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手紙で呼び出されます。


登校日の朝、下駄箱を開けたグーグの目に、白い封筒が目に留まる。

「あれ?これって…」

ラブレターである。


人目を気にしながらこそっと封筒をバッグにいれ、人気のないところに移動する。そして誰も見ていないことを確認した後、ゆっくりとその封筒を開いた。


『グーグ様。お願いしたいことがあるのでお昼休みに少し時間をいただけますか?第二校舎の裏で待っています。 ブラナノーラ』


「…………」

きてしまった。

ラブレターかと思ったらどうやら呼び出しの手紙らしい。だがこの先の展開は知っている。

告白タイムである。

そうか、とグーグはすべて了解した顔で手紙を封筒にもどした。

ぼくはどうやら女子に告白されるらしい。

人生初告白である。

いや、アメリアからされている気がするのだが、なんかアメリアからもらうのとは違う気もする。アメリアからはいつの間にか行為を寄せられていてわけがわからなかったが、ノーラからはきちんと彼女につくした感があった。

納得のいく展開なのでアメリアほどあたふたしていない。

こうして事前にそれとなく匂わせてくれるおかげで心も定まる気がする。




グーグは何食わぬ顔で教室の扉を開ける。

すでに登校していたノーラと目が合ったので小さく目礼を送ると手を振り返してくれた。

たったそれだけのことにグーグはドキドキした。

(すごい、彼女がぼくの彼女に…!?)

すでにグーグはテンパっている。

もし恋人に、と言われてもアメリアの時のように断るつもりだったが、それはそれ。もし恋人になったら、という想像はどうしても頭の中に思い描いてしまう。

頭が沸騰しそうなほど高速回転し、妄想の中ではすでに子供が二人産まれていた。


「おい、グーグ入り口で止まるな。前にいけ」

後ろから誰かに背中を押され、ようやく自分の席に歩く。

アメリアに挨拶をされて席についても挨拶を返したのか思い出せないくらい様子がおかしかった。

(お、おちつこう…ひっひっふーひっひっふー)

だいぶ落ち着いた気がした。




昼まではすぐだった。

途中に受けた授業はすべて頭から抜け落ちている。

約束の時間は食後なのでとりあえず昼食をとろうと席を立ちあがる。


「やぁやぁ、君たちがウワサの魔王クラスだよな。ちっとアタイに時間割いてもらっていいかね」

教室の入り口から現れたその少女は、そう言いながら教卓の前に陣取った。

青色の髪の少女だ。釣り目がちな細面な顔で整ってはいるのだが、どうにも近寄りがたい雰囲気がある。制服を着用していないし、あきらかに部外者だ。

「魔王クラス?」

聞きなれない呼び名にザワザワとクラスに残った生徒たちが騒いでいる。


「ここは元魔王の巣窟だ!。魔王に与し、魔王に従う者が多いときいてるよっ、だが許してやるっ。貴様らがこの領に、ひいてはこの国に従うのなら魔王として討伐されることはない。それはアタイが保証してやるぜっ!」

この娘は何を言い出すんだと目を丸くしている。

保障もなにも、彼女がそれほど偉いのだろうか。イズワルド王国の高位貴族なのかとセビに視線を向けるが彼も目をパチクリとしていた。


「アタイはジザベルっ。ジザベル・R・グラハイム。勇者候補の一人だよ。この学園にはあんたらのお目付け役として来たんだっ。もし不心得な企てをしたなら、アタイがあんたらを斬って捨てることになる。死にたくなければアタイと国には逆らわないことだぜっ!」


「……ゆ…」

「ゆうしゃ……」

「またか。前のはどうしたんだ」

「男の人だったよね?」

「そういや見なくなったなぁ」


一部顔色を青くしている生徒がいるが、それ以外の生徒は以前にクラスにきた男子学生はどうしたのかとコソコソ話している。

流石に二度目となると慣れたのか、彼女に怯えるような生徒は多くはなかった。


「……チッ。いいや。そういやここに鍛冶能力のある奴がいるんだってな。そいつはどいつだ?」

「え、さ、さぁ」

ジザベルに捕まった男子生徒は首を振って答える。

次にジザベルが捕まえたのは女子生徒だ。彼女は鍛冶能力を持つ生徒は知らない。けれど、それっぽい道具を持って錬金術を使う生徒は知っていた。

「え、ええと…グーグ君、かな?」

「おうっ、グーグってのはどいつだ?」

教室を振り返るがいない。もう昼食を食べに出て行ってしまったのだろう。

「学食、かな」

「チッ、ああったよ。教えてくれてサンキューな」

わりと律儀にお礼を言ってくれる勇者候補は、すぐ教室から出て行った。

「……何だったのかしら…」

「たびたびおこるわね…」


グーグは隠れた机の下からちょっとだけ顔をのぞかせながら、何でぼくを探すんだろう、と冷や汗をかいていた。





こそこそと食堂近くまで移動したグーグは目立つ青色の髪を見て建物内に入るのを断念した。

(いや、ぼくの顔を知らないだろうから、入っても平気なはず…!)

そうは思っても面倒ごとに寄るのは嫌なので、コソコソと食堂を離れ、外のパンの販売に並んだ。

パンを購入して空きのベンチを探す。

(いや、人目に付かない所の方がいいかな……って!?)

