入学式です。
「この晴れた~良き日に~」
グーグは並べられた椅子の一つに座り、あくびをする。
本日入学式となったが諸事情で式日数日前にこの街に到着したせいでぎりぎりまで家具や物品の準備に時間をとられていた。
おかげで旅の疲れも抜けきっていないまま当日を迎えたのだ。
なので眠い。
とくに意味のない教師の長話しを聞かせられたりしていると。
ここの教師に思い入れもないので隠すことなくあくびをする。隣に座っている生徒からチラリと視線を向けられるが気にすることもない。
教師の話は長い。
要約するとこの学園は国中から戦技、魔法に長けた生徒を集める学園ということだった。
ここで良い成績を収めれば国の騎士団、魔術師団に推薦されるのだそうな。
グーグにとってはどうでも良い話だった。
グーグは騎士にも魔術師にもなるつもりはない。師匠といっしょに錬金術で生活していければいいかな、という程度の将来設計である。むしろ人と会話しなくてはいけない騎士やらなにやらになんてなりたくないと思っていた。
学園にきたのもグーグの持っているスキルの一つが国が集めている才能の一つだったらしく、学園に強制で入学させられたという理由である。
投獄されたくないからきただけだ。
とはいえ、こうして来てしまったのだからそれなりに授業を受けてみようとは思っている。
尻が痛くなりはじめた頃ようやく挨拶も終わりクラスが発表されるらしかった。
教師らしき数人が戦技は右通路、魔法は左通路と声をはりあげている。
自分はどちらなのかと考えるのだが、そもそも戦闘スキルを持っていないので戦技の選択肢はないのであった。
魔法の方に進みむと壁に人だかりができているのが見える。どうやらクラスわけがはられているようだ。
「ええと…ぼくは…」
前から順にクラスを見てゆく。
攻撃魔術で3クラス
回復魔術で1クラス
使役クラスで1クラス
「…使役?」
聞いたことのないクラスだ。つけるにしても普通は『召喚』とかだろう。なのにここでは”呼ぶ”だけではなく”使う”ことも含めたクラスととれる名前が付いている。
しかも自分の名前が書いてある。
「ぼくは使役クラスか…」
ふむふむと紙を眺めていると後ろから声がかけられた。
「ふんっ、邪魔よ」
「げっ」
おかしな声が出た。
「げ?」
見覚えのある特徴的な髪形の赤毛の少女だ。学園に来る馬車でいっしょだったのだが、学園でも一緒になるとは思わなかった。
そういやこの少女は竜を使役していた。『使役』クラス…嫌な予感しかない。
「何でもないです」
「ふんっ」
危険な物にはできるかぎり逆らわない。グーグの処世術である。
こそこそ逃げるように廊下を離れ、割り振られたクラスに行くとすでに教室には幾人もの生徒たちがあつまっていた。
演壇を囲うようにおかれた机には決まった座席はないようなのでグーグは後ろの席に腰をおろす。
どうやら本当に使役するクラスらしく、魔物を連れた生徒もちらほらと見受けられる。
(あれはスライム。あっちはモールスパイダー…お、ブルービートルだ。かっこいいな)
ぱっと見ではEランク、Dランクの魔物がいる。たまにCランクの魔物を連れている者もいるが、流石にCランクは体格が大きく教室内では邪魔になっている。
「はーい席につくコン。邪魔な魔物もしまうコンよー」
ベンベンと持っている名簿を叩いて教師らしき獣人が壇上に現れる。生徒たちが席に着く。
「はじめるコン。入学おめでとうコン。君らはこれからの5年間この学び舎で学ぶ仲間コン。仲良くするコンね。使役クラスは魔物や精霊、動物も混じることになるからそこいらも大事にするコン。しないこはお仕置コン。お仕置きは校内、校外の5時間清掃コン。夏と冬は死ねるコン。覚悟を持ってやるコンね。じゃ、各自自己紹介していくコン」
していけと言いつつまずは自分からと獣人は自己紹介を始めた。
「使役クラス担当のカガスミコン。美少女コン。あたしは獣人ではなく”妖”だからそこは間違うなコンね」
妖とはめずらしい。確か東方の魔物が妖だった記憶がある。
カガスミは狐のミミとしっぽを生やし、蒼い衣装に身を包んだ女性だ。ただ美少女と言うようにまだ顔に若い雰囲気が残っている。美女、というにはいろいろと足りていない感じだ。
そんなざっくりとした説明で紹介は終わりらしく、今度は一番前列に座る橋の生徒を指して自己紹介を始めるように言った。
指された男子生徒は立ち上がりみんなの方を向いて紹介を始める。
「我は魔王。魔王バグラハウラであるっ!。今世では人間となったが天を滅し地を制する王である!このクラスの者も我が配下としてやろう。感謝して仕えるがよい!」
……は?
