北のダンジョン第一階層です。
翌日の放課後にぼくたちは「北のダンジョン」と呼ばれるダンジョン入り口にやってきた。
周りを二重の集団暴走対策と思われる壁に囲まれた一階建ての平べったい建物である。
先日の集団暴走で壊れた部分はまだ修理中らしく板などで雑に補強してあった。
ここが入り口で下に進む。階層を進むことでどんどん下に潜っていくのだ。
「問題はこの入り口だよね」
何の変哲もないただの地下への入り口に見える。入り口が広いのは武器防具を着こんだ冒険者たちが通るための大きさだろう。しかしここに特殊な魔術がかかっているらしいのである。
学園長いわく、「『半減』の減算魔術」ということ。
ここを通った瞬間に人種族と人種族に似た種族の者たちはステータスが半分になる。
ともあれ物は試しである。
今のぼくのステータスがこれだ。
個体 グーグ
種族 人間
筋力 13
耐久 8
器用 15
感覚 11
知力 23
魔力 21
魅力 16
速度 12
熱耐性4
冷気耐性4
毒耐性2
・錬金術《合体》50 <要魔値。物を合体することができる。>
・錬金術《分離》50 <要魔値。合体した物を分離することができる。>
・錬金術《清浄》50 <要魔値。物を清浄することができる。>
・錬金術《保存》18 <要魔値。『属性』を保存することができる。> < >
・鍛冶《鍛冶Lv3》6 <鍛冶を行う。Lv3:粘土・石・低金属・草・根・木>
・裁縫《裁縫Lv1》25 <裁縫を行う。Lv1:布>
・家事《料理Lv3》60 <料理を行う。Lv3:並>
・家事《清掃Lv4》10 <清掃を行う。Lv4:良>
特
《精霊召喚》(《返還》) <契約した一体の精霊を呼び出せる。>
そしてダンジョンの入り口を通ってみる。
個体 グーグ
種族 人間
筋力 7
耐久 4
器用 8
感覚 6
知力 12
魔力 11
魅力 8
速度 6
熱耐性4
冷気耐性4
毒耐性2
・錬金術《合体》50 <要魔値。物を合体することができる。>
・錬金術《分離》50 <要魔値。合体した物を分離することができる。>
・錬金術《清浄》50 <要魔値。物を清浄することができる。>
・錬金術《保存》18 <要魔値。『属性』を保存することができる。> < >
・鍛冶《鍛冶Lv3》6 <鍛冶を行う。Lv3:粘土・石・低金属・草・根・木>
・裁縫《裁縫Lv1》25 <裁縫を行う。Lv1:布>
・家事《料理Lv3》60 <料理を行う。Lv3:並>
・家事《清掃Lv4》10 <清掃を行う。Lv4:良>
特
《精霊召喚》(《返還》) <契約した一体の精霊を呼び出せる。>
こうなった。
主能力以外は変化してないが、ステータスは確かにだいたい半分になっている。
ステータスが半分になる、ということだからもしかするとそれ以外は半分にならないのかもしれない。武器や防具、ステータスに加算されるアクセサリー類の効果だ。
なら装備品を充実させれば数値の低下をごまかせるかもしれない。
みんなもステータス欄を開いてあれやこれや試していた。
「……むぅ。ひとまずは理解した。体が少し重く感じるぞ」
「そうね。こんな感じなのね…わかったわ。グーグ、ベルフルーラを呼ぶわよ?」
アメリアはベルフルーラを呼んでダンジョンの入り口を通ってもらう。
「ベルフルーラ、どう?何か違う感じするかしら?」
「クルル?」
「変わらない?」
「クルゥ」
「変わらないみたいだわ」
やっぱり魔物なんかは変わらないのか。
ぼくもつららを召喚してつららのステータス欄を見ながら入り口を通してみる。
変化はなかった。”精霊”もダンジョンのルールの枠外らしい。
「ぼくのも変わらない。あとは実際に戦闘で感覚を確認しよう」
ぼくらは階段を進み一階層に到着した。
一階層は東のダンジョンの一階層と同じ草原エリアだ。
太陽はないがまるで太陽があるかのように明るい。天井が高く、天井全体が白く輝いているのだ。
それにうっすらと風もふいている。ダンジョン内だというのにまるで外と同じ感覚である。
「ここにはスライムとモルラビとモールウルフがいるよ。モルラビとは戦ったことがあるから、怖いのはモールウルフだけだね。モールウルフもモルラビと同じ陣形で戦えるはずだからよろしくね」
