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職業スキルです。


グーグはほくほくだった。

黒光りする手甲に具足。それに左手の小盾も一新できた。

それもこれもノーラが部屋の取っておいてくれたいらない物のおかげだった。

レア種の鎧ムカデが落とすドロップ素材――『黒鉄』。

それは鉄の塊でドロップされ、本来鍛冶でいろいろなものに作り変えられるためのアイテムだったのだが、重く、鍛冶屋での取り扱いを拒否されているアイテムだった。

だからノーラの部屋に置かれていらないものにされていたのだ。

しかし《鍛冶》スキルのあるグーグになら、それは簡単に防具に作り変えられる。

そうしてノーラの装備を作り終えた後、残った素材を使って自分とセビの装備も作り直していたのだ。


「ただっていいわー♪」

自分の部屋で装備しながら、そのテカリ具合を見てニマニマしていた。

《鍛冶》スキルで作れる物は普通の品質のもの。それでもこの光り方は十分に自分を満足させられる物だった。

「やー、《鍛冶》あって良かったなぁ」

職業スキルである《鍛冶》はスキルを使わないでも育つ。鉄鎚を振り下ろすだけでちょっとずつだが練度が増えていく。

最近石ころやら何やらカチコンカチコンしていたのでそれなりに育ってきていた。

これならもう少し気合をいれて育ててもいいのではないかと思っている。


「でも鍛冶屋が黒鉄を扱わないだなんて…知らなかったなぁ。おかげでぼくが好きな物作れたんだけどもさ」

街の鍛冶屋はランクの低い冒険者からの製造依頼を受けていない。

これにはきちんと理由がある。

迷宮都市であるここには冒険者が多数やってきている。そこで低ランクの冒険者からの依頼を受けてしまうと中、高ランクの冒険者の依頼を滞らせることになってしまう。

ただでさえ人数の多い低ランクは、その成長速度の高さもあって装備の更新頻度が高い。

早い話、皮装備だったはずの冒険者が2週間後には鉄装備になり、さらに一か月後にはもう銀装備になっていることだってありえるのだ。

そんな速度で更新される装備をいちいちオーダーメイドで作ってなんかいられない。

だから低ランクの装備は断られているのである。


装備として使われないから素材の「黒鉄」も買い取ってもらえない。

ノーラの部屋の片隅でほこりをかぶっていたのであった。


「他にもいっぱいもらったし、何か作れないかなぁ」

ノーラの部屋でほこりをかぶっていた品々は、今はグーグのマジックバッグの中につっこまれていた。

空き容量があるからできる雑なやりかただが、まぁいつか役に立つのではないかと期待している。

お品書きとしてはこんな所だった。



ヒュージスライムから 『ジェル』

幸せウサギから 『うさぎのしっぽ』

グレイウルフ、コボルト先生から 『狼の牙』、『毛皮の腰当』

ポイズンスネークから 『ヘビのぬけがら』、『毒の牙』

アイアンビーから 『針』

飛び大蛙から 『ガマの油』、『巻物』

鎧ムカデから 『黒鉄』

あとは宝箱から出た 『気合ハチマキ』と『伊達メガネ』だ。



いるもの、売れる物を抜いた残り品がまるっとマジックバッグに入れられている。

「毒の牙から『毒の』が、ガマの油から『治るっぽい』が保存できたから、何かできそうではあるけどー…他はなんだろうな。ぬけがらとか巻物は何に使うんだろうか」

ジェルやヘビのぬけがらは薬の素材かもしれない。巻物は紙の代わりにはなる。もしかするとダンジョンができた当時は紙が貴重だったのかもしれない。

ジェルは柔らかいため《保存》で保存することができず、ヘビのぬけがらからは『柔らかい』しか保存できなかった。

巻物は『白紙の』と『薄い』だ。『薄い』は普通の紙からも保存できる。

装備品類からはめぼしいものが保存できなかったし、ハチマキとメガネは聞くところによるとどうもネタ装備らしい。もらった物以外にもネタ装備はあるそうだ。


「もらったと言えばアメリアからもらった『火炎竜のウロコ』もあったなぁ」

ウロコを見ると思い出すこともあるが、今は考えないことにしよう。少しほおが熱くなるのを感じる。うん。考えない考えない。

保存できたのは


『火属性 中』 『硬い』 『焔』


初めて入手した属性の付いている素材だった。

属性石以外でも属性を保存できたことにうれしい反面、どう使っていいか迷うアイテムである。

下手に武器に付与すると火事になりかねない。もし武器につけるなら耐性のある鞘といっしょに扱わなくてはいけないだろう。

武器に付ければ火属性の攻撃ができる武器になり、防具に付ければ火属性の耐性が付いた防具になる。


『焔』は『跳ぶ』なんかと同じ、魔素を流すことで発動する効果のあるものだ。

火炎竜がブレスとしてではなく、体の周りにボウ、と火炎を放出する技を非常にマイルドにうすめた効果と同じものだ。

魔道具に付ければ着火用の魔道具が作れそうではある。

ただ、ウロコを使ってまでただ火を着ける魔道具を作るかと言うとそんなことはない。着火用に作るにしてももっと他の素材で作れるだろうし、わざわざ高価なウロコを使うものではない。

