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ひさしぶりとはじめましてとさようならです。


「グーグちゃんグーグちゃんグーグちゃん!、グーグちゃんずっと探してたんだよ!グーグちゃんはどこにいたの?」

「うん、ぼくは迷宮都市の西都クリアクロ・・・」

「ナーサはね!シャルードお兄さんとあっちこっち行って事件の調査をしてたんだよ!」

「へぇ、てかそろそろその人を紹か・・・」

「でね!なんかね!国に殺されそうになってる子供をね、別の安全な国に連れてったりしたの!同じ龍さんの見てる場所らしいの!」

「聞いてよ」


これっぽっちも落ち着きがない。

ぼくの幼馴染みナーサは、再会した瞬間からこんな調子だった。


ズドム、という衝撃音と共に頭上から降ってきた少女はぼくを捕獲するとこちらが言葉を発する間を与えてくれずに連弾のごとくしゃべり始めた。


どこにいたのか、何をしていたのかと言うことから始まり、自分は怪しい集団に追いかけられていたり変な貴族に拐われそうになったりと危険な話もあり、しかし山主様の知り合いらしい緑龍の青年に保護されてからは各地を転々としていたということをずっとしゃべっていた。


ひとしきり話すと今度はぼくへの追求が始まる。

ようやく話せると思いきや黙ったら死ぬのかという勢いで顔を会わせていなかった期間のことをあれこれ質問責めにされた。


「つ、つかれた・・・ナーサは疲れな」

「ラーテちゃん!ラーテちゃんも久しぶりだね!ねぇねぇねぇねぇラーテはどうだったの!ナーサはねぇ」


終んなかった。


それから日が暮れてナーサが疲れて空腹でパワーダウンするまで、永遠と質問とおしゃべりが続くのだった。





登山の途中で見つけていた小川のそばに簡易テントを建てて薄い野菜スープと燻製肉、平パンでお腹を膨らませると、ようやくそれぞれの自己紹介が始まった。


「ナーサだよ!」

「ぼくと義姉さんの幼馴染みのです。行方不明だったんですけど、空から降ってきました」

「飛べる種族かよ」


ジザベルの勘違いに修正をしておく。


「ナーサはドワーフですね。ちっこいけどぼくより一つか二つ年上です。飛べるのはそちらの───」

「シャルードだ。シャルード・D・リンドブルム」

「・・・緑龍様なんですよね。わーすごいなー」


"龍"は世界に七種類しかいない。

星神様の遣いであり、神に代わって世界の(ことわり)を守る者。

それは混沌の配下である魔王の敵でもあった。


もっとも、魔王だったのは前世のことなので龍と聞いてもちょっと身構えるくらいで怯えるほどのこともないのだけれど。

前世のままだったら尻尾を巻いて逃げ出していたね。

龍怖い。ほんと怖いわ。


シャルードはぼくらよりいくつか年上の青年に見える。見えるだけで龍の年齢が人種族と同じとは限らないから違うんだろうけれど。

けれどその青年は、今はナーサの隣に座ってナーサの頬についているパンかすを拭いてあげている。


「ナーサ、ついているよ。もっとおしとやかにしなければいけない」

「う~、シャルードお兄さんは細かすぎだよ!ナーサ子供じゃないんだから!」

「ふふ、ナーサはいつになってもかわいいなぁ。ほら、このパンも食べたまえ」


「何あいつ」


ナーサは確かにちっさいが、それはドワーフ族だからだ。

決して幼い子供ではないのだから頬の食べかすを拭ってやったり食べ物のおかわりをよそってやったり髪の乱れを直してやったりする必要はないのである。


「ななな、なんか近くない?ちょっとおかしくない?」


ナーサも迷惑そうにしてるのでやめろと声を大にして言いたい。


「おいグーグ君。こっちの自己紹介はしていいのか」


そうだった、まだその途中だった。

ジザベルに始まりトロロンプさん、義姉のラーテリアとその使い魔を紹介していく。最後にぼくだ。


「グーグです。今は鍛冶師みたいなことをしてるね。あと使い魔のつららです」

「ー」


つららがくるりと回って挨拶をする。


「よろしくっグーグちゃん!つららちゃんもよろしく!」


ナーサが嬉しそうに手を振る。隣のシャルードは興味無さそうに「ふうん」とだけ鼻を鳴らした。が、ふと何かに気づいたように目を止めた。


