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校外授業です。


午後の授業時間は”使役”が2コマ入っているが、その日はいつもと違い校外での授業だった。

いや、校外というか領域外だ。

遠くに街をかこむ外壁が見えるほかは町からの街道だけで、あとは自然豊かな森やのっぱらが広がっている。

ここはすでに外なのだ。魔物は出るし、たまに盗賊だって出る危険な場所だった。


「よーしそれじゃ生徒たち、好きな人とパーティーを組むコン」

そらきた。

そしてこのお決まりのセリフである。ぼっちにはつらく厳しいセリフではあるが、今のグーグはすでに過去のグーグではない。

パーティーを組む仲間がいるのである。

「それじゃシーダさん、組もうか」

「待つがいいグーグ君。そのセリフに悪意を感じないだろうか?」

セビは片手をあげてぼくとシーダさんの間に割り込んできた。

だって仕方がないのだ。これは”使役”の授業なのだから、この授業時間に求められるのは使役できる人同士の連携や動き方の確認だろう。

そうなると召喚能力を持たないセビと組む理由がないのだ。

「課題クエストは方法を問われないからセビとは組むけど、この授業は能力を使ってこなさないといけないだろ?、ほら、セビじゃダメじゃないか」

「なん…だと!?」

ショックを受けていた。

地面に手をついてうなだれているセビを無視し、改めてシーダさんにパーティーを申し込む。

「シーダさん、組もうよ」

「…………わかった。でもこれもいっしょでいい?」

護衛にこれとか言われている貴族は初めて見るかもしれない。ぼくの見識がせまいだけかもしれないが。

ただまぁ、セビとシーダさんは一組なのでどのみちいっしょに行動することになるのだけども。

「うん。よろしくね」

「ん。」

ひとまずぼっちを回避できればいいだけなので十分だった。

”使役”うんぬんでどうこう言っておきながらぼくの能力はどのみち意味がない。なので結局この授業を使役能力でこなすことはムリなのである。

なら何でセビをいじめるようなことを言ったのか。

言ってしまえばただの興味だ。

セビを護衛しているシーダさんの能力を知りたい。護衛として求められるほどの召喚能力。

課題クエストをこなすうえでどこまで協力してくれるのか不透明ではあるが、それでも能力を知っておきたいと思ったのだ。

特に使い魔は主の言うことを聞くモノばかりではない。いっしょに行動したときにこちらに害をなさないとは言えないからだ。

今後もセビとはいっしょに行動することが多くなると思う。なのでできるうちに確認しようということだった。

(しめしめ、これでシーダさんを”使役”の使い手として授業に巻き込めたぞ)

そんな下心にほくそ笑んでいると背中をバンと叩かれた。

「ねぇ!」

赤髪ドリルがすぐ近くに立っていた。そして眉を吊り上げながら機嫌悪そうにしている。

「パーティー組んであげるわっ」

何を言っているのかまったくわからなかったが、グーグは速攻で「はい」と返事していた。

危険な物にはできるかぎり逆らわない。それがグーグの処世術である。




「アメリア・フローライトよ。アメリアでいいわ」

「グーグ」

「セビアだ。セビでよい」

シーダさんは名乗ることはしなかった。どうやら彼女を引っ張り込むのにはぼくでは役者不足だったらしい。

ともあれ、こうして3人のパーティーができあがり授業は何をするのかと言えば周辺の魔物狩りとのことだった。

ダンジョン都市の冒険者はみんなダンジョンに稼ぎにきている。なのでダンジョンが盛況であるかわりに外はほっぽられているということだった。

外も誰かが魔物を減らさないといけない。だから生徒を使って授業としてやらせるのである。

きっと学園と冒険者ギルドの間に裏取引じみたことがあるに違いない。

この授業で行った討伐報酬はぼくらの知らないところで狐教師のふところをうるおすのだ。


アメリアは話してみれば怒っているわけでもなく、ただ気合を入れているだけらしかった。声が大きいのは商家としてしこまれたせいらしい。

物を売るのに”声”は必要なのだと。

彼女は割と名の知れた大店の一人娘なのだそうだ。

「ねぇっ、あんたはなんで他人事に首突っ込むのよ?こないだの勇者候補の時も、その前のボアの時も」

ぼくの処世術からすればかかわらないはずの問題だ。

けれどどちらの時も結局首をつっこんでしまっている。

「…困ってそうだな、って思うと手を出しちゃうんだ…」

これは師匠のせいかもしれない。師匠が困っているわけでは無く、師匠がやらかすせいで結局ぼくが困る。困るのがわかっているから早いうちに手をうっておくくせがついたのだろう。

「ふんっ、…まぁ感謝しておくわっありがとうっ!」

怒鳴るように感謝された。

きっと今日パーティーに来たのはそれを言うためにだろう、という気がした。


アメリアは火炎竜に指示を出して魔物を追い立てさせていた。

流石にのっぱらで火の玉は広域火災になりかねない。

「お、くるぞ。モールラビであるな」

課題にあったモールラビが3羽こちらにむかってきていた。ぼくとセビは短剣と木盾を、アメリアは双棍をかまえる。もちをつくときに使う真ん中だけが細くなっているきねみたいな武器だ。

