王の円卓。
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「まったく、グーグのやつめ。もう少し使える男になっていれば我の配下に召し上げてやろうというものだというのに」
ガードナーは自分の思い通りにいかないことに腹を立てていた。
……いや、正確にはいじられキャラだと思っていた友人に塩対応をされて少なからずショックを受けていただけだったが。
前世でも友人と呼べる相手のいなかった元魔王は、人との付き合いの距離感が苦手であった。
「まだ言ってるのか。もうオレ様たちだけで十分にダンジョン攻略できてるんだから、余分な足手まといなんざ増やす必要ねえだろ」
ガードナーの前を歩きながら風を操るのはケイラン。元魔王ビシュアルカの少年だった。
彼らのパーティーは今、北のダンジョンの19階層を進んでいる。19階層ともなると一面の砂漠でもなく、四方を壁に囲まれた暗い迷宮風のダンジョンに変わっている。
壁には文字らしきものと人を模したらしい絵が描かれ、なにか物語がつづられているようではあった。
読み解ける者がいれば王のことや神のこと、そして不死の技法が描かれたものだとあたりをつけることもできたであろう。
「暗いどん。せまいどん」
「暗いのも怖い、せまいのも怖いなどとは。これで元魔王だというのですから、あきれてしまいますな」
「お前も暗くて狭いところに閉じ込められて殺されればきっとこうなるどんっ。せまいのは怖いどんっ、暗いのも怖いんだどんっ」
後ろでごちゃごちゃやりあってるのはロドルゴとゼルフィスだ。二人とも元魔王のドダイデン、元魔王のアルファ・アルファである。
この4人でパーティー『王の円卓』を組んでいた。
他を省いているわけではない。
自分たちとパーティーを組んでくれるクラスメイトがいなかっただけなのである。
早々に元魔王であることをドロップアウトした4人だったが、そのあとはクラスメイトから距離を置かれる対応をされることになった。
魔王は人類の敵である。
前世、魔族であったころなどは気分を損なわないよう、細心のもてなしをされる存在だったというのに、人の世界に転生してからというもの、危険物を扱うようにしか相手をされていなかった。
それがわかっていながらも自分の性格を曲げることなく成長してしまったのは、元『王』だったころの矜持というものだろうか。
いつか”わからせる”ために自分を曲げずにいるのだった。
「見えてきたぜ。20階層の扉だ」
「そうか。…どうする?今回も使い魔はなしでいくか?」
前回の10階層攻略のおりも、彼らは自身の使い魔を召喚せずに自分たちの身体能力とスキルだけで攻略していた。
それができてしまうのは転生とともに継承してきた前世からのスキル――魔王スキルや魔王専用魔術のおかげであった。
「あぁ。使えないことはないが魔物の知能ではスキルの範囲に巻き込まれることもあるからな。それならば初めから呼ばないほうがいいだろう。…それに、どのみち我らのスキルであればボスなど一撃で屠れよう」
「わかった。それじゃ前回と同じ作戦だな。開けるぞ」
ケイランは扉に手をかけながら力を入れていく。
ゴゴゴと動き出した扉の先には、湿った空気と暗い洞窟が続いていた。
「…人の手が入っていないな。ボスはジャイアントサンドワームだから、地底ということか」
明かりは必要になるが日が差す日向でないならばかなり楽である。外では直射日光があるせいで金属製の鎧は着こめなかったが、ここなら着て進むことができる。
足を進める一同はやがて大きな広間に到着した。
砂に覆われた地面にぽつぽつと岩場が点在している。どうやら天井から砂が滝のように落ちてきて洞窟にたまったらしい。それでもこの大穴を満たすことができず、今も流れ落ちる砂が幾本かの砂流を作っていた。
「砂かよ。足がとられるんだよな」
「ゼルフィスは足場のあるここからボスを狙ってくれ。我とロドルゴが敵を引き付ける。ケイランは遊撃だ」
