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転生しました。


魔王はたゆたっていた

無間の概念の中で 魂という無形の状態でありながら、なお自身を失わず。

その魔王は歴代の魔王の中でも最強と名高い魔王だった。

魔王は待っていた

世界が揺らぎ、自身が再び世界の一部として返り咲くその刻を

魔王は待っていた

神が造ったその世界に、かすかでも抜け穴ができることを


そうしてようやくその刻がやってきた。


神が魔王を世界の一部として組み込んでしまった世界で魔王の存在がなくなってしまった瞬間を




おぎゃあとうまれて初めに理解したのはハズレを引いた、という事実だった。

おそらく父親と母親であろう男女が自分のことを見下ろしている。

見下ろしているのが見える。

うむ。

さすが魔王。産まれてすぐに視界がクリアであるし、脳の回転も良好である。

さすがオレ。

ともあれ、どうやら自分は人間の子供として生まれてしまったらしい。

ハズレである。

大外れだ。

人間種族といえば寿命は短く、スキルの練度も低い劣等種族である。

ゴブリンよりはましかと思うが、ゴブリンも昇位すれば魔族になれる。なら昇位しても変わらぬこの種族は本当にどうあつかえばいいのかわからないほどハズレだろう。

ぺっ、くそが

そう口に出した言葉は「え、あうあー」となって放たれた。


「おわぁ、かわいい。今しゃべったぞ」

「泣くよりも早くしゃべるなんて、このこはすごいわねぇ」


それはほめているのか。

うむ。まんざらではないな。なにせおれは魔王だからな。よし、もっとほめろ。

うむうむ。

そういえば産まれたばかりでどうも体に力が入らん。腹がへっているのだろう。オレは食事を所望したい。

おい、母親、食事をだせ

「あい、ああおあー」

「あらあら、坊や。まだ生まれたばかりなのにもう母さんがわかるのかしら。そうですよーママですよー」

しっとるわ。それより乳だ。乳をよこせ。

オレが母親に手で合図するとそれを隣の男がつかみ、ブンブンとふりまわす。

「ぼくが君の父さんですよー。いやぁ、ボクがわかるのかなぁ。手をふってきたよ」

ふってない。放せ。

産まれたばかりの柔肌には、やさしくつかむ行為でさえ痛みとして脳に伝わってくる。

いてて、いた。このやろう、いつか復讐するからな。覚えておけ。オレは執念深いのだ。


ひとしきりオレを愛でたあと、二人はイチャイチャしはじめた。出産の労を男がねぎらいだしたのだ。

興味のないオレはあたりに目を走らせた。

・・・・・・貧乏だ。

木の壁、木の床、木の棚、棚には手仕事なのか、造りかけの藁靴がおかれていた。薄暗い部屋を照らすのは一本のろうそくだった。初級魔術さえ使えないらしい。

これは・・・だいぶオレを育てるには環境が悪いんじゃないかと思う。

男の仕事は何だろうか。この部屋から予想できることはない。・・・いや、藁か。藁を使う仕事か・・・・・・。主に農家だな。

力を取り戻すまで、親にはがんばってもらわねばならないかもしれん。

オレは親に期待することをやめて自分の力を高めることに切り替えるた。


とりあえずは魔術だ。

体の動かせない赤子でも魔術は使うことができる。

オレは赤子として生まれる前――前世で覚えていたバフスキルを発動させた。

・・・・・・・・・・・・

発動・・・しないな。

生まれ変わることで覚えていたスキルは全部なくなってしまったようだ。

スキル覚えなおしかぁ・・・人間に生まれ変わったことで寿命が短くなってしまったし、スキルは選んでいかないと死ぬまでに覚えられないだろう。

なかなかつらいスタートだ。

それでもやらないよりはましだろう、と魔術の発動をためしはじめた。




さて、オレは魔王である。

なので暴虐の限りを尽くすのもやぶさかではない。

母親の乳にだきつき、その乳〇をしゃぶりつくす。

どうだ?蹂躙される気分は。好きなだけ泣き叫ぶがいいわ。

「あーん、かわいい~。そんなにいっしょうけんめいママのおっぱいにすいついて~、おいしいでちゅか~?」

ちくしょう!子ども扱いしやがって!

オレは母親の乳をびたんびたん叩く。

不満をぶつけるように全力で叩いた。

「あん、元気ね~。将来はパパみたいな山の男になるのかな~?」

ならんが。

山の男と言うのはどういうことか。藁を使う職業かと思ったのに違うのか?、藁の靴・・・もしかして雪山を歩くための靴か。

もしかするとこの家の環境だけではなく、生活基盤となる地域さえも過酷なのかもしれない。


しばらく赤子に扮していてわかったことがある。

まず両親のことだ。


父親の名前は ゴダーダ。

筋肉質の体と黒茶色の髪をした偉丈夫だ。齢は30前後だろう。戦士か蛮族のどちらかがにあう風貌をしている。


母親の名前は メルーザ。

かわいい容貌の20代半ばの女性だ。どちらかといえば大きな胸をしている。オレを育てるかたわら内職の仕事もしているらしく、布つくろいをしている姿をよく見る。


そしてこの家の文化レベルもわかった。

まず・・・両親は文字が読めない。

自分の名前は読めるらしく、配達された手紙を受け取ることはできる。だがそれを読むために別の家まで手紙を持ってたのみにいかなければならない。

これは非常にまずい。

今の世界の情勢や魔族の動向を知りたいというのに、情報媒体がいっさいない。今は何年なのか、オレが死んでからどれだけ時間がたったのか、そして魔族は宿願をはたせたのか・・・いっさいが不明のままだ。

