ぼくのモテ期です?
次の日の朝はどんよりした曇りだった。
その日のトイレチャレンジは『茶色の』で、これは石ころに付与して道端に捨てた。
……
そういえば石から『硬い』を保存しろと言われたが…少しやってみることにした。
同じように道端から石を拾い、鉄鎚で叩いてみる。少しずつ叩く力を強くしていき、しだいにかなりの力を入れて叩く。
ガキャン
叩きつけた鉄鎚から石が砕けた感触が伝わってきた。
鉄鎚を持ち上げると石が三つに割れている。
ぼくはステータスを開いてみる。
・錬金術《保存》19 <要魔値。『属性』を保存することができる。> <硬い>
「おー……」
保存できていた。
石を砕くことで『硬い』が保存できる。
これがわかったことはすごくありがたい。ぼくらの戦力を向上させるのに活用できるだろう。
と、それはそうとどれくらいまで砕いて『硬い』が保存できるのだろうか。
一度使った石からさらに『硬い』が出に入るのだろうか。
ぼくは砕かれた石をつまむ。
けれどそれは石というよりも、軽石のようになっていてホロリと崩れた。
「……なるほど。『硬い』がなくなってる」
砕いた石からさらに『硬い』を取り出すことはできないようだった。
ぼくは持っていたハンカチを取り出し、ハンカチに『硬い』を付与する。
カチコン
ハンカチが輝き『硬い』ハンカチが出来上がる。
持ってみたハンカチは布であるはずなのに、まるで粘土のように形状が変えにくい不思議なハンカチになっていた。
「布類を『硬い』にするのはムリか・・・。『硬い』はやっぱり防具につけないとダメっぽいなぁ」
服にも『硬い』が付与できたならそうとうな強化になるのだが、そういうわけにはいかないらしい。
ぼくはさっき捨てた茶色の小石を探して拾ってくる。
今度はその石を叩いて砕いた。
・錬金術《保存》19 <要魔値。『属性』を保存することができる。> <硬い>
「一度付与した物からでも保存はできると。ただ付与したものが保存できるかは試してみないとな」
『茶色の』が保存できればわかったのだが、『硬い』だったのでまた後で試すことにする。
再びハンカチを取り出し、ハンカチに《付与》を試みる。
「《付与》」
カチコン
「……光らない」
ハンカチは光らず、二度目の『硬い』は付与できなかった。
『硬い』ハンカチだから『硬い』が付かなかったのか、それとも一度付与した物にはもう付与ができないのか。
このあたりも後で実験しなくてはいけないだろう。
わかったことも多いので良しとしよう。
ぼくは学園に向けて歩き出す。
今日はアメリアに口止めを頼まなければならない。
まぁ彼女はパーティーメンバーなのだからきっと応じてくれるだろう。
それほど心配はしていなかった。
この能力で商売するにしてももっと知らなければならないことも多いのだ。
ゆっくり試していけばいい。
「きゃあーっ♪なにそれちょーーーーーかわいいーーーーっ!」
アメリアは女子に囲まれていた。
『かわいい』が付与されたマントを肩にかけて。
(そうだった…あのマントは普段使いしているマントだった…!)
毎日来ているマントだ。ぼくらが何も考えずに制服のままダンジョンに潜るように、彼女は制服の上にマントを羽織って通学していたのだ。
なのでその日もマントを着て学園に登校してきた。
ぼくは膝から崩れ落ちた。
両手を地面につけてうなだれる。
(…………し)
「しまったぁぁ!」
幾人かがそんなぼくを不思議そうに眺める。そして幾人か――アメリアのそばにいる幾人かは最上級の獲物を見つけた目を向けてきた。
「あっ、グーグ君みつけたっ!ねぇねぇグーグくぅん。聞いたよー?このすっごくかわいいアメリアさんのまんとぉ、グーグ君が作ってあげたんだってぇ?いいなぁ、あたしも欲しいなぁ」
という恋愛魔王ピーティッティの女子を筆頭に、
「えーうそーそうなんだー♪。それってぇーほかの娘にも作れるってことだよねー?あたしもかわいいのが気になってぇー?着てみたいってゆーかー、着たいってゆーかー?」
「その、グーグ君、よければお話を聞かせてほしいのですが…その、無理を言ってしまったらごめんなさい」
「えー作れるのー?ほんとにー?」
秒で話が広がっていく。
アメリアがカワイイ ⇒ カワイイのはグーグがマントに何かしたかららしい ⇒ 今たのんでるところ
女子に囲まれているアメリアも戸惑っている。
まさかこれほどまでに女子が喰いついてくるとは。そして話が展開するとは思っていなかったようだった。
…どうもこのクラスは恋愛魔王によって女子の自己研鑽への下積みが着々となされていたようだ。
そこへきて一気にかわいくなった女子がいる。
アメリアだ。
彼女は恋愛魔王の取り巻きでも何でもなかったはずなのに、女子力を磨いていた自分たちを一気に追い越してしまう。
圧倒的なかわいさ
かわいいを求めている彼女たちにそれは甘露にも似た輝きを放っていたのである。
ぼくは対策を考える。すでに話は大まかに把握されてしまっている。
ならこれはもう最善策はない。次善策でいくしかない。
「――――わかった。女子に協力できるかもしれない」
「えーほんとー?うれしいなー」
「でもそれは手伝ってもらわないとできないことだし、そうなるとすごく大変になるよ。時間もかかるし。…だから、他のクラスには絶対に内緒にしなきゃダメだ」
ぼくは彼女たちを一人一人見つめながら言った。
ぼくによってかわいくされるには、まだ何が必要なのかわかっていない。
だからこれ以上かわいいを求める女子が増えると、自分たちに回って来る機会が減るかもしれない。
受けられる恩恵が少なくなるかもしれない。
そう思わせたのだ。
「…よし、みんなっ、このことはうちのクラスだけの秘密だからねっ!」
「そうね、かわいいが増えたら大変なことになるわ」
「はいっ、な、内緒にしましょう…!」
彼女たちは一致団結して外に情報が漏れるのをふせいでくれるようだった。
教室の扉は彼女たちによって閉じられる。
少しでも情報が漏れないように。
ぼくという獲物を逃がさないように。
そう。
ぼくはもう、すでに囚われた獲物なのだ。
次善策とはぼくのあきらめの上になり立つ作戦だった。
「うお、なんで扉が閉まってるんだ…え?なにこれ」
「むう、グーグが女子にもみくちゃにされているぞ。モテ期だな」
「あれがモテ期…すごいな」
男子たちはそんなぼくを遠巻きにしている。
この騒動はクラスの女子が登校するごとに大きくなっていき、狐教師が現れるまで収まらなかった。




