5階層の戦闘です。
さて、二人の用事というのはどうやらぼくの《保存》と《付与》の値段交渉らしかった。
「素材持ち込みで目的の付与が付けられたら一律500G?」
「そうですわ」
素材から欲しい『属性』が出なかった時はぼくには得られるものがない。まぁ素材からどんな『属性』が保存出来るかの情報は得られるが。
持ち込んだ人にはがっくりくることになるが、まぁ失敗してさらにお金も、という方法だったら流石に無常すぎるのでこれでいいだろう。
「簡単に拾ってこられる石でも一律の値段ですわ。どうでしょうか?」
値段はかなりいい。ぼくは持ってきてもらった物に鉄鎚を振り下ろし、付与する物に一回振り下ろすだけの作業だ。労力に対する報酬としては破格だろう。
ただ、ぼくとしてはもう一つ方法を考えていたのだ。
どうせならぼく用にも素材がほしい。
だから持ち込み素材を二個にして片方だけ保存するようなことはできないかな、と考えていた。
ただしこれだと簡単に拾ってこれれる物は実質無料になってしまう。
石ころや鼻紙だ。ダンジョン産でもいらないアイテム類はほとんど無料みたいなことになる。
素材の高い物なら2個は意味があるが、そうでなければ悲しいことになる。
そう考えると金銭で一律というのが博打もなく良い案な気がする。
「んー、そうだね。それでいいと思う。とりあえず値段はそれで。あとは友人から頼まれた、とか転売対策かな。こういうのはアメリアにも手伝ってほしいから後で相談するよ。きまったら紙に記載してわたすね」
「えぇ。お願いしますわ」
値段交渉が期待通りに終わり、二人はほっとした様子だった。
ぼくは二人がどんなアイテムを持ち込むのか気になったのでちょっと聞いてみることにした。
「やっぱりみんな『かわいい』とか『硬い』が多いのかな」
「そうですわね。一人『かわいい』のが好きな子がいるので、彼女なんかはそればかりお願いするかもしれませんけど」
全身『かわいい』はどれほどの効果があるのか気になっていたので見てみたくはある。ただ『かわいい』は生きているモルラビからしか保存できないのでどれほど殺さなくてはいけないのかが気がかりだが。…ダンジョンへの出張費用とかも考えておいた方がいいかもしれない。
「砂漠地帯はどんな感じ?。どんなアイテムが拾えるの?」
北のダンジョンの11階層からは砂漠環境になる。15階でのレアドロップも新しいものがいっぱいなのだろう。
「まだ15階層には行けていませんわね。あぁ、そういえばドロップではないですが、逆に今までの装備が使えなくなりましたわね…」
「使えなく?」
「えぇ。ノーラさんの”鎧”何かがまったくダメですわ。ねぇ?」
「…はい、あそこは熱いので…黒鉄の鎧は…黒いし、重いし、鉄だし、風通しも悪いしで着ていられませんでした…」
「あー…」
重装備のノーラはまるでフライパンの上にいるような感じだろうか。装備一式が丸ごと役に立たなくなったということらしい。
「薄くて硬い装備が欲しいですね…」
5階層で毛皮装備もあるが、あれでも暑くて嫌になるらしい。できれば布でどうにかしたいというのが女子たちの切実な悩みだった。
「布かぁ…」
「グーグさんは布にも付与はできるのかしら?」
「ハンカチにもできたからそれはできるね。んーと、”魔”属性の付与で保冷機能を付けて…それから『硬い』を付ければ意外といいものが出来そうかな」
”魔”属性の付与は保温、保冷や消臭、病気予防なんかが付与することができる。フード付きのマントに保冷を付与すればマントの中はそこそこ快適だと思う。
ただ、マントを『硬い』にすると動きから滑らかさが無くなる。戦闘時には邪魔になるかもしれない。
「そうですわね。いくつか試してみましょう」
暑さ対策は必須の環境なのだ。
「そんなことがあったの?。できればわたしも呼んでほしかったわねっ」
ダンジョンの階層を移動中、今日あったことをアメリアに言ったら口をとがらせて言った。
「いいわ。細かいところはいくつか契約書から流用できそうね。鍛冶師と錬金術師の相場もみておくわ」
「ありがとうっ、たすかるよ」
持つべきものは良き友達である。
さて、そうこうするうちに5階層に到着した。
ダンジョンの外は雨だったが、中は晴れて天気もいい。
「ノーラがいなくても5階層にこれるようになったね」
「もらった素材で強くなれたのだからな。グーグ君みよ、この黒鉄の片手剣を。これをどう思う?」
「すごく黒鉄です」
セビは黒鉄の防具と剣を。ぼくも同じく防具と盾を作っている。短剣だけは以前作った『毒っぽい』鉄の短剣のままだが。あとは全員分の『幸運の』うさぎのしっぽがある。
アメリアの装備は更新されてないので少し不満そうだった。
