スキル相談です。
アメリアは宣言通り、その日の放課後に誘っても「ふんっだ!」と言ってすぐに帰ってしまった。
けれど次の日には「…どうしてもって言うならいいわよっ!」と手伝ってくれる。
2回誘うと必ず一回は断られるが、一回はついてきてくれる。
ツン期とデレ期がはっきりしている女の子だった。
彼女をパーティーに迎え、ぼくらは彼女の課題も含め、すべての課題クエストを満了することができた。
「完了でございます。こちら、Dランク冒険者カードになります」
新しいカードをもらい、かかげてみる。
……EがDに変わっただけで前にもらったものと同じだった。
昇級クエストのスペースは空白にはなっているが。
ランクが上がると質の良いカードになったり色が変わったりはしないらしい。
「これでみなさまは個人においてDランク、パーティーにおいては一段上のCランククエストまでを受注することができるようになります。まだ昇級されたばかりですので、Cランクのクエストなどは受ける前に当ギルド2階の図書室で事前情報を調べることをお勧めいたします」
「親切にありがとうございます。…図書室では利用料金とか取られますか?」
「本等の破損や持ち出し時に料金がかかるものがございますが、その場で読むだけであればかかりません。簡単な魔術書もございますので一度足を向けられてみるといいと思いますよ」
アドバイスまでもらいカウンターをあとにする。
魔術書もあるよ、というのは戦闘に使えるスキルを持っていないグーグとゼビへの言葉だろうか。流石にそれは卑屈すぎる発想な気もするが。
「この後どうしよっか?」
一番の難問だと思われていた課題クエストが入学から一月もせずに終わり、”冒険者”としてやることもしばらくなくなってしまった。
「余はあのお胸のよろしいお姉さんの言う通り、スキルを増やしたいな」
余計な注釈を増やすのをやめてくれ。
カウンターでカードの更新に伴う話を聞いていたはずなのに、カレは一人別のことにも注視していたらしい。
「やはりあれぐらあいあると自然に視線が向くものであるな。うちの護衛は隠密スキルが自動でついておるのかと…」
その発言者の背後には、そっと隠密スキルを使った何かが立っている。
奴は自業自得だが、何故かぼくまでアメリアに白い目を向けられていた。
「……わたしはベルフルーラの食事を探したいわっ。近くのダンジョンに入りたい!」
火炎竜ベルフルーラは体躯も大きければ食事量も結構な量を食べる。
「ならクエストを受けないでダンジョンだけ少し行こうか…」
常設のクエストもあるのだが、Eランクの魔物の常設クエストはない。たとえ魔物の集団暴走が起こったとしても、Eランクの集団であればすぐ鎮圧できるということなのだろう。実際範囲攻撃できる魔術師一人か二人で事足りるのだから。
シーダさんに顔面を掴まれているゼビはほっといてもぼくらと来るだろうから、あとはどこのダンジョンに向かうかだけだ。
「近くなのは北か、東かな」
北のダンジョンは多種のモンスターが出るがダンジョン自体にデバフの呪いがある。それと5のつく階層ごとにユニークモンスターが1体配置されているらしく、倒すことができればドロップ品があるらしい。
東のダンジョンは森林、山岳系のモンスターが出る。
ちょっと行って帰るなら東のダンジョンがいいだろう。
「東のダンジョンに行こう。セビ、いいかな?」
「う、うむ。すでに余の生命力が減っている気がするが大丈夫だろうか」
「…そうだ、セビ、盾スキルを試してみるのはどうかな。生命力が減ってないとできないのがあったはずだよ」
「ほうそんなスキルが。面白い、余のスキルの一席に加えてやろう」
カウンタースキルだった気もする。ただ条件じたいはクリアできるだろう。なにせ魔物と戦う時はぼくもセビもたいてい生命力が減っているのだから。
もっと普通の攻撃スキルを取るべきだと思い知るのは、二人が無駄にダメージをうけまくったその後であった。
軽く行ってすぐ帰ろうってことだったはずが、体のあちこちに青あざをこしらえながらの帰宅になってしまった。
「…大丈夫?」
「慣れてるから平気だよ。イテテ、明日になれば保健室もあくし、寮には回復クラスの生徒もいるからね」
