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学園長の話です。


さて。

昨日の仲間からの提案を先延ばしにしてぼくは今日も学園である。

授業はまったり進み、ぼくの心を癒してくれる。

やはり日常に身を置くことが一番んお清涼剤となっている。

昨日はいろいろあったからなぁ…

戦闘に巻き込まれたことも、そのあとセビたちと話したことも。

整理したいことがらが多くて気疲れしてしまっていた。

だからこそ日常ののんびりした時間に癒されるのだ。



「授業は終わりだコン。でもこのあと話があるので今から言うパーティーは残るコン」

狐教師にいくつかのパーティーが呼ばれたあと、最後に「アメリアのパーティーコン」と言われる。実質リーダーをしているぼくではなく、アメリアを指名しての呼び出しだった。


残った生徒たちはワイワイ雑談をしながら何の用なのか相談していた。

「残ったのは魔王のパーティーと女子のパーティー、ゴーレムのパーティーと、それに竜のパーティーか」

魔王パーティーは自称魔王4人組のパーティーである。結局彼らは魔王同士でパーティーを組んだらしい。誰も配下にこなかったということだ。

女子のパーティーは恋愛魔王を中心とした女子13人のパーティーだ。クラスの人数が30人。内女子が15人なのでほとんどの女子が加入していることになる。

ゴーレムのパーティーはゴーレムの使い魔を持つ生徒を中心にした4人組のバランスの良いパーティーだ。グール使いのキースも所属している。

そして竜のパーティーはぼくらだ。戦力としては確かにアメリアだけが突出し、あとはオマケのようなパーティーである。


総勢24人。

残らなかったのがたった6人と、あまり意味がない居残り宣告である。

「このメンバーで何をするんだろうな。我らがいることを考えれば戦力を求めてのことだと思うが…」

自称魔王のガードナーがぼくにチラリと視線をくれる。

「それはぼくが戦力外だってことかなぁ?」

「ふ、自覚はあるようだな」

これは彼のいじりである。最近は仲もいいのでこんなことを言われても悪意を含んでいないことがわかっている。

正直いつものやりとりである。

「ガードナーたちは結局魔王同士でパーティーを組んだのか。魔王四天王みたいな感じだね」

魔王の配下の四天王ではなく、魔王が安売りされた結果の四天王である。がっかり感のたたき売りである。

「ふ、ぬかせ。我は魔王において最強。文句があるならばいつでも相手になろう」

自分で最強と言っているが、確かに魔王四天王の中では使い魔のランクが一番高かった。強いと言えば強い。

そして女子のパーティーは数が多いせいもあって戦力としてもかなり強いらしい。なにせ使い魔がそれぞれに一体ずついたとしても総数26個体いることになる。生徒だけがスキルを使えたとしても13人がスキルを使ってくるのだから魔物もたまった物ではないだろう。

それにゴーレムのところとぼくのところ。

戦力のあるパーティーという予想は間違っていないように思える。


「待たせたコン。みんな席につくコン」

そう言って教室に戻ってきた狐教師は一人の老人を連れていた。

「こちら学園の学園長コン。今日は学園長から話があるコン」

「うむ。よろしく。さて生徒諸君。みななかなかに研鑽を積んでおるようで喜ばしく思うぞ。さてそのうえでみなにはわしからの”お願い”があって来たのじゃ」

学園長とよばれた老人は早々に話を始めた。

「まず昨日の北のダンジョンからあふれた魔物の集団暴走スタンピードを知っておるかな?」

生徒たちは思い思いにうなずく。

「よし。これには原因がある。なにかわかるか?」

「…北のダンジョンの特性です」

一人の生徒がそう答える。

「そうじゃ。北のダンジョンには『半減』の減算魔術がかかっておる。ダンジョンに入る者のステータスを半分にするやっかいなモノじゃ」

「でも…」

「そうじゃな。もちろんその見返りなのか、他のダンジョンにはない特典も用意されておる。5の付く階層ごとにレア種と呼ばれる魔物が現れるのじゃ。レア種に選ばれた魔物は何らかのアイテムをドロップする。これが良い値段で取引され、金の欲しい冒険者には半減されてでももぐりにくる理由となっておる」

レア種に選ばれる魔物はその近くの階層の中からランダムで選ばれる。ドロップはその魔物に縁のあるアイテムが落ちる。たとえばしょうゆバッタならドロップ品は希少な調味料やベルト型防具といった感じらしい。

「しかし最近は値崩れもしてきておるからな。ダンジョンとしてのうま味も少なくなったのであろう、北のダンジョンに潜る冒険者は少なくなっておる。ゆえに先日の集団暴走スタンピードが起こったのじゃろう」

もぐる冒険者が少なくなれば集団暴走スタンピードがおこる。ダンジョン内に沸く魔物を適時減らしていなければ外にあふれるのもしかたのないことなのだ。

「このように北のダンジョンは不人気ダンジョンとなっておるのじゃが…ことはそれだけで収まることでなはいのじゃよ」

学園長は教室のボードに四つのダンジョンを描いた。

「今3つのダンジョンと入場規制をしている1つのダンジョンがある。この1つのダンジョンはなぜ入れぬのか知っておるか?」

「攻略されたと聞きました」

本来ならダンジョンはダンジョンボスを倒しても終わりにならない。けれどこの都市の4つのダンジョンは”造られた”ダンジョン。ゆえに階層も深く、最深部のボスを倒せば攻略したとしてダンジョンとしての機能を失うという話しだった。

「そうじゃな。そういう話しになっておる。けれど実際は違うのじゃ。この1つのダンジョンはな、100階層を迎えた時点で深淵アビス化したのじゃ」


深淵アビス


それは過去に聞いた言葉。


最南端の大地には地獄の窯がある。

それはどこに通じるともわからない、最悪の大穴――深淵アビス

過去に”悪魔”と呼ばれる生命種すべての大敵が湧いて出たと言われる混沌に通じる穴だった。


それがこの地、迷宮都市のダンジョンの一つが通じたと言うのだ。


深淵アビスだと?、ばかな。あれは魔族領にしかないものだ。ダンジョンが育ったとて地獄にはならんはずだ」

ガードナーが険しい顔でそう反論する。

「そもそも、ダンジョンは普通そげな階層にならないどん。ここは造られたダンジョンだから深くなるのだろうけどん、けっどまがい物のダンジョンどん」

「そうよ。ここは普通にできたダンジョンじゃないわ。魔物への魔素の供給も少ないって聞くし、そんなこわいところじゃないはずよ」

「そうじゃな。本来ならそのはずじゃった。…いや、そうだとわしらが思っとっただけなのじゃ」

学園長は一同を見回した。


「ここ西都クリアクロアは人が『魔王』を捕縛し、『魔王』に作らせた人造のダンジョンじゃ。ゆえに魔物は階層を上がってもそう強くはならんし、他のダンジョンと違う面白い要素も加わっておる。しかしそれはあくまで偽装だったのかもしれん。このダンジョンを造った『魔王』は――人を憎んでおるからな」


東西南北にきれいに分かれるようにダンジョンを配置し、10階層ごとにボスを置き、出入りできるゲートを設置し、宝箱という見てわかるボーナスを配し、ボスを倒せば完全攻略クリアという遊戯要素を加えた。


そう造らされた。


人に捕まり


閉じ込められ


永遠の労働を架せられた魔王。


魔王歴で一番長く生き延びた魔王は、皮肉にも人に捕まり自由を奪われた魔王だった。


名を遺したものはない。


無名の魔王である。


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