スキルの習得練習です。
学園は週に一回、使役の授業時間をつぶして「剣術」か「魔術」の選択授業がある。
今日はその選択授業の日だった。
「セビ、グーグ、お主らはどちらを選択したのだ?」
バグラ…ガードナーが近接用の装備をロッカーカラ引き出しながら聞いて来た。鉄製の重そうなやつだ。
「ガードナーは前衛なんだね。ぼくは剣術かな。魔術の才能はからっきしなんだ」
唯一”術”と呼べるものが錬金術しかない。
他の基本4属性や光闇の2属性、特殊な無属性は覚えられないのだ。
8属性で残っているのは”魔”属性ではあるが、”魔”は生み出す属性。造り出す錬金魔術と被る魔術が多いので取らなくても困らない属性であった。
…それに、おそらくグーグにとっては不得意属性であるらしく、どれだけ練習しても”魔”属性魔術は発動しない。
なので最初から魔術の選択はないのである。
「余も剣術に行くつもりである。うちの一族は剣ばかりに傾倒しておるからな。余もそれに倣うつもりである」
貴族の兵士、騎士と言えば確かに剣と槍が花形のイメージだ。盾や弓はその添え物というイメージである。
「セビは剣士を目指すのか。我もだ。やはり剣がメジャーであるからな。早く強くなりたいなら剣だな」
剣術の授業には戦技科との合同である。
戦技科は8クラスある。
騎士クラス2クラスと戦士クラス6クラスに分類される。
騎士クラスは貴族のみで構成される。通常の戦闘技能の他に指揮官としての戦術・戦略的思考を育む授業がある。
ぼくら使役クラスは戦士クラスとの授業に混ぜてもらうことになっている。
「いちっ、にっ、いちっ、にっ…」
基礎鍛錬の後に素振り100回。
振りなれている戦士クラスの生徒はまだしも、ぼくら使役クラスにはつらい。
まだ30回なのに腕がプルプルしてきた。
女子で参加しているこたちはすでに武器を置いて休んでいるこもいる。
ぼくも40回を目処に休憩することにした。
「ふぅ、ふぅ、疲れた…」
「そこっ、休むなっ、男なら武器をかまえつづけろっ」
そんなこと言われてももう筋肉の限界である。
授業で持たされているのは刃をつぶしたショートソードである。いつも持っている短剣より重いのだ。
素振りが終わるとようやくスキル訓練や模擬戦の時間が始まる。
ぼくはスキルが教わりたいのでスキル訓練の場所に混ざる。
教師役の人が順番にスキルを見せてくれるのだ。
剣術スキルを見た後短剣のスキルも見る。盾スキルは《盾打》と《鉄壁》だけ見ることができた。
見たらあれを再現できるようにひたすら体を動かしながらやってみるのがスキル訓練である。
「《盾打》っ、《鉄壁》っ!」
盾を前に出しながらはじくイメージが《盾打》。逆に盾を引き身を固めるイメージなのが《鉄壁》だ。
盾を前、後ろ、前、後ろと交互に動かしながら訓練していく。
周りには同じような生徒たちが一人でスキル練習をしている。
セビは《風刃》の練習を。ガードナーは《風刃》と《二連斬》の練習をしている。ちなみにシーダさんはセビの後ろで刀を振っていた。
スキルのイメージがわからなくなってきたらふったびスキルを見せてもらいに行き、またスキルの発動を祈って空振りする。
そうしたことを2時間ほどすごし、その授業は終わりになった。
「イメージを忘れないうちに自主練習にはげむこと!解散っ!」
教師の威勢のいい声とはうらはらに、自主練習できるほど体力ものこっていないぼくは今日はもう帰ることにした。
「セビ、どうだった…?」
「スキルなど一度も発動せんよ。疲れたよ」
セビも帰る気のようだ。
アメリアには「明日はいかないからねっ」と言われているのでこの後の予定はない。なのでまっすぐに帰ろうと思う。
「ガードナー?」
「ふっ、我はもう少し訓練していくぞ。二人ともまた明日だ」
残った戦士クラスの生徒とともに残っていくらしい。
ぼくらは彼に手を振り教室に荷物を取りに戻った。
教室では魔術クラスとの訓練から帰ってきた生徒たちが今日の成果を言い合っている。
「あ、二人ともお帰り。そっちはどうだった?」
キースが手を振っていた。
ぼくらと違ってそれほど疲れている様子がない。
魔術が使えたのでなければ消耗する物もないからだろう。
