料だけど何が保存できても苦情は受け付けないからー」
「グーグ君、わたしにはこれっ。イヤリングに『美しい』付けてほしいなっ」
「武器に『毒の』をお願いするわっ、盾には『硬い』よ!」
「わ、わたしも『硬い』を付けてください」
「こっちには『かわいい』よ!」
わいのわいのと女子たちに囲まれながら付与の注文を受ける。
魔素はかつかつである。《保存》するのに魔素を使うが、《保存》できる『属性』はいくつかからランダムに選ばれるため試行回数はだいぶ多い。
ほしい『属性』でなければ石ころに付与し、捨てることになる。川である。この場合はもちろん無料だ。
ヘトヘトになりつつも午前中だけで6000Gほどを稼いでしまった。笑いが止まらない。
「グーグ君。ちょ~っと教員室へ来るコン」
説教された。
教室内での金銭のやりとりは騒動の元になることがあるので禁止らしい。
なら教室内でなければいいのかと聞くといいのだそうな。
けれどぼくの付与屋は現在うちのクラスメイトしか対象にしていない。他のクラスの生徒は対象ではないのだ。
「どうしようかなぁ…。クラスの外で露店を開くべきなのかなぁ」
呼び出されていたせいで昼休みの時間もほとんど終わりそうになる中、いそいで昼食を食べながらセビとアメリアに相談していた。
二人はすでに食べ終わっており、アメリアが適当に置いた障害物をセビが『跳ぶ』で避けたり載ったりしていた。たまに槌でどついて転ばせているのは何だろうか。受け身の練習だろうか。アメリアのストレス解消ではないことを祈りたい。
「購買のあたりに部活動の露店も置かれているし、あのあたりなら個人の店を開いても問題ないと思うわ」
部活の露店とは薬学関係の部活の出した薬屋や、鍛冶部のやっている武器磨ぎ代行なんかだ。
入学当初は傭兵業のような看板も出ていたが、パーティーができていくにしたがってそういう商売は消えていった。今は直接戦技科のクラスへ行って個人との交渉になるらしい。
「それがいいかなぁ…、あ、でもあそこで露店を出したら確実に勇者候補の人に見つかるんだよなぁ」
模擬聖剣におかしな付与をしたのはだれか、と聞かれたのは数日前だ。知らないと言った数日後にあきらかにおかしな付与をする店を開いたとなれば勇者候補じゃなくても怒ると思う。
「クラスメイト限定で開いても、そのうち勇者候補の耳に入ったわよ。遅いか早いかでしかないと思うわね」
それもそうだけど。
「でもあの人怖いんだよなぁ。…護衛を雇うか」
抑止力になる存在。元魔王…は逆効果なので貴族の知り合いについていてもらうのがいいかもしれない。
「護衛、というか、グーグ君。それは後ろ盾というものではないか?」
イズワルド王国の第二王子であるセビが地面に寝転がりながらこちらを見上げている。
「貴族の威光を振りかざすことで商売の面倒ごとを極力少なくするのであるな。聞けば勇者候補も貴族の出とか。ならば同格以上の貴族の後ろ盾があればそうそう無茶はされないと思うぞ」
「なるほど。それはいいね」
ぜひとも後ろ盾になってくれる貴族を募集したい。
「そうなると誰ができるんだ?、うちのクラスでたよりになる貴族って誰かいたっけ?」
勇者候補のグラハイム家はセビによると伯爵らしい。こーこーはくしだんで並べて真ん中である。真ん中ではあるが貴族の中ではかなり高い地位になる。ほとんどが男爵でたまに子爵。もっとたまに伯爵という感じだからだ。
ちなみに王族は国に数人しかいないが、セビだからそれは除外することになる。
