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鍛冶仕事を見学しました。


さて。冬の半ば。

初雪の日から大分月日が過ぎたがトロールはあれ以来姿を見せていない。おそらくあの襲撃で死者が出たせいで食料の消費が減り、今冬は人を襲わなくともすごせるようになったか、もしくは雪深くなって襲撃をあきらめたのだろうということだった。

ちなみにオレは二歳になった。

誕生季の祝い事はすこしだけ豪華な食事だった。

ともあれそんなささやかなイベントも過ぎ、ナーサたち家族との共同生活も日常の一コマになったころ。

オレの鍛冶スキルが成長した。

おそらくレンガを3桁近く作ったからだろうか。草だけ、もしくは粘土だけを鍛冶するよりも、草と粘土が混じった『煉瓦』作りの方がスキルの練度が上がりやすいようで、想定よりも早いスキル成長だった。


鍛冶《鍛冶Lv2》1 <鍛冶を行う。Lv2:粘土・石・草・根>


…………

根って

…………

どう使えと…

……まぁいいや。

やっと石が増えたが、石も何に使えばいいのか…やっぱりレンガだろうか。

オレは家の前に落ちている大きめの石を拾う。


<鍛冶:石⇒   >


出た。石は素材としてそのままでいい感じか。あとはこの入力欄に作りたい物を入れるんだ。

「れんが」


<鍛冶:石⇒煉瓦>


『石』が金色に輝き『煉瓦』になる。

よし。と言っても…形がかわっただけじゃ?。石のままだし。これ、このまま再び素材になるんじゃないのかな…。

まいいか。鍛冶ができることは確認できた。

オレはもう少し小さい石を手にとり、しばらく時間をつぶしてから今度は「ナイフ」とつぶやいた。

手の中の石が輝き、短めのナイフに変わる。

石のナイフができた。

重く、切れ味は悪い。けれど枯草を刈るには十分だろう。

根を掘るにも……いや、いいか。

実際に効率は向上した。

それに石は『石』のままだったので、よりよい形状へと修正がしやすかった。

結果、鎌のような逆反りの石短剣の形になっていった。

鍛冶後の物がそのまま素材になるの、便利だなぁ。もしかすると金属加工できるようになったら、刃の切れ味を最良に保つことができるのかもしれない。

ということを、ナーサ父に言ってみた。


「グーグ、そいつはちがうのじゃ。鍛冶師がなんでこんなに鎚を振り下ろしていると思う?。スキルの《鍛冶》では整えられない、細かな部分に手を加えるためじゃぞ」

「ととのえられないの?」

「うむ。そうじゃ。スキルではおおざっぱな形状までしか造り出せん。『剣』と言えば可もなく、不可もない剣ができよう。『盾』と言えば良くも悪くもない盾ができる。もちろん素材を吟味することで良い品質のモノはできるがな。じゃが、そこから先の刃の切れ味や装飾の細やかさ、微妙な重さや可動域の調整なんかは、やはり鍛冶師の手を入れなくてはならんのじゃよ」

なるほど。『切れ味鋭い剣』とか指定して作れるならまだしも、『剣』とだけ指定して作られたものは、切れ味に関しては普通も普通、標準的なものしか作られないということか。

そこから先は砥石で研ぐか、鍛冶師の腕にたよるしかない。

スキルがあればいいわけではないってことだ。

オレはその日、ナーサ父のジルさんの仕事っぷりを観察することにした。


まず、素材の吟味から始まる。

鉄なら鉄隗を引きずってきて鉄鎚で軽く打って音を聞く。澄んだ一音がすればよし、歪んだ音がすれば悪いらしい。そしてその鉄を高温の炉で溶かし、薄く平らな形に変え、それを水に入れて冷ます。もしここで鉄が割れるならそれは鍛冶に耐えられない鉄なので、別の用途に回す。耐えられた鉄なら薄い形を折り、一つの塊に変える。

もし鉄以外の素材を混ぜるのならばこの折る時にいっしょに織り込むらしい。この日はクロムを混ぜていた。

ただ、二つ以上の素材をスキル《鍛冶》で扱うには《鍛冶》の鍛錬がいるらしく、今のオレのスキルではできないらしい。なんでも入力欄の空スペースが増えていないといけないのだとか。

