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41 束の間の平和

「気づいてたなら、なぜ捕まえなかったんだ?」

「……テオを無傷で捕まえることが出来るものなど、将軍級でもおらぬ。

 いたずらに刺激するより、何のためか知りたかったのだ」


 ミモザは大鎌を持ち、ゆっくりと歩いて近づいて来た。


「フフフ、わらわに会いに来たってことは、スパイとして潜り込んだ理由を話してくれる気になったのだろう?」


 ミモザは大鎌を上段に構えた。


「それとも、今すぐここでわらわの首をはねるか?

 この首やすやすと取らせはせぬぞ?」


 ミモザは本当に楽しそうに笑う。


「そなたを迎え入れた赤獅子将軍ナシル・バクラムは生きた気がしなさそうな顔をしておったぞ?

 そなたが暴れて大虐殺を行うのではないかと恐れておった」

「……オレは、ヒューゴーじゃない。

 無軌道に、殺したりしないぞ」


 ミモザは優しく微笑んだ。


「わらわはずっとそなたを監視してきた。

 だから、テオが何を考えているかおぼろげにだがわかるようになった気がする。

 だが、それも知識ある故だ。

 他人の考えなどわからぬ。

 わらわだって、テオがスパイをしていた理由は皆目思いつかぬのだからな」

「何故、ミモザを斬れなかったのか。

 ミモザと戦ったとき、少し躊躇してる間に援軍が来てオレたちは敗走を余儀なくされた。

 後になって思ったんだが、オレは初めて命令違反をしたことに気づいた」


 淡々と思いだしながら言葉を紡いだ。


「魔王を倒そうと思って戦ってきた。

 でも、ミモザと剣を交えるうちに悪い奴じゃないと思った」


 今でも、ミモザとの戦いを思い出すとワクワクする。

 きっとミモザもそうだったと思うけど、オレは純粋に楽しかったんだ。


「だから、魔王軍のことを知りたいと思った。

 ミモザが率いる魔王軍は、どんなところなんだろうってな」

「そうか」


 ミモザはうなずいた。


「牙爪隊はいいやつらばかりだった。

 だから、守りたいと思った」


 ミモザの前にホワイト公を投げ出した。

 口枷をとった途端、喚き散らしだした。


「くそ……テオ、ふざけるも大概にしなさい!

 筆頭勇者にしてやった恩を忘れたのか!」

「覚えてるよ、筆頭勇者に命じられたことも。

 そして、それを奪われたことも、だからここに連れてきたんだ」

「何だと、どこだここは!」


 オレはホワイト公の眼に刺さった針を抜いてやった。


「うぎゃああああ!」

「ほう……ディック・ホワイトか」


 ミモザはホワイト公に近づいた。


「テオ、お主はこやつをどうして欲しいのだ?」

「だれだ!

 ここはどこだ!」


 ホワイト公は床を這いずりまわって暴れていた。


「あまり褒められた人格ではないが、権力とコネだけは相当なものだ。

 それにな……今、ホワイト公には調印権があるんだ。

 王から全幅の信頼を得ているからな」

「そうか」


 ミモザは笑った。


「くくく、総大将をさらってきて平和条約とは、大胆すぎるな」

「束の間だけでも、平和になれば話し合う時間が取れるようになる」

「ここはどこだと聞いておる!」

「まったく、うるさい男だな。

 せっかくわらわがテオと話しているのに水を差すなんて……」


 ミモザはホワイト公の首に大鎌を突き当てた。


「ひぃッ……」

「ここは魔王の間だ」

「な、なぜそんなところに……」


 ホワイト公はうろたえていた。


「わらわの名前は名乗らずともわかるのではないか?

 魔王軍で一番有名だと自負しているのだがな」

「ま、まさか……」


 ホワイト公は立ち上がり逃げ出した。


「うわあああ」

「こらこら、せっかくテオからもらった贈り物が逃げ出したぞ」


 ミモザは大鎌を振ると、ホワイト公を黒い渦が包み込んだ。


「うわあ!」


 あっという間にホワイト公は渦ごと消えてなくなった。


「あの男は、ヒューゴーと共に外道な作戦ばかり立案しておったからな。

 あまり見たくはないから、地下牢に飛ばしておいた。

 テオの提案通り進めるには少なくともしばらくは生かしておく必要があるからな」

「よろしく頼むよ」


 少しはホワイト公にも世界平和のために役立ってもらおう。


「しかし、こんな無理やりな条約長持ちはせぬぞ?

 テオ、これからどうするつもりだ?」

「……そうだな、オレは……」


 ホワイト公の支配から逃れたから、オレは自由になった。


「ミモザ、オレがスパイとして潜り込んだ理由を知りたいって言ってたな。

 魔王軍のことを知りたいって言う気持ちもあったけど……もう一度お前に会いたかったんだ」


 ……ただ、会ってどうしたいのかはわからなかった。


「そ……そうか。

 わらわに会いたかったのか」


 ミモザは頬に手をあて、照れた表情をしていた。


「会ってどうするのだ?

 戦うか?

 テオ以外と戦っても本気でできないからつまらないのだ。

 前戦ったとき、とっても楽しかったからな!」


 そう。

 子どものころの遊びみたいに楽しかった。

 全力で、相手がどんな奴か知ろうとして。


 ミモザの体の動かし方や、一挙手一投足から目を離さず、ずっと見ていた。

 ずっと見ていたいと思った。


「そうか、オレはミモザと一緒に遊びたかったんだ」

「本当か?」


 ミモザは大鎌を投げ出して、オレに近づいて来た。


「……魔王領に機械仕掛けの乗り物があるって聞いた。

 一緒に行かないか?」


 しかし、会って何がしたいかわからないなんて、オレは本当に嘘つきだな。

 前もって、女の子が遊びに行きたそうなところをエミネに聞いていたくせに。


「あそこか!」


 ミモザはキラキラした目で話し出した。


「あそこは、わらわが作ったのだ!

 すごく評判がいいのだけど、誰かと遊びに行ったことはないから……もし、テオが良ければだが……一緒に行くか?」


 上目遣いのミモザを見て、オレの心臓の鼓動が早くなった。

 魔王ミモザの能力、誘惑テンプテーションが発動してしまったのだろうか。


「……ま、また話をしに来る。

 今日は、とても胸が痛い……帰る」

「え?

 ど、どうしたテオ!」


 オレは移動魔法を使って逃げ出した。


 はあ……はあ……


 一心不乱に空を飛び、ミモザからだいぶ距離を取ったけど、ミモザの誘惑テンプテーションの効果範囲から脱した後でもオレの鼓動はずっと高鳴ったままだった。


 ★☆


 結局、オレが仕組んだ平和条約は砂上の楼閣に過ぎなかった。

 いとも簡単に戦争は始まる。


 オレは悩んだ挙句、副官として魔王ミモザの隣に立つことにした。

 

「行くか、テオ」

「ああ」

 

 人間たちが戦うって言うなら仕方ない。

 オレとミモザの遊びに付き合ってもらうとするか。


 晴れやかな気持ちで、オレはミモザの手を取り戦場に立った。

お読みいただきありがとうございます!


少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

ブックマーク・評価もらえると喜びます。


エミネのSSなど、時間ができたら書きたいなあと思っております。


また、新作候補の短編を書いております。

お読みいただけると嬉しいです。


下から飛べますのでよろしくお願いします。

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