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冒険者がやってきました。



鍛冶に

魔術に

遊びに

教育も。

夏が過ぎていく。


青空を切り取ったような白い入道雲が、空に広げられたウロコ雲にかわってきたころ、村には外から何人かの冒険者が訪れていた。


「ここがケイフ村か。何もないところだな」

「辺境ってのはこんなものさ。国で一番高い場所にある村落だ。道中の景色は良かっただろ?」

旅の馬車から降りてきた大柄な戦士に弓を持った髪の長い優男が苦笑しながら答えていた。

「ふん、まぁ期待はしていなかったがね。景色が良かったのは同意するが」

大柄な男の背中には巨大な剣が鞘に入れられて背負われていた。その長さはラーテリアの背丈より長い。それだけでなかなか威圧感があり、村の人々も遠目にみているだけだった。


「あーっ、すっごーい!。おっきいけんだーっ」

村人が遠巻きにするなか、楽しそうな声をあげながらナーサが大柄な男に歩み寄っていく。

ついでにナーサに手を握られているオレもぐいぐいと引っ張られていたが。

彼らは子供のキラキラした目で見あげられ少し戸惑っていた。

「あら、子供ね。もしかしてドワーフかしら。人里にいるなんて珍しいわね」

馬車からは他にも数人の男女が下りてくる。

総勢8人。

これほどの来訪者が訪れるなど、オレの今世では初めてのことだった。

「何かアホっぽいわね。…まぁいいか」

「う?」

ナーサを見ながらつぶやいていた。やめてくれ。本当のことはナーサが傷つく。

「お嬢ちゃん、村長さんいるかしら。依頼の件で話を聞きたのだけれど、どこにいけば会えるかしらね」

「そんちょーさんはあっちだよっ。ねぇねぇおねぇさんはおぼうしすごいねっ。おぼうしさんかくなんだねっ」

「…ぼくがあんないするよ」

ナーサは冒険者というめずらしい存在が気になってしかたがないみたいなので。オレが案内したほうがいいと思い彼らを案内しはじめた。


村長の家は村の真ん中にある。正門から徒歩で10分くらいでつく。

その間、彼らはナーサの質問攻めにあっていた。

「ねぇねぇっ、なんでおっきいけんなの?」

「剣が気になるか。おれは”重戦士”だからな。こんな大きな剣も軽々と扱えるんだぜ」

大柄な男が剣を持ちあげて軽く振り回して見せた。ぶうん、と音がしてその重量感を感じさせる。

「じゅーせんしってなにー?」

「冒険者の職業の一つだな。”戦士”がLvアップすると”重戦士”になれるんだ」

戦闘系の職業スキルである。普通の冒険者より、特定の武器の扱いに特化したい場合に冒険者組合で就くことができる職業だ。

簡単には戦士職は剣や槌なんかの振り回す物が得意になり、魔法関係が弱くなる。

魔法職は杖や魔術が得意になり、筋力や耐久力が弱くなる。

魔法の素養がない等の人であれば、戦士の職業スキルは得るものが多いだろう。

「みんなは、ここにすむのっ?。ごきんじょさんなのっ?」

「住まないわよ。ここにはギルドの依頼で来たのよ。トロール退治のためにね」

トロールを倒すために外部に助けを依頼する。

実に合理的な判断だった。

ただ、この村によくそんな金があったものだと驚くが。

トロールは単体でCランク、複数体だとBランクの魔物である。必要になる冒険者のランクも必然的に高くなり、依頼料もその分高くなっている。

…どっから捻出したんだろう…。

さて、”冒険者”とは依頼を受け、依頼料を受け取る者たちのことである。

依頼はいろいろ。薬草の採集や魔物の討伐、ダンジョンの探索や引越しの手伝いもする。家出ネコのネコ探しも請け負うこともある職業だった。

冒険者組合の施設に張り出される依頼書を受付に持っていき、依頼を受ける。依頼書にはおおまかな依頼内容が書かれている。

討伐依頼であれば討伐対象のモンスターの数や生息地のこと、そして依頼料と募集の人数、冒険者ランクが書かれている。

自分の実力でこなせると思えば依頼を受ける。難易度が高いなら複数人が集まった”冒険者パーティー”で受ける。

依頼を受けてやってきた冒険者は、依頼をこなせる者たちということである。

ともあれ、こうして冬を越すため一番ネックだったトロールとの生存戦争が、着々と進んでいるのだった。



彼らを村長の所に案内したあと、大人たちでしばらく話があるとかでうちの父も村の集会所に行っていた。

次の日から村の有志で付近の探索が始まった。

トロールを見つけ、冒険者たちに倒してもらうために。

森に詳しいエルフのデイナードさんや山男の父も参加していた。

探索を村人がやり、討伐を冒険者がやる。

どうやら依頼料を抑えるために、村長が出した条件らしかった。

金の無い我が村ではしかたのないことだったのだろう。

しかしこの作戦はむしろ、被害を大きくするだけになった。


「ひいっ、トロールだっ、た、助けてくれぇ!」

そう言って村に駆け戻ってきた男の後ろから二匹のトロールが見える。

「よし、おれたちにまかせろ!」

そう言って重戦士の男を筆頭に、冒険者たちが村の外へ駆け出す。

けれどトロールは村が見えるあたりまでくると踵を返し、森に帰って行ってしまうのだ。

トロールは昨年のことを覚えていた。

村の正門で待ち構えられ、不利な戦いを強いられて仲間が殺されたことを。

罠と知っていて入ってくるほど馬鹿ではなかったのだ。

