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《鍛冶》してみました。


オレはちょっと隣まで散歩に行くことにした。

「グーグちゃんっ、どこいくのーっ?」

玄関で準備をしているオレを見つけてナーサがトテトテと寄ってきた。

「うん、ナーサのおとうさんのところいくの。ナーサにもらったスキルのこときいてくる」

鍛冶スキルを聞くのには持っている人に聞くのが早いからな。

「ナーサもいくっ。グーグちゃんまっててっ」

「うん。わかったー」

ナーサは部屋に戻ると、あのダルマみたいな格好になって戻ってきた。

「いこっ」

「うん。ママ、いってきまーす」

「まーすっ」

いってらっしゃーい、という返事を聞きながら家を出発する。

そして屋根のない隣の家にふたりで歩いていく。

雪が自分の背丈よりも高く積もっている。

けれど隣までの道は雪かきされてて子供でも歩いて行けるのだ。

「グーグちゃんっ、てをつなごっ」

「うんっ」

転ばないように手をつなぎながら雪の中を歩く。

吐く息は白く、肌に刺さるくらいに空気が冷たい。けれど、ナーサと二人だとその寒さも楽しさに変わる。

ナーサの鼻歌を聞きながら玄関の前に到着した。


「おじさーん」

「パパーっ、グーグちゃんきたよーっ!」

家の奥からおーう、という返事が聞こえた。

庭をまわって鍛冶場の入り口から中をのぞく。

部屋のほとんどが雪に埋まっている中、火を焚いた火床ほどの周りだけ雪が融かされていた。

ナーサの父、ジルさんは火床の前に腰を下ろし、鍛冶を行っていた。


「おう、どうしたのじゃ、二人とも。ほれ、火の近くに座れ」

ジルにすすめられるまま、少し雪の積もっている椅子を持ってきて雪を払い座った。

「ジルさん、ぼくにかじのことおしえてほしいの」

「ほう、グーグ。鍛冶に興味があるのか?」

いや、それほどは。ただ、ナーサからもらった手前、ある程度は育てないとなーとは思っているが。

ということを正直に言うわけにもいかないので一応肯定しておいた。

「うん。ナーサからスキルとかなづちをもらったから、どんなことするのかなって」

「ふむ。鍛冶か…どう話したものかのぉ」

ジルは火床から薪をとりわけ、鉄台の上に焚火を用意していく。

「鍛冶と言うのは材料からいろいろな物を作ることじゃよ。例えば”石”を鍛冶で”レンガ”を作成できる。レンガがあればこの家も元のカタチになおせるじゃろ。”鉄”を鍛冶できるようになればかっこいい”剣”を造ることもできる。家族を守るための”盾”も”鎧”も造ることができるんじゃよ」