学食の入り口で特徴的な3人組と青髪の勇者候補が話している場面を目撃する。

その3人組はおびえながらぼくの方を指さしていた。

「あ、あの3人~っ」

チビとデブとノッポめ!

まぁ実際ぼくも怖い人にぼくの行先を聞かれたら素直に話すと思う。

結果、ずんずんとこちらに歩いてくる勇者候補から目を背け、早足で逃げることを選択したのだった。


あ、追いかけてくる。

早足が駆け足になり、間もなく全力ダッシュに変わる。

「おいっ、なんで逃げるっ!」

「知らないよぉ!なんで追いかけてくるのっ!?」


ダン!


と校舎の壁際に追い詰められてしまったぼくは、逃げられないように腕でとうせんぼされてしまった。


「キシシシシ、逃げるやつぁだーい好きだぜ。さぁて煮てやろうか喰ってやろうか」

「べべべべべべつに逃げてないしっ、食前の運動してただけだしっ!」

「ウソつけ!全力だったじゃねえかっ!。おい、さっさと吐けっ、何で逃げたんだよっ」

ぼくを逃げられないように閉じ込めながら、膝でけりを入れてくる。完全にいじめっこのそれだった。

「て、いて、なんでもっ、ないっ、ないからっ」

「おら吐け。おら。おら」

これはもう辛抱たまらん!となったとき、声が響いた。


「あなたっ、何をしているの!おやめなさいっ!」


歩道の方から声が響く。

二つの人影がぼくらの方へとカツカツとかかとを高鳴らせながらやってきた。

金色の長い髪が波のように広がり、高飛車な目を向けながら腕を組んで胸を張っている。

居丈高な少女。

見覚えがある。クラスメイトだ。女子パーティーにいたことは覚えているんだけど、名前が出てこない。

その隣、彼女の背中に隠れるようにこっそりとブラナノーラもいた。


「はん?アタイに何か用かい。こっちは彼氏とお取込み中だぜ」

「あなたなどお呼びではないですわ。グーグさんとの約束はこちらが先約です。彼を放しなさい」

「へぇ?そいつは初耳だ。本当かい?」

聞かれてもな、と迷っているとノーラがブンブン首を縦に振ってアピールしている。

そういうことか、と了解してぼくも首を縦に振った。

「そ、そうだよ。朝に手紙をもらって呼ばれてたんだっ。だから、ぼく行っていいかなっ!」

いいよね!と無理やり断って青髪の少女の腕から抜け出す。


「あ、おい。…チッ、しゃーねー。また今度にすっか。おいグーグさんとやら。次ぃ逃げたらローだかんな、ロー。わかったなっ」

キシシ、と気色悪く笑いながらその勇者候補は去っていった。

固執されなくてよかった。どんな用だったのかわからないが、”魔王”に関することであれば非常に困る。

魔王かどうか聞かれてもぼくには答えられず、彼女にいいように嬲られてしまっただろう。


「ふぅ…な、なんだったんだろう」

「よ、よかった。グーグ君、無事ですか?蹴られてたみたいに見えましたよ」

「うん。そんな痛くなかった。軽く蹴ってたみたいだから。でもありがとう、ノーラがきてくれて助かったよ」

「いえ、わたしは…ユメちゃんの後ろにいただけだから…」

ユメちゃんというのが高飛車少女の名前らしい。

「ユメちゃん?もありがとう」

「なぜ疑問系ですの?。ユメリア・クロウリーですわ。グーグさんは女子と何かしらの縁が結ばれやすいのかしらね」

「そうですね…勇者候補と知り合いとかなんですか?」

「そんなことはないよ。初めて見る人。なんでぼくを追いかけてきたのかさっぱりわからないよ」

あの様子ではまた別の機会に追いかけられそうだった。

その時はできるかぎり一人で話さないようにしたいが。


「まぁいいですわ。それより呼び出した件です」

ユメリアが腕を組んだまま、ぼくに体を向ける。

おそらく貴族なのだろう、尊大な態度だが、悲しいかな胸を張っても腕を組んでも持ち上がる胸部装甲はなかった。

なのでぼくとしてはノーラの方に気が向いてしまっていた。

「う、うん。ノーラが呼び出したんだよね?、手紙、読んだよ」

「あ、はい」

「ど、どんな用なのかな?」

ついもじもじしてしまう。しかたないよね。男子だもの。ラブレターなど人生で初めてのものだったのだから。

「ちょっと。あの手紙はわたくしの用事のために呼び出したんですわっ」

「……あ、はい。そうですか」

ノーラがぼくに出したのではなく、ユメリアがノーラにぼく宛に出させたということなのか。

なるほど。ではユメリアから告白があるのだろうか。

「ええと…じゃあユメリアさんがぼくに告白を?」

「告白?何を言ってるんですのっ!あ、あれはそういう類のための手紙ではありませんわよっ!用事っ、ただの用事ですわっ!」

「え、告白ないの?」

「ないわよっ!なにっ、彼女ほしいのかしらっ!?」

「いや、いらないけど」

流石に空気が変わるほどの怒気を向けられれば失言だったことに気が付く。

「あわわ、そうじゃなくって、そ、そう。二人みたいな女の子に告白されたらうれしいかなって!、でもぼく子供だから彼女とかわからないしっ!」

「あらそう」

「へー」

効果はなかった。

その後も二人の機嫌をとることになったのだった。


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