06 勇者会議
魔王ミモザの風魔法でふっ飛ばされ、魔王城上空に打ち上げられたオレ達。
オレは光の鎖で3人を巻き取り、落下直前に風魔法を地面に放って落下の衝撃を緩和した。
着地した後、オレたちは一夜を岩陰で過ごし、魔法力の回復を待つ。
翌朝、移動魔法で前線拠点「クルト」の街へ戻った。
ちなみに、移動魔法を唱えたのはオレである。
うちの勇者パーティにも魔導士はいるが、その魔導士ミリアは派手な攻撃魔法以外、覚えようとしないからだ。
☆★
クルトの街へ戻ったオレ達勇者一行は、久しぶりに宿屋で体を休めることとなった。
もちろん、女性の魔導士ミリア、聖女アイリーンは別部屋で、もう一つの部屋にオレと戦士ジャック。
思う存分に寝れるのは久しぶりだ。
魔王領に侵入した後は、寝るときにもだれかが見張りに立っていたし、獣の雄たけびでつい目を覚ましてしまっていたから。
光が差し込んで、目が覚めた。
「テオ、久しぶりにふかふかの布団だったな」
戦士ジャックはすでに起きていたようで、オレが目を覚ましたのを見つけると、手早くティーポットを手にし、紅茶を入れてくれた。
ふわりと優しい香りが部屋に満ちる。
「気が利くな」
「へへ、まあな」
テーブルについたオレは、ありがたくその紅茶をいただくことにする。
これまでの戦いでやはり疲れていたのか、紅茶の甘みが嬉しい。
奮発していい宿屋にしたからミルクと砂糖が備え付けだ。
窓から外を眺めていたジャックもテーブルにつき、一緒に紅茶を楽しんだ。
「珍しく気が利くってことは……」
紅茶をすすりながらジロリとジャックを見つめると、慌ててジャックは目をそらした。
「はあ……お前な。
もう金は貸さないって言っただろ?」
ジャックがこれ見よがしにオレに気を使ってくるときは、たいていロクなことがない。
「いや、違うんだ。
ちょっと金が足りなくてよ」
ジャックはポリポリと頭をかいた。
「何が違うんだよ」
「頼む、テオ。
オレ達、ホリン村からずっと一緒に今まで頑張ってきたんじゃねえか。
……今回だけ、頼むよ」
ジャックは両手を合わせ、頭を下げる。
その手慣れた一連の様子を、オレは何度も見たことがある。
「……ダメだ。
どうせ、ギャンブルだろ。
前回、仕方なくお前に貸してやった時もさ、貸すのは今回が最後だって言っただろ?」
「いや、違う。
いや、違わないかもしれねえけど……
今回だけはヤべえんだ……」
芝居がかった様子のジャック。
悲しそうな表情でオレを見つめると、床に頭をこすり付けた。
「頼むよ、テオ。
俺……殺されちまうよ!」
ジャックは、泣きながらしゃくりあげた。
おー、おー、だんだん芝居がうまくなってやがる。
「金貸しの追い込みか」
「ああ」
ジャックは顔を上げると、必死にオレに訴えた。
「金が要るんだよ」
ジャックの余裕のなさを見るに、金貸しにかなり追い込まれているようだ。
こいつはいつも芝居がかっているから、本当のところはよくわからないが。
「テオは筆頭勇者なのにさ、何でオレたちは金がないんだ?
何で勇者パーティーの給料が爵位によって変わるんだよ!
おかしいだろ!」
オレたちの住む「シアドステラ王国」の身分制度には、職業、居住制限の他、給料に至るまで細かい決まりがある。
オレは筆頭勇者の役職を得ているが、平民上がりだから、給料は貴族の勇者より大きく劣る。
最上位である公爵子息、第二位の勇者「ライオネル・アーヴァイン」と比べると10分の1にも満たないだろう。
同じ村出身のジャックも、もちろん平民上がりだ。
「……オレにだって、思うことはある。
他の部隊に比べて、十分な給料は出せてない。
オレが平民なせいで、お前たちにはつらい思いをさせている」
「そうだろ……だからさ、オレたちは商売をするべきだと思うんだよな」
ジャックは口角を上げて笑った。
「どの勇者もみーんな、やってるって言ってたぜ?