「よしっ、今日こそレア種をみつけてたおすぞーっ」
セビとアメリアの声が応じ、5階層の戦いが始まったのだった。
「とおおぉぉぉっ!《風刃》!」
セビの強化ジャンプからの《風刃》がコボルトに叩きつけられる。
5階層から現れるコボルトは頭が犬、体が人の子供の形をした生き物だ。
ダンジョン内で初めての人型魔物との戦いだったが、セビはなぜか忌避感なく戦えている。
ぼくも人型…人族との戦いは慣れている部分もあり
「ぎゃあああっ!なぐられたっ、なぐられたよぉっ!師匠にもなぐられたことないのにっ!」
人型の敵に違和感しかなかった。
この2階層下の7階層からはゴブリンが出るので、人型の魔物に慣れる前段階としてコボルトがいるのだろうと言われているが…
しばらく時間が必要かもしれなかった。
「グーグ、バッシュ。バッシュだけしてなさいっ!」
「ひょべええっ。し、《盾打!」
バシンと敵をスタンさせれば火炎竜がドカンと火の玉焼却してくれる。
ぼくとベルフルーラは阿吽の呼吸で連携できるまでになっていた。
くそう。なんでセビは平気なんだろうか。いつもいっしょに騒いでいる仲間だと思ったのに。
コボルトは指の数は4本だが、人間のような形の手に石斧や棍棒を持っている。それが振り下ろされるのを盾でふせいでいるが、正直怖い。
石斧は当たり所が悪ければ普通に死ぬし、棍棒も体に振るわれれば青あざができるだろう。
これまでの動物、昆虫系の魔物とは違った戦いにくさがあった。
そうか、昔人族を相手にしていた時は”人間”という1種族にだけ慣れてしまえばよかったのを、魔物相手だとそれぞれに慣れなければいけなくなるわけか。
いや、昔でもダンジョンに潜っていた。
これは単純に魔法での遠距離戦闘か、武器を持った近距離戦闘かの違いかもしれない。
距離が近いとそれだけ敵の動きや表情が近くなる。
より生々しさが際立つのだ。
視線と息遣いで何を思っているか、ぼくをどうしたいのか見えてしまう。今までの魔物もそうだったが、こと人型というのはもっと難しいのだ。
モルラビであれば攻撃手段は体当たりか前歯での噛みつきくらいだった。なのでだいたい頭あたりに視線を向けていれば行動を予測することができた。
けれど人型は違う。牙が、腕が、足が、持った武器が、すべてが攻撃につかわれる。
もっと広い視野で攻撃を予測しなければいけない。
遠くで魔法を撃ってたころにはわからなかったが、近くでその全身に気をつけなきゃいけないというのはかなり難しいことだった。
まずぼくには無理だろう。
慣れるにしてもかなり時間がかかりそうだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、お、終わった…コボルト3匹でこんな大変なのか…。セビはどうして普通に戦ってるんだよ」
「ふぅ。ふふふ、鍛錬のたまものであるな」
「鍛錬?」
「こう見えても余は貴族であるからな。剣術なども習っているのだ」
「あー。対人戦の経験があるんだ?」
コボルトは人じゃないが戦い方はほとんど人と同じようなものか。剣術の訓練で動きになれているセビはぼくよりも早くコボルトに対処できるようになったらしい。
それによく考えれば狼系の魔物は1階層目に続いて二回目である。見慣れているのだ。
「ふふん、見直したかい?」
しないよー。
「まぁセビが使い物になるのはありがたいね。これでレア種を見つけるのもなんとかなりそうだけど…」
ただ、このパーティーには探索に向いた人員がいない。ノーラがいればキューレに探してきてもらえるのだけれど。
「地道に探すか…」
「グーグ、わたしに一案があるわっ」
アメリアがいい笑顔で言った。
「追いかけっこしてる集団を探せばいいのよ!」
それはすでに他のパーティーがレア種を見つけている状況です。
混ざって奪い合えというのか。
「どうせそのうち走り疲れるのだから、わたしたちが先にレア種と戦えるわ!」
……案外悪くないかもしれない。
明確なルールではないが、先に戦闘に入ったパーティーにレア種の優先権がある。みつけてもらってこちらが先に戦闘できればその権利はぼくたちということになるのだ。
ただ、今までこの階層でレア種を探しているパーティーはそんなこと経験済みだろうということで、先取り戦法は裏をかかれるだけになりそうな予感もするのだ。
「初めの一回くらいはうまくいくかもだけどさ、すぐに対策されると思うんだ」
「……そうね。それに潔くないわね」
アメリアは狡いやり方は好みではないらしく、すぐに自分の案を取り下げた。
そうなると本当に地道に探すしかなくなる。
ぼくらはあきらめて5階層を歩き始めた。




