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だめだしされます。


「ぼく、北のイディア学園に転校するかもしれない」


酒飲み会場となった慰労会を辞して春のあたたかなよるの道を学園の寮へと戻る道すがら、ぼくは3人に向けてそう伝えた。

「何?、北?転校?」

「え?どういうこと?」

二人の動揺が手に取るようにわかる。

ようやくパーティーを作り、そしてこれからいっしょに行動しようという矢先にこんなことを言いだしたのだ。

二人には申し訳ないことをしようとしている。だからぼくは、できるかぎりの説明をしようと決意していた。


「まず…ぼくは転生者だ。『魔王』の転生。魔王のスキルを持ち、魔王だったころの知識を持って人間に生まれたんだ」

「グーグ君…」

「うそ…」

口をぽかんと開けている二人にぼくは説明を続けた。

「ぼくは山で産まれた。そこはトロールが生息する場所でね、ある夜にトロールがぼくのいた村を襲撃してきたんだ。ぼくは家族を守るためにスキルを使ったんだ。”魔王技”っていう魔王だけが持っているスキルを。そのスキルでトロールを倒したんだけど……スキルを持っていることが問題になっちゃってね。その山にいる神様みたいな存在にぼくのスキルを別の物に交換するって言われたんだ」

「…待つのだ。ちょっと待つのだ。少し考える時間をくれ」

「……魔王技…」

だいぶ混乱している二人のためにしばらく待つ。彼らは咀嚼できたことを少しずつ聞いてくる。それにもう一度答えながらゆっくりと話を進めて行った。


「トロールを倒したのは何歳のころだったのだ?」

「ええと、1歳かな?。まだハイハイしてたころだから」

「……」


「魔王技ってどんな技よっ」

「え、その、空間を圧縮するような技かな。《災歌》っていうんだけど…」

「魔王サーディア様っ!?。ファンですっ!わたし魔王ディアスピアですっ!」

その魔王は知らないけれどアメリアが爆弾発言しているのはわかる。

「…とりあえずアメリアの話はあとまわしにしよう」

「はいっ!」


「神とは何だい?。星神かな」

「ちがうよ。龍だよ。黒龍。知識とか魔術とかすっごくてね、ぼくのスキルを交換する魔術を知ってたんだ」

「黒龍の、どれ?」

めずらしくシーダさんが質問してくる。

「どれって…?」

「美女?」

「老人だったけど…」

「ふーん」

ふーんて。


「よし、余はだいたいわかった。気がする。続けて平気である」

「ふんっ、問題ないわっ!」

「ん。」

ぼくはみんなの準備が整ったので続きを話すことにした。


「神…龍はぼくの中の二つのスキルを他の子供のスキルと交換したんだ。《災歌》はドワーフである女の子の持っていた《鍛冶》と。《魔物召喚》はエルフの女の子が持っていた《精霊召喚》に。だから僕は鍛冶ができて精霊を呼び出せるんだ」

「あの《鍛冶》はそうだったのであるな」

「精霊呼び出せないじゃないっ」

まぁそうだね。精霊じゃなくて妖怪だね。しかもほっとくとすぐ死にそうになる溶解だね。妖怪だけにね!

「……その時とっかえたせいでぼくは魔術系スキルがほとんど使えなくなっちゃったんだけどね。唯一使えるのが《錬金術》かな。話をもどすよ。

それで、またしばらくして3歳のころかな。ぼくのいた村が冒険者を雇ってトロールを倒そうとしたんだ」

トロールとの生存戦争である。山は年々実りが減っていた。果実の野菜も、肉となる動物たちも。食べ物が少なくなればその食べ物を獲る他の生物との争いになる。それがトロールだ。

あの山では遅かれ早かれ、トロールか人かのどちらかしか残れなかったのだ。

「戦いになっていろんな人が亡くなって…。うん。亡くなってね。最後にぼくも殺されそうになったんだ。それを助けてくれたのがぼくから《災歌》を受け取った女の子だったんだ。彼女は《災歌》でぼくを助けてくれた。けれど《災歌》一回じゃトロールを倒しきれなくて、《災歌》を二回撃ったんだ」