塊ができたらここでスキル《鍛冶》の出番だ。

作りたい形状を口にするだけで質量と同じだけの形状のモノが形作られる。

今回は『斧』だった。

片刃の、片手で扱うような斧だ。

ジルさんはできた斧を一度オレに見せてきて、実際に薪に振り下ろして見せた。

薪は半ばほどまで割られ、そこで刃が止まる。

今度はその斧を炉に入れ、熱されたままのモノを鍛冶台で叩き、それから水と砥石で研いで刃をととのえる。

再び薪を持ってきて振り下ろす。

今度の薪はきれいに二つに分かれ、カラコロと床に転がった。

――切れ味が増している。

そうして作られた斧を、今度は横面に押印をおしていく。簡単な蔓草の模様を上と下に一つづつ。

柄の部分にも別の装飾をいれ、そして最後に油を塗り、その油を焼いたら終わりだ。完成したモノをぼろ布で拭うと、きれいに輝く鉄の斧が出来上がっていた。

正味3時間弱。

スキルで一足飛びに形状を形作れるからこその時間だ。

3時間もずっとジルさんの仕事っぷりを見ていた。

ただ見ているだけだったが、得られるものは多かった。

ジルさんが教えてくれるモノも多い。


「お前さん、精霊を扱えるようになるんだってな」

「うん、ラーテリアからもらったスキル?」

「そうじゃ。なら、一番は”火”の精霊がよいぞ。”火”の質は鍛冶師にとってなくてはならないものだからじゃ。この程度の素材なら普通の火でも足りるが、エーテルやミスリルを打つには火が足らん。芯まで熔かすほどの”火”は重要じゃな。”火”の次に大事なのはやはり”地”じゃ。素材の質が左右されることもあるが、何よりも鍛冶場の質が良くなる。鉄鎚は手になじみ、炉は熱をこもらせ、台は作る物をしっかりと受け止めてすべらせないのじゃ」

「”火”と”地”」

「そうじゃ。ドワーフに大事な二つの属性じゃよ」

「ドワーフはせいれいとけいやくするの?」

「エルフではないからな。契約はしとらん。上位のドワーフならわからんが。しかしドワーフ族は土の星神様を信仰しておるからな。ドワーフというだけで土の加護を持っておるぞ」

「えーいいなー」

「ははは。お主がこの鍛冶場を継いでくれるなら、鍛冶場の加護もそのまま受け継がれるじゃろうて」




「合金はな、純粋な物よりも折れにくく、錆びにくくするのじゃ」

「この、おのもごうきんなの?」

「そうじゃ。鉄とクロムを混ぜた合金じゃ。確か街では「テンレス」とかいったかの、鑑定では「鉄」としか表示されんが、鉄よりも錆びにくいものじゃよ」

「へー」

「…純粋なものよりも、混ざりもの、まがい物の方がよいこともあるんじゃ。もちろん純粋なものでも良いものはある。エーテルやミスリルじゃ。オリハルコンあたりは合金の方が性能がよいがな」




「グーグ、ナーサがお主にやったその鉄鎚はな、正確には金属ではない。火竜の角から作った”角槌”なのじゃよ」

「りゅうの、つの?」

「そうじゃ。その角槌にはスキルが付与されておる。《付与》というスキルじゃ。お主の持つ《保存》と合わせて意味のあるスキルじゃよ。お主が《保存》した能力を、造ったものに《付与》する。ドワーフでこのどちらかの能力を持って生まれたものは、たいてい鎚に持ってない方の能力を付与するのじゃ。ナーサは《保存》を持っていたからの、わしの父はナーサのために、鎚に《付与》を付与してもらってきたのじゃ」

「ぼく、そんなたいせつなものを…」

「なに、気にすることは無い。ナーサは女じゃから、どこまで鍛冶にかかわるかわからなかったものじゃ。むしろ男であるお主に継がれて、無駄にならないじゃろうて」

荷が重い話しだった。…いろいろと外堀を埋められてきている気がする。

「グーグよ、ナーサのこと、鍛冶のこと。お主にまかせるぞ」

2歳になんてものを背負わせるのか。

まだ、未来は誰にもわからないはずだ。

オレだって将来はかわいい娘と良い仲になりたい。

ナーサもいいこだと思うが、将来もそうだとはかぎらない。

こればかりは安易な返事はできかねることだった。

「まかせるぞ」

「……」

圧をかけてくるジルさんだった。


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