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つららの秘められたスキルです。


学園での授業は午前中は座学だ。

ひとまずは語学と数学から教わることになった。育った場所によっては文字すら知らないこともある。そういった生徒の確認と底上げを行うために時間を割いているようだ。

今後は法律、歴史、地理、行儀作法を学ぶ。ここにいる生徒のほとんどは貴族ではないが、貴族に仕える可能性もあるためそういった知識も必要になる。

ともあれ、語学も数学も問題の無い生徒は退屈な授業に辟易していた。


「ええとこれは…」

「『風邪』だよ。『風邪をひいてだるい』かな」

「そうか。サンキュ」

ぼくの隣の席には昨日グールを使い魔にした少年が座っている。

名前はキース。

肉屋のせがれだからか数学は問題ないが、語学が心許なくこうしてぼくに教わりながら課題をこなしている。

この課題が終われば午前中の授業は終わりだ。後は昼食をとってから使役の授業がはじまる。

「使役の授業って何やるんだろうね」

あまり難易度の高い者でないことを祈りたい。

ぼくの使い魔はアレなので。

そんな他愛ないつぶやきを近くで聞いていたやつがいた。

「何もなにも戦わせるために訓練するんだろう。そのためにこのクラスがあるんだからな」

前の席からニヤニヤこちらを振り返っているのは”魔王”の一人だった。確か『魔王バグラハウラ』と名乗っていた。

「お前、ゴミみたいな使い魔を引いたんだってな?、誰でも配下にしてやるとは言ったが一方的に寄りかかられるだけの仲間はいらんからな。我の配下になりたいとは言ってくれるなよ」

ゴミ…とはいくらなんでもひどい言い様だ。

けれど確かにあの使い魔で戦えるのかと言うと戦えない気がする。

キースに視線を送るが首を振っている。どこから知ったのかと思ったが、昨日同じく召喚した他の三人から聞いたらしい。元魔王様はすでに配下を得るためにいろいろ動いているようだった。

ぼくは下を向いて小さくなる。

”使役”でクラスを作った関係上、使い魔が弱いことはクラスでのヒエラルキーが低いことを意味していた。

(何でもっとまともな使い魔がこなかったんだろう)

精霊に縁がなかったせいなのだろうけれども、今後の学園生活でかなり肩身が狭いことがきまっていた。




「”使役”の授業では使役することの意味と自分の使い魔の能力開発をしていくコン。まず使い魔は便利な道具じゃないコン。心ある仲間だコン。愛するコンよ。それはきちんと使い魔に届くコン。愛情がなければ使い魔に見捨てられることもあるコン。ひどいときは使い魔が主を殺した事例もあるコン。気をつけるコンね。もちろん愛情と言っても使い魔それぞれの好みがあるコン。先生はお金が愛しいコンよ。だから先生に愛を注ぐときはお金を注ぐといいコン」

しょっぱなから脱線気味の使役授業が始まった。

「では使い魔を呼び出すコン。スペースが無ければ外に呼んでもいいコン。飼育小屋に入れてるこは連れてくるコンよ」

召喚スキルがあれば呼び出せるが、無ければ呼び出せない。キールの《屍鬼製造》もそうだ。だからキースは飼育小屋にグールを入れており、食事時に生肉なんかを差し入れているとのことだった。

生徒たちが魔物を召喚していく。ほとんどがEランク、Dランクの魔物の中、たまにCランクの魔物を召喚する生徒がいる。さっきぼくにからんできた魔王バグラハウラの少年もCランクだ。

どどん、とひときわ大きな音がして窓の外に大きな影が着地する。

「おお…!」

「ひゃぁ、ど、ドラゴン…!?」

それは火炎竜だ。

赤毛のドリル頭の少女が窓から腕を伸ばして竜の鼻先をなでていた。

竜がうれしそうに鼻を鳴らす。あの竜は少女に懐いているようだった。


「召喚したら使い魔と会話するコン。言葉で、目で、手で、においで、魔素を使って会話する生徒もいるコン。何がその使い魔に合った会話方法なのかじっくり調べるコン。すでに会話できている生徒は別の方法でもやってみるコン」

