『幸運の』アメリアです。
「聞いて驚くがよい」
「うん?」
探索日。いつものようにダンジョン前で集合していると『硬い』が付いた剣を軽く持ちながらセビがニヤニヤしていた。
「余は《風刃》を覚えたぞ!」
「知ってるけど?」
先日《風刃》を撃てているのを見ていた。まぁあの一回のみなのでセビはぼくが見ていたとは思っていないのかもしれないが。
「……そ、そうか」
しょんぼりしていた。
「…おお、おめでとう!一ヵ月くらいかな。覚えようと練習をはじめてから。すごいねっ!」
《風刃》は剣術なので使える人は多い。目にする回数も多く覚えやすいスキルだと言われている。
なのでまぁ、早くも遅くもないくらいの習得速度だった。
あとはがんばって練度をあげて射程を伸ばしていくだけである。
剣術《風刃》 <剣凪ぎに威力100%の風属性の刃を追加する。射程:1×練度/10>
瞬間的に剣の威力が倍になる。
これでセビはうちの第二の火力として活躍してくれるはずだ。
なおぼくも盾スキルの《盾打》を習得している。
盾術《盾打》 <盾打ちに継続1+練度/100s時間のスタンを追加する。>
セビを持ちあげつつ時間をつぶしているとアメリアが、それから少ししてブラナノーラが到着する。
「セビもようやく役に立つのね」
「セビさん、おめでとうございますっ」
「うむ。感慨深いものがある。苦節共にしてきたみなには苦労をかけたと思うが、これからは余をたよりにするといいぞ」
「ないわよ」
「ええ、と…」
覚えたばかりのスキルは練度が低く弱い。
セビが活躍できる日はまだ遠い。
さて、このあいだノーラと組んだのは授業と、その後の彼女の単独行動に付き合ってのことだった。
なのできちんといっしょに探索するのは今日が初めてということになる。
「よ、よろしくお願いします…!」
ショートボブな髪を無骨な白のヘッドガードで覆い、胴と腰を皮鎧で、足と腕だけ鉄の防具で守っている。武器類は右手に鉄の片手剣、左手に皮の大盾だ。
──大盾使い。
兵士や騎士の一番最前列に配置される防御を重視した立ち回りの者たちだ。
「ノーラは防御力重視なんだね。もしかして壊れたって言う防具は鉄の全身鎧だったり?」
「あ、はい。そうです。ただ重いので…みんなには足手まといになっちゃいましたけど…」
女子パーティーがゴブリンキングと戦った時に足をひっぱってしまったと言っていたが、あれはどうやら重い装備をしていたために機敏に動けず、味方の行動を妨げてしまったらしい。
そのせいもあってか、今は女子パーティーに単独行動を指示されてしまっている。
「近いうちにその防具も何とかしないといけないのか。そうなると…」
お金がかかるのだろう。今は稼いだ金銭は人数割で均等にわけている。だが薬草といくつかの討伐依頼の金額ではノーラの防具をそろえるのにどれほど時間がかかるかわかったものではない。
なんとか5階層まで行ってレア種狩りをしたいところである。
「目標は5階層でお金を稼ぐことでいいかな」
「いいわよっ」
「うむ」
「はい、よろしくお願いしますっ」
ぼくのやっていた盾で押しつぶし、短剣出とどめを刺す、という戦い方を、彼女は鎧ムカデを使ってより簡単にこなしていた。
「ギッ、グギュ」
鎧ムカデに絡みつかれて動けなくなったモルラビに片手剣を突きさす。
ビクンビクンと痙攣したあとモルラビは絶命した。
ここまで10秒もかかっていない。
ぼくがやったら泥仕合になり数分かかることもあるというのにだ。
(使い魔ってすごい)
火炎竜をいつも見ているはずなのだが、その高火力さに使い魔としての実感がわいていなかった。けれど自分の泥臭い戦い方がこんなに洗練された作業にされてしまうと、使い魔というものの便利さを実感できてしまった。
(使い魔ほしいなぁ…どっかに別の精霊でも落ちていないかなぁ)
ぼくの中ではつらら女はなかったことになっていた。
まぁたまに召喚して魔物の気をひいたりはするが。使い勝手の悪い魔術と同レベルの扱いである。
「ふぅ、この階層では盾はほとんど使いませんね。もういくつか降りたほうがいいかもしれないです」
ノーラはそう進言してくれるが、彼女としては物足りないのだろう。せっかく持ってきた盾が使われずに重いだけの飾りになっていた。
今日はノーラ参加の初日ということもあって、1階層で互いの動きの確認をしている。
ちなみに先日使い魔にしたモルビーも彼女は召喚していて、今は付近の索敵をさせられていた。
「女子パーティーはいつもどこで戦ってるの?」
「5階層です。レア種もでるのでそこでみんなの装備を整えてます」
5層に出るレア種の魔物は倒すとアイテムを確定でドロップする。その中には装備できるものもあり、店で買いそろえるよりも安く装備を集められるのだ。
ブラナノーラはこれもそうですよ、と剣と籠手を見せてくれる。鉄の装備はゴブリンのレア種からのドロップらしい。
「ゴブリンとか戦ったこともないよ…そこまで行けるのに何か月かかるかなぁ」
「夏休み前にはいってみたいであるな」
ノーマルゴブリンの出る7階層はぼくらにとっては努力目標ですらおこがましく、いつかいければいいなという目標になっていた。
7階層でゴブリン、8階層でゴブリンアーチャー、9階層でゴブリンシャーマン。そして10階層がゴブリンキングである。
「5階層も正直なぁ…本当に行けるのかなぁ」
