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スキルが強くなりました?


その後もナーサとラーテリアと、何度もお互いの家を行き来して遊んだ。もちろんココとノノの二匹とも遊ぶ機会があった。

遊ばないときはオレは鍛冶のスキル上げにいそしんだ。

素材を集め、鍛冶を行い、たまにジルさんの鍛冶場にいっていろいろ教わった。

そして夜には集めた素材を加工してより使いやすい物に変えるか、もしくは魔術の再取得のための鍛錬を行っていた。

魔術は覚えられていない。

ナーサに移された属性ではない、”魔”属性の魔術すらも覚えられていなかった。

”魔”魔術はオレの不得意属性かもしれない。覚えにくいだけで覚えられないはずはないのだが、生前でも持っていなかった属性なのでどう取得すればいいのか感覚がわからない。

このままだと魔術は期待できないかもしれなかった。


そんな中、ようやく山主様が山に戻ってきた。



朝の食事が終わり、母はその片づけを、父はこれから仕事に出ようか、という時分に家の扉が叩かれ来客を告げた。

玄関扉の近くにいた父が少しの問答のあと、扉を開ける。

やってきたのは村長と――黒い大きな角を首をかしげながら入ってきた山主様だった。


「仕事前にすまんね。山主様がグーグ君の様子を見たいというのでお邪魔するよ」

「えぇ、かまいませんよ。グーグ、覚えてるか?山主様だぞ」

覚えてるかも何も、ずっと待ってた。ようやくこの時が来たか!。

「くろいのーっ」

「やまぬしさまーっ」

オレとナーサが山主様の所に駆け寄る。

「あのですねっ、やまぬしさま、ぼくのまじゅつがねっ」「ナーサもね、グーグちゃんみたいにまじゅつがつかえるようになったんだよっ」

「ナーサ、やまぬしさまとはなせないよっ」

「ナーサもやまぬしさまとはなすのっ」

魔術が使えるようになったと言っていたな。ナーサめ、以前オレが山主様に会った時に褒められてた、と言っていたが、どうやら自分も褒められたかったようだ。オレと同じく魔術が使えるようになった今なら褒めてもらえると山主様に突撃したらしい。

いいけどね。ちょっとくらいゆずろう。こう見えてもオレは精神年齢が高いのだ。

「…ナーサがさきにはなして。ぼくはあとでいいよ」

「グーグちゃんありがとうっ、グーグちゃんもあとでいっぱいはなそうねっ♪」

オレのことも片手でぎゅっとつかみながら満面の笑顔で言う。

いつも話しているのにまだ話し足りなかったか。

ナーサは魔術が使えるようになったことを山主様に報告する。ジルさんからも褒められ、将来を期待される言葉をもらいすごくうれしそうにしていた。

山主様はナーサにそうかそうかすごいじゃないかよしよし、と頭を撫でてひとしきりあやした後、オレの方に顔を向けた。


「グーグ君、魔術がどうしたのじゃ?」

「…やまぬしさま、ぼくまじゅつがつかえないんです。いままでできたのに、どのまじゅつもつかえないんです」

「ふむ…少し視させてもらうぞ」

そう言って山主さまはオレを凝視しだした。おそらく今、《鑑定眼》でステータスを確認しているのだろう。

「……ナーサ君、そなたのも視させてもらうぞ」

山主様はオレ達二人のステータス欄を見て、なにやら納得したようにうなずいた。

「すまん。おぬしのスキルはわしの想定通りになっておるな」

「そうていどおり?」

ということは、これで正常ということか?え?どういうことだ?

「うむ。……説明しよう。グーグ君とナーサ君、それにラーテリア君のスキルを入れ替えたことは知っているか?」

知っている。ナーサとは”スキル欄”にあるスキルを、ラーテリアとは”固有スキル欄”にあるスキルを交換していた。それぞれの場所の二人の全スキルと、オレの全スキルを交換したのだ。

「うん、しってるよ」

「うむ。それはお主の持っていたあるスキルが、お主にとって良くないもの、将来を歪める可能性があったからじゃ。しかしそのスキルはお主の魂とも密接に関係しておった。ゆえに入替えという方法を取ったのじゃが…これがなかなか癖のあるやり方でな」

「…うん」

「おぬしの覚えておった『魔術』も入れ替えてしまったのじゃが……その所有主は未だにおぬしのままなのじゃよ」

「…うん?」

え?どゆこと?

