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山登りです。

帰ってきたジザベルは溌剌としていた。


「おぅグーグ君よぉ。ちょっとそこらでなまった体を動かしてきたぜ」

「山の方に行ったって聞いたけど」

「ちょっとだけ様子見てきたぜ」


悪びれもなくそう言う。

まぁ、馬車での移動の最中はあまり動くこともなかったので鬱屈とした気分が溜まっていたのだろう。それを解消しに魔物をしばきに行ったようだ。


「じゃあその話しは夕食の時に聞きます。荷物も宿に持っていったから案内するよ」

「おー」


と言っても冒険者ギルドから宿屋はそれほど離れていない。村自体が大きくないので主要な建物は村の中心にまとまっていた。


「なぁグーグ君、グーグ君は森の賢者のあとを継ぐのかい?」

「え、・・・いや、まだ考えてないけど・・・そうかも?」


唐突な声かけにちょっとビックリした。

このままなら師匠の所で錬金術師を学ぶか、鍛冶技能を活かして鍛冶屋になると思う。


「将来のことなんて考えたことないよ・・・」


冒険者もしているが性にあっているかと聞かれると微妙なところだ。

できなくはないが義姉のような才能があるわけでもなく、魔物と戦いたいような情動や積極性もない。

魔術や魔王技があれば違ったかもしれないけど、もう失ってから月日もたち持っていた頃の自分の感情さえ忘れてしまった。


今一番違和感がないのが鍛冶師だと思う。


「ジザベルさんは将来は勇者を目指すの?」

「まぁなれればいいけどな。あたしみたいな造られた子供が何人もいっからなぁ。勇者になるにはそいつらを出し抜かなきゃなんねぇわ」

「え?、造られた?」

「あ?知らなかったか?。グラハイム家といやぁ武力のために何でもやるって知られてると思ったけどな」

「う、うん、それは知ってるけど、剣のことだけだと思ってた」

「アタイはリーン族の頑丈さを人間に混ぜて造られてるんだぜ。廃嫡された兄は高位冒険者の血が混じってるしな」


ジザベル、ジザベル・R・グラハイム。名前の"R"は確かにリーン族を表す名前だけども。

まさかそれが造られたものだとは思わなかった。

言われてみるとお兄さんには他種族っぽい特徴がなかった。ジザベルと兄弟って言われても似てなかったね。


「だからグーグ君の技術には期待してんぜ。アタイを勇者に就かせてくれな」

「そんな無茶な」


鍛冶をしているのはお金稼ぎのためだ。

それも、行方不明の幼馴染みを見付けるために、人を雇うための資金を貯めているのである。

正直、鍛冶で大成したいとかすごい武具を造りたいとかは考えていなかった。


「あ?んだよ、おめえ男なら強ぇ武器とか造ってみたくなんねぇの?」

「そりゃ、みたいけど」


カッコいい武器とか強い武器とかあこがれはある。男はいつになってもそういう心を持ち合わせているのだ。

なので彼女の求める模擬聖剣とまでは行かないが、普段使いできる強武器とか造りたいと思う。


「その資金をアタイが出してやるって言うんだ。素材もな。ならその範囲で最高の武器を造って見てもだーれも文句は言わないんだぜ」


魅力的な言葉だけれど、ジザベルに渡す武器は完成している。《光矢》をブーストして『光るっぽい』が付いた剣だ。

光る武器ってカッコいいと思う。


・・・まぁ、まだ渡していないのは完成していないからで。(ちまた)で光属性の属性石を購入して付与したら終わりのつもりであった。


でも確かに、最高の1本かと言われると微妙なところではある。


「キシシ、期待してんぜ」


ぼくはそれにどうとも答えることができなかった。




夕食の時間になり、女子部屋に声をかけてから宿の1階にある食堂に降りる。

自分たち以外の客は泊まっていないようだが、食堂は村の住人にも開放されているようでソコソコの客が入っていた。