それはわかっている。まぁ何も知らない子供に教えるならそういったところから始まるだろう。

オレが知りたいのはもう一歩先のことだ。

どう、鍛冶のスキルを育てていくかというところ。

「わぁ、なんでもつくれるの?。ナーサのあったかいふくとか、ラーテリアのしろいふくとかつくれるの?」

「む、いや、服…も造れるだろうが、服を作るとなると鍛冶能力で糸を製造し、それから裁縫能力がいるかもしれん。…グーグよ、お主服が造りたいのか?」

鍛冶能力で糸が造れるのかよ。それはそれで驚きだが、糸から服を作るには別の能力がいるわけか…。

「ふくもつくりたい。ナーサにかわいいふくあげるの!」

「えぇっ、ナーサにくれるのっ?。ほしいほしいっ」

流石にダルマのような今の形状はどうかと思うので、もうちょっとなんとかしてほしいと思っている。

「う、むぅ、まてグーグよ。武器はどうじゃ?。かっこいいと思わんか?」

武器か。武器も悪くはない。トロールと戦うには良質の武器が必要になるだろう。

ただ、良質の武器ならジルが作ってくれる。

そう考えるとオレが武器や防具を手掛ける必要はないように思えた。

「武器はよいぞ。グーグ、武器ならわしが教えられるぞ。そうだ、ドワーフの一子相伝の技も教えよう。ものすっごい魔道剣が造れるようになるぞい」

魔道剣ってなんだろう。わりと気になるが…ドワーフの一子相伝の技はダメだろう。なんでそんな技術をほいほい教えようとしているのか。

せっぱつまっている様子から察するに、どうも跡継ぎの問題らしかった。

ナーサが継ぐはずのジルの工房を、オレがスキルをもらってしまったせいで跡継ぎがいなくなってしまった。

だから、オレを代わりに立てようってことか。

まさか、ナーサの婿に…とか考えているのかもしれない。

流石にそこまでは深読みしすぎか。

「武器…良いぞ?。ついでに嫁もついてくるぞ」

ではなかった。

完全にナーサの婿にする気だった。

「ほら、ナーサもグーグにパパみたいなことしてほしいじゃろ?」

「ナーサっ、グーグちゃんにふくもらうのっ」

「そ、そうか…」

ガックリとうなだれてしまう。

「でもぶきもつくってみたい。ナーサにふくつくったらつぎはぶきつくるの」

ジルの表情がみるみる輝きに満ちていく。

「そうか…そうじゃろう。よし、グーグ。《鍛冶》のことを知りたければわしに聞くといい。いつでもおしえてやるぞ」

「うんっ」

ありがたい。先達が協力をおしまないのであれば、オレはこのスキルを効率よく成長させていけるだろう。




「では…グーグよ、『ステータス欄』というものはわかるか?。ステータス欄が見られれば具体的な鍛冶の仕方も助言できるのだが…」

「しってるよ!。ゆびをうごかすんでしょ」

そう言って指を上から下に振る。

ジルからは見えないだろうが、オレの目の前にはステータス欄が開かれている。

「おお、知っておったか。では、その中の《鍛冶》…あーと、こうで、こんなふうな文字のところがあるじゃろ?、その文字をぽんと叩くとな、文字の下に説明がでるのじゃが、そこに書いてある文字を雪に書き写してくれんか?」

言われた通り、《鍛冶Lv1》の部分を叩き、スキル詳細の文字を雪に描いていく。

「これは…もしや『粘土』と『草』か。金属や石や木なら見たことがあるが、鍛冶にできるものが二つあるせいで一個づつの能力が低いのだろうか。…しかし、これならグーグのやりたい”服”の作成はできそうじゃぞ」

「できる?」

「うむ。服は草からも作ることができるからな。最初は厚手のモノはムリかもしれんが、草を使って練習していけばそのうち造りたい服もできるようになるじゃろうな」

なるほど。毛の服なんかはできないだろうが、麻なんかの服は作れるだろう。

やるだけやってみるか。


けれど…草か。

草…どこかにあるだろうか。

もしかすると春まで待たなければいけないかもしれない。

「はっは。頑張れよ若人。草ならゴダーダの奴が雪靴作りに持っているからな。そこから少しわけてもらえばよい。粘土は今度わしがみつけてきてやろう」

そんなところに草があったか。ありがたい。

「おじさん、ありがとう!」

「いいんじゃよ。楽しみにしておるよ」

オレはジルに別れをいい、家に帰ることにした。父はまだ帰ってきていないので、母に草があまっていないか聞いてみよう。

少し《鍛冶》が楽しみになってきていた。




家にもどって母に言うと、棚からイネ科の草を持ってきてくれた。

ムギと言われるパンの材料になるやつだろう。種もみを取った後の茎を乾燥させたもので”藁”とも言う。父のように何かを編んで作ったり、家畜のえさになったりもする。

それを一握り程度もらい、オレは暖炉の前でいろいろ試してみることにした。


「グーグちゃん、それがふくになるの?」

「ふくができるといいんだけど、はじめてだからおてふきをつくるの」

とりあえず『服』の前に『布』を目指す。

そのためには…。


藁を鉄鎚で叩いてみた。

ダンダンダン

ゴリゴリゴリ

ダンダンダン

……

ダンダンダン

うーん…これを続けていけば、いつかスキルが育つはずなんだが…

ダンダンダンと鉄鎚を叩き、地道に藁を平らに均していく。

繊維が分かれ始め、藁が細かくなっていく。

今度は細くなった藁を縦横と交互に編み合わせていく。

…これ、自力でそれっぽいものを作っているだけで、スキルじゃないような?。

スキルならもっとこう…目に見えて効果があるはずなんだが…。

ダンダンダン

ゴリゴリゴリ

ダンダンダン

……

ダンダンダン

うーん…

「……まだー?」

「すぐにはできないよ」

変わり映えしない様子にあきはじめてきたらしいく、ナーサは部屋に転がっている積み木で遊び始めた。

「きっのこーきのこーきっのこー」

縦棒に三角を載せただけだ。

なのに確かにキノコに見えなくもない。

……あぁ、そうか。


それでいいんだ。


「…ナーサ。すごいね、キノコだ」

「でしょっ。ナーサはキノコめいじんなんだっ」

オレはナーサの積み木をみて単純なことを思い出していた。

積み木のキノコと同じなのだ。スキルも同じ。

もっとざっくり、おおざっぱでいいんだ。

はじめオレは『布』を作る工程をまねすればいいのかと思った。しかしそれではスキルが介在する部分がない。

スキルを発動させるためには、スキルによって工程をすっ飛ばせる部分を作ってあげなければいけない。

だからたとえばこう。

オレは鉄鎚を脇に置いて藁を手に取る。

そして丸めて、丸めて、まるーく丸めていく。

団子状の藁ができた。

するとどうだろう。藁の少し上の空中に見たことのない欄が見えてきたではないか!


