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使役クラスができた理由です。


「その魔王は人を殺す”毒”をダンジョンに仕込んだんじゃろう。100階層に育てば深淵アビス化するという”毒”を。じゃが、それは完全なものではない。おそらく複数のダンジョンが100階層にならねば本当の深淵アビスにはならん。今はまだ南のダンジョンの一つしか深淵アビス化はしとらん」

ボードに書かれた下の一つにバッテンをつける。

あと3つ。

それがこの都市にかけられた残り時間なのだ。

「東と西は上級冒険者たちによって攻略が進められている。これには騎士団も参加しておる。おそらくなんとかなるじゃろう。……問題は北じゃ」

学園長は上のダンジョンに丸をつける。

今一番問題だとされているダンジョン。冒険者から嫌われ、攻略が進んでいない場所。


「ここの探索を君たち”使役”クラスにお願いしたいのじゃ」


言い切った学園長に、生徒たちは目を丸くするだけで何も言葉を発することができなかった。

当然だ。

上級冒険者がやるような深層の攻略――命がけのダンジョンダイブなど、学園に入ったばかりの新人冒険者には荷が重すぎるのだから。


「ふむ。なに、時間はまだある。急いで潜れと言うわけではないぞ。ただ他のダンジョンではなく、ここを重点的に回ってくれという話しなのじゃよ」

「……なぜ、おれたちに言うんだ?他の冒険者でも潜れるだろ?」

「もちろん他の冒険者にも潜ってもらう。しかしこのダンジョンの『半減』ルールがかなり重くての。浅層ならまだしも、中層ともなれば魔物との力の差もかなりのものになる。正直生身ではとても攻略などできぬほどに差が開くのじゃよ。けれど君らは違う。君ら自身はルールを受けるが、『使い魔』はそのかぎりではないのじゃ。このルールはおそらく人間を苦しめるためなのじゃろうな。ゆえに抜け穴も用意されておる。『使い魔』が使える君らならば完全攻略は不可能ではないはずなのじゃ」

使い魔には半減ルールが効かない。

魔物が集団暴走スタンピードでダンジョンの外にでても倍のステータスにならないように、入る時にも魔物などは半減を受けないのだ。

魔物を使えるならば攻略はできる。

そうか。

だからそういう生徒を集めたのだ。

ぼくに《精霊召喚》があるように、精霊や魔物、竜に屍鬼を作る能力者なんかも集めた。

転生魔王は魔物召喚系の能力をおおく持っていた。だからそういった能力で人を集めた場合、多くの転生魔王が一つのクラスに集まってしまったのだ。


……このクラスの潜在能力は計り知れない。

ぼくが《魔王技》を持っていたように、ここにいる転生魔王たちは魔王のみに許される戦技や魔術を所持して転生してきている。

彼らが本気になればやっかいな北のダンジョンでも攻略していけるはずなのだ。


「もちろん報酬も用意しておる。完全攻略ができたなら金貨にして50枚…500万Gじゃ。これを一人一人に渡す用意があるぞ」

おーという歓声が上がる。

一般的な平民の年収の10年分以上の金額である。無茶な使い方をしなければこれだけで当分食べていける大金だった。

「初めはダンジョンに慣れることを重点にするとよい。無茶は禁物。なんならボスはクラス全員でかかっても良いくらいじゃな。安全には十分気をつけるのじゃ」

すでに学園長の中ではぼくらが潜ることが決定しているような話しぶりだった。

けれどきっと生徒たちは潜るのだろう。

他の冒険者にはできないが、自分たちなら活躍することができるというのは自尊心をくすぐってくれる話だったし、やはり報酬の多さも後押ししてくれていた。

もちろんこのダンジョンを攻略することで救えるものがあることもだ。

ダンジョンが育ち深淵アビス化すればここに住む人々が穴に呑み込まれることになる。

それを阻止するためにも、誰かがダンジョンを攻略しなくてはいけないのだから。


ぼくはパーティーの仲間たちへ眼を向ける。

「…どうしよっか」

「潜るわっ!」

「うむ。”ひとまずやってみる”は無謀ではないな」

潜る気まんまんだった。

「というかセビは召喚系スキルないよね?、潜っても弱くなるしかできなくない?」

ぼくもたいがいだが、それ以上に戦力になりそうにないのだが。いいのだろうか。

「む。パーティーなのだから共に行くぞ。それにシーダもおる。できないことはないだろうよ」

「いやいやいや」

どこからそんな自信がくるのかわからないが、セビはぼくといっしょに盾でも持っていた方がいいように思う。

ともあれ、どうやらぼくらのパーティーは北のダンジョンに行くことを躊躇してはいないようだった。


「みなが勇敢で頼もしい限りじゃな。活躍に期待しておるよ。しかし危険なことにはかわりないダンジョンじゃからな。安全第一で行くのじゃぞ。あと今回のことはまだクリアクロアの民には知らせてないことじゃ。ここにいる者以外には口外せぬようにな」