なので、今の所もったいなくて使えていないアイテムだった。


「まぁ、いつか何か作ろうとは思うけどね…」

アイテムがいっぱいで何をどう使うのか、うれしい悩みであった。









次の日の”使役”の授業でぼくたちは使い魔によるお使いクエストという授業をやらされていた。

使い魔にどれほど命令を理解させられるかという課題である。

早々にリタイアしたぼくは同じくやることのないセビを連れてベルフルーラの後を尾行しているアメリアに合流していた。


「女子パーティーが10階層を攻略したってね。朝一でノーラが教えてくれたよ」

「知ってるわ。今日はみんな浮足立ってるもの」

先日に比べて女子たちの様子が明るい。

みんな10階層を抜けられた喜びで暗雲が晴れたようなテンションになっていた。

「しかしこれでノーラ君ともお別れであるな。良い娘だったのにさみしくなるぞ」

「まぁしかたないよ。なんかノーラ、大活躍だったらしいもん。こっちも手伝ってくれるって話だったけど、しばらくは女子パーティーと新しい階層の探索で忙しくなると思うよ」

11階層からは砂漠環境らしく、新しい気候、新しい魔物に慣れるための探索でしばらくパーティーを抜けられないと言われている。

こればかりは自分のパーティーを優先してもらうしかなく、仕方がないと思う。


「ノーラは活躍できたのね。まぁ、グーグがあれだけ世話してやったんだもの、当然よね!」

人にやらせた張本人が得意げにそう言う。

まぁついででぼくもスキルを覚えられたのでいいのだが。

ノーラを女子パーティー用に合わせて改造するついでに、ぼくもいっしょにスキルを習いに行ったのだ。


それは”戦士スキル”というスキルだ。

近年になって増えたこのスキルは、「冒険者」という職業における職業スキルである。

冒険者の職業はいくつかにわかれる。


採集者

戦士

魔術師

狩人


ぼくとノーラが就いたのは「戦士」の職業である。戦士職は筋力が上がり魔力が下がる。剣や斧、槍なんかが得意になる。

そしてそれぞれレベルがあがるごとに職業スキルを覚えていく。

戦士Lv1だと《攻撃準備》か《防御準備》が覚えられる。ぼくは《攻撃準備》を選んだが、ノーラは《防御準備》を覚えていた。

冒険者の職業スキルの面白いところは、これらのスキルがパーティー内の全員にかかるという所だ。

《攻撃準備》なら攻撃力が、《防御準備》なら防御力が、パーティーとそれに類する者たちに付与される。効果量自体は少ないのだが、女子パーティーのように女子とその使い魔と言う大人数パーティーにならかなりの効果をあげられるだろう。


「職業スキルなんてめずらしいものがあったのね…わたしも何か覚えた方がいいかしら?」

「アメリアは商人になるんでしょ?、職業スキルは他の職業の成長を阻害することがあるかもしれないって聞くから、やめた方がいいと思うよ。二職は身につかないってね」

「なによ、グーグはいっぱい覚えてるじゃないっ」

たしかに。普通はそれほど多くの職業に就くことはあまりできないはずだが、器用貧乏なのか色々職業スキルを身に付けられていた。


鍛冶《鍛冶Lv3》

裁縫《裁縫Lv1》

家事《料理Lv3》

家事《清掃Lv4》

戦士《戦士Lv1》


Lv3か4あれば下っ端職人レベルだと言われているので…まぁくいっぱぐれることはなさそうである。

Lv5でまっとうな職人相当だ。


たぶんだが、若さゆえの物覚えの良さと柔軟性のおかげだと思う。

ただ、やはり他人にすすめられるかは微妙なところだ。仕事につくと言うのはそんな甘いものでは無い。

冒険者ギルドでも仕事へのスタンスについてこれでもかというくらい念押し学習させられた。

就いてみてやっぱりダメだった、というのはかなり印象が悪いらしいので、そういったことを基準にする雇い主には、ぼくは定職につかずふらふらしているダメ人間に映るらしい。

まぁ全部をLv3くらいまで上げれば、また違った評価らしいが。

とりあえずしばらくは戦士職をあげて行こうと思う。

Lv2の《憤怒咆哮》もほしいし。



「あ、道間違えてる」

「みぎっ、そこ右よベルフルーラっ」

「あっちは飼育小屋の方であるな」

「みぎーっ」



などということを言いながらたらたら使い魔の後をついて行くだけの簡単な課題だった。

なにせこの課題をやるのは初めてではない。もう何回か同じ課題をやったことがある。


何度も同じ課題が繰り返されるのには理由がある。

教師が怠慢なのもあるが(使役授業の教師は狐)。

魔物にどれほどの命令をこなさせられるか。それは、どこまでいくと命令に穴ができるのかということ。

命令が多ければ使い魔は思うように行動しない。それではいざというときに困るのだ。

命令が一個しか覚えられない魔物と二個覚えられる魔物。これでは行動の自由さが倍違うことになる。

だから主はどこまでできるかを把握する。

ついでに魔物は主からの命令を覚えることで”知力”のステータスを伸ばすという授業である。

知力が上がればそれだけ多くの命令をこなせるようになる。

それが魔物使いにとっての生命線なのだろう。

ぼくには関係ないけども。


こうして少しずつ魔物たちも成長しているのであった。


■※

・槍術《旗吼フラグハウル》について説明できる場所がないのでここで。

全体攻撃バフスキルです。ノーラは同じ槍術の《風突スラスト》が使えたのでグーグがノーラに取得をすすめました。


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