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「パーティー」です。


北のダンジョンに潜ることを決めるといろいろと足りないモノが見えてくる。


・ダンジョンの情報

・装備

・パーティーメンバーの理解


スキルも足らないけれどそれは追々覚えていけばいいだろう。

ダンジョン情報は冒険者ギルド2階の図書室で調べることができる。

ひとまず潜るだろう10階層までのマップに魔物やボス情報、レア種の情報なんかを調べてノートにメモしていく。


「これいいわねっ!『白ウサギのファー』。ラビがレアモンスターに選ばれればドロップするんですって!」

ドリルが付いていても女の子。かわいいものやきれいになれる物に目がないようだ。

「ラビなら余らでも倒せそうであるな。ひとまずの目標は5階層でレア種を狩ることであろうか」

「そうだね。ぼくのふところのためにもそれがいいと思うな」

稼ぎには魔物の魔石、肉や皮、牙などの素材、あとは道中で採れる薬草の売買で稼ぐことになる。

ぼくは守銭奴属性を発揮しはじめていた。

お金は大事だ。

何をするにも必要なのだ。

がんばって稼がないと。



稼ぐと決めたそのすぐ後には出費の問題が控えていた。

防具の購入である。

アメリアの装備は親である商人からかなりいいものをそろえてもらったそうなのでいいとして。

今回更新するのはぼくとセビの装備だ。


「……高い」

「そうであるな…」


一番安い皮の防具でさえ3000Gもする。(3万円相当)

一式での値段ではなく胴鎧の値段である。

今のぼくが装備に出せる金額は5000Gだ。買えないわけでは無いがこれで”皮”製品を買っていいのだろうか?。もっと貯めて少なくとも”鉄”装備くらいにはしたいところである。

「銅でも6000Gであるか。鉄で10000Gだ。ガードナーの奴め、かなりいいものを装備していたのだな」

鉄の胴鎧が10000G。買うためには今の倍必要になる。しかもほしいのは胴鎧だけではない。具足や腰当、籠手もほしいのだ。

「一足飛びに強化することはできなそうだね…。しばらくお金を貯めようか。とりあえず鉄でそろえたいから鉄を一部位ずつ買っていくことにしようかな」

胴でなければ手持ちの5000Gで一部位は買える。

ぼくは鉄の籠手を選んで店の人に会計をお願いした。


「鉄の籠手ですね。4500Gです」


懐が一気にさびしくなってしまった…。

装備して見ると割と重い。貧弱なぼくにはこれを装備したまま俊敏に動ける図が浮かばない。

それに籠手だと盾を持つ左腕にはいらなかったかもしれない。

右腕だけなら、と片方外してみると、悪くない。片腕分だけならなんとかなりそうである。

「左腕があまってしまった…」

「ふむ。グーグ君。片方いらないのなら余が買おう」

セビは余った左腕の籠手を受け取り右腕に付けようとする。

「…装備しにくいぞ」

「留め具が逆になるからね。いっそ左腕に装備して左手の盾を持たないのもいいかも。セビが《風刃スラッシュ》を取るなら武器も短剣じゃないほうがいいし、剣を両手で持つのがいいんじゃないかな」

セビを近接攻撃職にする。低階層の魔物の攻撃くらいなら左腕の籠手だけである程度は防げるだろうし、敵の殲滅速度を上げるのは結果的に自分たちが攻撃される時間を減らすことにつながる。

少しダメージを多く受けることになるだろうが、今後を考えると悪くない選択に思えた。

「なるほど、剣であるか。…武器屋を見て来る」

セビは隣の建物に足を運ぶ。ここは武器屋と防具屋が隣り合って建っているから武器が見たければ隣の店に行けばいい。

セビはもどってくると一本の剣を持っていた。

「買ってしまったぞ。ふふふ、良い品である。余もとうとう剣士であるぞ」

ただの銅の剣だったが、その気持ちはよくわかる。

男の子はいつになっても剣を持ったヒーローにあこがれるのである。


ちなみにセビからは『鉄の籠手』片腕分の2250Gがもらえた。

次の部位のために貯めておこうと思う。



そして最後になるのがパーティーメンバーの理解だ。

「ぼくらはお互いのスキルやできること、できないことが分かってなさすぎる。言える部分だけでもいいからスキルを教えてほしいな」

主にパーティー連携の部分だ。

スキルに適した距離感やいざというときのフォローなんかがまったくわかっていない。

これを是正しようというのである。


「ふむ。かまわぬぞ」

「えぇ。教えてあげるわっ!」


ひとまず言い出しっぺのぼくからスキルを紙に書き出していった。



・グーグ


・錬金術《合体》

・錬金術《分離》

・錬金術《清浄》

・錬金術《保存》

・鍛冶《鍛冶Lv3》

・裁縫《裁縫Lv1》

・家事《料理Lv3》

・家事《清掃Lv4》


《精霊召喚》(《返還》)