その一角にトロロンプさんと座る。

注文を取りに来た店員さんに連れが降りてきてから頼むと断りを入れた。

店員さんはお連れさんが来たら声をかけてね、と言って戻っていった。

店も混んでいないので長居することになっても邪魔ではないのだろう。


「近づいてみるとかなりの山ですね。あの山のどの辺りまで登ることになりますかな」

「中腹辺りです。木が生えていない辺りまでは行きません。村があったのはなだらかな場所で、窪地みたいになってて周りより暖かい場所でした」

「暖かいのは良いですなぁ、この辺りでもちょっと肌寒く感じますからね。登りの間は天気が崩れないと良いですね」

「ですねー」


ぼくとトロロンプさんは体力ない組なので急なアクシデントに非常に弱い。

なので何事もない行程をしみじみと願っていた。


「おう、待たせたな。料理は注文したのか?」

「お待たせしましたです」


ジザベルと義姉がやってきてテーブルの空いている席につく。

それを待って店員を呼ぶと各々食べたい物を注文していった。


「グーグ君よぉ、この店は何がうまいんだよ」

「え、知らないけど、・・・山だし猪肉とか?」

「この辺りに住んでたんじゃねぇのか」

「辺りって行っても、もっと高い所だよ。山の中腹で、この村には来たことがなかったし」

「ふーん」


ジザベルはいくつかの料理を注文していく。さっきまで村の外に出ていたからか、いつもより多めだ。

ひとしきり注文が終わり、みんなの様子を眺めた。


「で、どうだったの。森の様子は」

「おう、まぁ近場しか行ってないけどな、中型の獣の足跡はあったぜ」

「足跡ってどんなです?」

「ありゃあ鹿とかだな。あとゴブリンのもあったぞ」


近場にまで鹿とゴブリンが来る。

村にある木製の防壁が山側だけ高くなっているのは、やはり山側にそれだけの脅威があるからだろう。


「やっぱり、護衛の数を増やした方がいいのかな」


人里の近くにまでゴブリンが出るのなら、山に登るとオークやトロールがいる可能性がある。

狩り場の取り合いに負けてこんな近くまで追いやられて来たのだろうし。


「いや、必要なくねぇか。アタイと先輩がいるんだぞ。たとえトロールが数匹出たって負けやしねぇよ」

「えー」


トロールってすごく怖かったりことは覚えている。そのせいで村がなくなったようなものだからだ。

けど、あれは正確にはトロールの進化種が発生したからか。普通のトロールだけであれば村と村がやとった冒険者たちで殲滅できていただろう。


「・・・義姉さんはどう思う?」


ぼくは当時の村の顛末を知る、もう一人の生き残りに声をかけた。

義姉はちらとジザベルを見たあと口を開いた。


「・・・実力はありますよ。私自身も通常のトロールであれば数匹は相手に出来ると思いますし。・・・ジザベルさんと二人であれば護衛はいらないと思います」


そう言いながらこちらに視線を向ける。

義姉は、『むしろグーグ君はどうですか?』と問いを投げてきた。


「ぼくは、ゴブリンなら一対一でなら倒せるよ。二体になると自信ないけど」


つららの援護ありでそれくらいだ。

クラスメイトと比べると遅れているけど、一般的にはぼくの年齢であれば十分に出来る方だろう。


「ではそちらの、トロロンプさんはどうですか?」

「自分ですか、戦闘は得意ではないですな。ゴブリンは見たら隠れるか逃げますね」


ほぼ一般人だ。冒険者ではあるけれど、その肩書きは一般依頼や薬草採集のためのものである。


「トロロンプさんには一人守り手が要りますね」

「あ、ならぼくかな。大きくないけど盾があるよ」

「わかりました。一先ずはグー君にまかせます。それで不安があるようならガロを付けますか」


義姉としてはぼくより使い魔のガロの方が頼りにできるらしい。