「魔術を覚えたのはお主じゃ。そしてお主は未だにそのスキルを所持していることになっている。ゆえに、新たに同じスキルを習得することはできぬのだ」

……

ええと…オレは魔術を覚え、それがナーサに渡った。けどそのスキルはオレのだから、オレでは新しく”同じ”スキルを覚えられない。

ということか。

……はぁ?いや、ええ?理屈はあってるか

ええー?

ちょっとー?ええええー?

《火矢》と《火矢》を覚えられないように、一人の存在が覚えられるスキルには一個制限があるってことか。

「ということは…まじゅつは…」

「覚えておらぬ魔術なら覚えられるな」

あったっけ?、”魔”属性魔術はあるな。あとは…

「……初級で覚えておらぬ魔術は…”魔”属性魔術の《魔素還元》だけじゃろうか。すごいのう、基本的な初級魔術はほぼすべて覚えておったのじゃな」

いやまて、覚えておったのじゃな、じゃないぞ?

魔術は、初級を覚えて練度を育てないと中級を覚えることができない。

一足飛びには中級を習得できないのだ。

ということは…オレは魔術を使えないということか

初級全部持っていたので

詰みです。

\(^o^)/

…………

はぁぁぁぁぁあああああっ??!?!?!?!

ちょっ、まっ、ええっふざけんなっ、うええええええええええええええっ!!??


「ぼ、ぼくのまじゅつが…」

「う、うむ。…ナーサ君が初級魔術を覚えれば、グーグ君が使えるようになるかもしれんが……けれど持っているスキルを覚えることは…まぁできぬじゃろうし。…うむ」

「うむじゃないよおっ、まじゅつ、まじゅつおぼえられないのおっ!?」

「……うむ」

おいい、じじいっ、そんな話聞いた覚えはないぞっ。知っていたら絶対に交換なんかしなかったわっ!

どうしてくれるんだ、これ、もうどうにもならねえじゃねえかっ

「ぼくのまじゅがぁっ、ううう…うええええぇぇえ~ん」

オレは泣くことに決めた。もうね、悲しくて悔しくて怒りがおさまらなくて、このくそじじいに今できる精一杯の不条理を訴えるしかなかった。

泣くしかなかった。

もうね、我が身がかわいそうでかわいそうでしかたなかった。

なんでこんなことになってるんだ。

オレが頑張って覚えたスキルはもう、二度と、手の届かないものになったってことか?

えええええええええええ……


「す、すまぬ。…これは、どうしたものか…」

「グーグちゃんかわいそう」

「グーグ…」

家族やナーサが泣いているオレを見つめている。大切なものが無くなったことが分かっているからだろう。どう言葉をかけていいか悩んでいるようだった。

「グーグちゃん、ごめんね…」

ナーサがオレにそっと抱き着いて、抱きしめてくれる。

ナーサのせいなんかじゃないのに、彼女は自分がオレのスキルを奪ったのだと思って謝っていた。

「ごめんねグーグちゃん」

謝りながら、ナーサも泣いていた。

オレたちはいっしょになってくそじじいの前で泣き続けていた。


「ううむむむ……わ、わかった。わしが悪かった。そうじゃ、わしの祝福を与えてやろう。どうじゃろうか、”龍”の祝福じゃ。世界でも稀な、すっごいものじゃぞ」

龍も泣く子には勝てない。自分のせいで子供たちを悲しませてしまったという自責の念から、山主は別のもので謝罪しようとそんなことを言いだした。

「ううう、ぐすっ、しゅくふく?」

「うむ。本来はせぬことじゃが…そなたのスキルのうち、一つを強化してやろう。初級魔術であれば、いっきに中級魔術を覚えるようなものじゃな」

おお?、なんだろうか。なんか割とすごいことを言っているような気がするぞ?