寮にいる回復魔術クラスの生徒は特段親しいわけでもない生徒でも癒してくれる。ただし料金がかかるが。
無料ですませたい生徒は一晩痛みに耐え、朝になったら学園の保健室に駆け込むのである。
「グーグ君、盾スキルは失敗だったな。覚えるまでがこれほどつらいとは。余は明日からは武器スキルを目指すことにするよ」
うちは戦えるのが二日に一回のアメリアと火炎竜しかいない。
だからセビが武器スキルをめざしてくれるのは十分ありだった。
ただ、どうもセビは動きに甘さみたいのがあり心配になることがある。
妙な自身があるというか、なんというか…もしかするといざとなればシーダさんに頼れるからと守りが甘くなっているのかもしれなかった。
「うーん…となるとぼくはどうしようかなぁ」
近接が2になり後衛が1だが、火炎竜は接近戦ができないわけでは無い。牙も爪もしっぽも、どれもぼくが接近戦をするより強いだろう。
ひとまず足りないのは…
「盾、かなぁ」
「盾であるか」
火炎竜の攻撃はより近く、そして敵が動いていない時が最も名流率が高いのだ。
そして盾に葉その両方を補えるスキルが存在する。
《盾打》
盾で敵を殴り短時間の硬直を起こさせるスキルである。
引き付けて相手を止める。これなら子供の火炎竜でもはずさずに火の玉をあてられるはず。
そんな説明をすると、アメリアがあたふたと焦りだしていた。
”ぼくが火炎竜のためにスキルを取る”ということに動揺しているようだった。
「ふ、ふんっ、…そんなスキルを覚えたって感謝なんかしないわよっ!だ、だって…だってパーティーなんだからね!」
パーティーだから連携は当然だ。
アメリアはそう言うが、これまでほとんどパーティーらしき動きができていないぼくたちには、十分胸があたたかくなる言葉だった。だってアメリアの口からそんな言葉が出たのだから。
「アメリア…」
「アメリア君…」
「ちょっと!変な目でこっちみないでよ!?」
彼女がぼくらをきちんとパーティーだと認識していてくれたことがうれしくて、モニョっとした視線を彼女に向けてしまった。
「ふんっだ!明日はいかないからね!それじゃっ」
彼女は先に見えている女子寮へ曲がる道に走って行ってしまう。曲がり角でもこちらを振り返ることなく行ってしまった。
「いまだに謎の多いこだなぁ」
「そうであるな。と、それはグーグ君もなのだがね」
「ぼくが?」
セビとシーダさんがというならわかるが、ぼくのことでそこまで疑問を持たれるような行動をした覚えはない。
「年の割には知識が豊富であるようにみえるぞ。シーダの魔術を上級と知っていたことやあまり知られていない盾スキルのとか」
「いや、《盾打》は有名だから!。盾職なら普通にとるスキルだからね!?」
ぼくはセビの知識に不安を覚える。貴族とは盾護衛がいないものなのだろうか。学園ではつけないとも、実家では一人二人盾専用の護衛はいるものだと思っていた。
魔術は、まぁ。水の上位魔術なんて人族領域ではほとんど見ることはできないだろう。
見たことがあるとすれば魔素に長けた――魔族。魔族のいる領域でのことかもしれない。
そう考えることもできるのだ。
「……」
「うむ。他にもいくつかそう思うことがあるぞ。特に勇者候補の時だ。あの時のグーグ君は余の考えるグーグ君とは明確なズレができておる」
ズレと言われるほどの違和感。
確かに危ないことにあたふたするのがぼくとセビだろう。あの場面もぼくではなくセビなら青ざめて勇者候補が通り過ぎるのを待つだろう。
けれどぼくは声をがけた。
女の子に剣先を向ける外道が許せなかったから。
そんな英雄的行動はありえないはずなのだ、と。
(男の子ならあると思うんだけどな)
ともあれセビからするとぼくも謎な人物ということらしい。
今後もパーティーを組んでいくつもりなら、ぼくの事情やステータスのことを話した方がいいのかもしれない。
話すとしたらどこまでか、誰にか、そういったことも考えなきゃいけなくなる。
何にしても今ではない。
セビとも、アメリアとも、シーダさんとも、会ってまだ間がないのだ。
彼らが信頼できる人間なのか、ぼくにはまだ判断ができていなかった。
「ま、いつか言うよ」
「そうか。待っておるよ」
ぼくたちはまだ、パーティーを組んだだけのクラスメイトでしかない。




