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契約しました。


あの巣を燃やしてもらっていいですか?


そう宣ったノーラの目は狂気に浸っていたり殺意の波動に目覚めているわけではないようだ。

正気で宣ったのだ。

正気で鬼畜外道の類だったのかもしれない。

おかしい。

普通のおとなしい女子がいたはずなのだがどこにいったのだろうか。うちのパーティーになかったはずの清涼感あるかわいい女子はどこに行った?

色物しかいないうちのくそパーティーに増えた高原の名もなき花はどこに消えた?

うん。

ぼくはどうやら聞き間違いをしていたらしい。

「林だしね、燃やさないよね。燃やさないよね?」

何かへの恐れから二度繰り返し確かめてしまう。

「いえ、も、燃やしてください。その中で生き残った子を、できれば仲間にしたいです…」

申し訳なさそうにする提案が”焼き殺し”である。

普通に怖い。


「……ええと、そうやって生き残った子は、ノーラからすると強い子なんだ??」

「そう、ですね。今いるガイナ、マルス、オルテはそうやって仲間にしたんです。攻撃に耐えて、耐えて、耐えて、それでもなおこちらを倒そうと牙をのこしている子たちでした。…そんな姿にわたしはトキメいてしまうんです」

「…………」

グーグは過去、鎧騎士アーマーナイトにおかしなのがいたことを思い出した。

そいつは攻撃を受けることを喜びとする存在だった。守ること、護衛することがメインではない。危険なことに身を置くことこそに快楽を覚える度胸試し中毒者チキンラン・ジャンキーである。

より危険な攻撃を、危険な敵を、危険な場面になればなるほど脳の快楽物質がドピュドピュ出て気持ちよくなれるやつらなのだ。

彼女はそれと似た傾向があるように思える。

まぁ、言ってみれば騎士や兵士でも特訓好きの連中にも近いものがある。体を痛めること、長時間走り続けおかしな領域を垣間見ること。そういったことに喜びを見出すような傾向である。

ただ…どうもそれを使い魔にも求めるらしい。今回の発言も、一般的な強さではなくそういった方向の魔物を求めてのことであるらしかった。

彼女の心には鬱屈した何かがありそうである。


「巣は燃やさないよ。燃やせない。ぼくらじゃ巣から出てきた蜂たちに対処できないもの」

燃やしてしまったが最後、火にまかれなかった蜂全てと全面戦闘になる。

まともに戦えるのがアメリアと火炎竜しかいないのでは戦いになることなくすぐにぼくらはやられてしまうだろう。

「そう…ですか。すいません、無理なことばかり言って…。わかりました、ビーはあきらめて帰ります…」

わかってくれたようで良かった。

ぼくらはできるかぎり物音を立てないように巣から離れ、街に向かう方へ進路を取ろうとした。


「グーグ、モルビーが3匹くるわよ!」

「グーグ君、こちらからも3匹やってくるぞっ」

後ろにいたアメリアとセビが小声で襲来を発してきた。

巣から遠ざかろうする方向の、その左右を抑えられる形で魔物が編隊を組んでやってくる。

「あ、あの子です。逃げる子っ、あの子が混ざっています!」

「…もうほとんど女王蜂みたいじゃないか。ぼくらを逃がさないつもりかな」

さっきまで2匹をつれていたのに今度は5匹を従えている。

今までは加減していたってことだろう。

(逃げられない場所まで引き込まれたかな)

指揮官として育ちつつあるモルビーは相当にやっかいな相手だった。



「かたまって!ぼくとノーラの後ろにっ、セビも壁にしていいからねっ!」

周りを飛びながらすきに攻撃してくるビーたちにひと塊になることでそれを防いでいる。

こちらの火力は火炎竜とアメリアだ。ぼくやセビが体をはって、ノーラが《盾打》で落としたビーを二人が倒していく。


「増えているぞっ。あの逃げるのが呼んできてるようだっ」

減らない減らないと思っていたら仲間を呼んできているらしい。巣が近いせいかいくらでも戦力が補充できるらしく、いつの間にかぼくらの周りにいるビーの数がえらいことになっていた。

