39 拷問部屋
さて、王都にどうやって侵入するか。
飛んで行ってもいいんだけど、今回は救出業務がメインだ。
できるだけ、素早く目立たずってのが基本ラインだな。
でも、時間をかけてはいられないぞ。
オレがのろのろしていると、エミネが処刑されてしまう可能性がある。
ただ、ここで騒ぎを起こせば注意が城壁に向くはず。
侵入さえバレなきゃ、逆に王都の中へは注意が向かないかもしれないな。
よし、作戦はそれで行こう。
ちょうどよく、ゴブリンの集落もあることだしな。
オレは風魔法を唱え、城壁向かって放つ。
あっという間に大きな竜巻が出現、ゴブリンの集落を襲った。
「「ピギィイイイイイイ!」」
ゴブリンたちは訳も分からず上空に吸い上げられ、その勢いのまま、ゴブリン入りの竜巻が王都へ突っ込んでいく。
「何だあれは! 魔王軍の襲撃か」
あの兵士のいうことは、オレ魔王軍所属だから間違っちゃいないな。
見回りの兵がわらわらと場外に集結、注意が散漫になった隙に上空へ飛び、壁を越えて城内に潜入した。
上空を全力で飛び、東の塔へ。
空中から窓越しに確認し、中にいる人を確認してゆく。
獣人の女で、金髪、大きな金色の瞳――いた。
狼の耳を持つ美人……ショートカットだが、一目でエミネの姉だとわかった。
ジロジロ見ていたので目が合ってしまった。
バキィン!
仕方ない、窓を強引に割って侵入。
「……誰? 私を殺しに来たの?」
エミネと似ているのは間違いないが、大きな金色の瞳はトロンとしていて、生命力にかけていた。
ベッドに横たわる獣人の女性に近づいた。
「違う、助けに来たんだ。
アンタの名前はサラ・トールトだな?」
「どうして、私の名前を知ってるんですか?」
サラは鼻をクンクンと動かした。
「……人間の匂い、それに懐かしい匂いが混じってます……」
「エミネに言われて助けに来たんだ」
「ああ……エミネ……」
サラはオレの方へ体重を預けた。
「ちょ、ちょっと……」
倒れそうだったので、オレが支える。
間近でだきしめるような格好になってしまった。
「エミネです、エミネの匂いがこんなにたくさん……懐かしいですね……」
サラはふと我に返ったようで、オレからちょっと距離を取った。
「こほん。
こんなに男の人からエミネの匂いがするなんて、一日中ずっと一緒にいないとありえないですものね……」
サラの眼に急激に光が戻った。
嬉しそうに、うるうると瞳を潤ませている。
「うふふふ、あの子は一族の支配から逃れられたのですね!
旦那さんがいらっしゃるなんて、エミネは楽しい結婚生活を送れているんですね」
「えっと……」
どこまで説明すればいいんだ?
オレがスパイであることも、エミネがスパイの監視役であることも、ちょっとどこまで話せばいいのか、わからないな……
とりあえず、ごまかそう。
「エミネから、サラを助けてくれと頼まれているんだ。
ついて来てくれ」
「……エミネが……わかりました。
旦那様のいうことであれば、従わないとですね!」
サラはとりあえず頷いてくれた。
「ですが……私は歩けません。
とある任務に失敗してしまいまして」
エミネはサラの代わりにホワイト公に仕えていると言っていた。
「足が悪いのか」
「はい」
オレはサラを抱え上げた。
「急ごう、衛兵が来るとまずい。
それに、エミネのとこにも早く行かないとな」
風魔法で一気に加速、ホワイト公のところへ急行する。
「エミネは今、どこにいるのですか?」
「ホワイト公のところだ」
「……そうですか」
サラは一瞬思いつめたような表情をした。
「どうした?」
「いえ、何でもありません」
★☆
叱責される覚悟も、殺される覚悟も出来ていた。
けど……私の申し開きを聞く前に拷問されるとは思ってなかった。
手錠をかけられた私は、螺旋階段をぐるぐると歩かされた。
そこにはホワイト公の屋敷地下深くにある秘密の部屋たち。
眼に生気のない女奴隷が並べられた部屋と、拷問器具が所狭しと置いてある部屋。
それを嬉々として私に見せるってことは、生かしてここから出すつもりがないってことよね。
「ククク、いいところだろう? 君みたいな反抗的な女でも、ちょっと私が愛してあげれば、こんな風に従順になるんだ」
ホワイト公は女奴隷の部屋に行き、そのうちの一人の胸を乱雑にもみしだいた。
「……遊んでくれてありがとうございます」
抑揚のない声で、そう話す女奴隷の眼はどこにも焦点が合ってなかった。
「外道め」
「ははは、為政者はね。
時には外道に落ちざるをえないときもあるのだよ、君がどんな声で鳴くのか、楽しみだよ」
ホワイト公の部下に連れられ、拷問部屋へ。
部下たちにより手際よく鎖につながれ、つるされてしまった。
「最後に言い残すことはないか?」
ホワイト公は私の顎を掴み上げ、満ち足りたように口角を歪めて笑った。
「別に……殺すなら早くした方がいいよ、誰か助けが来るかもしれないし」
私は怖くて仕方なかったけど、強がってみた。
テオは、お姉ちゃんを助けてくれたかな。
もし、助けられたならそれでもいいや。
「エミネ!」
テオは全力で飛ばしてくれたんだろう。
珍しく、表情に余裕がなかった。
「テオ!」
「サラを連れて来たぞ!」
良かった、お姉ちゃんは無事みたい。
「テオ! どうしてここが分かったのだ」
「アンタは部下に信用がないみたいだな、上にいる部下を適当にぶちのめしたらすぐに吐いた」
「くそ、殺せ!」
ホワイト公の部下の騎士たちが向かっていくけど、テオにかなうわけはないよね。
「はあああああ!」
まさに圧巻だった。
テオはお姉ちゃんを抱えながら、聖剣を振り回して騎士を薙ぎ払うと、そのままの勢いで私の鎖を真っ二つにした。
テオはゆっくりとお姉ちゃんを下ろすと、私たちを守るため、ホワイト公の前へ立ちふさがった。
「エミネ……」
「お姉ちゃん!」
私はすぐにお姉ちゃんを支えに行った。
お姉ちゃんは足が悪いから。
「テオ、何の真似だ? 私を裏切ったのか?」
「それより、ホワイト公……エミネを手にかけようとしていたこと説明していただけますか?」
サラは鋭い視線をホワイト公へぶつけていた。
「私が暗殺をするから、エミネにはさせないでって言う約束でしたよね?」
「なあに、その事か。
エミネが仕事が出来なくなった姉のために何かできることはないかって、私に行ってきたんだ」
「よくもまあ、ぬけぬけと言えるわね。
私が任務をしないとお姉ちゃんがどうなるかわからないって脅しをかけたくせに」
「……許せません」
サラは手に持った針を投擲、ホワイト公の両目に刺さった。
「ぐああああ! ……ひぃひぃ」
痛みに耐えかね、床をのたうち回っていたホワイト公。
地面を這いながら、逃げようとするホワイト公の目の前に、テオは聖剣を突き刺した。
「ひい!」
「ホワイト公、どうしてオレをハメたのか。
アンタの口から直接語ってもらおうか」