……阿呆がいた。
というか、
魔王がいた。
「はい、魔王君は今世での名前を言うコンねー」
「ふむ。ガードナーである。よろしく」
着席された。
教室は混乱に包まれている。教師のカガスミは気にせず次の生徒を指名しようとするが、それを遮って別の生徒が席を立つ。
「オレ様は魔王ビシュアルカっ、蒼空の覇王と呼ばれた魔王だったっ。今はケイランって名前だが、ここでも空を統べる生き方をするつもりだ。配下になりたいやつに制限はねぇからいつでもオレ様のところに来いっ。本物の空を見せてやるぜ!」
……
「あ、あたしは魔王ピーティッティ。恋を手助けする魔王よっ」
「おいどんは魔王ドダイデンどん。筋肉こそ力だどん」
「まてまて。この魔王アルファ・アルファをさしおいて何を言うか」
魔王の自己紹介合戦は続き、五人の自称魔王が覇を唱えていた。
教師は混迷を喫していた教室をバンバンという名簿の音で静かにさせつつ言った。
「剣技科に勇者候補がいるから魔王君たちは自重するようにコンね。殺されてもあたしは知らないコンよー」
「「「「「……」」」」」
勇者候補とは魔王を倒せると見込まれた者のことだ。魔王を倒した者が勇者と称えられる。なので魔王を自称する者たちは勇者になりたい勇者候補の格好の獲物と言える。
倒されたくなければほどほどにしておけ、と釘を刺されていた。
静かになった教室でカガスミがたんたんと自己紹介を進めさせていく。
しかし魔王バグラハウラに魔王ビシュアルカ、魔王アルファ・アルファ…聞き覚えのある名前だった。
他二人の元魔王は知らないが、グーグは自身より前の世代の魔王の名前は知っていた。
そうか…自分が人に転生したのと同じように他の魔王も転生していたのか。
世界の理にほころびができたことはうっすらと覚えている。”魔王”にかんするルールに齟齬が生じたのだ。ゆえに魔王であったものはこの世界にいなくてはいけないというルールに従い、死んだはずの魂が世界に呼び戻されるきっかけを得たのだ。
なるほど。
そうすると魔王であったのは自分だけではない。
他のすべての魔王にもチャンスが与えられたわけだ。
だからこんな同学年に魔王がわんさか集まってしまっているのだろう。魔王の多くはスキルに魔物召喚系のスキルを持つ。国中から召喚スキルを持つ者を集め、召喚で1クラスを作ったせいか、ここには多数の元魔王が集まってしまったのだ。
(…これは他にも元魔王が大量にいそうだぞ)
ぼくは頭をかかえた。
グーグは転生者である。
前世では魔王をしていた。
今世で産まれ、世界を統べようかと思っていた時期もあったのだが、魔王時代のスキルをことごとく別のスキルと交換されてしまったせいで今は一般人をしている。
スキルを持たない出涸らし魔王だった。
やっと学園が始まりました。ある意味ようやくスタートです(´▽`*)