「くそっ、盾打シールドバッシュっ!鉄壁アイアンウォールっ!」

掛け声は元気だがスキルは発動せず、ただ盾に攻撃を受けたことがわかる。

そのまま押し戻しながら周囲を見やる。

風刃スラッシュ!」

「《大打撃フルアタック》っ!」

みんななんとか戦えているようだが無傷というわけではない。特に盾を手放して装備を剣にかえたセビが攻撃を受け止めきれていなかった。

「ぬうっ、こしゃくな!風刃スラッシュっ!」

1匹に手間取ると2匹、3匹とセビを狙うビーが増えていく。セビが焦って振り下ろしたすきをついて1匹のビーがセビを狙う。

「《盾打シールドバッシュ》っえええ」

ぼくの横合いからの盾殴りが1匹のビーを硬直させた。

「あ、アメリアっ」「ベルフルーラっ」

アメリアの合図に火炎竜がビーを燃やす。

いきなりスキルが出たが、…使えるようになったらしい。

これでビーを止められるのが二人だ。敵を減らす速度も上がるだろう。

だが、たとえスキル一つ増えた程度では焼け石に水な状況である。

(な、なんとかしないと…)

「あぐっ」

ビーに刺されたセビが体を硬直させる。――麻痺だ。

動けなくなったセビを狙って何匹ものビーが包囲を狭めてきた。

「アメリア…右の方へ火の玉をっ、あっちを燃やして!」

「え、でもあっちは巣があるわっ」

「やって!」

アメリアの指示で火炎竜は巣のある方向に火の玉を放つ。

それは木々にあたり、広がり始める。

「アメリア、もっとだ。林を燃やすことを躊躇しなくていい!」

「わかたわよっ。ベルフルーラ、もっと撃って!」

次々に放たれる火の玉はどんどん右の林を火の海へと変えていく。

するとビーたちにも動揺が見て取れた。

巣を、女王を守らなければいけない。

その使命は数人の冒険者を相手にするよりもずっと上位の使命なのだ。

1匹、また1匹と巣の方へと飛び去って行く。

とまどいつつもこちらに敵意を向けてくるのは数匹のモルビーだけになってしまった。


「す、すごいっ、燃えてる燃えてるよグーグ君っ!」

ノーラはうれしそうに林が燃えていることにピョンピョン跳ねている。

「あっち行かないから!あくまで時間稼ぎだからね!行ったら置いてくからねっ」

「え…う、うん。そうだね。行かないよね…」

悲しそうな顔をするが巣まで火が届いているかわからないのだ。

もし燃え移っていなかったらさっき飛んで行ったビーたちが戻って来るかもしれない。これは、そうなる前に逃げるための時間かせぎなのだ。

「のこりを倒すよっ《盾打シールドバッシュ》!」

近くにきた1匹をスキルで落とし、火の玉で焼いてもらう。

アメリアもスキルで1匹を殴り飛ばし、残りはあと3匹というところまで減らすことができた。

「うう…ひどい目にあったぞ…風刃スラッシュ…《風刃スラッシュ》」

麻痺からもどったセビが振った剣から風の刃が現れる。それはほとんど飛ばないまま消えるが、《風刃》の刃だった。

「おお!」

「セビ、できたねっ」

やはり実戦の方がスキルの覚えや成長が早い。こうなればもうこちらのものだ。


もう1匹のモルビーを追い落とすと、残りの2匹が逃げようと翅を羽ばたかせる。

「逃がしません…ガイナ、オルテ、マルス、流星アタックをしかけるよっ」

ノーラが使い魔に指示を出すと鎧ムカデとアーマーだんごの3匹が一列になってモルビーに突撃した。

「流星アタック!」

回りながらピョンピョンはねるダンゴ虫を避けるとさらに後ろからダンゴ虫が現れる。ギリギリでそれを避けたと思いきや、その後ろにはムカデが上半身を持ちあげながら迫ってくるのだ。

