38 王都侵入
クルトの街奪還作戦から帰還したオレたち牙爪隊は、2、3日の休養をもらうことになった。
ナシル隊長やエセルの怪我の具合も気になるところだが、戦のあとには十分な休憩を取るように魔術補佐官ディーターからのお達しだ。
もし、外を出歩いているのをディーターに見つかったら、大目玉を食うだろう。
「テオ、ご飯できたわよ」
エプロン姿のエミネがたっぷりの料理を持って居間に来た。
「今日はごちそうだな」
「うん。
そういえば、テオの好みを知らなかったからいっぱい作ったよ」
奇妙な縁で一緒に暮らすことになっているが、オレたちはほとんど互いのことを知らないんだ。
「肉とか煮込みとか好きだな」
「あるよ。いっぱい作ってある」
目の前に置かれた肉料理はスパイスが利いていてとても美味しそうだった。
「エミネは料理が得意なんだな」
どれも丁寧に下処理されていてとても美味しかった。
「そうだね、私は一族の落ちこぼれだったからさ。
家で家事ばっかりやってたんだ」
エミネは料理を取り分けながら、オレにもおかわりを追加してくれた。
「透明人間の一族は、暗殺が生業だったの」
エミネは人狼と透明人間のハーフだ。
「祖父の代から、ホワイト公に飼われているって聞いたわ」
「そうか、オレもエミネもホワイト公の飼い犬なんだな」
ピ、ピ。
「噂をすればって言うけど、ホワイト公からだわ」
エミネは左手の指輪を触り、話し出した。
オレに背を向けて話しているが、漏れ聞こえる音から察するに随分とホワイト公は怒っているようだ。
ヒューゴーへ支援を命じたにも関わらず、完全敗北を喫したんだからな。
「ホワイト公から王都へ招集命令がかかったわ」
エミネはそう言うと、立ち上がった。
「私、いますぐシアドステラ王都へ向かうからテオはゆっくりしててよ」
「馬車で行くのか? オレ移動魔法使えるから送るぞ。
行ったことあると素早く移動できるし」
「移動魔法か……いや、いいよ。
私、一人でいくから」
エミネはてきぱきと行く準備を始めた。
「オレのせいで任務は失敗したことになる。
ホワイト公から叱責されるんじゃないか?」
「かもしれないけど」
振り返ったエミネは真剣な表情をしていた。
「ねえ、テオ。
もしさ、私が帰ってこなかったら、私のお姉ちゃんを助けてあげて」
エミネは扉を開けて部屋を飛び出した。
……ホワイト公から遣わされたオレの監視者エミネ。
偵察や監視業務はお世辞にも得意とは言えないけど、悪い奴じゃないんだ。
ホワイト公に姉を抑えられていなければ、きっといいお嫁さんになれるんだろうな。
よし、決めた。
聖剣を背中に担ぎ、風魔法でエミネを追い、目の前に着地する。
「やっぱりさ、一緒に行くよ」
「一緒には行けないわよ。
テオが王都まで行ったら、ホワイト公を裏切って殺しに来たって思われるよ?」
「その通りだって言ったら?」
「え?」
エミネを抱えて移動魔法を唱えた。
「ちょ、ちょっと!」
風を切り上空をものすごい速度で飛ばしていく。
「ちょっと、テオが裏切ったらお姉ちゃんが殺されるわ!」
エミネはジタバタしている。
おい、落ちたら死ぬぞ。
「ホワイト公に会ったら、時間を稼いでくれ。
その隙にエミネのお姉さんを救い出すから」
「……テオ、そんなことしたらもうシアドステラに一生戻れなわいよ」
「そうかもしれないな、お、もう着いたぞ」
城門近くでエミネを下ろす。
「お姉さんのいる場所はわかるか」
「王都の東側の塔だけど……厳重に警備してるから忍び込めなかったのよ」
「それだけわかれば十分だ」
飛び出そうとするオレの袖をエミネがつかんだ。
「ねえ、テオ。
どうして危険を冒してまで、お姉ちゃんを助けてくれるの?」
「……ホワイト公のことだ。
エミネを始末したとしても、他の監視役が来るんだろう。
エミネ。
一緒に住むなら、オレはお前がいい」
「え……」
エミネは顔を真っ赤にしていた。
「ねえ、テオ。
私、一緒にいていいの?」
「もちろんだ、料理もうまいしな。
いい奥さんになれるんじゃないか?」
すべて片付いたら、誰かいい人と一緒になると思う。
エミネは綺麗だし、割と可愛い性格してると思うから。
「……テオ!」
そんなことを考えていると、急にエミネがオレに抱きついて来て、ほっぺにキスをした。
「続きは帰ってからね。
テオ、頑張ってよね!」
エミネは今まで見た中で一番の笑顔を見せてくれた。
お姉さんを助けられるから嬉しいのかな。
「行ってくる」
「頑張ろうね、テオ!」
風魔法で城壁を超え、王都へ侵入。
エミネはオレが見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
元勇者の反逆編 始まります。
次回は1月13日に更新予定です。
お付き合いいただけますと嬉しいです。