あまり人前で召喚したくはないが、このまま隠していても仕方ない。

ぼくは覚悟をきめて召喚を行うことに決めた。

「…《精霊召喚》」

手の前に召喚の方陣が現れ、輝く。空気が冷たく凍り付くのを感じ、手の前に細いつららが現れた。

つららはそのまま落下し、机に落ちてパキンと折れる。

「…………」

「プ、何それ?」

「攻撃魔術の方がましなんじゃないか?」

いや、確かに攻撃魔術のほうがたよりになるだろう。けれどまだ、ぼくはこの使い魔のことを知らないのだ。

きっとすごい能力があるかもしれなかった。

「主なら使い魔のステータスは見られるコン。ステータスも使い魔を知る役に立つコン」

狐教師のアドバイスはぼくの心に希望を与えた。

「ステータス…こうかな」

使い魔に向けて指をふると、使い魔のステータスが空中に表示された。



個体 つらら女

種族 妖


筋力 0

耐久 1

器用 1 

感覚 1

知力 0

魔力 0

魅力 5

速度 0


氷耐性50


・冷凍術《一閃》



すごい!魅力が5もある!

氷耐性が50もある!

……

スキルが一つあるだけでもありがたい。

ぼくはスキル欄に指をあててスキル詳細を表示した。


・冷凍術《一閃》 <武器攻撃に威力300%の氷属性を追加する。使用後に武器は破砕される。>


…300%の威力増加攻撃だ。スキル自体はかなりの高威力スキルなのだけれども、使えば武器が壊れる。…一回でつららは粉砕され、おそらくこの使い魔は死ぬことになる。

300%の方も数値を見たときはおお?と思ったが、、風突や風刃の攻撃スキルは追加威力100%や120%で壊れない。300%の代償にしてはあんまりだと思う。

ぼくは溶け始めたつららを一度《返還》の方陣で返す。《返還》は《召喚》できるようになって覚えたスキルだ。


「ステータス0って初めて見たかもしれない…」

スライムでさえわずかだが数値があったはずだ。こんなに弱い魔物はむしろ貴重なため全力で保護しなくてはいけないかもしれない。

ぼくはもう一度《精霊召喚》でつららを呼び出した。

「…つ、つららさん、今ぼくは呼びかけています。ぼくの声が聞こえるでしょうか?」

……返事はない。

「つららさんの好きな食べ物は何ですか?雪ですか?氷砂糖ですか?」

……返事はない。

「そういや他の方法で会話しろって言ってたなぁ…」

ぼくはつららを持って匂いをかぐ。特に匂いがあるわけでもなく冷気を感じるだけだ。

次に舐めてみる。これが女の子であったのなら少し変態チックな行為だが、それはつららだ。水っぽいだけだった。

「魔素を使えって言ってたなぁ…とりあえず…こうかな」

掌に魔素を集めてみる。

目に見えない魔素が手のひらでゆらゆらしているイメージを作り、その中につららを入れてみる。

「…………」

……動きはない。

ただのつららである。

これは本当につららではないかと思ってしまうのだが、ステータスが確認できたということは違うのだろう。妖怪つらら女とは何なのか。

しかたなくぼくは知っていそうな狐教師に助けを求めた。


「しらないコン。『雪女』ならまだしも『つらら女』なんてマイナーな妖怪は誰もしらないコンよ。あたしが名前だけでも知ってたことに驚くくらいの無名度だコン」

どうしようもなく使えない狐だった。

だいぶ困った。

ぼくは自分の席で頭をかかえる。


どうすんだこれ?


確か夏休みまでにDランクにならなければいけなかったはずだ。

なれなければ罰当番だと言う。

……無理じゃないかなぁ。

戦闘スキルも魔術も持っていないぼくは《精霊召喚》に期待していた。

それがこの有様では罰当番は決定したのも同じだろう。


「せんせーっ、もうダンジョンに行ってもいいんですかー?」

生徒の一人が手を挙げて質問していた。

「いいコンよ。できるだけパーティーを組むコン。自分の使い魔との相性も考えて組むといいコン」

生徒たちはわいわいダンジョンの話に花を咲かせる。

「ね、ねぇフローライトさん、私たちといっしょにダンジョンに行かない?あなたの竜君ともお友達になりたいわ」

「フローライト君。君の力は制御なくして正しく振るわれるか不安である。我ならその力が暴走したとて抑えることが可能だろう。どうだろうか、我のパーティーに参加してみるというのは」

クラスで唯一のAランク魔物を従える赤毛少女はクラスメイトたちから大人気だった。

ひるがえってぼくはどうだろう。

誰からも相手にされない。

キースも他の男子とダンジョンに行く約束を取り付けたようだ。


ぼくは一人、クラスで孤立していた。


妖怪「つらら女」は日本の妖怪です(゜-゜)不遇っぷりが好き。

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