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集団暴走です。


「おかしい…危なくなったら逃げるって話だったはずなのに…」

集団暴走スタンピードが起こった時点で街は安全ではなくなった。なので逃げることは宣言通りだと思うのだが、彼らの中ではあの流れなら参加するのが当然ということらしかった。

あのあとアメリアにぶんなぐられ、へばっている所を数人がかりで運ばれギルド召集の班分けに参加させられてしまった。

理不尽である。

「絶対怖い目にあう…ヒーヒー言うことになるんだ…」

「ふんっ、もっとしゃっきりしなさいっ!」

アメリアに肩をはたかれ弱音を吐くことさえできなくなった。

そうして一同が静かになったころを見計らい、ギルドの職員が組み分けされた”班”を発表していく。 


「ここからここまでのパーティーは1番通りへ。ここからここまでが2番通りへ。ここからここまでは4番通りへ。あとは5番通りに向かってくださいっ」

ざっくりしてた。

戦力で分けるのではなく、大体の人数で道を封鎖する計画だった。

3番通りとなる中央への大路はすでに上位の冒険者が向かっている。今ここにいる者たちにはそれ以外の小路を任せるらしい。

ぼくらは4番の通りの担当になったので他の冒険者に交じって移動を始める。


「おうガキンチョども。そんな装備で大丈夫か?」

同じ4番通りを目指している30代くらいのおっちゃんがぼくらを見て声を掛けてくる。

装備も何もほとんど何も装備していない。ぼくとセビは短剣と木盾を、アメリアに至っては武器しか持っていなかった。

他を見れば確かに体に胴鎧や腰当、腕に籠手、すねに脛当てをつけている。

どう見ても防御が足りていなかった。

(…買っておけばよかった)

後悔しても後の祭りである。

できる範囲でしかEランクの魔物を狩ってこなかったせいで冒険者としての装備がおろそかになっていた。

彼らと比べると自身の格好は恥じ入る思いである。

「…できるだけ、後ろから援護します」

「おう、そうしてくれや」

ぶっきらぼうに言われる言葉は、しかし優しさなのだろう。

ぼくらのようなひよっこに恐慌をおこした魔物との戦闘は荷が重すぎる。できるだけ後ろで怪我しないようにしていてほしいのだ。

(やっぱりぼくたちが冒険者に交じるには早すぎたよなぁ)