「うむ」
「ふんっ、わかってるわっ」
付近の探索を始めるとモルラビ3匹を見つけた。
ベルフルーラの火炎球の攻撃をかわぎりにモルラビとの戦闘が始まった。
「えい…《つらら》っ」
ぼくは最近覚えた《精霊召喚》の簡易な呼び出し方を試しながらモルラビ一匹を倒した。
盾で地面に押しつぶしながら《精霊召喚》でラビの気を逸らしつつ短剣でとどめをさす戦い方だ。
「ふぅ、一匹倒したよ。アメリアは?」
「終わってるわよ」
アメリアもすでに一匹倒しているようだった。
問題はセビだったが、聞かなくてもわかる。セビの方からは戦闘音が続いている。彼はまだラビにてこずっているようだった。
「ええい、風刃っ、風刃!」
盾を持たず剣を装備しての戦い方だ。まだ装備を変更して初めての戦いなのだ。慣れないのもしかたない。それにここではいつもの半分のステータスなのだ。
それからもうしばらくしてようやく一匹目のモルラビを倒したようだった。
「ふぅ…スキルが出ればもう少し早くなるのだろうが…みなには申し訳なく思うぞ」
「いいよ。ぼくらは急いでないんだから安全に戦おう。今日はセビの速度に合わせるよ。次はぼくもスキルが発動できるように練習しながら戦うから」
「わかったわ。…なら、私もスキルの訓練をするわ。怪我をしたらわたしに見せなさい」
アメリアがそう言ってモルラビにつけられたセビのかすり傷に手をあてる。
「治癒……ふんっ、ダメね」
「ええ、アメリアは治癒魔術を覚えるつもりなんだっ!?」
すっとんきょうな声がでてしまったが、それくらいびっくりすることだ。
治癒魔術は魔術の中でも使える人は多くない。なにせ適性がなければ使えないと言われる魔術だからだ。
「何よ。あんたたちがよく怪我するからじゃない。あれば便利だわっ」
あれば便利。確かにそうだけども。
商品か何かのように魔術をとらえている言い方は、流石に商人の娘というところだろうか。
けれどその理由がぼくたちのためというのはすこしうれしく思える。
「アメリア、ありがとう」
「…ふんっだ!」
少し耳を赤らめてそっぽを向いてしまう。
彼女はそういう子だった。
戦いを再開する。
主にラビが相手だ。
ちなみにスライムは基本的に無視する。
あれは近づいても何もしてこないし、いてもいなくても困ることがない。投げれば破裂するし叩いても破裂する。柔らかく無害なプルプルしているだけの生物である。
モールウルフとも問題なく戦うことができた。
こちらを囲んでくる速度は速いが、飛び掛かって来る速度はモルラビの方が早い。一人一匹を意識すればそれほど苦戦する相手でもなかった。
その日は合計23匹を倒したあたりで帰ることにした。道中に摘んだ薬草もそれなりの量になっている。一階層の魔物ではクエストがないため討伐報酬を得られないが薬草は採集クエストが出ている。だからこれをギルドに収めることで報酬を得るのである。
素材としてはいくつか魔石を見つけられたが、低ランクの魔物では魔石があったりなかったり。むしろ無い方が多く、これのためにいちいち魔物の死体を切り裂くのは労力に見合わないと思った。
刃物も痛むし、手も血で汚れるし、何より匂いも付く。
モルラビは肉が、モールウルフは毛皮が売れるが、ここは迷宮都市。低ランクの素材は需要よりも供給ばかり多くてほとんど買い取られていないのが現状だった。
ダンジョンを出るともう夕暮れ時になっていた。
「ふう、出ると体が少し軽くなるな。スキルは覚えられなかったがダンジョンの感覚はだいぶつかめたようであるな」
「今は半分でもそんなにかわらないもんね。慣れちゃえば下の層にいっても戦えそうだね」
ステータスの数値が少ないから半減してもそれほど違いを感じない。
いつか数値が育てばそれも変わって来るのだろうけども。
「さ、それじゃ薬草収めて帰ろうか。あ、そうだステータス確認してないや」
出る時にステータスを確認していなかった。
ぼくはステータス欄を開く。
個体 グーグ
種族 人間
筋力 13
耐久 8
器用 15
感覚 11
知力 23
魔力 21