ぼくとセビが体当たりをかまして一人一羽ずつを抑えている間にアメリアは双棍をくるくる回しながら優雅な感じで一羽のモールラビを叩き潰していた。

「……」

「……すごいな」

戦い方に心得のある動きだった。

商人の娘となると貴族の子息と同じように専属の家庭教師がつけられるのかもしれない。算術や話術と同じように旅をしながら物を売買して稼ぐ商人には武芸もたしなみとして覚える必須項目なのかもしれなかった。

ぼくとセビが泥試合を繰り広げている間にアメリアと火炎竜は次の魔物をおいこんでいく。

このペースで魔物が狩れるなら課題クエストもすぐに終わりそうだ。

「…ねぇ、あんたの魔物は召喚しないのっ?」

モールラビの前歯攻撃に手こずっているぼくをチラと見ながら言う。セビは見ていない。セビに召喚系スキルが無いことはパーティーを組んだときに説明していた。

「魔物じゃないけどね。でも知ってるだろ?、僕の使い魔は細長いつららだよ。溶けるしすぐ折れるんだ」

火炎竜が火の玉を放ったら気化熱だけで蒸発しかねない。

あんなんでもぼくに唯一縁を結んでくれた精霊なのだ。死なせてしまうには偲びない。

「そう。…そのラビの気をそらすくらいには役立ちそうだけど」

…確かに。それに考えてみれば使役の授業時間だった。

時間中一度も召喚しないというのも良くないかもしれない。

「…《精霊召喚》っ」

ぺちょ、とモールラビの後ろ頭につららが落ちた。

ラビは突然の冷たい刺激に驚いて頭を後ろに向けようとキョロキョロしている。

のびきった喉に向けて短剣を突きさす。

「ギャウッ!」

何度も突き刺しているとようやく動かなくなったのか、くったりしはじめた。

うん。これは良いかもしれない。

前歯に苦闘していたことを考えればすごく助かる。

何事も使い方次第なのだなと溶けていくつららを《返還》しながら思った。



しょうゆバッタも5匹倒したころ、遠くの狼煙のろしが上がっているのに気が付いた。集合の合図である。

しょうゆバッタのこげ茶色の体液をボロ布で拭いながら周囲の惨状を確認する。

モールラビが8羽、しょうゆバッタが5匹、アーマーだんごが3匹、カモが一羽、小オオカミが1匹。

魔物じゃないのが二匹混じっているけどすごい数だった。

魔物はできれば地面に埋めてしまいたい。他の魔物が食べて魔素を取り込んで強くなる可能性があるからだ。…まぁEランクくらいだとかなりの数を食べないと強くなれないのだが。

アメリアが火炎竜に幾匹かの魔物を食べさせている。そうか、使い魔の餌はこうやって集めてもいいわけか。

ぼくでは行えないことなので少しうらやましく思った。

…いや、そもそも精霊って何を食べるんだろうか。

魔素か、魔石か、それとも別のなにかか。

育て方がわかればもう少し頼りにできるようになるかもしれない。

そもそもが精霊と同じなのかさえわからない。

あやかし

過去に魔物の王であった己でさえ知らない種族なのだから。


やらないよりはやってみるべきか、と死んだモールラビの上につららを召喚してみる。

「……」

食べたり何か吸い取ったりということは確認できなかった。

ぼくはモールラビの体から小粒ほどの魔石を見つけ出し、それをつららの上に乗せる。

「……」

そのうちに溶けた水で魔石が流れ落ちる。

「グーグ君、何をしてるのかな?」

「いや、つららって何を食べるのかなって」

自分で言っていて何を言ってるんだと言う気がしてくる。

食べないだろう。

つららだし。

「…雪とか、氷では」

「…そうだね」

方向性としてはそういった”水分”を取らせた方が正解だと思う。けど氷、氷かぁ。

「うむ。シーダ」

「…ん。《氷塊ゼロスフィア》」

カチカチとシーダさんの前に1メートルくらいの氷の塊が出来上がり、ドスンと地面に落ちる。

「わぁ、すごいっ、ありが…あれ?これ上きゅ…」

今なんでもないように水属性魔術を使われているけれど、ふとぼくはそれが生中なことではないことを思い出していた。

あれ?《氷塊》って水の中級魔術だっけ?。いや…上級だと思う…のだが、でも人の練度上限だと得意属性ですら中級が覚えられない。

…・・うん。深く考えるのはやめることにした。

「ありがとうございます。わぁすごーい、ほらつらら~氷だよ~」

ぼくはつららが溶けきる前に氷塊のうえに乗せて様子を観察する。

氷塊が溶け出すときに周りの温度を下げる効果によって溶けだしていたつららも凍り付き、氷塊にぴっしりとはりついてしまう。

……大丈夫だろうか。これはこれでつららが死んでしまうのではないかという疑問が浮かぶのだけれど。

ともあれ融解熱のせいで張り付いたつららはしばらく様子が変わらないようなので時間もないこともあり、あきらめて《返還》することにした。

「集合行こうか。つらら帰るよ《返還》」

返還の方陣はつららごと1メートルの氷塊を呑み込む。

「……《精霊召喚》」

出てきたつららは元の15センチくらいの細い頼りないつららだった。氷塊の融解熱が残ったままだったのか、色はちょっと白っぽくなっているが。

よかった、あの氷塊で出てきたらどうしようかと思った。

氷塊はどこに消えたのか不明だが、つららを返還した所と同じ返還場所に消えて行ったのかもしれない。

再びつららを元へ返し、ぼくたちは集合場所に向かうのだった。





つららの名前がもう「つらら」になりそうな件。

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