ちらりと後ろを見ればセビもそのことを感じている様子だった。アメリアはいつも通り怒って見える。平常運転だ。


到着した場所ではすでに兵士たちが防衛線を構築していた。樽や木箱、土嚢を積んで魔物が一気にやってこないように制限している。

少しづつ入り込んでくる魔物を少し開けた場所で囲んで倒していた。

「気をつけろ、壁や屋根からもやってくるっ。最悪家を壊してもいいっこのあたりの非難は終わっているっ」

冒険者たちはすぐに兵士たちに加わる。

変わって兵士たちの一部が下がり、少しばかりの休息をとるようだった。

ぼくらは言われた通り道の後ろでキョロキョロと辺りを見回していた。

前を守る兵士、冒険者たちを抜けてこられる魔物はいない。

壁を通るものも弓や魔術で落とされる。

魔物の数は多いが強さはそれほどではなさそうだった。


「こないわねっ」

「そうだね。これならぼくらが戦うことはなさそうだね」

「…そんなことはないわっ。いつ魔物が現れてもいいように気を引き締めなさいっ!」

ぼくとしては早々に裏方仕事に徹してもいいと思うのだが、アメリアはきちんと冒険者としての仕事を全うしようとしていた。

この小路は幅が3メートルほどある。今はそこにタルや木箱などの障害物を置いて道幅をせまくしていた。

魔物たちはそこになだれ込むように突進してくる。

箱を抑え、魔物が一度の大量にこちらへ来ないようにしつつ横を通る魔物に攻撃を繰り出している。

一度の攻撃で止められなかった魔物たちが自分の頭上を、横を通り過ぎていく。

彼らはその魔物たちを追いかけることなく、次々にやってくる魔物に刃を繰り出すのだ。

そんな木箱がいくつもある。一つ目で止められなければ二つ目に。二つ目で止められなければ三つ目にというように、やってくる魔物たちの数を少しずつ削っているのである。

そして最後に待つのが小路の先の少し開けた広場である。広場の入り口は兵士や冒険者たちによって包囲され、一匹も逃さないという決意のもとに魔物たちを狩っていた。

未だその包囲を抜ける魔物はいない。

広場の後ろの方にいるぼくたちには戦いに参加する機会はこのままないだろうと思う。

「イアンがやられたっ、だれか回復魔術を!」

「矢がないぞっ、石でもいい、投げる物をくれっ」

「まずい、ファイアハウンドだっ、ここで止めるぞっ、いち、にの、さんっ!」

前線は目の回るような忙しさと綱渡りのような連携で成り立っている。

その姿勢…後姿は、ぼくのような安全主義者の心にも少なからず熱を注いでいた。

「…ねぇ、やっぱり裏方の仕事を手伝うよ。ぼくは戦闘に参加する余地、手伝いしてたほうがいいと思うから」

「……わかったわ。でもわたしはここにいるから」

アメリアは前に目を向ける。

彼女にはまだ戦う機会がない。けれどその視線はすでに戦闘に参加している者の目をしていた。

「うん。アメリアはここをお願い。アメリアがここの最終ラインだ。君にぼくらの安全を預けるからね」

「ふんっ、上等よっ!」

「…セビ、ぼくらは裏方を手伝うよっ」

「しかたない。余もグーグ君の提案にのるとしよう」


ぼくとセビは連れ立って後方の雑事をしている兵士に話しかけた。

「仕事を手伝うって?、おう。いろいろあるぞっ。ポーションや食料の買い出し、周辺住民の非難誘導、水の備蓄や木箱の作成もだ。お前ら何ならできる?」

セビと顔を見合わせる。

「…買い出しなら」

「木箱なら作れそうであるな」

兵士はぼくらを見て納得したように頷いた。

「男なら力仕事を頑張れや…。まあいいや。とりあえず木箱作るの手伝ってくれ」

「はい…」


木箱を作るのは得意分野だった。

と言っても鉄鎚を使い慣れているだけだが。


「ふぅ、ふぅ、6面作る必要はあるのだろうか?いらんだろう。阿呆ではないのか」

釘を打っていたセビが疲れた右腕を休めながら悪態をついている。

「かくれる場所が欲しいなら底面はいらないよね…5面あれば十分じゃないかな」

「おい、子供ども、そんなことはないぞ。木箱であれば転がして移動することができる。防衛線をあげたいときや下げたいときにすぐ対応できるんだぞ」

同じように木箱を作っている兵士が教えてくれる。

少しでも作業を手抜きできないかと考えるが、やはりダメらしい。

箱の利点はどの面を下にしても同じだけの空間遮蔽力があることだった。土嚢より軽い代わりにもろいが、移動しやすいと言う利点がある。もちろん軽いだけでは不十分なので土嚢なんかと組み合わせて使うらしい。

