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師匠の懐事情に涙します。

「師匠、学園へはトロロンプさん、という人といっしょに馬車で旅することになりました」

「トロロロンプさん?」

「トロロンプさんです。何でも屋らしいです。森の中でグレイウルフに襲われてたところをぼくが助けたので、そのお礼に旅費を出してくれることになりました」

「え~っ、まって、グー君が助けたってなに?、何で?、危ないことしちゃダメだよっ」

ぼくは今日のことを話した。

トロロンプがグレイウルフに追いかけられていたこと、それを助けるために《錬金術》を使ってグレイウルフを追い払ったことを。

「…人助けはえらいけど、でもグー君が危ないことはダメ。グー君は強くないんだから、すぐ死んじゃうんだからね?」

エルフである師匠からすれば人間であるぼくは貧弱な存在なのかもしれない。それでもちょっと過保護かなとは思うけれど。

「心配しないでよ。そんな簡単に死んだりはしません。まずくなったらトロロンプさんを見捨ててでも生き残りますから」

「うん…絶対だよ?」

トロロンプさんの扱いは置いておいて、ひとまずそれで師匠は納得してくれたようだ。

師匠にとってぼくは小さい、子供のままのぼくなのだろう。

エルフと違って人間の寿命は短い。だから大きくなるのもエルフよりはやいんだけどな、と思わなくもない。

けれど生きた年数で言えばずっと師匠にはおいつけない。師匠は師匠のまま、ぼくが老衰で死ぬ時までずっと師匠なんだろうと思う。


「で、ですね。いろいろと用意するために軍資金なるものが必要なんですが」

筆記用具や食事代、下着や私服、髪を切ったりなんやらかんやらするための資金だ。学園での恰好は制服がもらえるのは義姉のときのことで知っているからそれはいいとしても、たぶん1万Gくらい必要だろう。ちなみにパン一個が10Gだ。

これは支度の資金としてで月々に必要となる金額はまた別に用意しなければならないだろう。

義姉のそういった資金は養父がやってくれている。師匠がお金に対して信頼がないから。

なので相談できるなら養父に相談したい所だったが…今どこを旅しているのやら。

いないのでしかたがない、こうして師匠に相談してみているのだった。


「…ぐんしきん…」

「ひとまず1万Gくらい。ぼくも1000G持っているのであと9000G用意してもらえますか?」

師匠の視線が右に、左に、あさっての方向へとさまよいはじめる。

「…ししょう?」

「まま、まとうか。ね、ほら、前々からやってみたかった錬金があって?さっきグー君がいじってたやつなんだけど」

魔銀を使ったランプだ。

「あぁ、あれはなかなかよさそうなランプですね。ランプに魔銀でそれほど元手がかかっていませんよね。あれを量産できればお金にも困らないくらい稼げるんじゃないですか」

「……ガラスに精霊晶を使ってるんだ」

「…は?」

精霊晶は精霊がいた場所に生えていると言われる水晶だ。魔法耐性に優れており防具に使われる素材としても人気は高い。ただ、希少なせいもあってかなり高いお値段の素材だった。

「な、なんでそんなものを…」

「きれいに魔術光が消えなかったんだよ。だって、ガラスも鉱石の一種だよね、魔術を長い時間浴びているとその”色”が抜けるのに時間がかかっちゃって、光が消えてもぼんやり光ったままになっちゃうんだ。だからそうならないように魔法耐性のすぐれた素材をね、使ってみたんだ」

みたんだ。じゃないよ。

思い付きでいくらかけてるんだ!?

「え、まって、精霊晶?、いくら使ったんですか?」

「……これから稼ぐ方法を考えよっか」

「ししょう?」

あきらかにごまかしている。

かかった金額はあのランタン一個に使われた精霊晶だけかと思ったが、どうもあやしい。

ぼくは席を立ち、師匠の部屋にいそいだ。


「あーっ!ミスリル塊!こっちには竜蟲の羽根まであるっ!しーしょーおーっ!!」

タンスの中、本棚の脇、釣り灯の傘の上からでるわでるわ。ランプを作るためだろう、魔導率のいい素材や透明な素材が大量に発見された。

どれも少数の購入である。

(一品ものしか作る気がないな…)

ぼくはため息をつく。

せっかく面白い物を作っても数を作らなければ収入につながらない。

師匠はいくつもの素材を集め、たった一つの満足いくものを作る。

かわりに素材にかかる金額でいつもお金が心許ないのだ。

「グー君…みつけちゃったね」

悲しそうに言う。

「ししょう…どうしてこんなに買ったんですか…お金はどこから出たんですか」

「……ランプ、不便だったし。お金はトイレの壁の裏から発掘されたんだよ。生活費からじゃないよっ」

隠していたんです。

「もーっ、どうするんですかーっ!」

「ごめ~んっ」

ぼくの叫びがこだましていた。



結局師匠の作った『魔導ランプ』は小型化して売ることになった。

師匠が気にしていた”ガラスに魔術光が付く”というのをそのままにしてしまえ、と考え、下部の《増加》プレートを抜き小型化して商業ギルドに持って行った。

光が付くならポケットにでもいれてしまえば見えなくなる、というわけだ。通常のガラスを使うことでコストも値段も安くすむようになった。

ギルドでは商品、商人関係以外にも新しい商品の登録や生産工場の確保、販売規模や輸送ルートなんかも管理している。

それらをまるっと頼んでしまい、うちでは一切生産しないことを伝えた。


「もったいないですね。《錬金術》があるのなら楽に稼ぐことができるんですけどね。エリアーナさんは作ってもその後をしないので本当にもったいなく思います」

「ですよね。ぼくもそう思います。…売上金はいつぐらいにもらえますかね」

ギルドでなじみの職員さんに入金日を訪ねた。学園入学の準備を考えると二月ふたつきがせいいっぱいだろう。

「冬の前には商人も各地を回りますから…一月以降でしょうね。…そちらのランプは試作品ですか?」

「一月なら助かります。これは師匠が作りたかった本来の『魔導ランプ』です。消してもきれいに光が消えるんですよ」

「いいじゃないですか。ガラスもきれいな透過度ですが、何か特殊な処理を?」

「いえ…これ精霊晶なんです。だから魔術が残らない」

「あぁ…」

職員さんが苦笑していた。

ガラス部分に精霊晶を使うと桁が一つ高くなってしまう。

「そちらも一応登録しましょうか。注文があれば作るという形で。…素材探しなんかはどうします?」

他に使えそうな素材を探してもらうこともできる。もちろん料金が発生するのだが。

「ならうちで作ることにします。月に2,3個なら師匠も作ってくれると思うんでお願いします。素材はあらかた試したのでいらないと思います」

ひとしきりそんな話をして登録料と依頼料を払う。

これでトイレに隠していた貯蓄金はすっからかんだ。


「まいどっ。また何かあればごひいきに~」

職員のうれしそうな声を背にギルドの建物をあとにする。

こっちはどうお金を工面したものかと悩んでいるというのに。

「はぁ~」

本当にどうしたものだろうか。

突発的に稼ぐには…冒険者ギルドで仕事の依頼をうけるしかないだろう。

ひきこもり体質としては一日に用事一個こなしたのでもう十分なのだが、せっかく村にいるのだ。別日に再びここまでくるよりは今冒険者ギルドに行く方が楽である。

「…しかたない、行ってみるか」

疲れる体を鞭うってぼくは冒険者ギルドの建物に向かうのだった。


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