「わかったどん」
「いいでしょう」
「ああ」
地面から現れたジャイアントなサンドワームは11階層にいたサンドワームよりも10倍くらい大きかった。地面より上にもたげた頭の部分だけで5メートルはある。地中での長さを入れるといったいどれほどの長さなのだろう。
その巨体が砂をまきあげ、地中を移動しこちらを的確に攻撃してくるのだ。
「逃げろ!安全なのは岩のあるところだけだ!」
ボスが現れたとたんに魔王スキルを放つ作戦は失敗していた。
攻撃が当たりはしたのだが、胴の一部に穴をあけただけになってしまった。いや、ダメージ自体はかなりあたえたはずだ。だが、手負いとなったジャイアントサンドワームは怒りで近づくものを薙ぎ払い始めた。砂埃と振動で地面がかきまわされ、足がとられて移動がままならなくなる。
近寄れず、砂埃で狙いを定められず、魔王専用魔術を持つ二人も攻撃を躊躇してしまう。
状況はよくなかった。
動けないままロドルゴが砂に足を取られて引きずられてゆく。流砂だ。
「ドダイデン!」
「どーんっ」
「ドダイデーン!」
「どーーんっ!」
ケイランのとっさのスキルで沈みきる前に拾い上げられたが、こうなると砂の上は危ない。岩の上につかまっているしかできなくなり、攻撃手段がほとんどなくなる。
「くそっ、魔術で倒しきれるか?」
「ムリだガードナー。仕切り直そう!」
「だが、時間が…!それにまだ二人の魔術があるだろう!」
「オレ様たちの魔術で倒しきれる保証がねえぜっ!このボスは遠距離攻撃の手数を用意しねえとたおせねえ感じだぞ!」
自分たちは魔術はそれほどである。
唯一魔術型のゼルフィスも砂が目に入ったのかしきりに顔をこすっている。
「っ、わかった。撤退だ!みなのもの遅れずについてこい!」
声かけにさっさとロドルゴを担いで空中を駆けだしたケイランの後を追いかけ、最後尾で走り出す。
「知れてしまえばどうということはない。次は我が勝たせてもらうぞ」
そう嘯いて逃げ出す魔王パーティーであった。
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「今日の食堂人少なかったなぁ」
寮の一階にある食堂で夕食を食べてきたグーグは、なんとなくいつもより生徒の数が少ないことを肌で感じていた。
「…まぁ、誰か外に食べに行ってるのかもしれないね」
寮の食堂は夜は注文制であり、食堂を使わないのなら外に食べに行くこともできる。
ただ、外は寮よりも金額が高いのでグーグはほとんど利用していなかったが。
「よし、じゃぁつららの防具をつくろうか!」
つららを召喚しておおよそのサイズをノートに書きだす。
「高さ?が手のひらより少し大きいくらい。横幅?がこぶしより小さいくらい、と…よし。とりあえず素材の量を少なくしたまま胴鎧を《鍛冶》してみよう」
《鍛冶》で使える素材はマジックバッグに入れてある。今持っているのは「粘土・石・草・根・木」だ。
「つらら、木でいい?」
「―」
ふわふわと浮かびつつグーグのやることを見ている。素材を机に並べてみたが好みはないようなのでその中から木材を手に取る。
「よし、じゃあ量はこれくらいで……《鍛冶》胴鎧!」
<鍛冶:木⇒胴鎧>
手に持った木材がパアァと光り、形を変える。
「おお……お?」
できたのはなんかの木の板だった。
「…………ええと…胴鎧の、一部かな?」
肩部分の一部かな?という部品だった。
昔、手袋を作った時も一組ではなく片手分だったし、分量が足りない場合はサイズで調整されず、作れる部分のみの作成になるようだった。
「うーん…小さい防具を直接作るってことはできないか。なら今度は図の通りにできるかかな」
”胴鎧”というのがいったいどこを参照して作られているのかわからないが、例えばぼくやぼくの種族の平均サイズを参照して作られていた場合、「胴鎧」で入力しても出てくる出力に変化はないだろう。
けれどそれなら「胴鎧」のところを変えるしかない。
