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割と本当にモテ期です?


全員分の『かわいい』を付与しおわり、ようやく解放されるときがきた。

「終わった…」

「グーグ君ありがとうっ。みんなーグーグ君にお礼しよっ」

リアラの号令でたくさんの感謝の言葉を受け取る。

うれしい気分になるが流石にこの数に囲まれながらだと気後れもする。

「う、うん。喜んでくれたならうれしいな」

それじゃ、と挨拶して寮に帰ろうと踵を返そうとする。けれどそれを留めるようにリアラがぼくの肩に手をかける。

「……ねぇグーグ君。君さえよければあたしたちともっと仲良くしない?」

まるでしなだれかかるように体を近づけてくる。

「君のパーティーは4人。その中には女子が二人いるでしょ?。君のパーティーとあたしのパーティーがいっしょになればクラスの女子が全員一つのパーティーになれるのよね。もちろん男子であるグーグ君を蔑ろになんてしないわ。グーグ君は大事な人だもん。仲良くしてあげる。みんなで大事にしてあげるわ。どうかな?あたしのパーティーにあなたのパーティーを入れない?」

勧誘というよりも篭絡というほどの距離でささやく。

リアラは10歳とはとても思えない雰囲気でぼくに迫ってきていた。

(まずい…ドキドキするっ)

リアラの匂いがする。やわらかい彼女の体がぼくに押し付けられる。逃げられないように回された腕がぼくの腰をやさしく撫ぜる。

(手慣れてる…!男を篭絡することに手慣れてるっ)

さすが転生者。子供とは思えない大人の雰囲気に手管の技術。普通の子供ではいいように手玉に取られていただろう。

けれど幸いか、ぼくも転生者である。こういったことの経験は持ち合わせている。

「り、リアラさん。それはぼくだけで答えられる問題じゃないよ。それに男子はセビもいるんだ。セビをどうするか君は言ってないよ」

「あら。…セビ君はクラスメイトじゃなくないっけ?だからパーティーに入らなくてもいいと思うし、別のパーティーにでも行けばいいと思うけれど。グーグ君が彼もいっしょがいいと言うなら彼もうちに入れてあげるわ。それならいい?」

良くはないが。

というか、そうか。

忘れていたがクラスの女子は15人でリアラのパーティーに13人。うちのアメリアを入れてあと一人はどこだろう?と思っていたが…シーダさんか。

セビは正確にはクラスメイトではなかったんだっけ。

すっかり忘れていた。

「こ、答えられないよ。そだ、ぼくは人が多いのは苦手だから、できればお断りしたいかな」

リアラから顔を背けながら答える。

けれど彼女はまだぼくを離そうとはしない。

「ふーん?、そっか。グーグ君強い子なんだね。でもね、あたしグーグ君に魔法をかけることができるんだよ?」

「魔法?」

「《恋の魔法》。ふふ、魔法にかかったらグーグ君はあたしを大好きになっちゃうんだよ」


――おそらく魔王のスキル。

相手を魅了するスキルだろう。

それをぼくにかけると言っている。かけられれば防ぐ方法はない。

なるほど恋愛魔王の名は伊達ではなかったのだ。

ぼくは冷や汗をかきながら脱出するすべを模索していた。かけられたら終わりである。恋の奴隷となって彼女に媚びへつらうようになってしまうだろう。

(た、たすけ、たすけてっ誰かっ!)

けれどぼくたちを囲む女子の群れはリアラのやり方を一瞬たりとも見落とさないように期待の眼を向けてきている。

恋愛を成功させるための技法を彼女から教わる生徒のようだった。


「あ、あのっ!」

その集団を抜けて一歩前に出てきたのはさっきつまずいていた女子だった。

確かブララと呼ばれていた子だ。

「ぐ、グーグ君が困ってるので、それくらいで…」

ぼくは助けが入ってすごくありがたいが、かわりに押せ押せだったリアラは機嫌が悪くなる。

「ぶーらーらー。今グーグ君と大事な移籍交渉の話をしてるんだけどー?。あんたもグーグ君はうちのパーティーに欲しいって思うでしょ?邪魔しないでほしいわ」

「で、でも、クラスメイトにスキルを使うのは、ど、どうなの?、かなって」

言葉尻が小さく消えていく。

怒っているリアラに身がすくんでしまうのだろう。

「ええー?スキルなんて使わないよー。冗談だって。冗談」

「そ、そうなんだ…」

アハハと笑うリアラとは対照的に小さくなって視線をさまよわせている。

この雰囲気のままだと助け舟を出してくれた彼女が一人浮いてしまうことになる。

なのでここはぼくが何とかするしかない!とは思うのだがリアラに捕まっているぼくはまるで蜘蛛の糸にからめとられてチョウチョのように身動きが取れなくなっていた。

(うう、ごめんよ、ぼくには助けられない…)