「高い地位の貴族は中央の学園に行くから、この学園だとほとんど男爵ばっかだよね。ユベル君も男爵だし、伯爵はいないんじゃないかな」
「子爵ならクロウリーさんがそうね。彼女の家はこの近くの領地を治めているから学園も近いところを選んだそうよ」
「クロウリーさん?」
あー…ノーラの友人の金髪の子か。『付与』の値段の相談にきた子だ。確かに高飛車で貴族っぽいと思っていたが、子爵位だったのか。
子爵でどの程度効果があるかわからないが、こうなってしまってはそれにたよるしかないだろう。
「クロウリーさんにお願いしてみるよ」
「それがいいわねっ」
「……グーグ君、一応僕の肩書も伊達ではないのだよ」
セビが悲しそうな顔でこちらを見ている。
「…………知ってるよ。よし、セビとクロウリーさんの二人の看板があれば怖いものなしだね!」
「…そうね!」
「わたくしに後ろ盾になってほしい?」
放課後、さっそくクロウリーさんに付与屋の協力を頼みに行った。
「うん。お願いできないかな?。前にいた男の勇者候補の武器がほくの付与で使い物にならなくなったみたいでさ、外で付与屋を始めると目をつけられそうなんだよね。こないだも下僕にならないかって言われたし、クロウリーさんが後ろ盾になってくれれば勇者候補も無茶できないと思うんだ」
「あぁ、いましたわね。一人目の男性の方…いつの間にかいなくなってましたけど、グーグさんの付与のせいだったのですのね」
絶対ではないけどたぶんそう。
「原因は不明だよ?。でもたぶんそうだと思う。ばれてないけど、ぼくの『属性』の付与がわかったらぜったい怒鳴り込んでくると思うんだ」
「それは確かに困りわすわね」
今の「付与屋」が開店できた一要因には、クロウリーさんの値段交渉も含まれている。彼女の行動があって回転できたのに、それが勇者候補のせいで閉店されてしまうと悲しむ女子がたくさん出るだろう。
これならきっと二つ返事で引き受けてくれるのではないか、と思うぼくの思惑とは違い、クロウリーさんはしばらく悩んでいるようだった。
「…ダメかな?」
「そうですわね……まず、わたくしの家名でどれほどの防波堤になるかという問題がありますわね」
やはり子爵位では伯爵位の抑えにならないようだ。
「下位とはいえ貴族同士のトラブルは面倒ですからね、忌避する空気はあります。ありますが…逆に貴族位を盾に交渉してきた場合、うちではどうしようもなくなりますわね」
貴族と貴族の交渉とはカードバトルのようなものだ。家格、人脈、交渉力。財の多さや武力さえも取引の一部になる。
それがクロウリー家では伯爵にはかなわないということだ。
子供同士のいざこざに親が出てくるかはわからないが、出てきた場合確実に負けるのだと言う。
「うーん…一応セビにも後ろ盾になってもらうことになってるけど、それでなんとかならないかな」
イズワルド王国の第二王子の地位もあればどうだろうか。
「むしろその場合はうちは協力できなくなりますわ」
「できなくなる?」
「えぇ。セビア様は過去の問題のために廃嫡寸前までいった方です。そんな問題の王族と懇意にしているとなると、クロウリー家が政界でどういう目で見られることになるかおわかりですか?。わたくしの兄が王都で士官のためにがんばっているのを、妹であるわたくしが無にするわけにはいきませんわ。セビア様に協力するということは、クロウリー家は第二王子派になるということですから。ありえませんわ。セビア様が手助けするのならわたくしは後ろ盾にはなれませんわね」
