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魚っぽい。


何も予定のない放課後。

グーグは砂漠地帯でも使える布を探して中央通りの露天商を見て回っていた。


「とりあえずマント系で…帽子やフードも検討しないとなー」

布製品を扱った露店を見つけて寄っていくと、ちょうどほしかったようなフード付きのマントが売っていた。

「えぃらっしゃーい。買ってってくだすわーい」

やる気のなさそうなニーチャンを横目にマントを広げる。


『水耐性 火耐性 保冷  5000G』


まさに欲しかった<保冷>付きのマントである。水属性も付いてて冷たさも十分…いや、火属性が付いているせいで水属性の効果がなくなってしまっている。属性耐性が二つということはダンジョン産のものだろう。耐性装備としてはいいのだろうが、ぼくが欲しいのは熱い場所でも涼しい装備である。火属性耐性さえなければと思ってしまう。

そしてダンジョン産だからか、やはり高い。女子の人数を考えるとこれを14着もそろえるというのは難しいだろうと思う。

女子パーティーはこの間痛い目を見て装備をそろえなおすことになっていた。なのでおそらくふところはさびしいはず。


「うーん…だったら普通のマントに<保冷>を付けるか…」

ちょうど横になにもついていないフードのないマントがある。


『茶マント 500G』

『小さいマント 300G』

『ダンジョンマント 500G』


安い。大人用が500G,子供用が300Gだ。今のぼくらなら子供用で十分に足りるだろう。


「このダンジョンマントってなんだろ…?、すいませーん」

ぼくは店員に声をかけると、やる気のなさそうなニーチャンが生返事しつつやってきた。

「なんっすかー?。あー、昨日の子供じゃないっすかー」

よくよく見ると昨日5階層でレア種を横から搔っ攫っていった弓持ち冒険者の一人だった。

「あ…昨日の…」

「おっす。何?、マント欲しいの。弓じゃないんだ」

「…弓、使えないですから」

ニーチャンはどうでもよさそうにふーんと生返事している。ぼくらからすれば初めてのレア種競争の洗礼だったが、彼らからすれば毎日起こることの一幕でしかないのだろう。

それはそれ、これはこれと区別がつけられているのだ。

「で、何か聞きたいっすか?」

「あ、はい。…このダンジョンマントってダンジョン産の何もついてないマントなんですか?」

付与がないマント。ただ、ガラが奇抜…おしゃれでかわいい感じのマントだった。ちょっとマジカルな模様が入っているくらいである。

「それ?、5階層のやつだよ。まだ拾ったことないんか。『マジカルケープ』ってやつ。ゴブリン系の魔術師が落とすよ。何も能力がない、ネタ装備の一つだね」


伊達メガネや気合ハチマキと同じ枠の装備だった。あれはユベル君に鑑定してもらったところ、+1の効果のある装備だったが。

でもノーラからもらったアイテム類の中には入っていなかった。きっとドロップしても女子が持って行ってしまっているのだろう。

「ネタ装備…」

「そ。ネタ装備って壊れにくいことだけがとりえだかんな。まぁ、男子が着るには難しいんでマントと同じ値段だけど。何?、着るの?お前男だよな?」

男だが。女子に間違われるほどかわいい顔をしているつもりはない。

同年代の男子と比べるとちょっと背が低いくらいである。

「まー、ケープだけどお前が着るならマントって言えなくもないし、いいんじゃね?。色を地味系に染めるとかすれば着れるぞ」

今の色はあせたピンクと濃い赤茶のような色だ。女子ならこのままでも着られるのだろうけれど、ぼくが着るにはかわいすぎた。

「これって『保冷』を付与したりできますよね?」

「できるねー。夏用かー」

「いえ、砂漠用に」

そういうとニーチャンは少し首をかしげた。

「んん?、まさかお前、11階層用ってことか?。チッ、生意気言ってんじゃねーぞ。まずは装備をそろえてからもぐりやがれ」

確かに5階層にきたばかりに見えるぼくらがその先の階層用の装備を買いに来たとなれば言いたくもなるだろう。けれど装備自体はほとんどそろっている。もらった黒鉄で防具は完成しているのだ。

「自分用じゃないですよ。クラスメイト用です」

「はーん。そういや最近5層からいなくなったガキどもがいたな…あいつらの誰かか。色気好きやがって。ぺっ」

…ガラが悪いな。

「つーか、砂漠用なら保冷だけじゃ足らないだろ。風系のアミュレットも併用するといいぞ」

「風系?、『保冷』だけじゃ足らないんですか」

ニーチャンは一番初めに見ていた『保冷』のついたマントをぼくにはおらせてきた。

すずしい。

今の季節には少し肌寒く感じるが、真夏ならきっとちょうどいいくらいだろう。でも砂漠では?…もしかすると足らないかもしれなかった。

「もういくつか対策しないと15階層に到達なんてできやしないって。10階層から15階層まで行ってまた10階層に戻ってくるって考えりゃどんだけ大変か想像つくだろ?。5階層ごとにゲートがありゃいいんだけどな。不便だよなー」

ぼくらの目的は15階層ではない。ダンジョンの完全攻略である。

『保冷』だけである程度はなんとかなるかと思っていたが甘かったらしい。確かに砂漠マップを10階層分も戦闘しながら移動するのだ。それも子供の体力で。そうなると暑さを完全に対策しなくてはいけないかもしれなかった。