「キースは元気だね…」
「ま、まぁな…なんで二人はそんなに疲れてるんだよ」
「いろいろあったのさ」
「スキル特訓しかしておらぬがな…」
戦闘スキルの特訓方法がひたすらスキルが発動できるように動きを行う。だけなのだ。どこの脳筋かというありさまである。
体力がモノを言う。ゆえに、体力が無ければスキルの訓練もままならないのだ。
「体力のあるガードナーはすごいな…」
「余らにはできぬことをなしえているな」
「……」
きっと強くなるのだろう。今後も頑張ってほしい。
さて、もそもそと汗をかいた服を着替え、荷物をまとめる。
「キースはどうだったんだ?」
「おれか。おれは魔力があったから土と闇魔術おそわってたんだけど、やっぱ一日じゃ覚えられなかったよ」
土属性魔術と闇属性魔術か。
どちらもグールを補助するのに悪くない。火と光以外ならどれでもそうだが。
ちなみに魔力が無ければ魔術は使えない。人種族の平民は使えない者が多く、貴族は使える者が多い。これは魔力量込みで婚姻の優先度を図るためであった。
「土はまだイメージ湧くんだけどさ、闇ってよくわかんねーよな。見せてもらったけど使える気がしないぜ」
闇は確かに身近なモノではないので掴みにくいだろう。
闇属性魔術を初めて覚えたときのことを思い出す。
「闇は…足の裏だね」
「……足の裏?」
「そう。何が潜んでいるかわからない。どんな匂いがするかもわからない。けれど確実に存在していてきっとやばい状況になっている。そんなイメージ」
「どんなだよ」
上から輝き照らすのが光なら足元から這い上がり浸し制圧していくのが闇。そんなことを言った者もいる。
光は眩しく、闇は静かにやってくる。
そんなイメージで魔術を発動させるといいと思う。
「…やってみるよ。あんがとな」
「がんばって。そういや魔術の授業にアメリアはいた?」
「アメリア?、赤毛の子か。なら見てないぞ。…いや、初めにはいたかもしれねぇけど」
剣術の授業で彼女を見なかったので魔術の方に行ってるのかと思っていたけれど。
魔術の方でも見ていないとなると、何をしていたんだろう。
「まぁいいか。そろそろ帰るよ。また明日!」
「おー、またな」
「失礼するよ」
ぼくらはキースと別れて帰途につく。
「そういやセビは魔術は覚えないの?」
「覚えられるなら覚えたいぞ。余は闇の内発魔術のみ持っているからな。他も使ってみたくはある」
魔術持っていたのか。いや、貴族なら家庭教師をつけてもういくつかスキルを持っていても不思議はない。けれどセビはほとんどスキルを持っているそぶりがなかった。
「セビは闇が得意属性なのか?」
「うむ。闇と風らしい。グーグ君は調べてないのか?」
「ぼくは調べてないんだ。今となっては…全属性使えなくなっちゃったから」
「…使えなくなった?魔力障害にでも罹ったのか」
「似たようなものかな」
魔力障害とは病気の一種で、体内の魔素の流れが滞ることを意味する。流れが悪くなることによってうまく魔素が使えなかったりする症状だったが、ひどくなると魔素が完全に使えなくなることもある。
魔術医に診てもらったり魔素の操作が巧みな魔術師に魔素を流してもらったりすれば割とすぐに治る病気だった。
「ぼくは魔術はもうあきらめたよ。でも知識はあるからね。覚え方ならアドバイスくらいはできるかな」
「ふむ。その時はたよらせてもらうとしよう」
「うん」
グーグは充実していた。
クラスメイトとも親しくなれ、使い魔は使えなくとも困ることは無く、組んだパーティーメンバーたちと少しづつ強くなっていくという充足感を得られて。
同年代の少年少女に囲まれて同じ方向へ協力する。
そんな経験は初めてであり、そして自分に足りなかった部分を埋めてくれるようでもあった。
それはあきらめていた部分。
過去の傷跡にあきらめた、自分を研鑽するための心の成長。
今、グーグはそれが必要だと考えている。
仲間のためにスキルを取りたい。
グーグは少しづつ前に歩み出していた。
そろそろストック分にかげりが見えてきたのでのんびり投稿にきりかわります。申し訳ない(*゜▽゜)。o(女の子描きたい)