<鍛冶:草⇒   >


始めてみる欄だ。これが職業スキルというやつか。

これは『草』を何に変化させるか、ということだろう。

矢印の後の空白に何を入れるのか。

やってみるか


「ふく」


<鍛冶:草⇒服>


入った!

手の中の『草』が金色に輝き、形を変え始める。丸かった草が平たく、そして上下に伸び始めた。

「おお、おおお…」


『くつした』ができた。


すごーいっ

片方だけの。

……片方だけか。

しかも手触りがざらざら、ばきばきしている。

…素材の状態そのままに、服を作ったような。

いやいや、上出来ではないだろうか。

始めは布を作るつもりだったのに、一足飛びに靴下ができたのだ。これは快挙と言っていいような気がする。

しかしゴワゴワなのはどうなんだ。

もしかすると藁をそのまま使ったからこうなったわけで、たとえば枯れていない生の草を使ったら鍛冶で造った服も生の状態で造られるのかもしれない。

ってことは…材料の素材はできる限り高品質のモノがいいわけか。混じり物や粗悪なものを使うと造ったモノも粗悪品にしかならない。

あとは…素材の量で造れるモノの大きさが決まる。

一握りの藁では、服を作ろうとしてもくつした片方分にしかならない。

そして魔素は消費された感じが無かった。魂もだ。何も消費されないようだが、そうなると普通の戦闘スキルのように準備時間があると思われる。

オレは新しい藁を手に取り、同じように丸める。

けれど鍛冶の欄は出てこない。

「…………」

そのまま藁を丸めつつ、のんびり待っていると突然藁の上に欄が現れた。


<鍛冶:草⇒   >


出た出た。だいたい一時間か。やはり準備時間があったか。戦闘スキルと同じ扱いなのだろう。

一時間に一個しかできない、と思うと少ない気がするが、造れるモノによってはすばらしく時間短縮できる、とも言える。

ステータス欄を開く。


・鍛冶《鍛冶Lv1》0 <鍛冶を行う。Lv1:粘土・草>


練度は育ってないか。

スキルは使えば使うほど練度が育つ。さっさと育てて粘土と草じゃないものが使いたい。金属とか宝石とか。

オレはもう一度、藁をくつしたに変化させた。


・鍛冶《鍛冶Lv1》0


うーん。ダメか。

途中にご飯と風呂をはさみつつ、スキルの準備時間が空けるのを待つ。

そして今度はくつしたを二つ丸めてそれを材料にしてみる。

…欄が出ないな。

くつしたは『草』ではないのだろうか。素材じゃないってことかもしれない。

オレは新しい藁を父親からもらい、改めて丸め、鍛冶の材料にする。


<鍛冶:草⇒   >


出た出た。

くつしたは材料にはならないのか。それともくつしたを分解してくつしたでは無いモノにすれば材料になるのか?。

オレはくつしたをチマチマほどき、藁っぽいゴミの山に変える。

それを集め、丸めてみる。


<鍛冶:草⇒   >


出たっ!

くつしたのままじゃ材料にできないが、素の藁にすれば材料になる。

オレはくつしたを解いた藁と、きれいな丸めただけの藁を合わせて一つのまとまりにする。その状態で新しい入力を試してみた。


「てぶくろ」


<鍛冶:草⇒手袋>


『藁』は金色に輝き、一枚の『手袋』に姿を変える。

すっごーい!

出来たっ。また片方だけだけれど、形状を指定すればその通りに作れるのか。

ステータス欄は…


・鍛冶《鍛冶Lv1》1


上がっている。《鍛冶》をした回数なのか、それとも変化させた量なのかはわからないが、練度が上がった。

よかった、やりかたはこれで間違ってないようだ。新しい藁をもらわずとも、チマチマほどけば次の鍛冶の材料にできる。

練度かせぎには悪くない。

魔術に比べれば地味ではあるが、まぁこれはこれでいい感じだと思う。

攻撃魔術は戦闘でしか役に立たないが、こうやって作った物はいつ何時でも使い道がある。

破壊一辺倒だったころには知らなかった経験だった。

魔術もいつかは取り戻すが、今は《鍛冶》のスキルを育てることに楽しさを感じていた。


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