本来スキルは”練度”という、スキルに個別に与えられた成長数値のようなものをあげなければその上位のスキルを習得することができない。

この”練度”というのはそのスキルを使えば増えていくものだ。ちまちまちまちま使って、ようやく次の上位スキルが増える。なので上位スキルが欲しいなら下位スキルを使っていかなければいけないのだが、このじじい、使わなくても上位のスキルにしてくれるのだと言う。

そんな方法があるのかよ!という驚きもあるが、これは確かに有用かもしれない。

なにせオレは種族”人間”だからだ。

人間はスキルを覚えられる数に制限がない。いくらでも覚えられる。

しかしそのかわりスキルの練度上限が低い。

たしか練度50で頭打ちのはずだ。

たとえば中級魔術を覚えるのに必要な練度は初級魔術練度30だ。

初級魔術練度30で中級魔術を覚えられるが、その次、上級魔術に必要な練度は中級魔術練度60なのだ。

種族”人間”では上級魔術に必要な練度が上限のせいで足らないのである。

練度上限をあげる方法もあるにはあるが、普通に生きていてはその方法を得る機会はほとんどない。

スキルを育てようと思うと、種族”人間”では相当困難な状況だったのである。


「…どうじゃろうか。本当に、これはすごいものなのじゃが…」

「……ほんとう?」

「うむ。たとえ、魔王をたおした勇者でさえ与えられていないものじゃぞ。星神の使徒たるわしじゃからできることなのじゃ」

確かに。もしそんなことができるのでれば、歴史書に必ず書き残されているだろうから。けれど今までそんな記載を見たことがなかった。

誰も受けたことのない祝福なのだ。

…本当にすごいことなにかもしれない。

「それを…うむ。お主とナーサ君に与えてやろう。それで許してはくれまいか?」

ナーサのスキルも変えてしまったのだから、ナーサもいっしょに与えられるということだろう。けれどそれならもう一人いることになる。

「……ラーテリアは?」

「わかった。ラーテリア君にもじゃ。お主とナーサ君とラーテリア君。三人に与えよう。…それで許してくれるか?」

オレは涙をぬぐってナーサの顔を見る。ナーサはよくわかっていないようだが、オレが泣き止んだことにほっとしているようだった。

「ナーサ、ナーサもそれでいい?」

「…グーグちゃんがいいならいいよっ」

まぁ、他に謝罪方法はないからな。

オレのスキルを戻してくれる以外は!

無理だろうけど。

なら、スキルを育ててくれるのはうれしい。

「どのスキルを強化するか、今選べるかの?。なんなら今でなくてもいいが、次に会う機会はまた先になるじゃろうしな。どうじゃろうか?」

この村に棲んでいるわけではないので会える機会は多くはない。なら今やってもらったほうがいいだろう。

「なら、いまにする」

「うむ。ゆっくり選んでよいぞ」

山主はほっと一息ついて近くの椅子に腰を下ろす。家族たちもオレが落ち着いたのを感じて少しずつやるべき仕事にもどろうと動き出していた。


オレはスキル欄を開く。



個体 グーグ

種族 人間


筋力 6

耐久 4

器用 5 

感覚 4

知力 10

魔力 5

魅力 5

速度 5


毒耐性3

突耐性1

打耐性1


・錬金術《保存》0 <要魔値。属性を保存することができる。>

・鍛冶《鍛冶Lv2》30 <鍛冶を行う。Lv2:粘土・石・草・根>


《精霊召喚》 <契約した一体の精霊を呼び出せる。>


…スキルが増えていない。魔術が覚えられなかったからだが…ううむ。こればかりはなぁ…。

《鍛冶》スキルが伸びている。使っているからだろうが、このスキルを強化してもらうのはどうなのだろうか。今一番使うのでありがたくはあるが、ただこれは”職業”スキルなのだ。

通常のスキルとは違い、”職業”スキルはLvというものが存在する。このLvとは通常スキルの練度とは別で本来の練度上限である50で止まらず、一定の数値になるとLvが上昇し次のスキルになるのだ。

なので上限を気にしなくていいスキルではある。時間をかければなんとでもなるからな。

なら選択肢はもう片方ということになる。固有スキルの方は練度が無いので強化できないだろうしな。


・錬金術《保存》


魔素を使うので錬金”魔”術と言われるスキルであるが、この魔術、基本である八種の魔術ではなく特殊な魔術に分類される。召喚”魔”術や治癒魔術なんかと同じ、適性がなければ覚えられない稀な魔術だ。