奴隷の商いをさ。
戦いの最中にさ、
近くの村とかから、さ。
ネコ族とかの亜人を、さ。
特に女なんか高く売れるっていうぜ!」
ジャックは下卑た笑顔を浮かべていた。
「……オレはそんな商売はしない。
オレたちが攻略したこのクルトの街に、奴隷はいらない」
クルトの街は、オレたちの国、シアドステラ軍が魔王軍から奪った初めての「街」である。
クルトの街は多様な種族が住んでいる。
統治下での他種族の取り扱いは、魔王軍と戦う上で一番重視しなければならないことだ。
「人間軍の占領下では他種族の扱いがひどい」と知れ渡れば、魔族、亜人ともども徹底抗戦してくる。
少なくとも、得策ではない。
……しかし、多くの勇者の部隊が、近くの獣人、亜人の村を襲い、奴隷にして売りさばいている。
オレも知らないことではなかった。
ジャックは悲壮な表情を浮かべて、オレに向かってもう一度、両手を合わせた。
「テオ、俺はよ。
お前が間違ってるなんて思わないぜ。
たださ、ちょっとお金が足りないんだ。
今回だけ、貸してくれよ」
頭を下げ続けるジャックを無視して、オレは立ち上がった。
「今日、勇者会議がある。
もともと、奴隷の件と勇者の給料については、勇者会議の議題にあげるつもりだった。
議長のホワイト公には下話してあるんだ。
ジャック、オレもできることをするから」
オレは足早に部屋を出て、勇者会議へ向かった。
「それじゃ遅いんだよ、テオ!」
ジャックの嗚咽は部屋の外にまで漏れ聞こえていた。
まったく、質の悪い金貸しにつかまったようだな……ジャックの身から出たサビとは言え、今度、ホワイト公に相談しておくか。
☆★
勇者会議が始まる前に、他の勇者をつかまえて議題について話をした。
概ね好感触を得たから、後は会議で上手く説明するしかない。
議長を務める軍務大臣、ディック・ホワイト公爵が開会の宣言を行った。
シアドステラ軍のもっぱらの課題は魔王討伐である。
そのため、勇者会議が軍務の中心を決める権限を持っている。
クルトの街侵攻作戦から、魔王城突入に至るまでの一連の戦いの論功行賞は、事実認定に時間がかかるとのことで先送りとなった。
今回の勇者会議は、ここクルトの街の統治に関する諸問題について話し合うこととなっている。
オレは、前もって議題をホワイト公に伝えていた。
「本日の議題は……亜人奴隷の処遇についてと、勇者の給料体系についてだ。
これは、筆頭勇者テオ・リンドール君からの提案だ。
2件とも、重大な案件であると私は考える。
如何だろうか。
勇者たちで遠慮のない議論を交わして、審議するというのは」
ホワイト公の提案に反対するものはいなかった。
もちろん、オレも。
普段は司会の公爵の進行に合わせ、一人ひとり発言をする。
みなを説得したいオレにとって、公爵の提案は渡りに船だ。
絶好の場をいただいたオレは、勇者の皆の前で必死に話した。
亜人などの他種族を奴隷にした場合、降伏させるといった選択肢がとれなくなること。
給料については、活躍の度合いによる給料性に変えることで、みなのやる気が違ってくること。
勇者の中には、何人か苦々しい顔をしているものもいたが、オレの提案をきらきらした目で聞いてくれた奴もいた。
会議の終わりには、オレの意見に賛同する奴の方が多くなった実感があった。
「さて、勇者諸君。
意見は出尽くしたようだ。
建設的な議論ができたようだ。
さて……だいぶ予定時間を過ぎてしまったな」
ホワイト公は壁に掛けられた時計を見やる。
「どうだろうか、諸君。
投票は、昼食の後というのは。
もちろん、私のおごりだ。
それに……君たち勇者一人一人に個室を用意させてもらう」
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