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校外授業は終わりました。


生徒全員が集合した後はそのまま解散を告げられた。

外で解散ってどうなの?と思わなくもない。だって授業の道具一式は教室に置いたままなのだ。

流石にずぼらがすぎるんじゃないかと思う狐教師である。


「それじゃ、どうしよっか。帰る?」

セビとアメリアに顔を向ける。放課後はまだ始まったばかりなのだが、みんなそれぞれ予定があるかもしれない。

「余はまだ狩りできるぞ」

「……ふんっ!、手伝ってほしいならそう言えばいいじゃない!」

最強の矛を手に入れた瞬間だった。

今日一度も姿を見なかった青白クラブを倒そう、という話をする。これは岩場の多い川沿いに棲む魔物だ。出現するダンジョンで探した方が早いかもしれないが、外でも探せなくはない。

「いいわよ。でもどうするのよっ」

「アメリア、君の声の大きさに期待して頼みたいことがあるんだけど」

「……なるほどねっ」

ここには今、生徒30人分の周辺魔物情報があるのだから。


かくして青白クラブのいる場所の情報を教えてもらい、無事に10匹の討伐を終えた。

見つけにくいが棲んでいる所がわかれば数はこなしやすい魔物だった。

まだしょうゆバッタの討伐数が足りていないが、課題クエストの完了の目処が見えた良き一日であった。





生徒を置き去りにして帰ってきたカガスミだったが、帰ってすぐに学園長からの呼び出しがあった。

「…めんどうだコン。休むコン。休憩は効率の最大の栄養コン」

カガスミの休憩はお茶とお菓子と魔導テレビである。一度休憩に入ると数時間仕事をしなくなる。

鼻歌を歌いながら急須にお茶を入れていたところ、カガスミの部屋として与えられている宿直室に来訪者があった。

学園長本人である。


「ふむ。良い菓子をそろえておるな。美味じゃ」

「東方のクズキリってのだコン。それで何の用コン。はやく帰るコン」

せっかく幻体を酷使して買ってこさせたおやつを半分奪われたのだ。対応も荒くなるというもの。

しかし齢70になるかというその老人は、フハハと笑い気にもしていないようだった。

「使役クラスの状況を確認したのだろう?。その情報をもらいにきたのじゃ」

耳が早い。まぁ生徒30人と学園の外に向かうのはどこにいても目立つ行動だろう。終わってすぐに情報を提出しろと催促に来ることまでは予想できなかったが。

「…まだまとめてないコンよ」

行って来たばかりなのだ。一応紙に討伐数は記載してあったがそれは殴り書きの状態である。

その紙を奪いながら学園長は茶をすする。

「北のダンジョンに入れてもいいグループはいくつくらいあるのじゃ?」

「それはまだ無理コン。入り口付近ならまだしも、5層で痛い目にあうコン」

ふーむとカガスミの話に耳を傾けながら紙に目を通していく。

「…もしかしてまずい状況コン?」

まるで急いで戦力を投入しようとしているような印象を受ける。

「…そうじゃな。どうも壊れた聖剣の余波がダンジョンの育つスピードを促進している可能性がある」

聖剣は3本壊れている。

土の聖剣

水の聖剣

生の聖剣

そして壊れた聖剣の加護と同じ星神の力が、今は世界から失われたままだった。

大地が弱まったせいでダンジョンが地面を掘り進む速度が上がったのか。

それとも生命が生まれにくくなったかわりに魔物を育むダンジョンが活性になっているのか。

どちらにせよ、あまりよろしくない効果を及ぼしているらしかった。

「4グループはいけそうじゃの」

「個別に足らないのもいるコン。そいつら死んじゃうコン」

特に精霊に嫌われたようなのが一人、クラスのお荷物として存在していた。グループ単位でしか検討しないのであればその生徒のいるグループも学園長が行けそうと言ったうちに入っている。

「入るか検討するのは生徒の自主性に任せることになるじゃろう。なれば今の段階からでも北のダンジョンに慣れさせておくのが良いじゃろう」

確かに北のダンジョンは他と違って特殊である。そのために準備できるのであれば準備を早いうちに初めて置いた方がいいとも言える。

とくに、”使役”クラスとしての生徒たちであれば。

「…ダンジョン攻略用の使い魔を、今の内から育てさせるコンね…」

使い魔という『仲間』ではなく、目的達成の『道具』として。

それをさせようと学園長は言っているのだ。

ひどい話ではある。

けれどカガスミは生徒のことを想って憤ったりはしない。そういう性格ではないのだから。だからこのクラスの教師役として自分が雇われたのだろう。

生徒が死のうと「あーあ、もったいないコン」としか思わないのだから。


「では、一週間後の放課後に4グループを魔術場へ。わしは領主様に報告に行かねばならんでな」

そう言って茶のコップを傾け沈殿物まで飲み干す。そして立ち上がり忙しそうに食直室から出て行った。

ようやく一人になり、けれど気持ちは休まることとは逆方向へ向かっているのを感じていた。


「……気の重い話しコン…」





朝の日課は川沿いの道を通って通学する。

少し早めに男子寮をでて川辺におり、土手を保護する目的で植えられた広葉樹の青々とした葉っぱの屋根のしたを歩きながら進むのだ。

まるで年若い乙女か老人のような優雅な趣味

――ではなく。

毎朝生誕の儀式の後に残ってしまう《保存》の忘れ物を適当な石にカチコンし、それを投げ捨てる場所として川を利用しているだけなのである。

石に《付与》せず木材に《付与》すれば燃やして始末することもできるのだろうけれど。燃やしたらどれだけの匂いが解き放たれるのか怖くて試してないのである。

川の中にすてても匂いが消えるのかわからないけどね。


さて、男子寮から通うクラスメイトも何人かいる。学園はおおざっぱに国の西側の生徒を集めただけなのでほとんどの生徒が実家から離れ、宿か仮住まいか学生寮で寝起きしているのだ。