「へぇ、すごいのねっ!サーディア様のスキルならトロールなんて余裕なのね!」

「違う。…本来二回撃てないはずなんだ。魔王技にも準備時間はあるよ。”技”スキルと同じように、たぶん一時間の準備時間がある。それに使うのに魂を削られるから二回撃てば魂がかなり削られることになる」

本当はできないはずの行使。理由はわからないが、ナーサは使うことができた。

思いつくのはストッパーの不在だ。『準備時間』とはスキルを使う上で、体を傷めないために設けられた安全弁ストッパーである。けれど生来のスキルでなかった《災歌》のストッパーはぼくの中に残ったまま、スキルを受け継いだ彼女に付けられていなかったのだ。

ならぼくのもらったスキルにもストッパーが存在しない可能性がある。

まぁ《鍛冶》や《保存》のストッパーが何かなんてわからないけれど、どうでもいい感じではある。

「そんなスキルを彼女は撃ってしまったんだ。だからなのかわからないけれど、その後彼女に異変がおきたんだ」

「異変…?」

「そう。闇が…泥みたいな闇が彼女を呑み込んだんだ。泥は彼女からあふれて、そこにあったものを呑み込んだ。全部呑み込んで湖になった。生き残ったのはぼくだけだったんだ。…ぼくは魔王技の持ち主だから、魔王技で湧きだした泥には呑まれなかったんだ」

「なんでそんなことに…?」

「わからない。魔王技を撃つための代償が払いきれなかったからなのか、それとも連続で使ったことで『魔王技』に不具合が出たのか…そもそも『魔王技』が何なのかさえ、ぼくは知らなかったんだから」

世界のスキルを設定したのは星神である。けれどぼくら『魔王』はその星神に反旗をひるがえした存在だ。星神がそんな存在のためにスキルを用意するだろうか?。

普通ならそんなことはしない。自分を害するためのスキルを敵のために作らないし与えない。なら、このスキルは誰が作ったのか。

――星神に仇なす者


根源の獣


この世界を造るために星神に元素を奪われた被害者であり、ぼくら魔王を扇動するモノ。

きっとそれが魔王技を作ったのだ。


「…彼女からあふれた泥はぼくの村だけじゃなく、山の下のものも呑み込もうとしてた。だから龍はその泥をブレスで焼き払ったんだ。聞いたことは無いかな?7年前に北西のハルパスト領の連峰で山の一角が削り取られたことを。あれをやったのが黒龍だよ。そしてその削られた場所にあったのがぼくの生まれた村さ」

「知ってるわ。商人の間でも話題になってたもの」

「余も聞いたことあるぞ。黒い雪が降ったとも聞いたな」

「そうだね。一面が黒かった。ぼくはそこでエルフに助けられたんだ。ほら、ぼくのスキルの一つを交換した子のお父さんに。それからはぼくはエルフの家族に預けられて育てられたんだ」