魅力 16
速度 12
熱耐性4
冷気耐性4
毒耐性2
・錬金術《合体》50 <要魔値。物を合体することができる。>
・錬金術《分離》50 <要魔値。合体した物を分離することができる。>
・錬金術《清浄》50 <要魔値。物を清浄することができる。>
・錬金術《保存》18 <要魔値。『属性』を保存することができる。> <かわいい>
・鍛冶《鍛冶Lv3》6 <鍛冶を行う。Lv3:粘土・石・低金属・草・根・木>
・裁縫《裁縫Lv1》25 <裁縫を行う。Lv1:布>
・家事《料理Lv3》60 <料理を行う。Lv3:並>
・家事《清掃Lv4》10 <清掃を行う。Lv4:良>
特
《精霊召喚》 <契約した一体の精霊を呼び出せる。>
入る前と数値がまったくいっしょである。まぁ半分になった数値がきちんともとに戻っているのを確認できたので良しとする。
「ん、『かわいい』がある。これはモルラビを倒したときのかな」
はじめに倒したモルラビから『かわいい』属性を手に入れたらしい。明日の朝トイレに入る時に邪魔になるのでこれはどこかに付けておかなくてはならない。
マジックバックをごそごそと漁り、無駄に拾っておいた石ころと《付与》スキルの付いている鉄鎚を取り出した。
「グーグ、何するの?」
「うん、保存スキルに『かわいい』があるから、石につけようと思って」
「?」
よくわかっていないアメリアに詳しく説明をする。
ぼくの錬金術の《保存》はなぜか『属性』を保存できるようになってしまった。しかも《保存》したいタイミングではなく、勝手に《保存》してしまう。
なのでいらない『属性』はこうやってちまちま石ころに付けて捨てているのである。
「ちょっと!『かわいい』を捨てるなんて何てことしてるのよっ!バカっ!」
大激怒だった。
「えぇ…だって、明日の朝『硬い』を手に入れるには捨てるしか…」
朝のトイレチャレンジで手に入る『硬い』は最近ぼくが重要視している『属性』である。
これをちまちま装備に《付与》して防御力を高めているのである。
「そんなのそこら辺の石から保存しなさいっ!とりあえず、『かわいい』は捨てないでっ、ちょっと待っていなさい!」
言われてみれば石は『硬い』のだ。
石から回収できるならそっちの方が楽だろう。目からウロコだった。…いや、石を倒すことができるのか?無理じゃないか?。
うーんと悩むぼくの目の前に、アメリアは着ていたマントをばさりと広げた。
「グーグ、これに『かわいい』を付けてっ」
アメリアのマントは質の良い装備品だ。親御さんからもらったそれはすでにいくつかの効果が付いたマジックアイテムである。
「いいの?」
「いいわ。付けて」
布製品に『属性』が付けられるかわからないが、いいと言うのならとぼくはマントに鉄鎚を振るうことにした。
「《付与》」
カチコン
マント全体がうっすらと輝く。成功したらしい。
アメリアのマントが『かわいい』くなった瞬間だった。
「できた…うん」
「ほう。…なぜかわからぬがさっきよりもかわいい感じがするな」
確かにかわいい。
さっきと同じマントなのにかわいい。
感覚的なものなのに本当にマントがかわいくなってしまった。
「……ふふ、かわいいわ。すごいわねっ」
上機嫌でアメリアはそのマントを羽織る。
「そんな…アメリアまでかわいく見えるよっ!?」
「おお、かわいいが増したぞっ」
かわいいマントを羽織ったアメリアがかわいい。
なぜか魅力が増して見える。
「そんなバカな」
「おかしいぞっ」
「どういう意味よっ!?」
怒っているがそれ以上にうれしいのかその場でクルクルと回ってマントを試していた。
「すごくいいわね。グーグ、もしまた『かわいい』が保存できたら教えなさい。買い取るわよ♪」
お金になる!。
すごくうれしい申し出だけど、ふと不安になる。
『かわいい』を量産できるぼくの能力は、これは市場に出していいものなのだろうか。
どうも一般的な《保存》能力とぼくの《保存》能力は別物な気がするのだ。それもこれも”龍”という希少存在が持っていた権能のおかげなのだが、そのせいで一般的とは違う能力に変化してしまっている。
これはいいのか?