この魔術への知識はオレはほとんど持っていない。せいぜい有名な治癒魔術くらいしか詳しくはない。

ただ…それでも、この錬金術の《保存》というスキルは初級ではなかったように思う。

錬金術の初歩は単純に物と物をくっつけるスキルのはずである。物が持つ性質をどうこうするのは、初歩の先の段階のはずだ。

なので…もしこれが中級魔術だとすると、その次に必要な練度は60ということになる。種族”人間”では届かない数値なのだ。

初級魔術を持っていないのに、いきなり中級相当のスキルをもっている。鍛冶に関することに適性があるドワーフならではのことなのだろう。

ドワーフええなぁ…練度上限も高いし、筋力と耐久もいい。普通に優遇されている種族だった。


というわけで、オレはスキルを決めた。

「れんきんじゅつの《ほぞん》をつよくして」

「ふむ。錬金術の《保存》じゃな。ほんとうによいか?。変更はできぬぞ?一度限りじゃぞ」

山主様はオレが後悔しないようにだろう、確認の念押しをしてくる。

また何かあって泣かせることにならないように気を使っているのだろう。ふへへ、その節はすまないね。

「うん。いいよー、やってー」

オレの返事に決心したのだろう。「よし」とうなずくと山主様はオレの頭に掌をのせ、目をつぶって意識を集中させたのち、スキルを発動させた。


「《特定進化エヴォルケイト》ぉっ」


おおお?オレの目の前に金色の輝きが見える。

前の時は巨大な魔法陣を描いてのまじゅつだったが、今回のはスキルのようだ。おそらく体を強化する、内発系の魔術に似たスキルなのだろう。けれどこんなに輝く強化スキルはあっただろうか?

やはり相当な特殊スキルだと思われる。

「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ、どうじゃ、これでできたはずじゃぞ」

スキル一つで龍である山主様が息を荒くしている。かなり消耗するスキルのようだ。

「やまぬしさま、だいじょうぶ?」

「だ、だいじょうぶじゃ。久しぶりに使ったせいで、かなり疲れたわい。ナーサ君の方は少し休んでからじゃな」

椅子の背もたれに体を預けながら出されたお茶をすすって休憩をとっている。

その姿を横目にオレは自分のステータス欄を改めて開いた。



個体 グーグ

種族 人間


筋力 6

耐久 4

器用 5 

感覚 4

知力 10

魔力 5

魅力 5

速度 5


毒耐性3

突耐性1

打耐性1


・錬金術《保存》0 <要魔値。『属性』を保存することができる。>

・鍛冶《鍛冶Lv2》30 <鍛冶を行う。Lv2:粘土・石・草・根>


《精霊召喚》 <契約した一体の精霊を呼び出せる。>



あん?、増えていないな…。

もしかして初級相当のスキルから段階的に覚えたわけでは無く、特殊な種族スキルとして覚えたから強化しても次のスキルが現れなかったのか?

え、それって強化の意味、ある!?

何も増えていない。

ええええええ…いや、いやまて。

まてまて。スキルの説明欄が…変わっている。

確か前は


・錬金術《保存》 <要魔値。属性を保存することができる。>


だったはずだ。

今は


・錬金術《保存》 <要魔値。『属性』を保存することができる。>


になっている。

『』が付いたな。

……一応強化されたらしい?