「へぇ、そのこは精霊かい?めずらしいな。守護精霊にまでなるなんて」

「守護精霊?」

「精霊は自然物に宿る。けど、その精霊はその子供に憑いている。子供が死ねば共に消えることになるだろうに」

「へ?」


ぼくはつららを見る。つららはぱちくりとした目をぼくに向けて「?」みたいな顔をしている。


「え、えっと、それはどういうことですか?」

「ふん、ナーサは知りたいか?」

「うんっ、知りたい!グーグちゃんにも教えてあげて?」

「ナーサのお願いとあれば、いいとも」


・・・こんにゃろう・・・。

ともあれ、言われてみれば納得できることではあった。

精霊とは自然が生んだ小さな属性の魂のようなもの。

この世界は七柱の星神により7つの属性で創られている。


獅子の星神が赤を与え、世界に火が灯される。

竜の星神が青を与え、世界に潤いで満たされる。

馬の星神が緑を与え、世界は揺らぐことを覚える。

花の星神が黄を与え、世界は根ざす安定を得る。

剣の星神が白を与え、世界は朝を迎える。

蛇の星神が黒を与え、世界に夜が訪れる。

天使の星神が生命を与え、世界は循環を得る。


火 水 風 土 光 闇 生


ゆえに、世界の自然物が生まれるところには属性が集まり、属性の精霊も生まれる。


つららは氷のつらら妖怪なので水属性である。

本来は水のある場所で生まれて水に寄り添うように生きる精霊である。

けれどぼくの召喚に応えてくらたので水ではなくぼくに依るものになってしまったらしい。

自然の中では泉や川辺にいる水属性の精霊も、長いうちに泉が枯れたり川の流れが変わったりして場所を移すかできなければ消えてしまう存在だったのが、ぼくに依ってしまったためにぼくが死ぬといっしょに消えてしまうような存在になってしまった。


まぁ、ぼくが死ぬときに水辺で死ねばつららも元の水属性の寄るべき場所に戻れるのかもしれないけれど。

今しばらくは死ぬ様子もあまりなく、もしお亡くなりになるとしたらダンジョン内かなという感じでなかなか難しいことになってしまっているそうだった。


よってぼくとつららは一蓮托生なのである。


違った。つららが溶けて消えてもぼくは消えないが。

つららだけがハードモードなのである。


「つらら・・・」

「ー」


こんな何も考えて無さそうな顔で重い運命を背負ったつらら。

大事にしてあげないとなぁと改めて思った。


「つらら、困ったことがあったら教えてね。ぼくがきっとなんとかするからね」

「ー♪」


うれしそうなのでまぁいいか。

あまり戦力にならないけれど、ぼくの貴重な使い魔であることには変わりない。今後もいっしょに成長していければいいなと思う。


「・・・シャルードさん、ありがとうございます」


ぼくは教えてくれたことに礼を言った。


「なに、戯れだよ。人の短き生に寄り添う奇妙な精霊を哀れに思ってね」


・・・・・・なるほど?

ふむ、龍族からすればぼくら人種族は短命で情けをかける価値もないものなのかもしれない。ナーサはドワーフ族。ぼくらよりよっぽど長命の種族である。

シャルードがぼくを蔑ろにしているような感じがしたのはぼくがナーサの幼馴染だからではなく・・・幼馴染であることも理由の一つかもしれないが、追加で短命な人種族だからなのかもしれない。

かかわりあう価値を見出せない、そんな理由からかもしれなかった。




山を降りて、ぼくらは振り返って降りてきた道を見上げた。


次はいつ来れるだろうか。

家族を、知り合いを、思い出を残すその山を。


「また来ましょう」

「うん。今度は三人で来よう」


ぼくとナーサと義姉さんで。あの村のことを知る人はもう数人しかいなくなってしまった。

ぼくらの他は山主様と義父くらいかな。

寂しいけれど、覚えている人間が忘れなければそれでいい。

また来るから、それまではさようならだ。


ぼくは視線を戻す。

今の場所に帰るために。


三人が思い思いに山に別れをしていた時、誰にも気にされなかったけどもう一つ、山に別れを告げていた。

小さな小さな氷の精霊がいた。

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