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エルフっこの家に遊びに行きました。


結局父はオレに小ぶりの鉈を買ってくれた。

これを使って「少しでも木こり仕事に興味を持ってくれ」ということらしい。

石ナイフよりも切れ味が良くなったのでありがたく使わせてもらうことにした。

さて、あたらしい装備を入手したオレは、かねてより行ってみたかった場所に、ナーサの案内でむかうことにしたのだった。


「グーグちゃん、こっちだよーっ」

オレたちの家も村のはずれの方に建っていたが、それよりさらに森に近い位置にある林に分け入っていく。

オレはナーサの後に続きながら、道に張り出している葉っぱや枝を鉈でかき分けながら進んでいく。

……というか。これは道じゃない。どちらかというと獣道というやつだ。

人の歩いた気配がすくなく、雑草がもっさり生えているし、途中で倒れた灌木や枝を避けたりまたいだりしなきゃならなかった。

そんな獣道を進むと少し葉陰が薄いところに出た。葉と葉の間から木漏れ日がおち、辺りを明るく照らしている。


「ラ~ア~テ~ちゃ~ん、あ~そび~ましょ~っ♪」

ナーサは一本建っている太い木に声を掛ける。木の中ほど、幹が二つに分かれるところに、一件の家が建っていた。

…木の上にある家だ。

驚いた。ラーテリアは木の上に住んでいるのだ。

「は~い♪。あ、グーグちゃんもいっしょなんですねっ。いまいきまーす」

ラーテリアは幼い姿に似合わず、木の幹をタッ、タッ、タッと飛ぶように降りてくる。

しゅたっと地面に着地し、ナーサとオレに駆け寄って来る。

「いらっしゃいですナーサちゃん、グーグちゃん。きょうはなにしてあそびましょうか?」

「ぼく、きのいえにのぼってみたいっ」

あの家はいい家だ。オレの心を鷲掴みにしてしまった。

「うーん、グーグちゃんがのぼるのはむずかしかもです」

…なん、だと。

そういえばまだこの身体で一度も木登りをしたことはなかったか。…この手もこの足も、幼児体型を木の上に押し上げるほどの力が備わっていない…か。

木登りはまだ無理だった。

「きょうはここであそびましょう。グーグちゃんにココとノノをみせてあげますね」

そう言ってラーテリアは指笛を吹いた。


しばらく指笛を続けると草葉の陰に小さな何かがいることに気が付いた。

白い小さな獣。


モルフォックス


その子供。これは、魔獣だ。

村のはずれとはいえ、ここは柵の囲いの中だというのに魔物が入り込んでいるのか。

小さい抜け穴があるのかもしれない。まぁ、もともと柵は高くなく、そこそこの大きさの魔物だけ排除できれば十分だったらしいから、これくらいの魔物は問題がないのだろう。

最近はトロール対策に柵が高くなっているが。

そのモルフォックスは見覚えのない人間がいることに警戒心を持っているようだった。

「キュ」

「キュ」

「ココ、ノノ、だいじょうぶです。このこはグーグちゃんです。ラーテのともだちですよ」

ラーテリアがしゃがむとその足元に二匹のモルフォックスはまとわりつき、優しくなでる手に身をゆだねていた。

「ナーサもなでるっ」

しばらくそうしてなでられると落ち着いたらしく、オレをうかがいながら二匹のモルフォックスが近づいて来た。

しゃがみ、ゆっくり手を伸ばす。

「…ふわふわだ…」

うわー

うーわーっ

すっごくふわふわだ!おおおおお、こんなにやわらかいのかっ

きっとまだ子供だから、大人の毛に生え変わっていないのだろう。それになでられると気持ちよさそうに目を細めてこちらに身を寄せてくる。

かわいい。

すっごくかわいい。

「しあわせだ…」


モルフォックスという魔物は狐系の魔物に中では小柄な魔獣だ。

手足は短めで魔術を使って戦う。魔術の属性は火。直接的な火属性魔術ではなく、特殊な蜃気楼のようなものを生み出す、幻術の炎だ。

特殊魔術持ちのめずらしい種族ではあるが、かわりに火力がなく戦闘では弱いとされている。

ないとは言ってもそこは獣。今のかわいい姿から大人になることで牙と爪を研ぎ澄ますようにはなるので、普通の人間であれば十分脅威ではあるが。


「そうなんですね」

などという前世の知識が口から洩れていたらしく、それを不思議にも思わずにラーテリアは狐の子をなでながら聞いていた。

「…このかわいいこからそだっちゃうのはいやですね」

わかる。かわいいし。かわいいからな。

こっからわりと普通の狐のような姿に成長するのは、流石に魔物といったところか。攻撃性が強化されるあたりが普通の動物と違うところだ。

しかし完全に同じ姿とはいかないが、このモルフォックスにはそこまで大きく変わらないレアな進化もある。

肉体の強化をせず、魔術系の強化に進んだ進化先である。

体が強くならないゆえに、かなり弱い個体とされる。単独での戦闘には向かないだろう。牙も爪もないから体も大きくなれない。

けれど誰かが…何かが常にいっしょにいてくれるなら、弱いわけでは無い。

集団戦闘では面白い術を使える魔物になるのだ。

「レアなしんかですか?、しりたいです。どうすればいいのですか?」

レア進化は二つ。

火を伸ばす”天狐”系の進化先と

幻術を伸ばす”妖狐”系の進化先だ。

火なら火属性の魔物と戦うこと。

幻術なら幻覚作用のあるものを食べさせることでレア進化をおこすだろう。

「ひのまもの…」

魔物でなくてもいいのかもしれない。ちょうどナーサが火魔術を使えるから撃ってもらえば進化するかもしれない。

幻覚作用の食べ物は、前にナーサが見つけたようなキノコでいいだろう。あの青いキノコなら数本で進化先が確定するだろうが、もう少し効果の弱い物でもたくさん食べればいいはずだ。

「わかりました。やってみます。ありがとうグーグちゃん」


そう言われてハッとした。

「あれ、いまぼく…」

まるで幻に包まれていたように、出てはいけないものが口から駄々洩れになっていた気がする。

「?、グーグちゃんどうしたの?」

「……なんでもない」

まだ体が小さく戦う姿の無い幼い魔物は、自己の生存のために相手を篭絡するしぐさやスキルをもっていると言われている。

かわいいことにこじつけた理由かと思っていたが…もしかすると本当かもしれない。

魔物には謎がまだまだ多い。


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