あまり育てられたという意識はない。むしろダメダメな師匠をぼくが養っていたという気もしなくもないが。

「エルフとな。そういえばこないだクラスにエルフが来ていたな」

「あぁ、それは義姉さんだね。義姉さんはぼくのスキルの《魔物召喚》を持ってるね。それに戦闘スキルも高いから学園に通ってるんだ」

「そうだったのね!、ふ、ふんっ。義姉だったのねっ!」

「う、うん。それでその義姉から最近教えてもらったんだけどね。ぼくのスキルを持つもう一人の女の子…彼女が北の学園にいるらしいんだ」

「北の…待つのだグーグ君。それは魔王技を持つ子のことか?、その子が生きていたと言うことかな?」

「うん。生きていたんだと思う。…学園には通ってないみたいだけど、彼女はきっとどこかで生きているんだと思う」

「だから北の学園に転校するというわけなのだな」

ぼくはそうだね、と答えた。

「…探すのっ?」

「うん。探しに行きたい。養父も探してるけど見つからないみたいだから、ぼくも行こうと思う」

二人は沈黙する。

死んだと思われていた大事な幼馴染をぼくが探すために北の学園に転校する。

そうわかってしまっては止めることも罵倒することもできないのだろう。


「……うむ。理解した。グーグ君」

「なに?」

「それは間違った判断であるな」

セビはばっさち切り落とした。

「ええ…」

「うむ。貴族の身から言わせてもらえば平民が一人行ったとしてなんの役にも立たないであろう。むしろ時間の無駄である」

無駄…はっきり断言されてしまってぼくは少なからずショックを受けた。

「…グーグ、わたしも言うわ」

「う、うん」

「お金を稼いで人を雇いなさい。商人ならそうするわね」

「…………」

ここでもバッサリだった。

「情報は商品よ。そして人もお金で買えるわ。今その子のことを探すのに何がどれだけ必要なのか、どんな伝手が必要なのかまるでわからないのよね?」

「うん」

「だったら一番確実なのがお金よ。それはたいていどんな形にも変えられる。道具にも、人手にも、貴族との交渉にもね。その準備をせずに北に行っても、きっとどっちつかずなことしかできないわ。時間の無駄よ」

やっぱり時間の無駄だった。

だいぶショックが大きい。

まさかセビとアメリアからダメだしされるとは思っていなかった。

けれど彼らはぼくの知らない知識を持っていた。『貴族』であったり『商人』であったり。かれらはそんな立場からぼくの行動を俯瞰して教えてくれているのである。

「…そ、そうとも限らないよね。お金なら北の学園で稼げばいいし、人手も探せるだろうし、伝手だってできるかもしれないじゃないか」

「今の環境ほどのものはないであろうな」

セビは断言する。

「うむ。まぁ言ってしまえば、余はイズワルドの第二王子であるから。これ以上の貴族の伝手はあるまいよ」

また何か爆弾が投下されていた。

おかしいな。ここは爆心地だったかなぁ。

「その貴族の伝手と大商人の娘との縁、金を稼ぐのに最高の環境である”ダンジョン都市”。これ以上の環境が北で用意できると思うのであるかな」

「…………」

ダンジョン都市は西の経済の中心である。ダンジョンはいろいろなモノを人にもたらしてくれる。金、経験、ドロップ品。ここは一攫千金を目指す冒険者にとってすばらしい場所なのである。

「てか、何で第二王子がこんなところにいるのさっ!。貴族はたいてい中央の学園に行くって聞いたよ!」

イズワルド王国の首都にも学園があり、そこは貴族専用に授業が組まれているらしく上流の貴族の子息子女はこぞってそこに通うのだという。

ならこの国の王子であるセビもそこに通うのが王道だろう。

「うむ。まぁ、昔少しやらかしてしまってね。王位継承から外されてしまったのだよ。島流しみたいなものだな」

何をしたのかわからないけれど、それで本当に伝手があるのだろうか。

ぼくのじっとりした視線に気づいたのか、セビは慌てて弁明する。

「大丈夫であるよ。王族であることには変わらないのだから、たいていの貴族は余の願いに否とは言えぬのであるからな」

それもどうなのという気がするが。

ただ、確かにセビの言うように考えるとここが最良の環境のように思える。


セビがいる。

なんと驚くことに第二王子らしい。

アメリアがいる。

大店の娘らしく、商人としての知識がある。

そしてなによりここには


ダンジョンがある。











「ところでグーグ、このあと暇かしらっ」

「う、うん。疲れたから休むけど」

「そう!わたしと話さない?あなたの昔のことを聞きたいわっ!特に魔王時代のことを!」

「いや休むから」

「いいわよ!わたしの隣りで休ませてあげるっ!」

「いや自室で休むよ」

「わたしのベッドは大きいから二人でも休めるわっ!」

「隣りってそういうことかよ!やだよ、一人で休むよ!」

「でもまだ子供のできるようなことは早いと思うの」

「セビ、アメリアが壊れた」

「だから今日はいっしょのお布団でお話するまでだからねっ!」

「セビ、どうしよう!」


「爆発すればよいと思うぞ」


色々とつらい目にあったグーグ君は自信を失くし内向的になり一人称が「ぼく」になりました。等身大の少年になっている感じです。

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