うれしそうなアメリアとは対照的に、ぼくは不安になっていた。
…内緒にした方がいい気がする
それがぼくの出した結論である。
帰り道、寮の方角の違うアメリアと別れたあと、めずらしくシーダさんが話しかけてきた。
「グーグ。不安?」
「……ええと、顔に出てました?」
「ん。」
ぼくが《保存》のことで悩んでいることに気が付いていたらしい。
「まぁ、不安といえば不安です。これはぼくだけのスキルかもしれない。こんなこと今まで聞いたことがないんですよ。ぼくはアメリアが『買う』と言うまでこのスキルの異常さを考えてこなかった。このスキルが世間に与えることを考えてなかったんです」
このスキルで何でも『硬い』にできるなら木の装備の値段は今より高くなる。きっと鉄装備と同じだけの『硬い』木の装備が出来てしまうのだから。
かわいいもだ。着ただけで本人さえ『かわいい』にできるのだからこのスキルの可能性は商売人に与える影響はとんでもなく大きい。
売れない商品に『かわいい』を付与する。それだけできっと売れない商品は数倍の利益を上げてしまえるだろう。
こんなのが簡単に付与できるのなら商売の成り立ちに一石を投じるほどの影響力がある。
ぼくのスキルは商取引に置いて枠外級の性能をしているのだ。
「このスキルは世間に出しちゃいけないと思う。きっとあっちこっちに迷惑をかける。ぼくもどうなるかわからないし、怖いです」
そんなスキルを持つものを、人はほっておくだろうか。
ぼくがいれば物が売れる。それならぼくを誘拐してでも手に入れようという者が現れるだろう。
もしくは殺そうとすることだって考えられる。
他人が得をするならそうなる元をなくしてしまえ。
自分の商品を今まで通り売るために、他の商品が売れるのを阻止する。
それは十分に考えられることだった。
考えただけでも不安になる。
アメリアにはこのスキルのことは内緒にするように言っておいた。
彼女の言うように売るかどうかも含め、明日返答すると伝えてある。
なのでぼくは明日までにこのスキルをどうするか決めなくてはならなかった。
「確かに。でもその《スキル》は特別じゃない」
「え?、特別、じゃない?」
「そう。錬金魔術には物を合成するスキルがある。それは物と物のもつ、ほとんどの性能を合成することができる。それと同じモノかわからないけど、同じようなことはできる」
シーダさんの言っているスキルは錬金術の最上級魔術《完全合成》だ。
最上級魔術を使える師匠に話を聞いたことのあるスキルである。
確か《完全合成》するには大きな方陣といろんな道具が必要らしい。なので師匠のところにはなかったのだが、確かに物の性質を統合できると言っていた。
「『かわいい』を《合成》できる…?」
「かも。だからそこまで不安にならなくていい。けれど守りがいらないわけじゃない」
ぼくだけのスキルではないかもしれないが、できる人間はかなり限られる。希少であることには変わりないのだ。
だから護衛とかつければこのスキルで商売ができなくもないということなのだ。
お金はほしい。
でも危ないのはいやだ。
なかなか葛藤する部分である。
ただ、それまでよりは不安の種が減っていた。
ぼくだけじゃない。
これは心を落ち着けるのにとてもうれしいことだった。
「グーグ君は特別が嫌なのですな」
セビが不思議そうに首をかしげていた。
「嫌だよ。特別でいいことなんてなかった」
魔王だった時代。世界に魔王は一人だけだった。
だからいろいろな者達が殺しにきた。世界中の人間たちが、たった一人の魔王を殺すために集まってきた。
特別でいいことなんてないのだ。
目立たないことはすばらしいことだと、今のぼくは感じている。
なのでこのスキルもできるだけ内緒のままにしたい。
うん。
お金よりもきっとそっちのほうがいい気がする。
ぼくはこのスキルの扱い方をだいたい決めたのだ。
「ありがとうシーダさん。まったく内緒にする必要はないけれど、おおっぴらに商売することもしないことにするよ。まずはぼくらだね。このパーティーのメンバーだけにちょっとずつ付与してあげることにするよ」
「ん。」
シーダさんはぼくを見て少し目元を緩めた。
めずらしい。
きっとあれが彼女の笑い方なのだろう。
ぼくは軽くなった足取りで帰路に就くことができたのだった。
ちなみにシーダは錬金術の最上位スキルを知っている。彼女の母とも言える人物が錬金術の世界最高峰の習得者だったからだ。
なので
グーグの《保存》が《合成》と少し違うようにはなんとなーく気が付いていた。
言わなかったが。




