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勇者候補襲来。


「びやあああぁ!助けるのだシーダっ!」

黒髪の少年は新たなトロロンプだった。

敵はモールラビ3羽。

鉄の短剣と木の盾を手に、ぼくとセビは慎重に魔物に躍りかかった。

けれど魔物はやはり魔物である。Eランクといえどもその身体能力は高く、武器を避けてからの体当たりの反撃にぼくとセビは総崩れになってしまっていた。

転がるように護衛に抱き着くセビ。けれど護衛の女性はセビを片腕で引き離し、魔物に向けてぶんなげた。

仕方がないのだろう。

抱き着くついでにお尻を触っていた。

セクハラは死である。

だがセビの身を挺した攻撃により魔物の一体が動かなくなる。

あと二回それをしてくれれば助かるのだけれども。

モールラビの体当たりをしこたま喰らっているセビを護衛の人はながめていた。助けるつもりはまったくないらしい。

護衛の人が戦ってくれれば、という下心もあったのだが、学園の課題を手伝ってくれる様子はなかった。

なのでぼくとセビで何とかするしかないらしい。

ぼくはさっきのセビのように木盾を構えて突撃した。

まともに戦って勝てるわけもなく、体重で押しつぶす作戦だ。

一羽がぼくに押しつぶされて動かなくなる。かわりに残った一羽の攻撃対象がぼくに変更されてしまった。

殴られたような衝撃をももや尻やわき腹に受ける。

「ぐ、ぐふっ…」

かなり痛い。

這うように逃げながら体勢を立て直す。同じくセビもなんとか逃げ出せたようだ。

ラビの攻撃を木盾でうけながらどうにか短剣出攻撃できないかと四苦八苦するが、盾に受ける衝撃だけで腕が折れそうになる。

「えいやっ」

掛け声とともにセビが短剣を振るい、魔物の脛に小さな傷を作った。

「……うむ」

今度はセビが狙われる番だ。


こうして初めてのダンジョン探索は青あざだらけの結果になったのである。





青あざだらけになりながらなんとか3羽のモールラビを倒した次の日。

授業の休み時間なのだが、なぜかキース、バグラハウラの少年、セビが寄って来るようになっていた。

「そういやセビはどんな召喚スキルを持ってるんだ?昨日は使ってなかったろ」

「ん?、そのようなスキルがあるとは一言も言っていないはずであるが?」

「え?」

スキルが無くても使役クラスに振り分けられることがあるのだろうか。いやそんなわけがない。じゃないとそれ用の授業に支障が出てしまう。

「召喚スキルがあるのはシーダであるな。余はそのおまけとしてここにいるのである」

逆だった。

セビがこのクラスにいるから護衛が付いているわけでは無く、護衛がこのクラスに入れられたからセビが付いて来たということらしい。

「…ならばその席は彼女にゆずるべきではないか?」

バグラハウラの人が眉根をしかめながらそう告げた。

授業中は席にセビが座り、護衛の彼女は立っている。本来授業をうけるのが彼女なのなら席に座るのは彼女のほうだろう。

「貴族を立たせる護衛などおらんだろう?」

まぁそう言われればそうなのだが。

「あの、シーダさんはそれでいいんですか?」

ぼくはクラスメイトだったらしい彼女に質問してみた。

「ん。問題ない」

ないらしい。

ぼくらよりいくぶん年齢が高いらしい彼女は護衛としての心構えもしっかりしているようだった。

しかしこの護衛、美人である。セビがセクハラしたくなるのもわからなくはない。

黒髪に灰色の衣装、右目には黒い眼帯をつけ、腰に一本の刀を佩いている。

眼帯で片側はかくされているが、それでも美しさがきわだっている。


「ならセビはクエスト受けなくてもいいんじゃないのか?」

ここの生徒というわけでもないなら課題をこなす理由はない。あんな青あざ作ってまでモールラビと戦わなくていいはずだ。

「ん。鍛錬」

「…余は過酷を好むのである」

そう嘘ぶいていた。





最近スキルの調子がよくない。

どうも学園への旅の道中、《保存》スキルを使ったためにスキルのストッパー?的なものが緩んだらしく、気が付くと勝手に『属性』を保存するようになってしまっていた。

今日は『茶色の』が保存されていた。

本来《保存》というスキルは属性を付与するためのスキルである。属性とは属性石で付ける。エレメント系の魔物を倒した時に拾える物でなかなかいいお値段のアイテムなのだが、どうもぼくの《保存》はこれとは違う性能になってしまったようだ。