学園長の話はそれで終わりらしく潜る時の注意点を言って教室から出て行った。

「というわけコン。この話は内緒コン。言うと街がパニックになるコンよ。けっして口にしないようにコン。では解散コン。早く帰るコンね」

狐教師もいなくなるが、帰れと言われても今の学園長の話は衝撃的だった。生徒は誰一人帰ろうとせず、今の話題をわいわい話し合っていた。

ぼくは彼らを尻目に一人考え込んでいた。


北の学園に転校したかった。

けれどこうなっては話が変わって来る。

ぼくがいなくなればパーティーは二人?だ。セビとアメリアは解散してそれぞれ別のパーティーに入れてもらうかもしれない。

それはそれでいいけれど、彼らは北のダンジョンを攻略できるだろうか。

できない――とは思わない。

それはぼくがいてもいなくても同じだろうか。

ぼくはどうする?、どうしたいのか。


昨晩セビとアメリアはぼくに言った。金を稼げ、と。

これはチャンスなんじゃないだろうか。

ダンジョンにはどのみち潜らなきゃお金は稼げない。なら潜るついでにもし完全攻略できたなら大金が手に入る。一石二鳥のことに思える。

その意味でも潜ることは悪いことではなかった。


「グーグ、どうするの?」


「グーグ君、君はどうするのだ?」


「……潜るんだよね?」

ぼくの質問に二人は当然という顔をしている。

ならぼくも決める。

ぼくとパーティーを組んでくれた二人だ。戦闘スキルも魔術もろくに持っておらず、召喚魔術では何の役にも立たない精霊もどきと契約しているぼくと。

彼らはぼくが頼りなくても文句も言わない。ぼくをないがしろにすることもない。正直そんな仲間は今後もできないかもしれない。

セビ

アメリア

あと一応シーダさん


ぼくは彼らをほうっておいて一人だけ北の学園に行くことなんてできない。

ぼくの心がそう言っていた。


「いいよ。潜ろう。二人が危ないことしないか心配だもの。北の学園へはダンジョンが攻略できてから行くことにするよ」

それがぼくの決定だった。



※500万G ⇒ 5000万円相当





「(おい、聞いたか?500万Gだってよ!)」

「(まじかっ!ちくしょうっ何でおれたちだけのけものなんだっ!?)」

「(しらないよ~、ぼ、ぼくたちもたのんでみよ~)」

それは指名されなかった6人のうちの1パーティーだった。

3人の男子。それぞれチビとデブとノッポである。

彼らは国の選別でこの学園に呼ばれはしたが、その力を国のために役立てようとは思っていなかった。いや、それどころかさっさと退学にでもなり、家に帰って家業を継ぎたいと思っていた生徒たちだった。

「(しっかしめんどくさそうだぞっ…。500Gのために命変えるんじゃっ割りにあわねーだろっ)」

「(で、でもみんなでやるならいけるんじゃないかな~)」

北のダンジョンのボス部屋は他のダンジョンと違って参加できる人数制限はない。

なので人数を集めることで突破するという方法が使えるのだ。

「(そういや北のダンジョンは制限ないな)」

「(へへっ、それいいな。こそっと混ぜてもらおうぜ)」

ほとんど何もせず、パーティーに入っているだけで一人500万Gがもらえる。戦闘は他の戦えるやつらにやらせればいいのだ。何もぼけっと突っ立っているわけじゃない。パーティーには荷物持ちや地図係マッパーだっているのだ。そういった非戦闘系協力者になればいいのである。

「(なら、どこに入れてもらうか…)」

強くなって教師に頼みに行くのではなく、今教室にいるパーティーの中に入り込もうと言うのである。

「(女子パーティーがいいな~)」

「(ばっかおめぇ、どうやって入るんだよ)」

「(デーヴなら女装でいけるな)」

「(えへへ~)」

「(おれらはどうすんだってのっ)」

「(自分は貴族の伝手でなんとかできるな)」

「おい」

声を出したチビを二人がおさえ、しゃべらないように手でジェスチャーを送る。

「(まぁ冗談だ。デーヴの女装はさすがに無理だ)」

「(え~?)」

「(だろうな。で、そうなるとあとは魔王の所と無難なのとザコいところだなっ)」

「(魔王は無理だろう。魔王しかパーティーにいないらしいからな。まぁついて行くだけっていうなら魔王の手下になればいいのかもしれないが…)」

配下を募集しているようなことを言っていた。が、配下というのは確かいっしょに戦う部下のことだ。きっとダンジョンを攻略した後も配下でいなくてはいけないのだろう。金をもらったらさっさとおさらばしたいので配下は嫌だった。

「(なら無難なのとザコいのだなっ)」

「(無難なところはきちんと冒険者みたいなことしてるそうだよ~。休日も連携の訓練するって~)」

「(まじめなこったっ)」

そうなるとあとは一つしか残っていない。

「(ザコいのか)」

「(そうだね。あそこのパーティーは男子二人が使えなくて女子が強いだけだから。…もしかすると自分たちが活躍しないとだめかもしれないな)」

「(あそこ…女子かわいいよなっ)」

そのパーティーには女子が二人参加している。

気の強そうな赤毛の女子と、よくわからない黒い姿の女子だ。

少しくせの強そうな二人だが、外見だけは美少女の部類と言っていい。

「(活躍すれば、女子と仲良くなれるかも~)」

「(うっせっ、お前じゃ無理だなっ。……でもそれもいいな)」

頼りない男子二人を荷物持ちにして自分たちがパーティーの中心になる。

パーティーに入れたのなら実現可能な案に思えた。

「(……悪くない)」

「(男子しかいないパーティーよりやる気がでるね~)」

「(いいけどね。本当に攻略を目指すなら大人の冒険者雇った方がいいよ。貴族の伝手で)」

「(はいはい。伝手伝手)」

「(平民にはわからないさ)」

「(へっ。平民とつるんでるやつが何か言ってるっ)」

「(うるさいよ平民。自分が歩み寄ってあげてるんだ)」

「(そろそろ終わりそうだよ~)」

「(うん。離れよう)」

「(へへっ、にげるぜ~っ)」


そうして三つの影は放課後の校舎に消えていくのだった。




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