よよよと嘆くグーグたちの頭上に影が下りた。

西日になってきた陽光を遮ったのは飛翔する巨大な影だ。


赤い竜

火炎竜ベルフルーラだった。


「あなたたち。グーグをどうするつもりなのかしら。それはわたしのものよ」

アメリアのたんたんとした言葉が上から降ってきた。

いつもの大声ではないのにその声は一種の威圧を含み、そこにいる全員の耳に届いていた。

返答によっては戦いがおこる――しかもそれは一方的な戦いになるだろうことが確定している。

頭上をとられ、臨戦態勢が整っているだろうアメリアを相手に異議を唱えられるものはいなかった。リーダーであるリアラですらも。

「べ、別に何でもないわよ。ちょっと仲良くしようねって話してただけで…そうだね。もういい時間だし、帰ろうか。さぁみんな帰るよ。きりきり歩こー」

リーダーの号令で津波が引くように女子たちが移動していった。

残されたのはグーグ一人である。

そのグーグの目の前にベルフルーラが降り立ち、背中に乗っていたアメリアがトントンと軽やかに下りてきた。

「平気そうね。べ、別に心配なんてしてないわよっ」

そっぽを向いているがきっと心配してきてくれたのだろう。

今回の騒動に発端はアメリアが『かわいい』の付与されたマントを学園に着てきてしまったことが原因だった。

そのせいで女子に捕まり、『かわいい』を付与するためにダンジョンにまで連れ出されてしまった。

きっと彼女はダンジョンの外で待っていたのだと思う。

ぼくが出てくるまで。

そうしてやっと出てきたぼくが女子に囲まれ、さらに詰め寄られているのを見ていてもたってもいられず出てきてしまったのだろう。

だから今、彼女はぼくの目の前にいるのだ。

「……助かったよアメリア。女子って怖いね。あのままだとリアラさんのパーティーに入れられるところだったんだ」

「何よそれっ、グーグはグーグのパーティーでしょ!」

「そうだね。ぼくとセビとアメリア。それにシーダさんのパーティーだよ。どこにも行かない」

「ふんっだ!」

当然だ、と言う風にそっぽを向く。

けれどそれはただの照れ隠しだとわかっている。

「ありがとうアメリア。そろそろ遅くなるから帰ろう」

「そうねっ。それと、あのマントは学園には着てかないわっ」

原因となった物を自粛しようというのだろう。けれどその気持ちだけでぼくには十分だと思う。

それにせっかく『かわいい』のだから、隠さずに見せてほしいと思う。

『かわいい』は見ているこちらとしても幸せな気持ちになれるものだからだ。

「それはもったいない。クラスの女子はみんな一つずつ『かわいい』ものを持ってるから、アメリアがマントしてても大丈夫だよ。ぼくもアメリアがマントを着てるのをみるのは好きだから着ててほしいな」

「……なら、着るわっ」

「うん」

そうしてぼくらはそれぞれの寮への帰途につくのだった。


「グーグ、かわいいっ?」

「うん、かわいいよ?」

「ふふふっ!」

明日からクラスの女子たちはかわいくなるだろう。

それはぼくの幸福度をあげてくれるのではないかと少し期待している。

『かわいい』はいいものだ。





『かわいい』女子の増えたぼくらのクラスは他のクラスからも注目されることとなった。

けれどそこは女子のまとまりがモノを言った。


戦闘集団 「神秘少女隊アルカナクラスタ


情報、統制、集団力。

秘密を共有することにも長けた集団であり、何よりもリーダーのリアラは前世魔王ピ-ティッティという人生経験を持つ純粋な子供ではなかった。

だから口も立つし頭もそこそこ切れた。

女子がかわいくなったのは恋愛魔王である彼女の教えのおかげとされ、グーグの名前は秘密にされた。

こうしてリアラは他クラスの女子からも一目置かれるようになり、グーグの仕事が増えることにはつながらなかったのである。



さて、そんな感じで一時的な安寧?を手に入れたグーグであったのだが…

クラスには男子もいるのである。


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