「うーん…これはどうにかしないとまずそうだぞ」

「なーにまじになってんの。お前らはまだ子供なんだから、ちんたら装備整えりゃいいだろ。夏が終わったころには保冷付きの装備とか露店に並びだすからそれまで待って買うのが賢いんだぜ」

「なるほど」

このニーチャンは冒険者歴が長いのか、なかなかにくわしい様子だった。

けれどたぶん夏が終わるまで待っているような彼女たちではないだろう。ならそれだけダンジョンでの危険度が上がる。それはクラスメイトとしては少し嫌だった。


「急ぐなら買ってくか?。おれにはそっちのがうれしいけどね。まだまだ装備がたんねーもん」

マジカルケープは欲しい装備を狙っている間にドロップしたいらないアイテムらしい。

「…おにいさんは何を狙ってるんですか?」

「今は鉄の胴鎧と籠手だな。ソルジャーとスナイパーから出るんだけど三分の一なんだよ。だから出やしねー」

鉄装備か。ふむ。

「あの、それならぼくが用意できるかもしれません。だからちょっと取引しませんか?」

「ん?」

「《鍛冶》のスキルで装備を作れるかもってことです」





家に帰ってきたぼくのマジックバッグの中には数着のマジカルケープと大量の海産物が入っていた。

「よし、やってみよう!」

とりあえず取り出したのはいつもの小石。そして生魚である。

「あ、つららはそこで練習しててね」

つららをいつものように魔素ポーションのコップに入れつつ、鉄鎚を取り出して魚をたたいた。


カチコン


「《保存》できたのは『魚っぽい』か…ゴミ」

小石に付与する。と、ちょっと魚臭い小石が出来上がる。あとで川に捨ててこよう。川は偉大である。いつか足を向けて寝られなくなるかもしれない。

ともあれ。

目的は『冷たい』なんかがつくとうれしいのだが、魚で付くだろうか。冬の時期なら別のもので試せるのだが、この時期に手に入れられるものだとこれくらいしか思いつかなかった。

作業は続く。

魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚 エビエビエビエビ 蛸蛸蛸蛸 烏賊烏賊烏賊 ワカメ 貝貝貝貝貝貝貝


「むう…ないな…」

だいぶ食材を消費してしまった。《保存》に使ったモノはパッサパサになったりしおしおになったりへにゃへにゃになって食材として使えなくなってしまっている。

が、これまでのものは単価が安いものばかりだ。これからが問題になる。


ブルークラブ 『水っぽい』『硬い』

プラチナシェル 『硬い』

ディープブラッドシェル 『硬い』『赤の』

大アロワナ 『魚っぽい』

アンモナ 『硬い』

ピクシーティア 『美しい』

モササウラ 『魚っぽい』

グレイホエール 『魚っぽい』


「うわぁ、期待した鯨肉でもだめだった!あああお金、お金が!」

ぼくは床にバタンと倒れる。

今日だけで1万G(10万円相当)の出費である。

それだけのことをして失敗というのはなかなか精神に堪えることだった。

「あー…………。あー…」

『魚っぽい』って何だよ。悪口かな。嫌いな友達に付与するための属性だろうな。『虫っぽい』とあわせて嫌がらせができるね。

唯一売り物になりそうなのは『美しい』か。これは『かわいい』と同レベルの付与だと思う。

ただ、単価が高いピクシーティアという海の妖精の異名で知られる生き物を使わないといけないので、モルラビを集めてくるのとは違う大変さがあるが。


「あー…うーん。……『水っぽい』がある意味一番近いかな」

付与した小石が水っぽくなる。一応ひんやりとはするのでこれが一番目的のモノに近かったことになる。

カニ。

魚系はのきなみ『魚っぽい』が付くので今後も期待できないだろう。貝、もしくは蟹等なら何か面白いものが付くかもしれない。


「まー、これ以上はアメリアに相談かなぁ。アメリアならコウラル国の魚介類も輸入してくれるかもしれないし…」

せっかく露店のニーチャンと交渉でもらったマジカルケープも使い道がない。

『冷たい』とか保存できたらつけようと思っていたのだが、いつ出番があるやら。

代わりにあのニーチャンには黒鉄から作った装備をわたしておいた。黒鉄も彼らの持ち出しなので実質タダでケープをもらったことになる。

「ケープ分はウハウハだけど…はあぁ…」

レア種狩りのライバルかと思っていた相手はぼくの取引相手になった。彼らは今後も交渉によってはアイテムを融通してくれると約束してくれたので、レア種狩りでばったり会ってもよい関係でいられるだろう。


「しっかし…これは師匠を怒れないぞ…」

貴重な素材をバカスカ錬金術で消費している師匠の気持ちがわかるというものだ。

今回のモノはほとんどが普通の水棲生物である。最近の検証から『属性』を保存するには普通の生物よりも魔物のほうが適していることがわかっていた。が、魔物の素材はもっと高い。なので食材などから買い集めたのだが、結局失敗してしまっていた。

「魔物かー…」

確か北のダンジョンの31階層からが水棲の魔物の住処だったはずだ。まだ20階層さえ行っていないのに31階層とか夢のまた夢だ。

「またダンジョン集団暴走スタンピードとか期待するしかないのかな…」

水階層にいるはずのアクアキマイラが出てきたのは記憶に新しい。今度は蟹とか貝とかの集団暴走スタンピードがおこってほしい。

まぁ本当はおこらないでほしいけど、ちょっとそう思ってしまう。


ぼくはそのまま床に大の字になって目をつぶった。

「…ぼくは死んだ」

本日の営業は終了です。

明日の気力にご期待ください。


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