村人はならば、とより深いところまで入り込み、トロールを釣ろうと試みる。

もっとギリギリの距離で追いかけさせ、トロールが自分に集中するように。

それは何度か有効だっただろう。けれどそれ以上に犠牲者を増やすことになってしまう。

村人での死者が3人を数え、大怪我をした者が4人。小さい怪我を負った者はもっと多い。

なのにトロールの討伐数は未だに0匹であった。


「結局、金をけちったせいだろうな。おれたちにまかせておけば一週間で終わったものを」

大柄な男――ドルハドが言った。

「しかたないわよ。だってここ、何もないもの。お金がないならどっかで命を賭けないとね」

魔術師の女――ルーニエはナーサに魔術の手ほどきをしながら応えている。言うことは言う性格ではあるが、人はいいらしい。

もっとも、彼女がナーサの魔術を見ているのはナーサに村人の回復をやらせるためでもある。冒険者の治癒魔術をあてにするとお金がかかる。なのでナーサにやらせることで費用を抑えさせようということらしかった。

「手伝いたいのですけれどね…それをするとギルドから罰金を科されてしまうんですよね…」

彼らのパーティーとは別の、メガネの青年が溜息交じりにつぶやく。

依頼以上の人助けをしてしまうと他の依頼でもそれを求められることになる。結果、依頼を取りまとめる組合に苦情が来ることになってしまう。

自分の依頼にはサービスが無かった。他の依頼はどうだったのに、という風にである。

なのであまりに依頼内容と違う仕事をした場合、罰則金が発生することがあるのだ。

今回のがまさにその罰則になる、ならないがわかれる依頼であった。


村の側まで誘導する。そしてそれを冒険者が討伐する。

冒険者としても、村人が怪我をするなら森にまで行って討伐したいだろう。

しかしそれでは依頼内容と大きく変わってしまう。

金額を抑えるための契約なのに、抑えていないのと同じことをやってしまっては契約の意味がない。

なので彼らもやきもきしながら村の入り口で待機しているのであった。

日数がかさみ、結局宿泊代を無償にしたことが負担になってきていた。


「しっかし、あんたすごいわね。こんなにいろんな魔術を使えるこなんて、学園にもいなかったわよ」

魔術師のルーニエは膝の間に抱えたナーサの頬を掴み、むにっと変顔させていた。

「ニャーシャしゅごいーっ?」

「えぇすごいすごい。家に持ち帰って弟子にしたいところね。抱き心地いいし」

ペットか何かと思われているふしがある。

暇な冒険者たちは鍛錬をしたり、狩りに出たり、子供の相手をして時間をつぶしていた。

「ラーテリアもすごいぞ。長物の扱いがうまい。風の魔術も使えるし、《風刃スラッシュ》か《風突スラスト》を覚えて風属性付与の魔術を覚えれば中々の戦士になれるだろうな」

弓使いのイザが長棒を持ったラーテリアの相手をしながら言う。

最近魔術を覚えたラーテリアも将来有望らしい。

将来有望な姉貴分にかこまれて、鼻高々なオレである。

「グーグちゃんはーっ?」

「あ、うん。…かわいいわね。こどもだものね。将来は何かできるんじゃない?」

悲しい評価だった。

いや、まだ3歳に満たない年齢なのだ。この齢でスキルを持っているやつなんてそういないぞ。職業スキルだってこないだLv3になったし。

オレだって有望なはずである。



オレたちが特訓だか遊んでもらってるんだかわからないことをしていると、正門の見張りをしている村人たちが騒ぎだしていた。

「…何かあったみたいよ」

「見てきます。こっちに声がかからないのを見ると、急ぎではない気もしますが」

メガネの人が移動し、門の外を眺めている。するとこちらに向けて手を振ってきた。

「呼んでるわよ」

「来いってことか。…しかたない、行ってくる」

といいつつ、興味があるのかみんなで正門まで移動する。

「すっごーいっ!」

正門の向こうには腹を割られ、虫の息のトロールが一匹転がっていた。

その横には腕を組んでふんぞり返っているドルハドが立っていた。

「…狩りに行ったらいた。たまたま出くわしただけで依頼とは関係ない」

と、いうことらしい。まだ殺していないから討伐依頼に反していないらしい。

けれどこうして目の当たりにすると思い知らされる。彼ら、冒険者の戦闘能力の高さを。トロールをただの一撃のもとに瀕死にしてしまえる腕前がある。彼らの力を借りられたのならきっと、トロールを掃討することだって容易にできるのだと。

「生きているのか…。ならつかえますね」

メガネがメガネをキラリと輝かせながら不穏なことをつぶやいた。


トロールは門柱にくくり付けられ、手足を柱に釘ではりつけにされた。

生きたまま。

トロールの仲間を呼び込むための、生きた囮として。

ギリギリ死なないように、再生する体を傷つけられながら。

数匹のトロールを釣った村人が村に帰って来る。追いかけていたトロールは途中で足を止め…そして吼えた。

大きな声で。

はりつけにされた仲間に聞こえるように。

生死の境にいたトロールもその声に首を向ける。

声を出す体力はない。

いつまでも続くかに思えた雄たけびも、いつしか止み、トロールたちは森に帰って行った。

「…来るかしら」

「来るぞ。やつらはきっと来る」

「あぁ。おそらく、一斉にやってくる」

人間とトロールの生存をかけた争いが――始まる。


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