「…………」
ちょっとー?セビー?。いったい何をしたら廃嫡寸前になんてなるんだ。
むしろセビを抜いたほうがいいのかもしれない。
子爵の後ろ盾と問題のある第二王子の後ろ盾、どっちがいいのか。
「…それでしたらセビア様のほうが権威はありますわよ。グーグさんがセビア様の友人ということであれば、勇者候補も手出しできないと思います」
「それってぼくは第二王子派ってことだよね!?。それはそれでどうなんだろうっ」
かわいそうな目で見られる。
あきらめてセビに庇護されろということらしい。
「セビか…セビかぁ」
友人だけれども、頼りになるかっていうと微妙だ。
まぁ、こうなってはしかたないのだろう。セビの威光を盛大に振りかざして勇者候補を退ける力にしようと思う。
「…よし。セビに頼もう。あとはもうどうにかなるよね」
「ですわね。わたくしも後ろ盾以外のことであればできるかぎり協力いたしますわ。協力はしないけれど『グーグさんのお店の常連として顔を出している』というふうなこともできますし」
なるほど、貴族が近くにいるだけで普通の人間なら騒動を起こそうとは思わない。後ろ盾ではないが、抑止の一部にはなってくれる。
「ありがとう。助かるよー」
それだけでも十分にうれしい協力である。
「でもそうなると協力してくれるお返しがなぁ…女子パーティーで装備できるような水属性のマントとか作れればいいんだけど」
協力してくれるのならお礼をしたい。
「水属性ですかしら?、前は「保冷」で、という話でしたわよね」
前の想定ではマントに「魔」属性魔術の「保冷」と錬金術の『硬い』を付ければ、という話だった。
けれど先輩冒険者の話によると「保冷」だけでは全然もたないらしく、行って帰ってくるだけで相当な体力を消耗させられてしまうらしい。
「足りませんか…なら、マントに「保冷」、服に『水属性』ではどうでしょう。内側の冷たさを「保冷」で保つ構造ですわね」
「あぁ、それいいね。でもそうなるとやっぱりどっかで水属性を探してこないとなぁ。一般的な属性石を買えばいいんだろうけど、もっと安くすませられないかと探してるんだけどね」
属性石であればぼくの付与を使わないでもお店でやってもらえる。属性耐性としてだが、それでも冷たくなることにはかわりない。
ただ属性石が高価なのだ。それを買うくらいなら店で並んでいる魚を買って試すくらい安いものである。
冒険者は「保冷」マントと風系のアミュレットをすすめてくれた。
そういった耐熱対策を2,3種類重ねていくしかないのだろう。
「水属性…『水っぽい』ならあるんだけど、あれはもしかすると『水属性』の前段階なのかも…」
『毒っぽい』の次の段階が『毒の』のように、『水っぽい』の次が『水の』なのかもしれない。
『冷たい』があるならその前段階は『冷っぽい』だろうか。ひゃっこい?。
「ダンジョン産の防具であれば水属性の防具もあるのでしょうけどね。ただ、水属性耐性のモノは西のダンジョンで必須級の装備ですから、ほとんど売ってないのですわ」
「あれ?」
そういえば西のダンジョンは川や海の魔物が多いんだっけ。北と東しか行ってないから存在を忘れていた。
「あー、ん?」
あれあれ?と脳みそが仕事をしだす。欲しいのは装備ではない。欲しいのは『水属性』等の冷風に良い付与だ。
そして1階層目からそういった水系の魔物が出てくるダンジョンがあって……ダンジョンの魔物からは『属性』が《保存》しやすいとなると――!