「……とことん戦闘に向かないのね…」

「みごとであるな。食事処でバイトした方が稼げそうである」

「かわいそうなモノを見る目で見ないでくれる!?」


次に教えてくれたのがセビだ。



・セビア


・火魔術《燃力》

・闇魔術《暗視》



「……え?これだけ?」

「どちらも得意属性であるな」

それはいいけれど。

とりあえず火属性が得意ならもう一個の初級魔術を覚えるのがいいかもしれない。

火の初級魔術《火矢》

外発できる攻撃魔術だ。

もっとも《風刃》も射程の長い攻撃スキルなので急いで覚える必要はないかもしれない。どちらかがあれば大分戦いやすくなるだろう。


「次はわたしね!」



・アメリア


・衝術《底》

・棍術《大打撃》

・棍術《退打撃》

・火魔術《燃力》

・水魔術《治力》


・魔王技《障壁破壊》


固有

・《幼獣支配》



「いっぱいあるなぁ」

「これで何ができるのだ?」

「《底》は衝撃を内側にまで浸透できるわ。皮の厚い魔物にもダメージを与えられるわ。

大打撃フルアタック》は大振りで当たれば敵をふっとばせるわ。

退打撃ノックアタックは当たると敵をちょっとだけ後退させられるわね」

ふっとばしスキルとノックバックスキルらしい。面白いスキルだ。


「《障壁破壊ゼロブレイク》は障壁や防具を破壊するスキルね。使い勝手は…悪い方よ。サーディア様の《災歌》よりよっぽどね」

あのスキルと比較されても困る。あれは聖剣のスキルと遜色のないくらい強力なスキルだったのだから。

「防具まで壊れるならすごいと思うけど」

「どんな防具でも壊せると思うわ。でもあくまで一番外側の一枚だけよ。障壁一枚しか壊せないスキルだわ。それに”打撃系”でないと使えないのよ。だからわたしは棍棒で戦ってるのよ」

攻撃手段が限られてしまうのか。

アメリアが何で棍棒を持ってるのかと思ってたけど、そういう理由からだったのか。

襲撃してきた野盗を殺さずに捕まえて自警団に突き出しお金をせしめるために刃物を使ってないんだと思ってた。

違ったんだね。


「最後は《幼獣支配》ね。幼獣…子供の魔獣なら何でも支配できるわ」

「子供。ベルフルーラもそれで?」

「ベルフルーラは少し違うわ。ベルフルーラはお父様が卵のまま買ってきた竜よ。それをわたしが支配したけど、今ではわたしの家族なんだからっ」

卵からなら”すりこみ”によってアメリアを親と思い込んだのかもしれない。

しかし子供のために竜の卵を手に入れてくる親とは…すごい親がいたものだ。

「愛されてるんだなぁ」

「……そうかもね」

少しアメリアに変な間があったのに気が付く。けれどそこには踏み込まなかった。

魔王の転生であるぼくたちには生まれたときから色々と想像できない人生があったはずだ。

きっと彼女も苦労したのだろう。いつか聞く機会があるかもしれないが、たぶん今ではないと思う。だから今は聞き流しておくことにきめた。



というわけで、みんな?のスキル確認が終わった。

シーダさんにチラと視線を向けるが我関せずなようだ。彼女はぼくたちにかかわらない。

「さて、というわけで明日から実際に北のダンジョンを潜りにいくわけだけども」

「そうね!楽しみだわっ」

「浅い層でスキルを習得したいであるな」

恐れとかはないらしい。頼もしい仲間である。

けれど”ダンジョン”を潜るのだから、最低最悪のことは想定しておかなければならない。

「二人とも、最後に大事なことをきめるね」

「ふむ、かまわぬが」

「いいわよ?」

じゃぁ、と一拍呼吸をしてから二人に目を向ける。


「…逃げる時と、仲間がどうしようもなくなった時のことを決めておこう」





”ぼくが逃げる判断をしたら絶対に逃げること”

”逃げ出さなきゃならなくなった時は、何をおいても逃げる”

”仲間を囮にして逃げれそうだったなら、仲間を囮にして逃げる”

”仲間の死体はできるだけ置いていく。荷物も気にしない。自分の生きることを考える”