この3段波状攻撃には流石の逃げモルビーでも避けきることができず、鎧ムカデに巻き付かれて地面に引きずり降ろされた。

「ジ、ジジジっ!ジジっ!」

捕まったモルビーはそれでも逃げようとしてか、抗うように羽をせわしなく動かしている。

ノーラはそのモルビーの胴を軽鎧に包まれた足でガッと踏み、押さえつける。

「わたしの、勝ちですよね。あなたの根性はすごいです。気に入りました。わたしの使い魔になってください」

「え、ノーラさん、モルビーでいいの?」

初めにモルビーには難色を示していたが、途中から魔物の内面に目を向けるようなことを言っていた。

今ノーラの足の下にいるモルビーはその基準に達していたのだろう。

「はい…この子は強いです。何度も戦って、そして勝つための意志がはっきりしている子です」

ノーラはビーから目を離さずに答えた。ずっと目線を合わせていたビーはあきらめたように体から力を抜いた。


「《契約コントラクト》《昆虫召喚》!」


モルビーの周りに契約の方陣があらわれ、うっすらとモルビーが輝き契約がなされる。

これであのモルビーはノーラの使い魔になったのだ。


そうとなればもうここにいる意味は何もない。火がまわるか、蜂が戻ってくる前に逃げるだけである。

「よし、みんな逃げるよ!。走れーっ、どんどん走れーっ!」

ぼくらは林の外に向けて駆けだした。追いかけてくるものはいない。

巣にいた蜂達はもう巣を棄てて安全な場所に逃げたのかもしれない。


そうしてぼくらも走り続け、外壁の近くまで走り、ようやく足を緩めることができたのであった。




城門の兵士たちは見ていた。守りにつく門からかなり遠い場所だが、黒い煙が上がっているのを。

それは上司に報告され、少なからず警戒するよう言われていた。

その警戒の最中、煙の上がっていた方角からこの門のところまでまっすぐに走って来るものがいる。学園の制服を着た数人の子供達である。

兵士はおそらく何か関係があるだろうとその子供たちを門の待機所に来るよう促すのだった。




「大分怒られました…」

外門の兵士に呼び止められていろいろ詰問されることになったぼくたちは、一時間ほどの後にようやく解放されることになった。

ぼくらが燃やした林はどうやら燃え広がらなかったらしく、しばらくしかられるだけで開放されることになった。

まぁ魔物から逃げるために燃やしたということで悪意や再犯の可能性がないと確認できたからだろうけども。

門から街の中に入り、ようやく人心地つけた気分である。

ノーラは怒られたと言いながらも手にまとわりつくモルビーを愛おしそうに眺めている。

モルビーに刺されて麻痺していたセビは少しおびえた様子だったが。

「あの、みなさん本当にありがとうございました。助けてくれたうえにパーティーに入れてくれて…そのうえこの子を捕まえるのも手伝ってくれて。本当に、ほんとうに感謝しています…わたしにできることならどんなことでもお返しするので何でも言ってくださいっ」

「ふむ。では今日のパン ぶっ」

セビがシーダさんに殴られていた。シーダさんはモルビーとの戦いでもひっそりと近くに立っていてビーの攻撃を避けていた。避けるだけで手伝ってくれることはなかったが。セビが刺されてモルビーにたかられている時でさえ見ているだけだった。

「うーん、お返しって言われてもなぁ。パーティー組んでくれるだけでありがたいんだけどね」

アメリアが破格なだけでグーグとセビはみそっかすである。そんな残念パーティーに10階層の経験があるノーラが来てくれたのはすごくありがたいことなのだ。

これで5階層のレア種狩りが現実を帯びてきたと言えるのだから。

だがノーラがこのパーティーにいるのはあくまで女子パーティーが安定するまでの短期間であることはわかっている。

なのでこのすきに5階層まで行けるようになりたいと思っていた。

「女子パーティーが安定した後でもたまにパーティー組んでくれるとうれしいよ」

「は、はい。それくらいならいつでも声かけてくれれば手伝いますっ」

ありがたい。

今後の助けも約束されて今日はいいことが多かった。

ノーラのパーティー加入に使い魔との契約。

ぼくとセビのスキル獲得にとパーティーの戦力が充実してきている。

何事も伸びる時期が一番たのしい。


ぼくはダンジョン探索を楽しいと思えてきていた。

(お金の手に入るようになるしね!)

今はまだ草原に生えてる薬草といくつかの討伐依頼でしか稼げていないが、階層を潜ればもう少し実入りのいい依頼が増えるだろう。

なのでいろいろ期待してしまうのだった。


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