違いがわからないが、後でジルさんにでも聞いてみよう。ドワーフ関係のスキルだから何か知っているだろうし。

スキルは増えなかったが強化はされているようだし、ひとまずはこんな所だろう。

強化ではなく、自分で育てていたらどれほど時間がかかるかわかったものではないので、これはすごくありがたい。

…魔術を取り上げられた替わりになるかというと、まぁ、…ならないと思うが。


「グーグちゃんどうーっ?」

「うんっ、スキルがつよくなったよ。つぎはナーサのばんだね」

「うんっ、でも、どうやるの?」

何をどうすればいいか、ということだと考えナーサのステータス欄を開いてもらう。

開いてもナーサはほとんど読めず、オレからも見えないので意味はないのだが、強化前と後で変わったか変わらないかくらいはわかるだろう。

とりあえずナーサが持っているはずのスキルは…



・魔王技《災歌》 <要魂値。継続s時間の対象と周囲を圧縮させる。>


・火魔術《燃力》 <要魔値。300s時間の自身の筋力を15%内発する。>

・火魔術《火矢》 <要魔値。指向性のある火矢を外発する。射程:5×練度/10>


・水魔術《治力》 <要魔値。300s時間の自身の自然治癒力を15%内発する。>

・水魔術《水弾》 <要魔値。指向性のある水矢を外発する。射程:5×練度/10>


・土魔術《硬力》 <要魔値。300s時間の自身の耐久を15%内発する。>

・土魔術《石礫》 <要魔値。指向性のある石礫を外発する。射程:5×練度/10>


・風魔術《速力》 <要魔値。300s時間の自身の速力を15%内発する。>


・光魔術《明光》 <要魔値。300s時間の明光を外発する。>

・光魔術《光矢》 <要魔値。指向性のある光矢を外発する。射程:5×練度/10>


・闇魔術《暗視》 <要魔値。300s時間の暗視を内発する。>

・闇魔術《影縛り》 <要魔値。闇の鎖を外発する。射程:練度/10>


・無魔術《失力》 <要魔値。接触対象に強化効果の失力を外発する。>


・治癒魔術《治癒》 <要魔値。接触対象に治癒を練度/5%外発する。>



”技”スキル1種と”魔術”スキル13種。合わせて14種のスキル。

この中から強化するスキルを選ぶわけだ。

最も、”技”スキルは強化できないだろうから魔術13種類から選ぶわけだが、選ぶ基準は考えてある。

中級魔術として扱いやすいスキルか、もしくは初級魔術を育てにくいスキルだろう。

扱いやすい、扱いにくいというのは個人の意見という気もするが、単純に攻撃魔術としてクセの無いものが扱いやすいだろう。

4属性の中級魔術なんかが扱いやすい。

例えば”火”属性ならが中級魔術は3種。

火球を飛ばすのと、炎の壁を作るのと、武器に火属性を付与するのの三つだ。どれもわかりやすく使いやすい。

比べて、クセの強いスキルで言えば”無”属性スキルだろう。中級魔術は2種。

弾速の遅い球を飛ばすのと、魔術から魔素を奪う盾を作るのの二つ。どちらも使いにくい。

ただ、”無”魔術の上級魔術には老いを遅くする魔術があるため、一定の人気はある。

では今度は育てやすいと育てにくいで考えよう。

使いやすい内発のスキルがあれば単純に育てやすいといえる。

外発は外に魔術を発動することになるから室内だと困ることが多い。火矢なんかがわかりやすく、室内だと火事になる恐れがある。

内発は自身のうちに発動でき、体の強化に使われる。いつでも使えるので魔素があるかぎり唱えて育てることができる。

内発であっても、外発であっても、どちらかの初級魔術が一定の練度に達すれば次の中級魔術が覚えられるようになる。なので、中級魔術の獲得を目指すなら初級の内発魔術があるものが育ちやすいのだ。

育ちにくいのは…”無”魔術と治癒魔術だろう。

あの二つは外発であり、内発の魔術である。外に放つように思えるが、内に作用するスキルといえる。

だが作用するのには条件がある。どちらも対象がその魔術の効果できる状態であることが発動条件になっているのだ。

”無”魔術は相手が強化していること。これは自身を対象にするなら自身の強化でもいい。

治癒魔術は相手が傷ついていること。これも自身を対象にするなら自身が傷ついていなければならない。

強化を消すには強化されてなくては意味がなく、傷を治すには傷ついていなければ意味がないのである。

育てにくい。すごく。

なので、この二つを強化できるのであれば初級の育てにくい部分をすっとばせるので良いとは思う。…中級魔術が育てやすいかは置いておいて。


ということをいろいろと加味すると、やはりほしいのは治癒魔術だと思われる。

”無”魔術は捨てよう。齢を取りたくない以外で取る必要を感じない。わかっていて取にいくならまだしも、今のナーサが欲しがるとも思えないので。

扱いやすい4属性で外発の無い風以外の魔術は初級魔術だけでもそこそこの戦闘能力が出せる。中級魔術があればもっと便利にはなるが、まぁ初級魔術でも問題はない。

しかし治癒魔術は中級魔術にできるならしておきたい。

治癒魔術の中級魔術は状態の異常を回復するのと範囲内の継続治癒のはずだ。初級魔術では触れなければ回復できなかったのが、中級魔術で回復速度は落ちるものの触れなくても回復できるようになるのは強い。