すごいんだなーと感心する。

が、すぐ後に前線から壊れた木材を持った兵士がやってきてぼくらのいる広場にドサッ、と投げ捨てて行った。

「壊れたぞ!もう少し頑丈に作れ!」

それだけ言ってその兵士は前線に走って行ってしまう。

ぼくはさっき教えてくれた兵士に視線を向ける。

「……まぁ、強い魔物相手にはあまり有効ではないこともあるがね」

Cランク暗いの魔物の体躯でぶつかられたらすぐに壊れるだろう。この箱で止められるのはEランクやDランクの内の軽い魔物だけだろう。

それでもぼくらは箱を作らなきゃいけない。壊れた分は補充しなければいけないからだ。


「くそっ、矢が足りないぞっ、矢はないか?鉄でなくてもいいっ」

弓を持つ冒険者が二人、広場にかけてきた。

長丁場となり撃っていた矢弾が足りなくなりはじめたようだ。

けれどここにもない。保管されていた矢はすでの方々へ配られてしまっていた。

「矢か…店にももうないだろうしな。作れればいいのだが、今からではなぁ」

通常の矢は三つのパーツからできている。矢じり、軸、矢羽根の三つだ。

作るにしてもここには木材と釘しかない。

――いや、木材ならあるのか。

「…兵士さん、あの壊れた木箱ってっどうするんですか?」

ぼくはさっき他の兵士が捨てて行った木箱の残骸を指して聞いた。

「ぬ、あれは使えそうなら箱に使うが、折れた部分は捨ててしまうぞ」

ならいいか。

ぼくは木箱だった山の前にしゃがみこみ、手をあてる。


<鍛冶:木⇒   >


よし、出るな。

「《鍛冶》たくさんの木矢」


<鍛冶:木⇒木矢>


触れていた木材が輝きだし、次々に形を変えていく。

輝きが消えたその場所には、壊れた木箱ではなく大量の木製の矢が転がっていた。

「できた」

「…グーグ君、これはいったい?」

「おい少年。すごいな。《鍛冶》と言ってたが、まさか職業スキルの《鍛冶》か?。こんな使えるスキルだったか…なぁ、もっと矢を作れるのか?」

「無理ですよ。職業スキルは一時間の準備時間がありますから、次に作れるとしても一時間後です」

「一時間か…それだけあればこの集団暴走スタンピードは終わってるだろうな」

ぼくらが到着して15分。すでに魔物の勢いは衰えつつある。

作られた矢はすぐに兵士や冒険者たちに渡されていく。

再び防衛線が活気づくのを尻目に、ぼくたちは木箱づくりにもどろうとした。

けれどそれをアメリアの声が妨げた。


「グーグっ!来るわよっ!」

来る?いったい何が。

ぼくが振り返るのと防衛している兵士たちが吹き飛ばされてくるのは同時だった。

「水っ!?」

路の先から高さ1メートルくらいのかたまりになった水壁がいろんな物を含みながら流れてくる。

中身の入っていない木箱なんか運ばれる筆頭である。

きれいに通路が一掃された先に獣のように四肢で立つ大きな姿があった。

獅子の頭を持ち山羊の体をし蛇のような尾をくねらせる。そしてまるでおもちゃのように体の周りにたゆたう水を巡らせている。

今まで向かって来た魔物より一段も二段も大きく恐ろしいが、けれどその姿には違和感があった。

こちらを見下ろすその視線に他の獣と違う色がある。――知性の色だ。

恐慌に駆られるわけでもなく、遊興にたかぶるわけでもない。邪魔な者たちを確実に排除できるかどうか値踏みする視線だった。


「アクアキマイラだっ。くそっ、こっちに来たか。盾かかげっ、絶対に突破させるなっ!」

大盾を持った兵士たちが横並びに3列の隊列を作り路を封鎖する。

人で壁が構築され、その後ろに魔術師や冒険者たちがくっつき攻撃の当たる距離を測っている。

「よし、ここからなら…《火炎―」

魔術師からの攻撃の気配を察したのか、キマイラは遠吠えのような雄たけびをあげる。するとキマイラの周りをまわっていた水流がキュルルと回りこぶし大の水球になり兵士達へと降り注いだ。

「盾っ!」

ダンダンガンガンと水球とは思えない音をあげながら兵士たちの盾を殴りつける。

魔術を放とうとしていた魔術師はなんとか盾の下に避難できたようだが、盾と盾の隙間から落ちる水球が兵士や魔術師たちを傷つけていた。

「く…反撃しろっ!次の水が準備される前にっ!」

散発的に魔術や弓矢が射られるがそれはアクマキマイラを囲う水流によってキマイラ本体に届くことなく落とされる。

水の再充填が早い。

味方の薄い攻撃ではあの水流を払い落とすほどの威力が出せていなかったのだ。

「ダメだ……上級冒険者をっ、はやく!」

通り一本隣にいるはずの上級冒険者たち。

けれどたったそれだけの距離が遠い。



「ぎゃああぁぁぁっ!アクアキマイラだああぁぁあっ!」

「びゃあああっ!しにたくないぞおっ!」

「うるさいわよっ!」

ぼくとセビはアメリアに頭をはたかれた。

「け、けど、ど、どうしようっ」

「グーグ、私もベルフルーラを呼ぶわ!いいわよね!」

アメリアは火炎竜を呼んでアクアキマイラとの戦いに参加すると宣言する。

けれどキマイラに攻撃を向ければキマイラこちらを敵とみなすだろう。

(逃げたいっ、逃げたいけどっ!)

個人的にはこんな無茶な戦いに参加なんてしたくはない。

けどきっとダメなのだ。

――アメリアは・・・いや、彼女だけではなく。セビも。

彼らは身の丈というものをわかっていない。

アメリアは使い魔を自分の力だと思っているし、セビはいざとなれば護衛であるシーダさんがなんとかしてくれるだろうという脇の甘さがある。

このままだと戦闘に巻き込まれて大ケガしかねない。

(なんとかしないと…!)

アクアキマイラは攻撃のみならず、防御にも水を使う。その厄介さからBランクの魔物とされているが、実際にはBのマイナスという少しだけCランクよりな魔物である。

それは事、地形との相性のよる理由が大きい。


「……アメリア、ベルフルーラを呼んだらこれを持たせてよ」

「え?その袋?」

「そう。ぼくらじゃあの魔物は倒せない。だから、みんなのお手伝いをしようっ!」

ぼくは彼女に作戦を教える。

「わかったわっ。ベルフルーラっ!」

火炎竜が飛んでくるのが見える。よし、あとは兵士の方だ。


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