40 魔王のもとへ
「オレが収めた物品を勝手に売り払って私腹を肥やしてたのか」
「……ひい、ひい」
ホワイト公は四つん這いになりながら、眼の痛みにあえいでいた。
「ヒューゴーの作戦を認めたのはアンタだろ。
敵を倒すため、一つの街を灰にするような作戦をなぜ認めたんだ」
「ひい……ひい」
聖剣をホワイト公の首筋に突き立てた。
「ひっ……」
「答えろよ」
「くそ……フン、この戦争の総大将は私だ。
私が財をどう扱うか決める。
テオ君、君が口をだすべき問題ではない」
「手に入れた品をオレはすべて本部に提供してきた。
他の勇者はすべて自分の懐に入れていたというのにな」
「人間、うまくやることが必要なのだ。
半分ほど提供し、すべて提供しましたといって懐に収めるが人間であろう。
要は、テオ君。
君がうまく立ち回れなかっただけのはなしだ」
「オレは、手に入れた金品が復興に使われるんだと信じていた」
「……馬鹿正直なものはバカを見る。
それだけのことだ」
ホワイト公みたいな人間が上にいるのならば、この国は何も変わらないのかもしれないな。
「身分性も、獣人奴隷も改める気はないんだな?」
「人は、獣人より上だ。
貴族は平民を使い、平民は貴族にかしづく。
そして、平民は獣人を使役する。
あるべき姿をゆがめる気はないよ」
反吐が出るような理論だ。
ただ、オレの国シアドステラでは出回っている言説だ。
支配する者たちに都合のいい論理を振りかざしているだけだろう。
「だから、あんなに簡単に殺したの?
シアドステラの軍の人たちも巻き込んでクルトの街を爆破して……
とても人の心を持ってるとは思えない」
エミネはホワイト公に怒りをぶつけた。
「ふん、勝てばいいんだよ、勝てば」
「……結局、ヒューゴーの軍は負けたんだよ。
アンタが下に見てる獣人たちにな」
「あれはヒューゴーが悪いのだ。
ナシルを爆破したという報告があったと思ったら、負けておった。
一体、誰に負けたのやら」
そうか、ホワイト公の様子に少し余裕を感じると思ったらヒューゴーをオレが爆破したことを知らないんだな。
「さあ、ヒューゴーがつけてたピアスはオレがしてるけど……誰が殺したんだろうな」
ホワイト公に見えるよう、イフリートの護宝石を見せつけた。
「テオ、お前……まさか」
ホワイト公は震え出した。
ようやく殺される恐怖がリアルになってきたんだろうな。
「ホリン村がどうなってもいいのか!」
「そのことについては、対応策を考えてあるんだ。
村の安全を確保した後、アンタを殺せばいい」
「ひい……や、やめろ……」
ホワイト公はおびえて後ずさりだした。
「誰か、誰かいないのか!」
「アンタが奴隷と遊ぶため、悲鳴も届かない地下に拷問部屋をつくったんだろうが!
アンタの部下には声はとどきゃしないよ」
「あ…あ…」
「まあ、奴隷には届くかもしれないけどな。
助けに来てくれるといいな」
鍵も開いてないし、アンタを助けるような奴隷は一人もいないだろうな。
「テオさん、殺すのは私にお任せしてもらってもいいでしょうか」
サラが針を手にしていた。
「私はエミネには一族の仕事をさせたくなかった。
それなのに……」
「まだホリン村の安全が確かめられてないから、今は殺せない」
「そうですか……地獄をみせてあげようと思いましたのに……」
サラは手慣れた手つきで針を空中でお手玉して見せた。
「それに、ホワイト公を連れていきたいところがあるからな」
★☆
エミネとサラと牙爪隊の寮へ。
ホワイト公は厳重に縛りつけ、目隠しをして床に転がしておく。
「エミネ、もしオレが今日戻ってこなかったら行方をくらませてくれ。
ホワイト公に怯えることはもうなくなるから、お前はどこに行ったっていいんだ」
「テオはどうするの?」
「シアドステラにオレの場所はもうないだろうな」
「ホワイト公をさらったから?……ごめんね、テオ。
お姉ちゃんを助けるために、自分の国に帰れなくなったね」
エミネは涙を流していた。
「別にエミネのためじゃない。
姿の見えない暗殺者に殺されたくなかったからな。
それに……エミネを泣かせたかったわけじゃない。
笑っていてくれ」
エミネの頭を撫でた。
「テオ」
「オレは嫌な命令に従いたくなかっただけだ。
エミネだって、そうだったんだろ?」
「うん……」
エミネは涙を袖で拭って、無理やり笑顔を作った。
「私、笑うわ」
「それでいいぞ」
短い時間だったが、エミネと一緒で良かった。
「なあ、一つだけ聞いてもいいか?」
「うん」
「女の子ってさ、遊びに行くならどこに行きたいんだろう」
「え……」
エミネはきょとんとしていた。
「私だったら……魔王領に、機械仕掛けの乗り物がある遊技場があるって聞いたよ。
せっかくだから、行ってみたいかも」
「そうか、ありがと……急がなきゃな」
「ちょ、ちょっと……」
エミネは何か言いたそうだったが、先を急いだ。
――ホワイト公を光の鎖で縛って魔王城へ飛んだ。
別に隠れて入る理由もない。
ホワイト公を引きずりながら、門番の前へ歩いた。
「何者だ!」
「テオ・リンドール。
魔王ミモザに会いに来た。
お土産もあると伝えてくれ」
「「ははははは」」
門番のリザードマンたちが大爆笑した。
「ああ?
テオが何でこんなところにいるんだよ?」
「テオなら聖剣もってるはずだぞ?」
「これのことか?」
オレは背中から聖剣を取り出した。
「てめえ、門番の前で抜刀するとはナメた野郎だな!」
「覚悟はできてんだろうなあ!」
槍を持った門番たちはじりじりと左右に回り込んだ。
「「やっちまえ!」」
回転しながら、十字に剣を振る。
ぱらぱらと斬られた槍が地面に落ちた。
「ま、まさか本物?」
「「うわあああああ!」」
門番たちは脱兎のごとく逃げ出した。
ゴオオン!
すごい音がしたので中の様子を確認するが、さっきの門番たちが大きな柱の近くに倒れている。
慌てて走って柱にぶつかったのか?
「おーい、入っていいのか?」
誰もいないらしい。
「入るからな?」
一応、断ってから魔王城へ入った。
――結局、魔王の間に来るまでオレは誰とも出会わなかった。
何かの罠か?
まあ、考えても仕方がない。
もしそうだとしても、オレは前へ進むだけだ。
重厚な扉を押し開ける。
はは、ちょっと開けるだけで闇のオーラを感じる。
さすが、魔王ミモザだ。
ちゃんと玉座で待ってくれてたみたいだな。
玉座の前に氷狼を控えさせ、大鎌を気だるそうに抱きかかえたミモザはオレに質問をした。
「……勇者よ、そなたの名前を述べよ」
「オレの名は、テオ・リンドール。
ただの元勇者だ」
「そうか、テオよ。
スパイごっこはやめたのだな」
ミモザは笑っていた。
「そなたは隠しごとなど似合わぬからな、何がリン・テオドールだ。
ククク、世界一有名な人間テオがどう扮装したとて、わらわが騙されるものか」
「え……バレてたのか?」
せっかくネコ族っぽく短パンまではいてたのにな。
「バレてないと思っていたのか?」
ミモザは首を傾げた。