「おい、グーグ、おはよう。課題はどうだ?バッタくらいは倒せるようになったか?」

「あ、おはようバグラハウラの。バッタはラビより簡単だよ。なんてったって足がもげるからね!逆方向に力入れるとボキっともげるんだ!」

挨拶を返すと彼はあわてて辺りを警戒し始める。少し後方に別のクラスメイトを見つけたようで片手を上げてあいさつしていた。

それからこちらに向き直ってじゃっかん小声で苦情を告げる。

「あほう、勇者候補が聞いていたらどうするのだっ、我のことはガードナーと呼べ。しかしお前が思ったより順調そうで驚いている。短いモテ期か?」

かってに人のモテ期を短いと決めつけないでほしい。そもそもあまりモテていた記憶はない。若干童顔なせいか女子がとっつきやすいだけだろう。

「ふん、まぁがんばるといい。どのみち今後も同じような課題が出されるのだ。今のDランクくらいならまだ装備や作戦でなんとかなるであろうが、Cランクではそうもいかんだろう。早めに身を寄せる先を見つけておいた方がよいぞ」

「お、ありがとう。ガードナーの人。それはあれだね…デレ期というやつだね?」

「デレキ?」

身を寄せる先を探せ、というのは彼ならではのぼくへの忠告だった。

魔王であった彼は”配下”という主と下部の不思議な共闘関係を知っている。配下契約を交わした両社はお互いのために自分のできる手助けをするのである。

主は下部のために権力、戦力を持って他からの害をはじき、

下部は主が戦場へ赴くときに馳せ参じて共に死力を尽くすのである。

今のぼくは弱い。だから守ってくれる主を見つけろ、という彼ならではの応援であった。


「おはよう、ガードナー、グーグ君。ガードナーはまだ勇者候補にびくついているのかい」

ぼくらに合流したのはクラスメイトのユベル・イットネスだ。

「おはようユベル君。勇者候補の青い人はこの時間にはいないよね」

ユベルもだいたい同じ時間に登校しているので魔王が狙われる心配は薄いことを知っている。

「ぐ、ふん。我は無用な戦いを好まぬだけである。勝てぬわけではない」

魔王は強力な戦闘スキルを持っている場合がある。

1000人を殺せる攻撃スキルだったり、一人をスタート地点にもどしてしまう魔法だったりだ。

それを使えば聖剣の無い勇者候補なんて簡単に殺せてしまうのだろう。けれど彼ら前世魔王の方々は今世ではその力をむやみに振るおうとはしない。

人に生まれて丸くなったということだろう。

(ぼくも他人事ではない話だけども)

いろんな愛情に触れ、牙をポロポロ失くしたのは自分も同じだった。

今はそれでよかったと思っている。

「あぁ、そういや朝だけじゃないかもしれないよ。どうも男子寮からあの勇者候補の部屋が消えていたらしい。実家に帰ったのかもしれない」

「え、でもうちのクラスに来た時は全然やる気だったじゃないか。次はゆるさんぞ!みたいなにらみのきかせ方しててさっ」

一番被害にあったのが自分だからよく覚えている。

彼はうちのクラスの監視を早々やめるつもりはないようだった。

「貴族だったみたいだからね。家庭の事情とかあるんだろうね」

ユベルも男爵なので貴族の朝令暮改は理解があるようだ。勇者候補がどう思っていても家の事情で命令されては従う他ないのだろう。

「ほう、いなくなったか。ほうっ。ハハハ、やはり学び舎で真剣を抜いたのが誰ぞの耳に入ったのであろうな。ざまぁないわ」

貴族同士の決闘でもなく、自らの名誉を守るためでもない場面で刃を見せること。

これは貴族としては恥である。

家長もかなり怒ったに違いない。

「平和になるな」

「そうだね」

「まったくだねー」

ぼくらは朝から幸せな気分で学園への道を歩く。


「あ、あんたたち!…・お、おはようっ!」

女子寮から合流する分帰路でちょうど登校中のアメリアに遭遇した。

あんたたち、と言いながら彼女はぼくにだけズンズン近づいてくると目の前で立ち止まる。

「昨日は特別だったんだからっ、いつも手伝うとは思わないでね!」

それだけを告げて学園へと猛ダッシュで消えて行ってしまった。

「…おいグーグ、あれはデレ期か?」

「…どうだろう。ツン期かも」

昨日はいい感じで解散したのだけれど、あのあと何があったのだろうか。

女心は理解できない。

「ボクには君たちの会話も理解できないよ…」

ユベルくんは下がっていた眼鏡を元の位置にもどした。


聖剣が壊れたうんぬんは前作品での話です。

邪武器の娘 ⇒ https://ncode.syosetu.com/n2026hf/

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