パーティーが4人になったので行けるとは思うのだが、そのためにはモールスネークとモルビーのいる3,4階層を越えなくてはならない。
モールスネークが2階層から。モルビーが3階層から登場する。4階層からは飛び蛙だが、これはモールウルフと入れ替わりになるためむしろ楽になると言われている。
「もうっ!『白ウサギのファー』を取りにいくんだからねっ!」
アメリアはあきらめていない。むしろすぐにでも取りに行きたいと言う意思がある。…夏になるとファーは使わないので早く、ということらしい。
「あ、それならわりと拾えますよ。みんなにも人気です」
やっぱりいいものは人気が高いらしかった。
女子パーティーは5階層でレア種狩りしていたのでいろいろと情報を教えてもらえる。
ともあれ。
ぼくらではレア種に会えても倒すだけの地力が足りない。
「わたしが倒すわよ」
アメリアとベルフルーラなら確かに可能かもしれないが、レア種は単独でいるわけではないのだ。周りを同じ種族のモンスターが取り囲んでいる場合が多いらしい。
なのでアメリアとベルフルーラが強くても倒すのにかなり苦労することになると思われる。
「ねぇアメリア、ファー1個でいいなら買った方が早いんじゃないかなぁ」
「ファーでクッションを作るわ」
それってどれだけ集めればできるのだろうか。絶望的な計画である。
「あの…ファーは人気ですが、しっぽはそれほどじゃないですよ。小さいからかわいいって子はいますけど、一個手に入ったら満足しちゃう子もいますから」
そう言って腰のポシェットから小さな白いふわふわを出して見せてくれる。3センチくらいの毛玉状のボンボンが二つついたものだ。
うさぎのしっぽという装備品らしいがただのアクセサリーらしく重複ったものは買取も安いのでドロップしても捨ててきているらしい。
「これ、数を集めればクッションのかわりになるかも!」
自分で縫う必要はあるだろうが、《裁縫》を持つぼくにはこのしっぽでなにかできるのではないかとひらめいた。
「できると思いますが…それならファーを集めたほうがいいのでは…」
ドロップ率が同じかわからないが、大量にしっぽを集めるくらいなら同じくらいの数のファーがドロップしているだろう。
小さなしっぽをいくつもまとめるより一つのファーの方が効率がいい。
しっぽクッション計画は頓挫したのだった。
「あの…いくつかあるので…いりますか?」
うさぎのしっぽをもらった。
白くてふわふわである。
うさぎのしっぽと言えば幸運のお守りとして宣伝文句を聞くのだが、複数装備しても効果を感じないらしくただの見せ装備だと言われている。
ノーラはみんなに一個ずつ配っていた。
「へー…」
実際に幸運があればいいのだけれど、この世界に「幸運」というステータスはない。
星神がステータスにつけ忘れたのだろう。
「うーん…幸運とか付かないかなぁ。ちょっとやってみるね」
ぼくは何か出ないかと鉄鎚を振るった。
「ちょ、グーグ!?」
ダン、と振り下ろされた鉄鎚を持ち上げるとしおしおになったうさぎのしっぽがある。
《保存》されたことで《保存》元から要素の何かが失われたのだろう。
ぼくはステータス欄を開け、確認する。
「お、あるっ。<幸運の>だ。おお、幸運はほんとにあったんだ」
効果のある『属性』なのかはわからないが、商品のうたい文句ではないナニカであることは確かだった。
幸運が実際にあるとなるとどういうことだろうか。耐性のように獲得して初めて表示されるステータスなのか、それとも隠しステータスのような分類なのかもしれない。
「これどうしよう」
「幸運ってなにができるのかしら」
「小銭とか拾えるのかもしれないですね」
「博打に強そうであるな」
付ける場所に困る。
『属性』の《付与》は一度装備に付けてしまうと他の『属性』が付けられなくなるので、武器や防具に付けるのは迷う。
どうせならどうでもいいオマケとか――お守りみたいな
うさぎのしっぽ
「……アメリア、それ貸して」
「え、…いいわよ」
ぼくはアメリアの『うさぎのしっぽ』に鉄鎚を振り下ろした。
「《付与》」
カチコンという音の後にうさぎのしっぽが光るのがわかる。
光がおさまってもしおしおになっていない。おそらく成功したのだろう。
「”幸運の”うさぎのしっぽができたみたい。はいアメリア」
「えぇ、ありがとう。…すごく幸運なのかしらね?」
アメリアは自分のポシェットにしっぽを結びつけながら首をかしげていた。
運のステータスはない。なのでどんな効果があるのかさっぱりわからないのだ。
「本当にお守りみたいなものだね。あとでぼくの分のしっぽも作ろうかな。ノーラ、しっぽ余ってない?」
「あ、はい。ありますよ。神秘少女隊では荷物持ちをしていたので…部屋に使わなさそうなものでもいくつかとっといています」
女子グループは基本的に火力でイケイケなので防御重視のノーラは出番がなかった。なのでドロップや宝箱のアイテムを持たされていたらしい。
荷物持ちの上、部屋を保管所代わりに使っているわけだ。
「わー…、……。ま、まぁそれは女子パーティーのだから、そこから出してもらうならリアラさんに断っとかないといけないかな。後で言っておこう」
軽くて小さいうさぎのしっぽは袋に入れられており、その数は30を超えると言われた。どれだけレア狩りしたのかおそろしくなる数だ。
まぁ人数が多くなるとほしい部位の防具集めが大変なのだろう。
これだけ狩っても全員の防具がそろえられてなかったらしい。