「おいグーグ、最近は女子とばかり仲が良いようではないか。我の配下にならんのに女子の配下になっているのではないか」
ぼくとクロウリーさんに近づいてくるのはガードナーだ。
少し機嫌が悪いらしく、険しい表情をしている。
元魔王であるガードナーには配下にならないかと誘われたことがある。魔王は配下を作る存在なので、過去のころと同じように配下を作ってコミュニティーを形成しようというのだろう。
けれどぼくも元魔王。スキルは失ってしまったが、魔王の下で働く気にはなれないのでもちろんお断りをした。
そういった経緯があるのだが、彼の眼には今のぼくが女子の下で働く働きアリのように見えているらしかった。
「なんですのあなたは。横から人の話に首をつっこんで、言うことがそれなのですか。恥を知りなさい」
「なんだと?」
ガードナーとクロウリーさんの間に火花が散った。
片方は貴族様。片方は元魔王とプライドの高い二人である、突き合わせる部分が多いのだろう。
「ガードナー…なにかな。混ぜてほしいのかな」
ぼくは突然絡み口調のガードナーを温かい目で見やる。
どうも最近の彼はぼくに対してあたりがきついように思う。
「ふんっ、そんなわけあるかっ。もうよいわ。お前が我の配下にしてくれと願ってもしてやらんからなっ」
絶賛お断りな捨て台詞を吐いて彼は教室を出て行った。
「なんなのかしら」
「さぁ…」
多感なお年頃なのだろうか。
ともあれ話をもどそう。
「あれはいいとして、さっきのことだよ。クロウリーさん、西のダンジョン!」
「え、そうでしたわね。西のダンジョンのせいで水属性装備が高いという話でしたわね」
「違うよっ、西のダンジョンなら水系の魔物がいるってことだよ!」
はて、と首をかしげるクロウリーさんにぼくは説明をする。
「『属性』は魔物の方がいろんな種類が保存できるっぽいんだ。魔物じゃないモノからは一つか二つの種類だけだけど、魔物からはだいたい三種類の『属性』が保存できてる。今欲しいのは冷風系の『属性』だったんだけど、そういった属性が保存できそうな魔物がいなかったんだ。けど西のダンジョンなら一階層目からそれが期待できるんだよ!」
水系統の魔物といえば草原の川原にいる青白クラブくらいだろう。食材のブルークラブと似た名前なのはなんでだろうな、と思って調べたところ、同じ生き物だった。
魔物肉とわかって販売すると買いずらい客のための措置なのだそうで、『水っぽい』が保存できるブルークラブは街の壁の外で青白クラブを倒せば保存できるらしかった。
「西のダンジョンですか…、そこで素材を集めればいいということですわね」
「いや、倒しに行こう。素材からでも<保存>できるけど、倒した時にも<保存>できるんだ。倒して、ついでにドロップも拾ってきたいな」
魔物をぼくが倒すことで鉄鎚に『属性』が保存できる。この保存は効果範囲がわりと広いらしく、トイレで大きいのをうんうん倒すだけで『臭い』とかが保存できてしまう。
倒した時の『属性』とドロップ品からの『属性』。
両方試行すれば多くの『属性』を見つけられるだろう。
「…いいですけれど…、わたくしといっしょにダンジョンに?」
「ぼくのパーティー、今日は休み日なんだ」
二日にいっぺんの休憩日である。
なのでクロウリーか誰かにいっしょにきてほしいのだが…ちら、と視線を送る。
セビも暇かもしれないから誘おう。
「……セビア様がいっしょでなければ、いいですわよ。今日はわたくしのパーティーが狩りの日ですからリアラさんに話を通すことになりますけれど、きっと了解してくれるはずですわ」
セビはだめだった。
第二王子派のハードルは高い。
「といいますか、グーグさんが水属性の素材を探しているのってわたくしたちのためですわよね?」
「まぁ、そうだね」
ノーラ用に作った全身鎧が次の階層で使えなくなってしまってどうしよう、というところからの話だ。他の女子たちも暑さ対策に布装備を検討していると聞いてなんとかしようと思ったのだ。
「人が良いのですわね」
「そ、そうかな。暑さ対策の装備は夏の休みに入る前に作って売りたいってのもあるけどね」
再来週には期末試験が始まる。試験が終わればほどなくして長期休みだ。休みには実家に帰る人も多いだろうし、そうなると暑さ対策の装備は売れにくくなるだろう。なので試験が始まる前には作りたいと思っている。
「…それはそれで楽しみですわね。夏が快適になるなら歓迎ですわ」
というわけで、ひとまずリアラのところへ行くことになった。