別にくやしいとかはない。うん。ぼくとつららでも出来るってことを後々証明できればいいね。


「てこたぁ、アタイと先輩がフリーってこったな。前衛にアタイらなら群れに飛び込むでも無きゃ余裕だろ」

「・・・そうですね」


ジザベルだけでなく、義姉も強さに自信がある様子。

ぼくとトロロンプさんは顔を見合せながらアイコンタクトを交わす。


『護衛ほしいって言わないのかな?』

『二人を説得できるのはグーグ君だけですぞ。現地を知らない自分が口を出すのは違うと思いますな』

『トロール恐いよガクブル』

『魔物ガクブルですぞ』


などとバチバチやりあっているのを露と知らず、義姉とジザベルの二人は二人でなんとなく納得してしまった。


「じゃ、そういうこったから」

「あ・・・はい」


口を出せるタイミングもなく、物事は彼女たちの良いように進んでいくのだった。





「ガアアアァァァッ!!」

「おらぁっ!死にさらせ!」


登りだしてみればジザベルの強さは圧倒的だった。

圧倒的で暴力的で、そして非常に危うい戦い方だ。


"リーン族"


それは海の中に住む爬虫類な感じの亜人種だ。

海蛇か海竜か、もしくは海亀なのか。ウロコ状の皮膚を持ち、エラと通常の呼吸器を持つ。形は人に似ている。というか人から特殊進化かレア進化した種だろう。


彼女はそのウロコ状の肌を、自在に操ることができた。

ウルフ系の魔物には腕や足をウロコで補強して、噛みつかせることで自身の攻撃を当てる。

角を持つ鹿系の魔物には両腕と頭をウロコで守り、突進を押さえ込む。

ゴブリンやオークも振り回す武器を手や足にウロコを付けて払いのけて戦っている。


本人は大丈夫だと言うけれど、見ているこっちがヒヤヒヤさせられる戦い方だ。


「すごい、けど・・・何も体を危険にさらさなくてもいいんじゃない」


なにせ武器を何本も持っているのだから、攻撃を受けるのは武器でもいいはずだ。

彼女はその複数の模擬聖剣を、敵の相性ごとに取り換えはしても、守りを固めることには使っていなかった。


「ジザベルさん、武器で払いなよ。そっちのが安全でしょう」

「あ?、アタイの勝手だろっ。つか、それじゃ耐久育たねぇだろうが」


耐久を育ててる人って初めてみたわ。

ステータスには八種類ある。


筋力 耐久 器用 感覚 知力 魔力 魅力 速度 だ。


このうち一番育たないのが『耐久』だと言われている。

筋力なんかは重いものを持ったり、剣の素振りでも上げられる。けど耐久は殴られたり衝撃を受けないと育たない。

痛みを受ける大変さや自身を殴る難しさのせいで耐久の数値は他のどのステータスより育てにくいのである。

なのでほとんどの兵士や冒険者は身体を痛め付けるよりも装備品を固くすることで防御力を高めていた。


けれどなるほど、殴られても痛みを感じないほどの外皮があるのなら、耐久を育てられるかもしれない。

将来をみこして───正式な勇者になるために。


なにやら兄弟姉妹と勇者争奪争いがおこっているらしいからね。

彼女はぼくが思ってるよりも過酷な人生を送っていた。耐久を育てるのもそういったことのためだろう。

跡目争いからつま弾きされないために。

まぁ本当に跡目争いかはわからないけれど。


でも確かなことはこの強さは何かのために彼女が頑張ったから得たものだということだ。

知らなかった一面を知り、彼女の戦い方を見つめ直す。

何度見ても危うい、自身を顧みない戦い方だ。


(・・・彼女のために、ぼくのできる武器・・・)


ぼくはバッグの肩紐を知らず知らずのうちに強く掴んでいた。入ったままの武器はなにか違う気がする。

ぼくの作れる、彼女─ジザベルの武器は、もっと違うカタチのものだと感じた。


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