ぜひとも取っておきたいスキル構成になっている。

なので一押しは治癒魔術ということになる。


「ナーサ、つよくしたいスキルをえらべばいいんだよ。ぼくは《ちゆ》がいいとおもうな」

「ちゆ?」

ナーサが首をかしげる。

「きずをなおしたりできるスキルだよ。おじさんやパパがけがしたらなおしてあげられるんだ」

「へーっ、すごいんだっ」

父はきこり。ジルさんは鍛冶師であり、怪我を負うことが多かった。なのでそういった時に怪我が治せるスキルは重宝される。

「ほかはだいたいこうげきするときにつかうのだから。ナーサがこうげきしたいならほかのでもいいかも」

オレがそう言うとナーサは少し考えてから何か思いついたように言う。

「そらとびたいっ」

「…そういったまじゅつはないかな」

確かにそれは地上生物にとっての夢である。

今のナーサの体重なら風呂敷を持たせて強風を起こせば飛び上がることができるかもしれない。

「あとねー、あつくなってきたらすずしくしたりっ」

中級の”水”属性魔術に氷を作るのがあるな。もしくは中級の”風”属性魔術で風をおこしてもいい。初級魔術の《水弾》でも一時の涼しさを感じるくらいはできそうだが。

「あとねあとね~、キノコ作りたいっ」

「それはない」

「えーっ、ないのーっ?」

「ない」

少なくとも今持っているスキルを発展させていっても無理である。

なぜにそれほどキノコが好きなのだろうか。人より地面に目線が近いナーサは地面にあるものをよく見つけられる。けれどそれでもナーサは人よりキノコを見つけるのがうまかった。

ナーサがキノコが好きなだけではなく、もしかするとキノコからも愛されているのかもしれない。

しかし育てるまでの愛情を持っていたとは。

植物を育成するスキルはあったと思う。これも職業スキルで農民なら持っているスキルだろう。なのでキノコ栽培がしたいのなら職業スキルを覚えるのがいいだろう。

ともあれ今持っているスキルではあまり栽培に適したものはない。

「のうかになるとそだてられるかも」

「ナーサのーかになるっ」

目を輝かせてそう宣言した。

こないだはきこりだったような気がするけれども。

「きこりはいいの?」

「うっ、そうだった…うぅ~」

頭を悩ませ始めた。

それはおいおい考えるとして、今は山主様を待たせているので既存のスキルから選びたい。

「いつか、のーかになってからきょうかしてもらう?」

「なやみちゅー。う~」

「…なら、いまはもってるスキルからえらぼっか」

「うん…ナーサちゆにする…けがしたときになおしてあげるんだっ」

「それがいいよ」


というわけで、ナーサが強化するスキルは《治癒》に決まった。

「やまぬしさまーっ、ナーサ、ちゆにするっ!」

「おうおう。きまったのか。よし、ならばそこに立ってじっとしなさい」

ワキャワキャ動き回っているナーサに山主様がじっとしているように言い、さっきオレにしたのと同じように掌をナーサの頭にのせた。


「《特定進化エヴォルケイト》ぉっ」


ぺかーっと金色の輝きがナーサを包み込む。

あれがスキル強化の輝きか。あのスキルを覚えられれば好きなだけスキルが強化できるのだろうが、生き神様のような”龍”だからできる芸当だろう。寿命の長くない人間種族のオレには覚えられそうもない。

輝きがおさまるとナーサは「まぶしかったーっ」と楽しそうにしている。

目がチカチカしたらしく、まばたきをパチパチした後に自分の体を確認していた。

「ナーサ、きょうかされた?ステータスらんひらいてみて」

「うんっ」

ナーサの手が動きステータス欄を開いた様子があった。

「スキルはふえた?」

「うーん、あ、ここっ。ここちがうよっ。いちぜろぜろになってるっ」

いち ぜろ ぜろ ということは、練度が一気に100になったってことか。

スキルが増えるわけでは無く、スキルの練度が種族上限まで引き上げられたということなのかな。

ということは、中級魔術は自分で獲得しないといけないってことか。

”人間”種族ではないナーサはスキル獲得数に上限があるだろうし、どれを獲得するかは自分で選べるってところか。

なるほどなるほど。

まぁ覚えるのはオレが補助してあげられる。治癒魔術の中級魔術なら知っている。これが上級魔術だと一種類しか知らないので、くわしい相手に教えてもらうしかないだろう。

オレのスキルも練度が最大まで上げられたのかもしれない。練度最大でスキルが進化し、練度がリセットされたから0になっているのだろう。

こうしてオレとナーサのスキルは強化された。

魔術が覚えられなくなったかわりに通常よりも早い育成が行われたのだった。


「ぜい、ぜい、ぜい…ら、ラーテリア君のスキルは、また今度にしよう…だめじゃ、よる齢には勝てぬのう…」

山主様が青い顔でテーブルにつっぷしていた。

わりと命を削るスキルなのかもしれない…。


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