このことを納得させるのにかなりの言葉を要した。


一つ目は誰がこの中で一番生存率が高いのか、だ。

生存率だけで言えばおそらく強力な護衛に守ってもらっているセビだろう。シーダさんの実力は不透明ではあるが、彼女がいくつか行った行動でかなり強いことがわかっている。

けれどだからこそ、セビでは判断が甘くなる。護衛の性能に頼って逃げるラインを見定めるのにセビでは遅いのだ。

アメリアは逃げるよりも戦って状況を打開しようとする傾向がある。ぼくらが弱いからこそ彼女は自分ががんばらねばと意気込んでいるようだった。

だからぼくだ。

一番弱く、一番怖がりなぼくが適任だった。

だから逃げることをぼくが判断する。


二つ目は英雄的行動の禁止だ。

誰かを助けたりするために、自分の身を挺して行動してほしくない。たとえそれが仲間のためであってもだ。

”逃げる”と決めたら徹底的に逃げること。これがぼくの決めたルールだ。


三つ目はそのままの意味もあるが、実を言うと”使役”できるぼくらにとっての切り捨て判断の促しである。

自身の大切な使い魔を囮にすること。それをしなければ自身も危ないような状況で、きちんと使い魔を囮にする。

そのことを頭に入れておいてもらうためのルールである。

もちろん仲間も囮にする。

それで生き延びられる可能性が広がるのなら絶対にそうすべきだと思うからだ。


四つ目は重い物を持ってたら逃げきれないかもしれないというだけのことだ。

ダンジョンは長い。一度潜れば『ゲート』のある10階層ごとか、入り口までもどらなければ出られない。

逃げる判断をしたのが5階層だった場合、荷物を持っていてはダンジョンを出る場所までいくのが困難になるかもしれない。

だから仲間の荷物だろうと死体だろうと置いて行ってもらう。


生き残るために。そして仲間を道連れにしないために。

ぼくが決めたルールだった。


「……わかった、わ」

「なかなか難しい所ではあるが、納得したぞ。ひとまずはこれでやってみるである。問題があればその時にまた話し合えばいいであろう」

「ありがとう二人とも」

これまでみたいにダンジョンの入り口や城壁の外の安全そうなところを探索するのではない。ダンジョンを潜ることを意識したルール作りだった。

どこまでルールが行えるかわからないけれど守ってもらいたい。

ぼくは仲間を死なせたくはないのだから。

「まぁ、大分安全よりな思考ではあるようなのだが」

「…そうだね。危険なことはしたくないと思ってるよ」

うちのパーティーは弱いから無茶をするとすぐに全滅してしまいそうなので。

「わかった。安全に探索するのを余も心にとめおこう」

「ありがとう。アメリアも、いい?」

ぼくはアメリアに顔を向ける。

「ふんっ、いいわよ。別にわたしは探索に重点を置いていないわっ。一番お金が必要なグーグがいいならそれでいいわっ!」

でも、と彼女は怒りながら言う。

「もっとわたしたちを利用したっていいのよ!。グーグはお金がいるんでしょっ、わたしとベルフルーラはそれを手伝えるんだからね!」

ぼくは目をむいた。

『利用してもいい』彼女がそんなことを言うとは思っていなかったのだ。

「え、いいの?、いや、ありがとう?、まって、でもなんで?手伝ってくれるの?」

動揺してよくわからなくなっているぼくをアメリアが少し楽しそうにニヤリと笑う。

「グーグはベルフルーラを道具だと思ってないわ。だからいいわよ。それが仲間ってことね!」

そうなのかなぁ。

アメリアがいいならいいけれども。

ベルフルーラを仲間だと思っていないと評されたけれど、そこまで意識して接してきたつもりはなかった。ただアメリアが火炎竜を大切にしている。ただそれを知っていただけのことである。

アメリアにとってはそのあたりのことが重要だったのかもしれない。

(だからぼくとパーティーを組んでくれたのかな)

アメリアがぼくとパーティーを組んだことも少し疑問だった。

もっと良い勧誘先があっただろうに、召喚が最弱なぼくと組む利点があのときはまったくなかったのだから。

ただ入学してすぐのころか彼女への勧誘は火炎竜を使い魔にしていることが一番の勧誘理由になっていた。火炎竜が力であり、そして彼女は火炎竜を持つ人間だから。

勧誘している彼ら彼女らにはそんな気はなかったのかもしれないが、アメリアからするとその行為は火炎竜を強い道具にしか見ていないように思えたのかもしれない。

だから勧誘は断ってぼくに接触してきたのかもしれない。

それに、今は魔王だったころのことがバレて少し状況もかわっている。

なにせぼくのファンらしいので。

魔王だった過去に別の魔王が好意を持つ。

わけがわからない。

いや、勇者にあこがれるのと同じような物なのだろうか。

あこがれというには最近アメリアの距離感が前より近くなった気がする。

今日なんて「早く作戦会議するわよ!」と言いながら手を握られた。

この齢の子供なら手ぐらいは普通に握るか。

気にすることではないかもしれない。


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