ぼくの《保存》は素材や倒した相手から『属性』を獲得することができるようになっているらしい。

たとえばこの間たおしたモールラビからは『かわいい』を獲得した。”かわいい属性”ということだろう。

してみると今朝の『茶色の』にも思い当たることが無いわけでは無かった。

昨日は『硬い』一昨日は『臭い』だ。

…………

倒してねーよ

水洗に流すことが倒すことと同義であるならわからなくもない。わかりたくもないが。

こんな『属性』を《保存》してるのは嫌なので鉄鎚を使ってカチコンと道端の石ころに付与してしまう。

付与すると石が茶色くなる。

こうしてスッキリした気分で今日も学園に向かうのであった。


…しかし事件は放課後におきる。

教師が一日の終了を宣言した直後、ガラリと教室のドアを開けて入ってきた生徒がいた。

「魔王はいるか!?」

左手に高価そうな剣をひっさげて、蒼い髪色の男が入ってきた。

「いないのか!?ここにいることはわかっている!」

無遠慮に教室の中ほどまで歩いてきて大声をあげる。

その隙に狐教師がコソコソと教室から出ていくのが見えた。

最速あれに頼ってもしかたないことを学んだクラスメイトたちである。

さて、蒼い髪の男は木弱そうな女生徒を捕まえて「このクラスで一番強い者は誰だ!」と威圧している。女生徒はビビリながらも赤髪ドリルに視線を向けてしまう。

「ほう…きさまか。きさまが魔王を名乗る者か。オレは勇者候補のクラウゼン・グラハイムだ。決闘を申し込みに来た!」

決闘とはたぶん貴族の流儀にある”決闘”のことだろう。一般人の多いこのクラスではいまいち馴染みのないシステムである。

たぶん一般庶民の喧嘩よりもっと洗練されたものに違いない。

「ふんっ!人違いよ!」

赤髪ドリルは当然否定する。だって魔王を名乗っていたのは5人の生徒であって彼女ではない。

とある魔王にミーハーな様子が見受けられたので彼女も転生魔王なのではと思うが、はっきりとしたことはわからないのである。

けれど青髪の男は短慮なのか、左手に持つ剣を鞘から抜いて彼女に向けた。

(おいおいおいおいおい)

流石にそれはまずい。抜き身の剣を向けると言うことは明確な敵対行動である。それを女の子に向ける。流石にどうかと思う行動だった。

ちらりと教室を見回す。5人の転生魔王たちは青ざめている。件の勇者候補が自分たちを殺しに来たと思ったのだろう。過去勇者にやぶれ殺されている彼らは勇者候補に恐怖を抱いている。

戦えば殺される――だから彼らは身がすくんで動けないのだ。

赤髪の彼女は言うことは言ったのだから、とそっぽを向いて無視していた。それでも緊張しているのか表情が硬いのがぼくにもわかる。

ぼくはため息をつく。

(聖剣を持たない勇者候補が怖いなんて、彼らは本当に魔王だったのかなぁ)

口先だけなのかもしれない。

「ねぇ君さぁ、魔王をどうするの?」

ぼくは一番の疑問をぶつけてみた。

「ん?なんだ貴様は。もちろん滅ぼすに決まっているだろう」

「でもここにいる自称魔王はみんな人種族だよ?。人種族から魔王は生まれない。滅ぼすって殺すってことだよね?勇者候補が人を殺していいと思っているの?」

人を殺せば犯罪である。勇者候補といえども罰を受けることになるだろう。

「……今まで魔族にしか産まれなかっただけだ。これからもそうだとは言えない」

おっと、確信をついて来たか。それともこうしてそれっぽいスキルの存在を集められたのだ。国家機関も魔王のスキルを持つ子供の存在を知っているだろう。そうした不穏な存在のことを勇者候補に知らせているのかもしれなかった。

「貴様がこのクラスのリーダーか?、死にたくなければ武器を取れ」

「え?」

ぼくの誤算は彼が非常に浅慮で短気なことだった。

「いくぞっ!」

「はぁ!?」

勇者候補の狙いを少女からそらすことができたのはいいが、まさか即攻撃してくるとは思わなかった。

剣を振り回すのを、後ろに下がることで逃れる。けれどすぐに壁際に追い詰められてしまう。

「逃げるな!」

「ひいいいぃぃっ!?」

あほか。逃げるに決まっている。

こちとら今はただの一般人なのだ。

勇者候補が大きく振りかぶったのを見てぼくは持っていたカバンを盾に身をすくめる。

ガキン、という音がなり、カバンが真っ二つにされる。

おそろしい。

あれが数秒後のぼくの姿だ。

鞄の中身がばらまかれ、ノートだったものや筆記用具だったものが無残な姿をさらしていた。唯一鉄鎚だけは斬れなかったようで無事だけれど。

青ざめたぼくを勇者候補は見下ろし、そして何かに気が付いたように鼻を鳴らした。

「はっ、これが魔王か、恐怖にクソをもらす程度の者が?ハハハッ、ハハハハハハ」

ぬ?

「いいか、今回は警告だ。もしこれ以降も魔王であろうとするような行いをすれば今度は容赦なく斬る!次はないぞ!ハハハハハハッ」

勇者候補はぼくをあざけり、そして剣を鞘に納めるとクルリと向きを変えて教室を出て行った。

……最初から警告目的だったらしい。

しばらく教室では誰も動くことができなかった。

勇者候補、そのたった一人の起こした暴虐の旋風は、転生魔王の多いこのクラスを震え上がらせておつりがくるくらいだった。

「……行ったか?」

「…もどってこないよね?」

おそる、おそるという感じでクラスメイトたちが動き始める。

「…グーグ、もらしたのか」

なんか不名誉なことを言われた。

「まって、もらしてない」

「仕方ない。あのような場面だったのだ。余のかえのパンツを貸してやろう」

いやそれはいらない。

「お前、怖いもの知らずだな。しかしもらしたか」

「あぁ、もらしたようだな。我の所にまで匂って来たぞ」

「もらしてないってば!」

その後もぼくの名誉はあまり守られないようだった。




「お、クラウゼンおかえり。締めに行くとか言ってたけどすんだのか?」

「まぁな。これでおとなしくなるだろう」

「へぇ。勇者候補も大変だな。…てか、何か臭くね?」

「?、そうか?」

「気のせいかな。まぁいいか」

「あぁ」



■本来の10歳児

せんせーグーグ君がうんこもらしたー!

うわくっせーうんこくっせー

グーグうんこーグーグうんこー

きたねっうんこばーりあー

うんこうつるぞー

ばーりあーばーりあー

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