それにこのあとオレが育つ方向性がかなりせまいことを意味する。

知識を学べる場所はあるのか?、教えられずにスキルを獲得して両親は子供に疑問を持つのではないか?言葉や文字を勝手に知っている子供を、気持ち悪いと思うのではないか?。

考えていくと気が重くなる。

ここまで文明の気配がないと不安でしかない。


ただそういったレベルの生活であっても、親が子にむける愛情に違いはないのかもしれない。

オレは今、親からの愛と言う奴をこれでもかというほど十分に与えられていた。

こんなに抱きしめられたことはオレの魔王人生ではじめてではなかろうか。

母親だけではなく、父親からも抱きしめられ、声をかけられ、気をかけてもらえる。

赤子とは無敵の存在ではないのか。

ビバ赤子☆

これが幸せというやつか。

オレはできるかぎり永い間、赤子に擬態することにした。

突然言葉をしゃべらないし、魔術も使わないし、母の乳を弄んだりしない。

そう決意した。



その決意はあっけなく破綻するのだが。

「あなた・・・!グーグがスキルを使ってるわ!」

調理場で料理をしているはずの母親がオレの揺り籠の置かれた部屋の入り口で驚きの悲鳴を上げていた。

しまった・・・みつかってしまった。

親の目が無い時間を見つけて最近覚えた光の初級魔術《明光》を使っていたのだが、なぜか母親が料理中にオレを見に来てしまったらしい。

オレの胸のあたりにういている、不思議な光源。

明光の明かりは、与えられた魔素が無くなって消えていった。


「どうした?」

呼ばれた父親がやってきて辺りを見回している。

オレはしらんぷりで「あー、だー」とごまかしてみた。

「あなた。それがね、今グーグがスキルを使っていたのよ!」

「なんだと?、見間違いじゃないのか?」

ちなみにグーグというのはオレのことである。かわいい名前だ。成人すると名前が増えるらしく、そこから察すると父の幼少名はダーダなのかもしれない。

今見たものを必死に説明している母親と、首をかしげて聞いている父親。

ひとしきり話を聞き終わっても、まだ父は話を信じきってはいなかった。

「グーグ。スキルが使えまちゅかー?。天才でちゅかー?。さっきみたいに光を出してくれませんかー?」

プニプニとおれの手のひらの感触で遊びながら、父がそう言っている。

オレはそっぽを向いて無視をする。

魔術は見世物ではない。見たいというのならば相応の貢物をよこせ。

「だめかなー。ほら、みせないとくすぐっちゃうぞ~、ほーらこしょこしょこしょ」

ははははははこやつめ。

おれはキャッキャと笑いながら命の危機を迎えていた。

息ができない。

笑うのつらっ。こんなにつらいものだとは思わなかった。肺から空気が出ていくばかりで入って来る隙がないのだ。それに口の筋肉もつらい。筋トレよりもつらい。

赤子が笑えばほほえましい光景だろうが、実際にわらわされている方はたまったもんじゃない。体のできていないオレには笑うだけで拷問のように負荷がかかっていた。

まって。死ぬ。

死んでしまう。

「おお・・・!」

オレは殺されるよりは、と考え《明光》を発動させた。

――そう。”魔術”である。

生誕から3ヵ月。たったそれだけの期間でオレは魔術をいくつも習得していた。


火の《燃力》 筋力が15%増加する強化魔術だ。

水の《治力》 継続的に傷や体力が回復する。

土の《硬力》 耐久が15%増加する。

風の《速力》 移動速度が15%増加する。

光の《明光》 部屋が明るくなる。

闇の《暗視》 暗闇でも見えるようになる。

無の《失力》 強化効果を失わせる。


基本的に自分を強化する『内発』の魔術ばかりだ。明確に『外発』の魔術は《明光》だけだ。

内発の魔術なら使っていても他者からはわからない。だからいつでも練度を育てられるのだが、外発の《明光》だけは練度を育てるためにまぶしく光らせなければならない。

だから母親にみつかってしまったわけだ。


「これは・・・確かに《スキル》だ。おい、おれの息子がスキルを発動させてるぞ!」

「そうねっ、スキルねっ。スキルが使えるわよね!」


二人は両手をがしっと組んでくるくると踊り出した。


「はははは、すっげーなっ」

「うんっ、すごーいっ」


ひとしきり踊ったあと、二人はオレに顔を近づけて語りかけてきた。

「・・・なぁグーグ、わかるか?、今お前が使ってるそれな、それは星神様からの贈り物なんだぞ」

「そうよ。グーグ。きっとそれは神様からあなたへの贈り物。スキルはね、神様がこの世界で生きていくためにすべての命に与えた力なの。あなたは神様に祝福されてるのよ」


神? 星神。

それはオレが魔王だったころ、敵だった存在だ。

到達しえなかった最大の敵。いつか、神をその座からひきずりおろすために、オレは魔族を扇動して世界に戦いをいどんだのだ。

なのに

なんてこった。星神の祝福だなんて言われてしまうのか。

まぁしかたない。オレが魔王の記憶を持っているなんて知らないからな。

オレがどんなにスキルを使っても、それは祝福なのだから不思議はないのだ。

ビバ祝福。

ビババ星神。


こうしてオレは両親に祝福されながら、スキルを自由に使える免罪符を手に入れたのだ。


単独で読める物語ですが、一応同世界観の話の続きの時代になります。

前作 邪武器の娘 ⇒

https://ncode.syosetu.com/n2026hf/

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