平均の存在しないものを作る。
新しい鎧を生み出してしまえ、ということである。
「デザイン難しいなぁ…。ぼくに絵心は…あまりないけど、うん。とりあえずこれでいいか」
できたラフ画に「小人鎧」と書き込む。絵はだいぶ下手だが、大丈夫だ。ぼくの頭の中にはしっかりとしたイメージが存在している。
再び木片を片手に集中する。
「よし。じゃぁやるぞ…《鍛冶》小人鎧!」
<鍛冶:木⇒鎧>
「あ」
木片が光始めると同時に失敗がわかる。
できたのは再びよくわからないパーツだった。
「………………」
小人鎧は存在せず、鎧として出力されてしまった。
「鎧」カテゴリーの平均に、平らに均されてしまったらしい。
「ま、まぁ、そうなるよね。これがうまくいくなんて思ってなかったし」
「―」
そんなに単純であればぼくに《鍛冶》を教えてくれた隣家の叔父さんだって苦労していなかっただろう。
彼は言っていた。スキルでできるのは平均的なものなので、細部は自分の手でしあげるのだと。
オリジナリティーにかかわる部分はすべて手作業なのだろう。
「となると、つららの鎧も一品ものかなぁ…スキルで壊れることを考えると絶対に量産できるようにしておきたいんだけどなぁ」
つららはスキルで硬くなるたびに防具のカウントが減り、それが6度目になると壊れてしまうのである。
たった6度しか使えない防具。なので壊れてもいいように代用品を複数そろえられるようにしておきたかった。
「うーん……、まぁいいや。ひとまずは鎧をなんとか作ってみよう」
量産はあとにまわすことにして、スキルの性能確認と、あとは実際に着てどれくらい動けるのかの確認をしようと切り替えていく。
重さは大事だ。
『属性』の『飛ぶ』では実際に飛べず、少し体重を軽くするくらいしかできなかった。なのでつららの<浮遊>も同じ可能性がある。
重さによっては浮遊できなくなるかもしれない。
一応スキル説明で
「装備を/10軽くすることができる」
とはあるのだが、軽くなっても飛べなくては意味がない。なので本作成する前に試しておかなければならないのだ。
そしてスキルの準備時間が終わったころに次の実験を再開した。
「まずは装備できるものを…《鍛冶》酒瓶!」
木材で酒の瓶を作る。先だけ細く、あとは太い円柱の形をしたものだ。
「違うなぁ…次はコップを作ってみるか」
そうして《鍛冶》でモノを作りつつ、準備時間待ちの間に鎧のデザインを描きながら過ごすこと幾度目か、ようやくそれっぽい形のモノができてきた。
「花瓶。よいね。上が広くて下が細い。これならさかさまにして鎧と言いはれなくもないかな」
木の花瓶をさかさまにするとワンピースのスカートみたいなシルエットになる。これにノミと鉄鎚で底面に穴をあけ、つららにはかせてみた。
「……うん。装備はできてるね。スカート部分が長いけど…。まぁ一応これでためそうか」
ひとまずつららに飛んでいてもらうことにした。
花瓶の底に頭を突っ込んだ状態でもふよふよと浮いている。堕ちる様子も重そうな感じもしない。あれできちんと装備としてスキルの軽減を受けられているらしい。
「成功か。つらら脱いで。花瓶の重さは…5キロか。つららより重いのに装備できてたね。後で石で同じのを作って試してみようか」
今日はもう寝る時間になってきたので終了である。
《鍛冶》でいろいろやろうとするとどうしてもスキルの準備時間のせいで時間がかかってしまう。…なるほど、鍛冶師はその間の余暇を使って装備に手をくわえるのだろう。
なら自分もやってみようか。
デザインだけの画をお蔵入りにするのはもったいない。どうせなら一品だけでもつらら用のかっこいい装備を作ってみたかった。
「時間があるときにやっていこう」
もうしばらくすると学期末試験が始まる。
たぶん来週には試験範囲が知らされるだろう。《鍛冶》の合間に勉強したり鉄鎚で成形したりすればいい。
なにせ今のつららなら使役のテストは合格することに間違いはないのだから。




